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第十九話 「死」  


結婚式には金糸雀らが親も呼んでいたらしく後で非常に叱られた。
多分、人生で一番ひどく叱られた。
普段会わない親でも自分を心配してくれてるんだなと思い
ちょっとだけ嬉しいとも思った。
あの後は病院に戻る前に僕らは市役所へと行った。
そこで渡した。婚姻届を。
勿論、僕らは年齢的に結婚は出来ない。
提出しても意味は無いことはわかっていたけどそれでも出した。
愛は縛られない。
法に認められる事は無いが僕らは“結婚した”
少しの人達に認められた結婚、それもいいもんだなと思った。
僕は今、病院で散歩することすら出来ない。
ベッドから出てすらいないままもう数日が過ぎている。
正直、立つ事さえ辛い。
水銀燈の手を握ってやる事しか出来ない。
最近じゃ手の体温が低くなってる気もする。
ああ、もうすぐ死ぬんだなって思った。
前からずっと思ってたけどいざ目の前になると実感が沸く様で沸かない。
死んだらどうなるんだろな?


「何考えてるの?」

目線を声をした方に移す。
もう面会時間が終わって水銀燈は帰っている。
なのになぜ人がいる?答えは簡単だ。

「メグ」
「久しぶり」

最近は結婚式もあり、ウェディングドレスを作るのにも必死で
メグに会う機会がほとんど無かった。
相変わらずにやけている。

「今は面会時間外だろ?」
「看護婦さんの巡回の時間は覚えているから」

ようするにその時間の合間を狙って此処に来たという訳か。
生まれた時からずっと病院に居るメグならではの技だな。
……そんな技、覚えたくも無いのに。

「で、お前も一緒か」
「ええ、何しろ道化というものは散歩が好きでして。
 気まぐれに巡り、思いを見て歩く。中々楽しめるものですよ」
「もう立つ事さえ出来ない患者にそんな話をするとはひどいもんだ」

ラプラスの魔。
こいつには労わりの感情も無いのだろうか?


「ジュン」
「なんだ?メグ」
「明日ぐらいに死ぬよ」

いきなりの発言。
言われた僕は何と言えばいいかわからない。
かなり衝撃的な発言だけど、あまり驚かなかった。
ああ、そうなんだ。
そんな程度にしか感じられなかった。
どうも、死に対する感覚が麻痺してるのかな?

「なんでわかるんだ?」
「なんとなく、大体見たらわかるの。
 今までもそんな感じの人はすぐ死んじゃってたし」

此処は重病患者病棟。人が毎日のように死んでいく。
メグは十余年も、ずっと死ぬのを見てきたんだ。
恐らくメグの言った事は当たるだろう。
……明日か。

「なんか実感が沸かないな」
「だろうね」
「はぁ……もう水銀燈ともお別れか」
「水銀燈?」
「恋人だ、もしかして知ってるのか?」
「うん、親戚にそんな感じの名前の人が居た気がするの」


ああ、やっぱり。
以前水銀燈が病院に生まれた時から入院してる
親戚が居るって言ってたけどやっぱりメグの事か。
なんとなく似てる所もあるしな。
マイペースな所とか長髪とか。

「結婚までしたんだけどな」
「聞いたよ、私も見たかったな」
「水銀燈から話してもらえ、きっと自慢するぞ」
「うん、そうする。話した事も無いけど大丈夫かなぁ」
「親戚だから大丈夫だろう」
「だね、きっと平気だね」

この会話が死に近い二人の事とはとても思えないな。
なんか、変な感じだな。

「つかぬ事をお聞きしますが」

メグの隣に立っていたラプラスの魔が喋りかけてくる。
一体なんだ?

「貴方達が結婚式で着ていた服の意味を教わりたくて」
「服?」
「結婚式で着ていた服ですよ、純白でも純黒でもなかったあの服です」
「そういえば変わったドレスだね、あれ」

ウェディングドレスと僕のスーツの事か。
確かに気にはなるだろうな、けど。


「なんで知っているんだ?」
「私を“神”と呼ぶ人も居るのですから。
 全てを知る事ぐらい出来ます」
「“悪魔”だろう」
「そう思っていただいても結構」

はぁ……本当に変な嫌な奴。

「……意味なんか特にないよ」
「違いますね」
「なに?」
「嫌だったんでしょう?純白も純黒も」
「……」

全てを知っているてのは本当なのかもしれないな。
見事に僕が本当の事を言わないのがわかっている。

「何なの?理由って?」

メグが聞いてくる。
まぁ、気になるのはしょうがないか。
メグになら教えてもいいか。
どうせ、死ぬんだし」

「なんか嫌だったんだ、純白も純黒も」


「なんで?」
「黒も白も純粋な色、そう僕は思っている。だから僕は嫌なんだ」
「と言うと?」
「人間死んだら白い服纏って燃やされて
 黒い服着た皆に看取られる。
 黒も白も……純粋な“死”の色なんだよ」

病院の壁の白色さえも死を連想させる。
連想して、恐怖と哀しみが心に沸く。
水銀燈の好きな黒色も死を連想させる。
自分が死んだらこんな色の服着た皆に看取られるんだなと思って。
忘れたい現実を覚ます。
白と黒、死の色が。

「もうさ、見るのも嫌なんだ」

ああ、また目がぴくぴくしてきた。
泣きそうだ、泣かないけど。

「怖くてさ、怖くてさ。色見ただけで死ぬ事連想しちゃってさ。
 本当に嫌で嫌で、ウェディングドレス作ってる時も思ったんだ。
 こんな感じの白い死に装束着て死ぬんだなって。
 もうそんなので怖くて悲しくて嫌で嫌で嫌で」
「……」
「だからデザインは黒一色、白一色にしないで混ぜたんだ。
 白一色にも黒一色にしたらもう怖くて」
「……怖いんだね」
「感覚麻痺しても、やっぱり怖いよ」


「かっこわるいよ?」
「なんでだ?」
「ジュン泣きそう、なのに泣かない」
「涙は見せたくないんだ、特に水銀燈には」
「なんで?」
「涙は哀しみの雫ってね、人が見たら悲しむだろう?」
「それで?」
「だから見せたくないんだ」
「ジュンはそれでどうなの?」
「どうって……」
「哀しみを貯めてるだけじゃないの?」

……確かにそうだ。
哀しみを貯めている。
人に哀しみなんて見せてはいけないから。

「そうさ、悲しみは見せちゃ駄目だからな」
「なんで?」

さっきから?がついてばっかだな……。
どうも答えにくくなってくる。

「人が悲しくなるからな」
「で?」

……またか。
で?と言われても言った通りなのに。


「言ったとおりの意味だ。人を悲しませてはいけないからな」
「誰がそんな事決めたの?」
「……んな事言われても」
「なんで一人だけで悲しむの?
 人が人と喜びあう事も出来るんなら哀しみあう事も泣き合う事も出来るでしょ?」
「……」
「君一人でなんで悲しむの?」

……僕一人で一杯悲しんだ方がいいんだ。
どうせ死ぬからなるべく生きてる人を悲しませちゃいけないから。

「恋人とか皆を悲しませる訳にはいかない」
「なにかっこつけてるの?」
「かっこつけてるて……」
「そうじゃないの?どうせ悲しむんだよ?
 皆君が死んだら悲しむでしょ?
 それなのにもっと悲しませるの?
 君が哀しみ抱えてばかり居るのみて皆はもっと悲しむよ?」
「……」
「ジュン、優しいね。だから残酷。余計に悲しませる。
 そして凄く可哀想な子」

……僕が可哀想か。
まさか死にかけの人に言われるなんて生きてて思った事も無いな。
まぁメグより早く死ぬ僕は確かに可哀想なのかも知れないけど。


「じゃあ……どうすりゃいいんだろな」
「泣いたら?」
「泣いたらって……」
「恋人にでも思いっきり泣きつきなよ」
「今まで……そんな事ほとんどした事ないな。
 泣くのがどうも見っとも無くて」
「君って本当に格好だけは良くしようとするんだね」
「……否定出来ないな、結婚式でも一人にしか涙見せてないし」
「無理しないでいいんだよ、哀しみも分け与えなよ」
「……明日死ぬのにな」
「じゃあ私でもいいよ、思いっきり泣きなよ」
「……凄く見っとも無いぞ?」
「最後まで居てあげるよ」
「……ありがとう」

メグは……結構優しいんだな。どうせだ、今の内に涙を枯らしておこうか。
今思いっきり泣いたら明日は涙を見せずに済むしな。
……最後の最後まで格好つけて、そんなのが一番格好悪いのに。
馬鹿だな、僕も。死んでも治らないんだろうな。

「はぁ……明日か」
「うん」

シンプルなその返事が妙に重く感じられる。
あ、頬が濡れてる……泣いてるのか。


「メグは泣かないのか?」
「もう涙が枯れちゃった」
「そうなのか……あーしかし……もう死ぬのか……本当に死ぬの早いな畜生……。
 もっと生きたかったな……もっと色々したかったな……。
 皆ともっと騒ぎたかったな……。 
 水銀燈ともっと話したかったな……。
 なんでこうなるんだ……畜生……。
 あ……あ……あああああああああああああああ!」



そこからはずっと泣いていた。
泣いていたと言うより泣きわめいていた。
男なのにみっともなかった。
一生分泣きわめいてたかもしれない。
メグがそれをただじっと見ていた。
泣いてる僕の頭をそっと撫でてくれた。
ただそれだけで、少しだけ哀しみが減った気がした。
僕はメグに感謝した。
そして“死”が目の前に来た。


時間はまだ学校が終わる時刻じゃなかった。
五時間目が終わる時刻だろう。
水銀燈は早退ででもしていつものようにお見舞いに来てくれたようだ。
いつものようにってのは病室に入るまでの話。
水銀燈は意識が遠のく僕を見てすぐさまナースコールをした。
医者が無駄にうるさい声で部屋に入ってきた。
ベッドごと僕を何処かに運んでいった。
水銀燈と離れるの嫌なのになぁ……。



目が覚めると見たことの無い部屋だった。
集中治療室ってやつか?
今僕は何らかの処置を受けたようだ。
手術やら何やらをしたに違いない。
けど、全然意識が飛ぶ前と変わりがなく苦しいだけだった。
……騒ぎ声が聞こえるな。


蒼星石とベジータか。
あいつらが泣き騒いでたのかな、病院でぐらい静かにしろよな。
ベジータは少し落ち着くようにしなよ。
蒼星石はいつもは冷静なんだから、医者に逆切れとかすんなよ。
翠星石はいつもと違い泣きっぱなしなんだろうな。
そういう所可愛いけどあまり悲しむなよ。
泣いてるのを見るのは辛いんだから。
真紅は落ち着いてるのかな?
あとでショックで声が出なくなったなんて事言うなよ。
お前が悲しむのは似合わないよ。
せいぜい一人で泣くとかにしてくれよ。
雛苺と金糸雀も泣きっぱなしなのかな。
嘘みたいなんだけど死ぬんだぜ。
お前ら人が死ぬ瞬間っての覚えといた方がいいよ。
お前らの親が死んだ時とか少しはマシになるかもしれないよ。
泣いてばかりいるなよな。


薔薇水晶と雪華綺晶はどうなんだろうな。
無言で泣いたりしてんのかな?
悲しんでるのかな?
メグはきっと笑ってるだろうな。
もう涙なんて出ないし人が死ぬのなんて見慣れてるんだから。
……なるべく生きろよ。
オディールは僕が死ぬことさえ知らないだろうな……。
もう一回ぐらい会いたかったなぁ……元気してるかなぁ……。
白崎さんや槐さんは落ち着いてるだろうな。
あの人らは大人だから。
槐さんは薔薇水晶と雪華綺晶の側に居てあげてくださいね。
白崎さんは店ででも皆の話聞いてやってくださいね。
みっちゃんさんは……泣いてるかもな。
感情的だからな、服作るの頑張ってくださいよ。
真紅や雛苺の服でも作ってやってくださいよ。


水銀燈も泣いてるのかな?
わんわん泣いてるだろうな。
あいつ僕より泣き虫なんだぜ。
きっとひどく泣いてるんだろうな。
はは……なにこんな遺言みたいな事考えてるんだろう。
もう死ぬからか。
馬鹿なもんだな。
そんな事を思っていると水銀燈が走ってくるのが見える。
あー泣いてるな……お別れか……。

「水銀……燈……来てくれたのか……」

もう声もほとんど出ないや、情けないな。

「当たり前じゃないのおばかさぁん……」
「はは……ついに来ちゃったな……御免な、水銀燈」
「何を謝るのよぉ……余計悲しくなっちゃうじゃなぁい……」
「はは……俺も少し悲しいな……だがな水銀燈、俺はお前に永遠の別れを言う為にここにいるんじゃないんだ」

結婚式の前のプロポーズの台詞を考えてる時に思いついた愛の言葉。
別れじゃなく……。

「なんなのぉ……?何が言いたいのぉ?」
「体は死んじゃうけどさ……心はまだ死なないさ……だから……先に行って待っとくと言いたくて……」
「……」
「僕は……君の地獄でずっと待っている……。君に対するラブソングを歌いながら……」


ああ、本当に僕は格好だけはつけるな。
僕と水銀燈が好きな曲の歌詞を見て考え付いた
“再会”を願う言葉。

「……ぐすっ……ちゃんと……待っててよぉ?」
「生憎約束は破った事はないよ……」
「ふふ……」

ああ、なんか機械の音も小さくなってる気がする。
ドラマとあでよくあるよな、心電図。
消えかかってたらもう助かる事はないよな。
それが今自分の目の前にあって消えかかってるんだぜ。
信じられないよ。

「私は……あなたのラブソングを聞きながら歌うわぁ……」
 そしてゆっくりとあなたの元へ行くわぁ……。待っててね……。愛しのあなた……」
「ふふ……もう……逝くな、これはグッバイじゃなくてシーユーアゲインなんだから……もう泣くなよ……」
ジュン……」
「俺は……死ぬけど不幸なんかじゃない……むしろ幸せだ……水銀燈の心……地獄で生きるんだからな」

僕は、死ぬ。けど生きる。暫く寂しいだけさ。

「もう……人生って言う名のお前とのストーリーは終わりさ……けど僕は死して尚君を……愛する……」
「人生という名のストーリーは終わりだけど愛のストーリーは終わらない……永遠を誓った……からな……」
「そうよ……これは朽ちない愛の物語……悲しくはないわぁ寂しくなるだけだわぁ……」
「それにまた……会えるんだから……ねぇ……」


ああ、もう目が見えない。
目の前に居るはずの水銀燈すら見えない。
真っ暗だ。
もう……すぐか。

「そうさ……お迎えも……来た……よう……だ……。
 君の……心へと導く……天使が……」

天使だか、悪魔だか。
ラプラスの魔が連れてってくれるんだろうか?
まぁ、後でわかるか。
暫く……お別れか。

「じゃあ……な……」

そこで意識がなくなった。
いつも寝ている時のような感覚。
とても死んでるとは思えなかった。


僕は目を覚ました。
生きてるのか……?
そう思うとどうやら違うようだ。
体が宙に浮いてるなんて……ロマンじゃないか。
そんな事を思っていると手の叩く音が聞こえる。
僕は振り向いた。
動作が全然苦じゃない、苦しみがなかった。

「どうもどうも、ようこそ境界線の向こうの世界へ。
 もうあなたは境界線を越えて生の道へと戻ることは出来ません」

ラプラスの魔だ、やはり向かえに来る辺り悪魔だな。

「わかってるよ、しかし……あの世でもあんのか?」
「ございません、“思想の溜まり場”ならいくつもございます。
 何しろ人の思いというのは強いですから残るのですよ」
「じゃあ水銀燈の地獄にでも連れてってくれ、歌いたいんだ」
「ええ、いいですよ。彼女の所はあなたの“思い出”が沢山でしょうね」
「……思い出?」
「見たらわかりますよ」
「そうか、早く連れてってくれ」
「ええ」

そう言うとラプラスの魔は空へ空へと上っていった。
上を見るとドアがあるようだ。
結構ファンタジーなもんだな。
……死んだんだな。


黙ってラプラスの魔へとついていくと
いきなりラプラスの魔が尋ねてきた。

「先程歌うと言ってましたが何を歌うのです?」
「決まってるだろ」

僕は意気揚々と言った。

「ラブソング……愛歌だよ」



この気持ち知るため生まれてきた
一万年と二千年前から愛してる
八千年過ぎた頃からもっと恋しくなった
一億と二千年前あとも愛してる
君を知ったその日から
僕の地獄に音楽は絶えない


私はテレビをつけた。
つまらないけどただなんとなく。
さっきジュンが死んだ。
彼の病室の方で医者が騒いでたし友人達が泣いてたから間違いないだろう。
同じ歳の子は初めて会ったのにな……。
けど少しは寂しさが良かった。
少しでも思い出くれて、ほんと優しいね。
死ぬ時少しは楽しそうだね。
ってかもう死んでもいいけどなぁ。
誰か殺してくれないかな?

「あなたに会えて……」

テレビから音楽が聞こえてくる。
某保険のCMだったと思う。
私に保険がかかって死後にお金が入るとかだったら
少しは人の為になれたんだけどな。
生まれてからずっと病院に居て死ぬと決まってる人間が
生命保険なんか入れるわけ訳ないな。

「……ん?」

部屋の入り口を見ると誰か立っている。
凄く泣いているな……って、あれって水銀燈?


「なに?」

ジュンが死んでもう暫く立っているだろう。
だけど何でずっと側に居ないんだろ?

「礼を言いにきただけよぉ……」
「礼?」
「この手紙の原稿書いたのあなたでしょぉ……。
 看護婦さんがこの部屋のあなたが手紙をジュンと一緒に書いてたって言ってたわぁ……」

そう言うと水銀燈が手紙を私に見せる。
……濡れてる、凄く。
涙が染みたんだろうなぁ。


愛しの人へ
この手紙を読んでるという事は君を悲しませてるだろう。
先に君に謝っておきたい。
思えば病を患っていたジャンクな僕を愛してくれてほんとに嬉しかった。
病で生きる意味を見失っていた僕は君という、「水銀燈」という
かけがえの無い人に人が居てくれて残り少ない命を堪能出来た。
ほんとに感謝する。
そして……今この手紙が発見されているという事は
僕は人生最大の喜びを手に入れ
人生最後の自分の役割を果たしているだろう。
そんな僕は君にお願いがある。
-生きてくれ。
この地に踏みとどまって力強く美しく幸せに生きてくれ。
そしてあまり泣かないでくれ。
笑ってくれ。可愛く満面に。
生きていた頃から願っていた。
そして死して直願っているだろう。
最後に、
愛してる ありがとう
そして僕は君の地獄で永遠に歌を歌い続ける。
先に待ってるよ。
byジュン
to最愛の人


私は手紙に書かれている内容を見る。
昨日、彼と即興で書いたもんだけどどうやら良かったみたいね。
とんでもなくクサい内容だけどね。

「ありがと……ねぇ……ジュンに色々してくれたんでしょ……?」
「大したことないよ、ただ少し“思い出”作るには良かったんじゃないかなって思ってしただけの事」
「思い出……?」
「うん、私死ぬの。どうせだから少しぐらい作った方が死ぬ時寂しくないからね。
 けど、もうどうでもいいなぁ。そうだ、殺してくれる?私の事」
「何言ってるのぉ……?」
「私は彼と違って人に役立つとか出来ないの。
 愛することも愛されることもない、から殺して」

次の瞬間、思いっきり顔を叩かれた。
殴られたのは初めてだ。
痛いもんだけど検査よりマシだね。

「何言ってるのあなたぁ……!ふざけた事言わないでぇ……!」

やっぱりこういう時に言うのはまずかったなぁ。

「ふふ、ほんとあなた天使さんね。人に怒ってくれるし」
「だまりなさぁい!私の前で殺してとか死ぬとか言わないでぇ!」

こんなに怒ってくれる人、久々だなぁ。
看護婦さんと最近喋ってすらいないし。

「ほんと、あなたも優しいね」


……」
「柿崎メグっていうの、メグって呼んで」
「柿崎……?」
「うん」
「親戚の苗字だわぁ……」
「多分あなたが思ってる柿崎と同じだろうね」
「生まれてからずっと病院に居る子が居るって聞いたけど……あなたぁ?」
「うん、そう」

水銀燈はそれを聞いて驚いてるようだ。
とうの本人は私の事はほとんど知らないだろうからなぁ。

「決めたわぁ」
「なに?」
「ジュンに色々してくれたし、あなたが親戚っていうんだから
 今度は私があなたに色々してあげるわぁ」

涙でぐしゃぐしゃになった顔を腕で擦りながらそんな事を言った。
しかしいきなりそんな事言うなんて。

「色々って?」
「毎日病院に来たりしてあげるわぁ」
「へぇ、じゃあ殺してよ」
「逆よ、あなたを絶対に死なせはしないわぁ。覚悟しときなさぁい」

……はぁ。
また、とんでもない事になったなぁ。
目が本気、明日からでも病院に来るだろうな。


「兎に角、絶対死なせないわぁ」
「……そう、ならよろしくね天使さん。
 あなたが殺してくれるのをずっと待ってるから」
「……絶対に、死なせはしないわぁ」

そう言うと水銀燈は病室を出て行った。
ジュンの所に行くんだろう。
あの子も大変だなぁ。
今度は私の世話か、病院から離れられないね。
大変な天使さん。
ま、いつか天使さんが殺してくれる事を祈ろう。

「からたちの……」

私は彼に教わった歌を口ずさんだ。
暇つぶしに歌おう。
彼のような“愛歌”じゃなくもしかしたら“哀歌”かもしれないけど充分だ。
“思い出”の曲、いつかこれを持って死ぬことを夢見よう。


あなたに会えて本当によかった
嬉しくて嬉しくて言葉にできない
la……la……la……言葉に出来ない


からたちの花が咲いたそうだよ

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