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第十七話 「涙」


――次の日
僕は金糸雀を呼んだ。
ただ、呼んだといっても水銀燈と時間が被らないように
本来なら学校のある真昼間に呼んだ。
いきなり学校サボって病院に来てくれないか?
などという無茶な注文に答えてくれた金糸雀に感謝しよう。
……そろそろ来るかな?
そう思った時、ノックの音が聞こえる。
十中八九、金糸雀だろう。

「入っていいよ」
「かしらー」

その声と同時に金糸雀が部屋に入ってきた。
見るのも久々だ。
最近は週一で水銀燈以外の皆が来る。
逆に言えば、週一でしか皆には会わない。
皆が自分達よりも恋人の水銀燈と長く居た方がいいとの事で
水銀燈と二人きりになる時間を長くしたのだ。

「金糸雀久しぶり……元気かい?」
「それはこっちの台詞かしらー!そんなに痩せこけてかしらー!」


金糸雀が怒るのも無理は無い。
大して美味しくも無い病院食をずっと食べて
点滴を打って、死に近付いていくせいで
体から段々と肉が削げ落ちている。
……見た目だけならもう死人みたいだな。
もうすぐほんとに死人になってしまうが。
そんな事を思いつつ、僕は金糸雀を掴んだ。
また、涙が流れていた。

「金糸省……お願いだ……協力してくれ……」

僕は説明した。
昨日メグに言われて思いついた事。
“結婚したい”
無論、僕は僕は十七歳。
水銀燈はあと一ヶ月近く後の誕生日で十七を迎える。
結婚は無理だ、法律的にはだ。
もう死ぬんだ。
法律なんて関係ない。
だから決意した。
例え、国に認められないだろうと結婚したい。
せめて形だけでも。

「その為にも……OKをもらえたら水銀燈とすぐに結婚したい。
 ……だけどどうすればいいかわからなくて……」


認められなくても結婚したい。
ただ、思いつきだけでは何も出来ない。
僕は方法を考えてなかった。

「そ、そんなの策士の私が考えてやるかしらー!」
「金糸雀……」
「友の門出に協力するのは当たり前かしらー!良いのを考えてやるかしらー!」
「金糸省……ありがとう……」

目頭が熱くなり思わず泣きそうになる。

「も、もう泣くのはやめるかしらー!ジュンに涙はあわないかしらー!」

そう言いつつ、卵色のハンカチで僕の涙を金糸雀は拭き取って行く。
ちょっと、自分が情けない気がした。

「何かを伝えたいなら……哀しみは伝えてはいけないかしら。
 だから泣いちゃ駄目かしら、あなたなら出来る筈かしらー」

……愛は伝えなければならない。
けど、愛に悲しみはいらない。
悲しみの愛なんて伝えたら駄目……か。

「……そうだよな、泣いてたら駄目だよな」

僕は金糸雀の手を払いのけた。そして自分で涙を拭う。


「もう……泣かないよ」

そんな事出来るかな?
また泣いちゃうのでは無いのだろうか?
けど、涙は流しちゃいけないんだ。流さないように……するんだ。



「プロポーズするのは確定事項だけど……結婚するだけなら書類提出だけだけど……。
 出来るなら結婚式を挙げたいなって思ってて……」

書類提出しても無駄だ。だが、出しとこうと思う。
感情論で結婚出来る訳が無い。けれども、気分だけでも味わいたくて。

「成る程かしらー、それでどのようにしたいのかしら?」
「兎に角普通の結婚式はしたくないんだ」
「どういう事かしら?」
「生憎神は信じてなくてね、もし神が居たとしても神は僕と意見が合わない。
 そんな嫌いなものに僕は愛を誓いたくないんだ」

言い切ると僕は金糸雀の後ろの方にいる人……いや、ラプラスの魔を睨みつける。
金糸雀は無論、気が付いていない。

「ふ~んなんか意味有り気かしら。何か理由があるの?神嫌いな」
「それは秘密」


……こんな若い内に死ぬ運命を定めるような神様を好きになんかなれないさ。



「そろそろ水銀燈が来るな……」

今の時間はちょうど学校が終わる時刻。
水銀燈は学校が終わるとすぐに来るのでそろそろ金糸雀を帰さないと厄介だ。

「じゃあカナは退散するかしらー」
「すまないな。んで今日は有難う」
「どういたしましてかしらー!度々お見舞いに来るかしらー!」
「ふふ・・・あ、来た!」

看護婦の怒る声に掛け声。
そして看護婦に軽く謝っている声は水銀燈だ。

「早く行かなきゃ、そうかしら」

金糸省は持っている傘を広げ窓を開ける。一体、何を考えているんだ?

「落ちるといっても空気抵抗でゆっくり落ちるかしらー!」

金糸雀は窓から飛び降りりようとする。


「ちょ……おまっ……」
「I can fryかしらー!」

そう言うと金糸雀は威勢良く窓から飛び降りた。
傘をさしながら。
無論、パラシュートのような事が起きる事はない。
傘は空中分解していた。
それと同時、悲鳴が聞こえ少し鈍い音が聞こえる。
大丈夫なのか?
僕は急いで窓の外を覗こうとする。
しかし、ドアの開く音がして元の位置に戻る。

「やっほぉ♪乳酸菌とってるぅ?」
「あ、ああ……」

死んでないだろうな?あいつ。
僕は水銀燈と話しててもそればかり気になっていた


「こんばんわ」
「お前か」

挨拶してくるのはラプラスの魔。どうも気に食わない奴だ。

「今日来た子は妙な子でしたね」
「妙って……?」
「矛盾、方向性がないと申し上げましょうか? 
 自分を見失っていますね。哀れ哀れ」
「何言ってんだ……?」
「あなたにはわからないでしょう。
 最も、あの子自身にも理解できてないでしょうが」
「……?」
「今夜はちょっと、“現の第一世界”から離れ
 少し夢の中の散歩にでも行きましょうか。
 少々、お話をしに……」
「何言っているんだ?」
「死んだらわかる事ですよ」

そう言うとラプラスは消えた。
ラプラスの居た場所は今では何も無かったかのように見える。
しかし、何を言っていたんだ?全く理解が出来なかった。
まぁ、考えるだけ無駄だろう。
もう寝る事にしよう、体にも悪いし。


暫くの間、金糸雀は時々学校を抜け出しては僕に会いに来てくれたりした。
最も、水銀燈は水銀燈で学校をサボって来たり
早退したりして見舞いにきたりしている。
あまりサボるなとは言っているのだけどね。そして、今日は皆が来る休日。
面会開始時間より一時間あけた時間に皆、僕の病室に来てくれる。
水銀燈はというと皆と会う日だけは皆と一緒にジュンと話したいという事で
二人きりになる事は無かった。
特に皆は待ち合わせもしてないのでばらばらに来る。
その空白の一時間で金糸雀と結婚の話をする時もある。
今、金糸雀は来た。けれでも様子がおかしい。
走ってきたようで息をきらしている。
肩で息をして何かに必死だ。

「ジュン!」
「大丈夫か?」
「大丈夫かしらー。ジュンに伝えたい事があるかしらー。」

金糸雀の真剣な表情にジュンは思わず息を呑む。一体……なんだ?

「カナは今までずっとあなたを友達として祝おうと“努力”してきたかしら。
 でもホントは違った、自分の本当の気持ちを隠してあなたの為に“努力”してたかしら。
 ホントはホントは。
 あなたの事がずっと好きで好きでしょうがなかったかしらー!
 カナの“友への祝い曲“はいつしか歪んであなたへの叶わない恋の哀しさを出してたかしら……。
 カナはいつしか“愛してる人への祝い曲“を奏でてたかしら……。
 カナは友達としてではなく好きな人の為に頑張ってたかしら……」


絶句。言葉が出なかった。
ずっと僕を祝福してくれた金糸雀からいきなりの告白。
金糸雀の様子から本気だとわかる。

「だからっ……ヒック……私はここであなたと約束……ヒック……したいかしら……」
「金糸雀……」
「告白の返事は……ヒック……最初から決まってるから……ヒック……いらないかしら……。
 カナはあなたを……これからは……ヒック……“大好きな友達”として……祝福するかしら……ヒック……。
 だからジュンは……必ず……ヒック……幸せに……なって……かしら……」

金糸雀は涙を流してた。
ムードメーカーでいつもテンションが高い金糸雀。
涙を見せる事なんて無い金糸雀。
元気な元気な金糸雀。
その金糸雀は目の前で涙を流していた。
僕はその金糸雀の手を……握った。

「金糸雀……ありがとう……そして御免な……。
 約束する……僕は幸せになるよ……“努力“する……」
 だから……金糸雀も……幸せになって……!」

今の自分が言える、必死の言葉だった。
涙を堪える事が出来なかった。
僕も涙を流していた。
止める事なんて出来なかった。


「ほんと……あなたは……人に優しいかしら……」

金糸雀は僕に抱きついてきた。
僕はただ、抱きしめた。
口付けなど無かった。
彼女は大切な“友達”だったから。



……。
金糸雀はあの後、僕の病室から出て行って
皆が揃い始めた頃に雛苺を連れていつものように来た。
まるで告白なんて無かったの如くいつも通りだった。
“友達からよりより友達に変わっただけだったから”
金糸雀は皆と笑っていた。
何時ものように、迷いも無く。

「おやおや、今日は色々あったようですね」

ラプラスの魔が喋りかけてくる。
こいつは見て無くても物事など把握できる。
流石は“魔”だという所だ。

「矛盾が無かったですね。
 迷いが無くなり道を見つけたようですね」
「……何かしたのか?」


前に金糸雀の事を喋っていた時には
夢に出かけるなんて言ってどこかに行ってしまった。

「ちょっと囁いただけです」
「……夢ってのは?」
「人間は寝てる時、夢を見ます。
 夢とは死の世界の象徴なのですよ。
 いや、生とは死、死は生、夢は現、現は夢。
 全てはメビウスの輪。
 故に、私はどの世界も渡り歩ける」
「……言ってる事はよくわからんが金糸雀に夢の中で何かしたという事か?」
「ええ、夢ですので忘れてるとは思いますが
 もしかしたら覚えてるかもしれませんね」
「……」

……どうあれ、こいつは結果的に手助けしてくれたという事か。
嫌だが、感謝すべきか?

「なんでそんな事をしたんだ?」
「おもしろそうでしたので」

まぁいい。
今回は感謝しておこう。
少なくとも、僕も金糸雀も悲しみは無いのだから。


「で、あなた達は……?」

困惑している。
学校サボるときはいつもは一人で来る金糸雀だが
今日は年上の女性と男性を連れていた。
一体誰だ?全く覚えが無いのだが。

「草笛みつでーす!」

やけに元気な人だ。
……この人が金糸雀のお姉さんか。
ローゼンメイデンの制服を作った。

「槐だ」

もの静かなこの人。
お兄さんかなんかだろうか?

「カナのお姉ちゃんにお姉ちゃんのお店の店長かしらー!」

お店?
そう言えば……金糸雀のお姉さんは服飾店で働いているとは聞いたけれども。


「ちなみに、薔薇水晶と雪華綺晶の親だ。
 娘が世話になってるね」
「は、はぁ……どうも」

薔薇水晶と雪華綺晶のお父さんなのか……。
若い人だな。
しかし、何でこんな人が此処に?

「協力してもらう為に来てもらったかしら」
「と言うと?」
「ウェディンドレス作れるなんて幸せー!」
「……は?」

ウェディングドレス?

「僕も協力さしてもらう」
「一体全体、何でこういう事に?」
「病室である程度、服飾の手伝いをする事ならジュンでも出来る事かしら。
 だからウェディングドレスを作ろうという事にしらかしらー!」

いきなりすぎる。

「けど……」
「けど?」


「けど何かしら?」
「いや……」

……断る理由は無いか。
僕が生きてる間に出来る唯一の事なら……やるしかないか。

「服飾なんて全くやった事はありませんが……よろしくお願いします」
「ああ」
「よろしくねー!」

……もう時間も無いんだ。
泣いてる暇も無いんだ。
早く、早くやらなきゃ……。

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