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「一つ屋根の下 第九十二話 JUMと玉子焼き」



カチャカチャと金属がぶつかり合う音がする。音の方を見れば、真紅姉ちゃんが丁寧にステーキをナイフで
切り、自分の口元に運んでいる。実に優雅だ。さすがは誇り高いローゼン家の娘だ。
誇り………
「はぐはぐはぐはぐはぐ!!!!もむもむもむもむ……うんうん、やっぱりお肉ですよね。」
「もきゅもきゅ……もきゅもきゅ……きらきー……食べすぎだよ……」
「ふふっ、今日は練習で疲れたから沢山食べないとねぇ~。リミッター解除よぉ~♪」
高い………
「あー!!翠星石ったらまたヒナが持ってきたの食べちゃったの!ひどいのひどいのぉ~!!」
「細かい事をグダグダうるせぇですねぇ~。まだ沢山あるじゃねぇですかぁ~。」
「もう、翠星石ったら本当に横着なんだから。いいよ、僕が持ってきてあげるから。」
はずだよね、うん。さて、少し説明が遅れたが今はホテルの食事場に居る。
露天風呂で一騒動起きそうだったが、無事回避できて僕は一安心。
あの後、めぐ先輩が浴場の前に『露天風呂は混浴です』と書いてある看板を立て直していた。
どうやら、悪戯目的で外していたらしい。あやうく孔明…もといめぐ先輩の罠にかかる所だったわけだ。
「ふぅ……もう少し静かに食事を楽しむ事は出来ないのかしらね。はしたない……」
真紅姉ちゃんが溜息混じりに言う。いや、ごもっとも。何だか姉ちゃん達はナチュラルハイな気がする。
「そうかな。私はこういう雰囲気好きだけどね。折角みんなで御飯なんだから楽しい方がいいよ。」
めぐ先輩がニコニコしながら言う。まぁ、賑やかさが取り得でもあるしね。我が家は。
「ふんふ~ん、玉子焼き~♪玉子焼き~♪おっさとうたっぷり玉子焼き~♪」
と、逆隣を見ればカナ姉ちゃんがお皿に山盛りの玉子焼きを載せていた。



「……ねぇねぇ、金糸雀。前から思ってたけど、貴方って本当に玉子焼き好きよね。」
そんなカナ姉ちゃんを見ながらめぐ先輩が言う。カナ姉ちゃんは口に入ってる玉子焼きを幸せそうに食べている。
「ん?玉子焼き?うん、大好きよ。」
「何でそんなに好きなの?確かに美味しいとは思うけど、ほらさ……もっと美味しいもの沢山置いてあるよ?」
めぐ先輩が料理置き場を指差しながら言う。言うまでもなく、今回の夕食もバイキングだ。
確かに、玉子焼きより遥かに美味しそうなものは山ほどある。肉とか肉とか肉とか。
「うん。でもね、カナはやっぱり玉子焼きが好きだから……」
カナ姉ちゃんはそう言って笑うと再び玉子焼きを口に運ぶ。他のも食べてはいるけど、比率的に少ない。
「ふぅ~ん……あれかな?もしかして、何か思い入れがあったりしちゃう?しちゃう?」
めぐ先輩の目がキュピーンと光る。何か面白い話を聞けると思って期待してるんだろう。
「ええ!?な、何で分かっちゃうかしら?めぐってエスパー?」
いや、病気でもない限りカナ姉ちゃんの玉子焼きに何か思い入れがあるのは明白でしょうけども……
「きゃー、やっぱりやっぱり?聞きたいなぁ~。」
「き、聞きたい?」
カナ姉ちゃんがモジモジしている。そうこうしてる内に、姉ちゃん達が皿に食事を積んで戻ってくる。
「あらぁ?面白そうな話してるじゃなぁい。聞かせなさいよぉ。」
銀姉ちゃんを初め、姉ちゃん達も結構興味津々そうだ。カナ姉ちゃんは一息吸うと、ゆっくり語りだした。
「じゃあ、話すかしら。あれはカナが小学四年生の時……後はJUMがニ年生の時の話かしら。」
あれ?もしかして僕が関係してたりするの?



「うぅ、お腹すいたかしらぁ。何かないかな……」
ゴソゴソと戸棚を漁る少女。ローゼン家次女金糸雀、当時10歳。小学校が終わり家に帰ったはいいが、
どうやら空腹気味のようだ。ちなみに、今でこそ学年トップクラスの背の低さではあるが、当時は意外に高い方
だったようだ。要するに、伸びていない。髪形も前髪は普通に下ろしてあるし、普通の二つ縛りだ。
「あれぇ?おかしいかしら。ちょっと前にここにポッキーがあったはずなのに……」
「何探してるですか?カナねぇ。」
金糸雀が振り向くと、そのポッキーを口に咥えた三女翠星石がいた。
「翠星石……もしかしてそのポッキー…!」
「これですか?戸棚の中から出てきたです。もしかして、カナねぇのだったですか?」
「え!?えっと……ち、違うわ。だから翠星石食べちゃっていいわよ。」
食べようとは思っていたけど、自分で買った訳ではないから言い出せない金糸雀。
「そうですか。有難うですぅ、カナねぇ~。」
翠星石はそう言いながらご機嫌にリビングへ向かっていく。一方、金糸雀はガクリとうな垂れてた。
「うぅ、カナが食べようと思ってたのに……ううん、カナはお姉ちゃんだもの。そ、それくらい我慢かしら!」
グッと拳を握り自分に言い聞かせる。同時に、グゥーとお腹の音が鳴り響く。
「うぅ、でもお腹は空くかしら……お父様まだ帰ってこないのかしらぁ~……」
コテンと床に転がる金糸雀。今日はお手伝いさんもお休みだ。
「カナお姉ちゃん?どうしたの?」
と、転がってる金糸雀に声をかける少年。それこそ、当時ニ年生の桜田JUMだった。
「JUM……あ、あのね。カナちょっとお腹空いちゃってて。」
顔を赤くしながら金糸雀が言う。JUMはそうなんだ~と言いながら提案した。
「じゃあ、僕が作ってあげるよ。」



そうして、JUMと共に台所にやってきた金糸雀。しかし、彼女は心配そうである。何せ小学二年生だ。
「ね、ねぇJUM。カナ我慢するから無理しないでいいかしら。」
「大丈夫だよ。僕、今日調理実習だったんだ。簡単な物しか作れないけどね。えっと、卵と…お砂糖と…」
JUMが椅子を踏み台に卵と砂糖を取り出す。彼は、卵を二つほど割ると皿に入れてそれを溶く。
さらに、その中に砂糖を入れる。
「あれ?どれだけ入れるんだっけ……いいや、甘い方が美味しいよね。」
JUMは卵の中に砂糖をザザザッと入れる。それを混ぜる。箸とお茶碗がぶつかり合ってコチコチと音を奏でる。
「えっと……この小さいフライパンでいいや。火……わっ!!?」
ボッとコンロの火があがる。勢い良く付け過ぎたのかJUMはコンロから上がる火に少しびっくりする。
「だ、大丈夫?無理しないでいいかしら~。」
「だ、大丈夫だよ。ほら、こうして火を弱くして……フライパンが温まったら、卵入れて……」
ジュワワワワワとフライパンが音を立てる。同時に、砂糖の甘い香りも漂ってくる。その匂いで金糸雀のお腹の
音は加速していく。「美味しそう……」それが今の金糸雀の頭の中の声だった。
「えっと…えっと…これをクルクル巻いて……あ、あれ?上手くいかない…よいしょ…よいしょ……」
JUMがフライパンの上に広がる黄色い卵と格闘している。どうやら、上手く形を整えているようだ。
「……出来た!!カナお姉ちゃんお皿持ってきて!!」
金糸雀は言われるままにお皿を二つ用意する。自分と……そして、JUMの分だ。JUMは完成品を二つ
に分けると、それを別々にお皿に盛り付けた。
「わぁ~、美味しそうかしら。JUM、有難う!」
「うん!じゃあ、カナお姉ちゃん一緒に食べようよ。いただきま~す。」
仲のいい姉弟が一緒に箸を完成品につける。それは、所々黒く焦げて、中の卵は固まりきらなかったせいか、微妙に半熟。お世辞にも見た目はいいとは言えないが、『玉子焼き』だった。



「と、言う訳かしら。あの後は大変だったわ。よく考えたら油ひいてないからフライパンはちょっと焦げちゃってるし、
換気扇回してないから台所が甘い匂いで一杯になってたり。お父様にも少し怒られちゃったわ。」
そういえば、そんな事もあった気がする。包丁を持ち出さなかっただけマシだろうか。
「でもね。あの時の味は忘れられないの。ちょっと焦げてて、中は半熟で。見た目もグチャグチャ。
でもねでもね。凄く甘くて美味しかったの。きっとあれ以上の味には出会えないだろうなぁ~。
温かくて、柔らかくて、美味しくて……お砂糖たっぷりの玉子焼き……」
カナ姉ちゃんが微笑む。僕にとっては些細な思い出だ。言われるまで思い出さなかった。いや、正直思い出せた
だけ奇跡的に近い。それでも……僕には些細でもカナ姉ちゃんにはきっと大切な思い出だったんだろうな。
「へぇ~、何だかイイお話だね。じゃあ、それ以来金糸雀はソレを越える玉子焼きを探してるのね?」
「格好よく言うとそうかしら。カナは玉子焼きの探求者かしら~。」
いや、格好いいかな?それって。
「懐かしい話ねぇ。あの時はリビングにいたら、急に凄い甘ったるい匂いがしてきてビックリしたわよぉ。」
「……あのポッキー、やっぱり食いたかったですか……」
「あったわね。あの日以来、お父様は必ずお手伝いさんを一人は必ず居る様にしたものね。」
姉ちゃん達が当時の思い出話に華を咲かせる。
そうだ、いい事考えた。帰ったら、カナ姉ちゃんに玉子焼き作ってあげよう。当時よりは絶対上手く作る自信
がある。もちろん、当時と変わらない部分もなくっちゃね。どこかって?それは言うまでもないでしょ。
僕が作るのは『お砂糖たっぷりの玉子焼き』さ。
END

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