今から3年前、少年は一人の少女に会った・・・物憂げに茜色に染まる街並みを見下ろす銀髪に黒い服の少女・・・。
少年は彼女を心底美しいと思った、いや思わずにはいられなかった・・・。喧騒に包まれる街並みの中、そこだけが別世界の様に音が止まっていた。
少年は少女に声をかけた・・・そして騎士と黒い魔女の長きに渡る日々の始まりを告げた・・・。
彼女との友人としての関係が1年目の終わりに入ったとき、少女は少年に自分の胸の内を明らかにした・・・。
水「ねぇ?貴方はどうして私に構うのぉ?私なんか優しくして貰う資格なんて無いわぁ?」
J「ふぅ・・・またその話かい、いつも言ってるだろう?人は誰かに優しくしてもらうのに資格なんかいらないって」
水「・・・そう・・・貴方ってちょっと変わってるわぁ」
J「そりゃどうも・・・ところでどうしてキミはいつも笑わないんだい?」
少女は笑う事を忘れていた、長きに渡る戦いの日々が少女の端整な顔立ちから笑顔を奪ったそれほど戦いの日々の熾烈さを物語っていた・・・。
水「貴方に関係無いでしょぉ?」
J「そうかな?1年も毎日一緒にいるんだ・・・たまには笑って欲しいな」
水「・・・ねぇJUM、面白い話をしてあげるわぁ・・・今日はそれで帰ってくれるぅ?」
J「あ、あぁ・・・」
今まで少女に言い寄ってくる男は大勢いた、伝家の宝刀とまでは言わないがそれを言えば大抵の男は次の日から姿を現さなくなるのだ。
水「ある所に一人の少女達がいました・・・その少女達の両親はまだ少女達が幼い頃に死んでしまい・・・少女達は軍隊に引き取られ人間としてでは無く殺人マシーンとして育てられました」
J「・・・」
続きを聞きたくない、だがここで聞かなければきっと後悔してしまう・・・恐らく彼女は自分の事を話しているのだろう、だったら尚更自分が聞かなければならない・・・そんな気がした。
水「少女達は物心つく前から大勢を殺してきました、女子供関係なく・・・時には街一つを死都に変える程殺してきました・・・それが少女達にとって正義であり自分が存在する事を許される事でした」
J「ッ!?」
水「戦争は終わっても少女達は苦しみから解放される事はありませんでした・・・祖国の為に戦った少女達に待ち受けていたのは祖国からの迫害でした、祖国は少女達の口から戦いの真実が漏れる事を恐れ抹殺を謀りました・・・」
J「・・・」
水「少女達はついに祖国から逃げだし極東の島国へと逃亡しましたとさ、このお話はここでおしまぁい♪」
J「約束は約束だな・・・今日は帰るよ・・・」
水「そう・・・約束だものねぇ♪」
J「また・・・明日な」
水「期待しないでおくわぁ♪」
J「勝手に言ってろ」
少女はこの少年も二度と自分の前に姿を現す事は無いだろうと思っていた、どこか胸が痛むがそれが少年の為だと思う事にした・・・否、思わなきゃとっくの昔に自分が壊れていただろう。
その翌日は雨だった、それでも少女はそこにいた・・・土砂降りの雨の中少女は来るはずの無い待ち人を待つ為雨に濡れ一人待っていた。
水「やっぱり来ないわねぇ・・・」
J「誰がだ?」
水「え?JUM?どうしてここに?」
J「なんでだろうね、昨日あんな話を聞かされたんだから、益々放っておく訳には行かなくなったんだろうね・・・」
水「・・・やっぱり貴方は変わってるわぁ♪」
J「さぁね?自分でも自分の事は良く分からない・・・そうだろう?」
水「え?」
J「昨日は面白いお話を聞かせてもらったから今度は僕の番だな」
水「え?え、えぇ・・・聞かせてちょうだぁい」
J「昔あるところに一人の少年がいました、少年は両親の顔を知りません・・・両親は災害で死んでしまったそうな、それから少年は歳の近い姉と一緒に親戚に引き取られましたが・・・そこで待っていたのは暖かい家庭では無く、叔父と叔母からの酷い虐待でした」
水「・・・え?」
J「少年とその姉はただ耐え続けました・・・そして少年が中学を卒業すると同時に二人は家を出て二人で細々ながらも幸せに暮らしていましたとさ」
水「へ、へぇ・・・」
J「僕はキミがどんな生活を送ってきたか知らない、でもキミも僕がどんな生活を送ってきたか知らない・・・」
水「それもそうねぇ・・・」
J「戦場にもこの街にも正義のHEROなんかいない・・・だったら自分がなればいい、それが今を生きる者のそして悲しみや苦しみを知る者務めだと思うんだ」
水「・・・・」
少女の心にこの少年の言葉が深く突き刺さりました、HEROがいないなら自分がなればいい・・・。