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 草木も眠る午前2時を回ったころ――


「……チー……」
「また、鳴きやがったですか、お馬鹿水晶。いーかげんにしやがれですぅ」
「貴女こそ……私の發をさっきも鳴いたじゃない。あっ、その1索ポンね」
「真紅も人のこと言えないですわ。結構私のやつ鳴いてばかりでしてよ」


 薔薇水晶、翠星石、真紅に雪華綺晶。
 4人が4人とも麻雀に熱中していた。皆、寝る気配なぞ、全く無い。
 というより、寝て、集中力が途切れて振込みでもしてしまったら、それこそ一巻
の終わり。目を血走らせながらも、麻雀に熱中していた。
 現在、南1局1本場。ちなみに現在の親は真紅。
 点数といえば、25000点スタートで、現在は薔薇水晶が他の3人より少し抜き出て28000点。他は皆23000点前後といった所だった。
 まだまだ逆転は可能なのではあるが……。


「……ツモ……中のみ……」
 薔薇水晶が安い手で上がる。
 正直、この対局はほとんどがこういった風に終わるケースが多かった。
「安手ばかりで即あがるんじゃねえぞです!」
「……早くあがるのは基本……ブー麻雀だったら……とっくに私の勝ち……」
「ブー麻雀って何なの?分からないわ」
「関西風の打ち方ですわ。満貫あたりの点数に達したらその時点で清算になりますの」
 意気揚揚と、点棒を確実にせしめる薔薇水晶。
 他の3人は歯軋りをしながらも、トイレと言って席を外す。


 悠々とジュースを一気のみする薔薇水晶を横目に、ひそひそと話し込む3人。
「まずいですわね。このままじゃ、ばらしーちゃんがこのまま勝ちのコースですわ」
「てか、配牌が悪すぎるですぅ!手も足も出ねえですう!」
「まったくだわ。このままじゃ、水銀燈や蒼星石や金糸雀の二の舞になってしまうわ」
 そう。
 以前に薔薇水晶と対戦した水銀燈ら3人は、手持ちの金が無いということで……
体で払えということで、それはもう筆舌に尽くしがたい罰ゲームを受けたという。
 それだけはどうしてもまぬがれたいと思う、翠星石ら3人であった。


「そうですわね……手持ちはあります?言っておきますけど、私はもうスッカラカンですわ」
「翠星石もねえです」
「私もだわ」
 3人とも各自の財布を眺める。中に金は無い。
 皆、大きくため息をついた。


「だったら、仕方ありませんわね……玄人技を披露してあげましょうか?」
「イカサマをやるつもりなの?バレたらどうするのよ!?」
 雪華綺晶の突拍子の無い提案に、疑問の声をあげる真紅。
「イカサマなんて人聞きの悪いこと言わないで下さい。絶対にバレなく、勝利に導く芸術技だからこそ、玄人技なのですわ」
「でも、玄人技って何やるつもりですか?ガン牌とかじゃねえですよね」
「さすがに印○様みたいに、常人とかけ離れた集中力は持ち合わせておりませんわ」
「じゃあ、国士で一気に攻め込むとでも言うですか」
「それは玄人技じゃないですわ。それに○藤様のあれは天然のヒキですもの」


「よく……分からないわ?」
 なぜか雪華綺晶の言葉に、某少年誌で出てきた伝説の博打打ちの名前が挙がっていた。翠星石は分かっているようだが、それに対してさっぱり理解できないでいて、ただ首を傾げている真紅であった。


「とにかく……どうするつもりなの?」
「台所にサイダーが入った段ボール箱がありますから、取って来て下さらない?
 ……勝負はそれからですわ!」
「それが、何の関係があるの?」
「つべこべ言わず、持ってきてください。その後で何をやるか説明しますわ!」
 少し苛立ち気味で、真紅を台所に行かせる雪華綺晶。
「かっかするじゃねえです……で、サイダーと玄人技と何の関係があるですか」
「ふふふ……それは見てのお楽しみですわ……本当はノガミのドサ○様風にいきたかったですけど……」
 疑問に思う翠星石を尻目に、一人不気味な笑みを浮かべる雪華綺晶。


「……廻る廻る……いや……廻す。一撃で運命の糸車をブン廻すには……この技が確実ですわ……ふふふ……」


――(これより翠星石視点)――

 マジで何やってるか、訳が分かんねえです。


「何か喉がやたらと渇いてきましたわ……」
 そう言いながら、真紅に持たせてきたサイダーの瓶をダンボールから取り出しては、一気に飲み干す雪華綺晶。それも、瓶を空けたら、次の瓶を持ってと……。


「きらきーお姉ちゃん……ヤケを起こすのは……まだ早い……」
 ニヤニヤしながら、姉を挑発する薔薇水晶。


 気持ち悪くならねえですか?
 そう思いつつも、私は先程、雪華綺晶が言った言葉を思い出す。


「ふふふ……次はばらしーちゃんが親になりますけど……私があの子の下家になりますから……地和でばらしーちゃんの息の根を止めて見せますわ」


 そんなに簡単にできるものですか。
 私は本気で疑問に思う。
 親の捨てた最初の捨て牌でロンあがりするという役だ。
 役満ではあるけど……極めて難しい、いや目にすることが全くと言っていいほど無い神業である。
 正直、これを思い通りにやるなら……配牌の前に数人掛りで任意の組み合わせになるように牌の積み込みをやるしかない。
 これには全員それをバレないようにする、手品師並みの高度な腕が要求されるが……私も真紅もそんな腕はない。雪華綺晶は多少はあるみたいですけど……。


 そして、南2局。
 普段のように牌を皆でかき混ぜ、並べていく。


 雪華綺晶の手には、特に変な動き見当たらない。
 相変わらず、サイダーをガブ飲みしていた。


 やがて、牌を並べ終えて、親の薔薇水晶がサイコロを投げようとした時。
「ふう……すっきりしましたわ……」
 そう言って、大きく深呼吸をする雪華綺晶。


 ――!
 すると……彼女は一気に白い煙を吐き出す。


「な、何なの?」
 目の前で起こっている現象に、ただ驚きの声をあげて戸惑う真紅。
 みるみるうちに雪華綺晶の吐き出した煙が室内に充満し……目の前が見えなくなる。
 もちろん、手元の牌も。


「……これは……」
 薔薇水晶の声が微かに聞こえる。
 表情こそは煙で見えないものの……声には僅かにだがうろたえが出ていた。


 なるほど……やるですね、雪華綺晶。
 サイダーを一気飲みすることで、その二酸化炭素を胃の中で凝縮させて、一気に吐き出して、煙を室内に充満させる。そして、煙で視界が悪くなったスキに、積み込みを堂々とやる……って、これ桜田○外の奥義じゃねえですか!


「……ちょっと煙たい……」
 そう言って、窓を開け放つ薔薇水晶。
 外の風が吹き込んできて、一気に室内に充満した二酸化炭素を吹き飛ばす。
 みるみるうちに目の前がはっきりと見えてくる。


 あるのは――卓の上の整然と準備された牌。
 霧が充満する前と変わっている気配は――全く無い。
 もちろん、私も真紅も牌に手を触れていないし――雪華綺晶もまったく牌に手を触れた気配は無かった。
「とにかく……やろう……」
 薔薇水晶がサイを投げて、牌を手にとる。


 私はそのスキに雪華綺晶の顔に視線を向けた。


「……運命は……廻る……」
 彼女は小声でそう呟くと……薔薇水晶には見えないように親指を立てた。
 どうやら準備完了みたいですね。


――(これより雪華綺晶視点)――

 ふふふ……運命は……私のために廻っていますわ!
 私は興奮を何とか抑えながらも、妹の薔薇水晶が牌に手を掛けるのを眺めていた。


 ――2索、3索、4索、6索の四暗刻。待ちは發。
 もちろん単騎待ち!
 そして……ばらしーちゃんの最初に手にする牌には……發を仕込んである。
 これまでの彼女のやり方や……さらにはそれ以外の發はかなり離れたところに仕込んだから……ほぼ彼女は發を捨てるはず!


 そうなれば――地和、緑一色、四暗刻単騎……トリプル役満ですわ!
 さあ、早く發を切りなさい!
 そうすれば……貴女は一撃で地獄へ一直線!


 だが――
「……ツモ……」
 薔薇水晶は手にとった發を卓の上に置くと――何と牌を倒しだした。


 ……う、嘘……まさかのまさか……ありえないですわ!
 私は目の前の信じられない光景を目にしながらも、無情の宣告を耳にした。


「……天和、国士無双……ダブル役満……」
 彼女の倒した牌は……見事に国士の役が出来上がっていた。それも13面待ち。
 1に9に字牌……何が来ても和了れる形だった。


 薔薇水晶は無表情のまま私をじっと見る。
「……きらきーお姉ちゃん……桜田○外の技では通用しない……。房○さんの息子さんに私が修行をつけて貰ってたのを……忘れてたの?」
 そして、見せ付けるかのようにニヤリと笑って見せるのであった。


 あああ……ばらしーちゃんもちゃっかり積み込んでいましたのね……。
 迂闊でしたわ……。


「……てなわけで……親の私がダブル役満であがったから……みんなハコ……」
 そう、私も含め薔薇水晶以外は全員点数は一撃で0点以下。
 ハコテンで対局終了だった。
 清算後の点数は――あまりにもひどいので言いたくない……。
「ボケきらきー、何してやがるですか……!」
「とことん恨むわよ、貴女を……!」
 翠星石も真紅も怒りを露にして私を睨みつけていた。当然、何も反論できない。


「……てなわけで……ハコった皆様には……罰ゲーム♪」
 薔薇水晶は背後にあった箱に右手を突っ込んで、鼻歌交じりでまさぐっていた。
 中には――今回の対局でハコになった人物が受ける罰ゲームの内容が書かれていた。
 対局前に1人3件づつ、各人が紙に書いて箱の中に入れたのだった。


 ちなみに私が書いたのはというと。
『高校時代の制服でエロDVDを借りる』
『ゴキブリの満貫全席』
『メイドの格好をしていろんな事をやらされる』
 ちなみに最後の内容も――ばらしーちゃんがやるものとして、いろいろ考えていたのですけど……。
 真紅も翠星石もかなりえぐい内容を書いていたようだった。


 薔薇水晶はやがて1枚の紙を引いた。
 私たち3人はじっとそれを見つめた。


「『屈辱の長距離通勤電車の旅』か……これ私が書いたやつ……」
 薔薇水晶がニヤつきながらその紙を見せつける。
「内容がよくわからねえです」
「まったくだわ」
 今ひとつ事の重大性に気付かないでいる様子の翠星石に真紅。


 ――ああ、貴女たちは分かっていませんわ!
 薔薇水晶がこんな内容でやるってことは……すでに準備は進めていますわ。
 恐らく、バニーガールの姿で超満員の埼京線に乗せたりして……いや、こんなのまだまだ生ぬるいですわ!もっと強烈な内容のやつに違いないですわ!


「……東と西……上りと下り……それぞれどっちがいいか……選んで……」
 薔薇水晶はなぜかそんな事を言い出す。
 これで罰ゲームの対象路線でも決めるつもりですの?


 彼女の性格を考えて……恐らく乗車距離の長い列車を選ぶはず!
 東だったら常磐線か中央線……東海道線に東武線も考えられますわね。
 って、いずれも私や真紅に翠星石の行く学校やバイト先がある路線じゃないですか!
 それでいったら、上りも下りも知人の目に触れるかもしれない!
 それだけは避けたいですわね……とにかく『西』の『上り』で行きましょうか……。


「「「西の上りですわ(ですぅ)(だわ)」」」
 私たちは一斉にハモってそう答えた。
 というか、貴女達も同じ事を考えていましたの?


「そうなの……じゃあ……」
 返事を確認するや否や、いきなりガスマスクを被る薔薇水晶。
 そして、同時に白い煙が部屋の隅から出てきて……眠く……なって……。


「……西の新快速の旅……じっくり味わってね……♪」
 意識がなくなっていく中……そんなことを呟く薔薇水晶の声が聞こえたような気がした。

 
――(これより真紅視点)――

 ここは……?
 ようやく目を覚ました。周囲を見回す。
 

 ――駅のホーム?
 そう、どこかの大きな駅のホームらしい。私は構内にあるベンチに寝かされていた。
 ふと、駅名を示す看板に目をやると――『姫路』という文字が!


 本気で西へ連れて来たの?というか、兵庫県まで!
「んんっ……!頭いてえですぅ……」
 横から翠星石のうめき声がした。その方を思わず見ると……!


「貴女……なんて格好しているの?」
 私は目を白黒させた。
 だって――本当に妙な格好ですもの!


 赤と緑の黒いリボンの付いたチェックのベレー帽に、白地の長袖がついた赤と緑のチェック柄のワンピースを着ていたのだ。所々にフリルがついていた。スカートはミニになっていて、白いブーツを履いていた。

「な、なんちゅー格好ですか?てか、真紅もおかしい格好してるです!」
 自分の服装にうろたえながらも、私のほうをなぜか指差す翠星石。
「わ、私がどうかしたのかしら?」
 ふと、近くに停まっている電車の窓に微かに私の姿が二重写しになっているのが見えた。そこに写っていたのは――!


 頭に大きな水色のリボンを付けて、胸元に水色のリボンの付いた白地のセーラ服に水色のミニスカートに白のニーソックスを着用していた私の姿だった。


 ――な!?
 そんな私の今の姿に唖然としてしまう。
「うう……ここ……どこですの……」
 脇から雪華綺晶が目を覚ましたらしく、彼女の気だるそうな声が聞こえた。
 彼女の方に思わず目を向けると――彼女も例外ではなく、妙な格好をさせられていた。紫色のフリルの付いたロングスカートのドレス。胸元に薔薇の飾りがついていたりする。
「ち、ちょっと……どういうことですの!?」
 自分の姿と、私や翠星石を見比べながら、すっかりうろたえている。
「それは私が訊きたいのだわ」
「そうですぅ」
 そんな問答をしている時――近くにあった公衆電話が鳴り出した。


 ――なんで、公衆電話が?
 そう思ったとき、足元にメモが一枚落ちているのが見えた。すかさず拾って読む。
『公衆電話にでること 薔薇水晶より(はあと)』


 私はメモ用紙をくしゃくしゃに丸めると、公衆電話の受話器を取った。
「やっほー……お父様とみっちゃんプロデュースの衣装は……結構気に入った?」
 電話の主は、案の定薔薇水晶だった。


「いいかげんにしなさい!こんな格好させて何をするつもり?」
 当然ながら、私は彼女を怒鳴りつけた。


「何も……罰ゲームだよ……言ったよね……『屈辱の長距離通勤電車の旅』って」
「……これが……その内容なわけなの?」
「その通り。でも、これはまだほんの序の口。とりあえず、下の棚の電話帳入れに3人分の切符を入れておいたから……さっさと手にして、左側に停まっている銀色の電車の前4両のどれかに乗って……。早くしないと発車しちゃうよ……」
 私は言われるがままに、下の電話帳入れをまさぐる。
 すると切符が3枚。姫路から神戸までの切符だった。
「神戸まで行けという事なの?」
「……それは違う……この罰ゲームの終了は……その銀色の電車……新快速電車の終点まで……途中で課題を用意したから……それをクリアしたらその先の切符がもらえるようにしておいた……」
「ふん。そんなの途中で降りるか、自分の金で清算すればいいわ」
「……それはできない……勝手で悪いけど……真紅たちの財布は……没収した……」


 ――なっ?
 薔薇水晶の言葉に私は即ポケットをまさぐったが――財布はどこにも無かった。
 ちょっと、お金は無いけど免許や銀行のカード……それにジュンとのプリクラも入っているのよ……!!
「あと……途中でトンズラこくのもできない……やったら後ろの……」
 思わず後ろを振り返る私。


「はぅ~かあいいよ~!!お持ち帰りしたいっ!」
 なんと鉈を持った少女がベジータや梅岡に抑えられながらも、鼻息を立てながら私たちに飛び掛って勢いでじっと見つめていた。
「……途中で逃げたり……課題不成立の場合には……その子にお持ち帰りされちゃうよ……その場合は……命の保証は無い……」
 命の保証は無いって――なんてヤバイ子を引き連れてきたの?
 どっちにしても、私たちはこの馬鹿げた罰ゲームに付き合うしかなかった。
「……課題はあとで……翠星石に持たせた……ポケベルで伝えるから……」
 薔薇水晶はそう言って電話を切った。
 私はため息をついて電話を切った。


「なんてことしやがるですか!お馬鹿水晶!」
 すっかり頭にきて怒鳴り散らす翠星石に、
「仕方がありませんわね。ばらしーちゃんならやりそうなことですわ……」
 すっかりあきらめ気味の雪華綺晶だった。


 とにかく私たちは指示された電車の前から3両目に乗った。
 中は2人掛けの転換式クロスシートの座席が並んでいて、向かい合わせになった部分に座り込む。すわり心地は悪くは無い。
(ちなみにベジータや梅岡、さらに彼らに抑えられた危ない娘は4両目に乗っていた)
 乗り込むとすぐにドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出した。


「しかし……どこまで行かせるつもりですか?」
 翠星石が顔を赤らめながら、窓の外の景色を眺めている。


「せいぜい京都か……滋賀じゃないかしら?」
 私は思いつく限りの行き先を言った。関西のことはあまりよく知らないというのもあるが。
「残念ながら……もっと遠いですわ。さっき行き先表示を見たら、敦賀行きみたいですわ、この電車」
 雪華綺晶は下を俯いていた。すっかり、疲れたといった感じになっている。
「敦賀って、福井県じゃねえですか!関西のみならず、北陸でも翠星石に生き恥を晒させるつもりですか?」
「そうみたいね……」
 私も窓の外の景色に目をやって景色を眺めていた……いや眺めざるをえなかった。


 通路側ではすでに車内の他の客が私たちに目を向けている。
 中にはひそひそと噂話をしたりしている人もいた。
 当然だろう。こんな周囲から浮いた格好をしているのだから。


 ピピピピッ!
 その時、翠星石が手にしていたポケベルが鳴った。
「お馬鹿水晶からです……って、何のつもりですか、これ?」
 翠星石は届いたメッセージの内容に首をかしげていた。
「……何か嫌な予感が……しますわね」
 そのメッセージを覗き込み、顔をしかめる雪華綺晶。


「何なの。見せてみなさい」
 私はポケベルを翠星石から受け取り、メッセージを読む。


『加古川でテレビ局の人が乗ってくるから、その指示にしたがうこと 薔薇水晶』


 な?
 テレビ局って……さらに恥を晒させるつもりなの!?
 怒りと恥ずかしさでさらに顔が赤くなるのを感じる。
 そうしているうちにも電車は加古川に着き……乗客と一緒にラプラスとテレビ局の人らしき……アフリカ系の人たちが3人、乗り込んできた。それぞれ撮影用のマイクや、テレビカメラを持っている。


「やあ、ここにいる道化の皆様、ごきげんよう!」
 ラプラスは相変わらずといった様子で、私たちの神経を逆なでする言葉を投げる。
「…………」
 それに対して、私たちは無視を決め込んでいた。
「今日は皆様のために、わざわざアフリカからアフリカ中央テレビの人たちが来て下さったのですぞ。今からインタビューをしますので答えてください」
 ラプラスはなりふり構わず手にしていたマイクを私たちに向ける。
「まず……翠星石に聞きましょう。今日はどういった旅なのですか?」
 同時にテレビカメラが翠星石に向けられる。
 そして、ディレクターらしき人が持つカンペにはこう書かれていた。

『ボケて!』


「な……!?」
 翠星石は顔を真っ赤にして、おろおろしていた。まあ、当たり前だろう。


「……笑いを取る珍道中の旅ですぅ。見ているお父様を笑かせたら勝ちですよ」
 なんとまあ、無茶苦茶なことを言うものね。ボケにもなっていないわ。
 というか、こんなシチュエーションでボケろというのも無理がある。
「では、この放送は貴女の妹さんも見ていると思います。その妹さんにコメントを」
 ラプラスの次の問いと同時に、テレビクルーからでたカンペは……

『某なんちゃって策士のモノマネで!』


「蒼星石もみているかしらー?見てたら、即効で忘れろかしらーですぅ」
 完全に顔が引きつったまま、それでも指示通りにやってしまう翠星石。
 見ていて――痛々しいわ。


「では次に真紅に聞きましょう。この放送を見ていると思われる、ジュン君に一言」
 ラプラスは次に私にマイクを向ける。そして出されたカンペはこんなものだ。
『水銀燈の口調で!』


「ううっ……ジュン見てるぅ?てか、見てたら貴女の事、一生お馬鹿さぁんって言うからねぇ。乳酸菌摂ってるぅ?」
 自分で何を言っているのか分からない。というか、何で私がこんな格好して水銀燈のモノマネしなくちゃいけないのよ!


「では次の質問です。あなたのバストのサイズは?」
 また、なんていう質問をするのよ!レディーに対してあまりに失礼すぎるわ!
 そんな私の気持ちなんか知る分けなく、テレビクルーから出されたカンペは……

『ここはマジで!』


「う……うう……は……はちじゅう……」
 なんとか着膨れといってごまかそうとした、が。
『サバは読まないで!』
 そんなカンペがテレビクルーから出される。
 バレている……というか、何で私のバストを知っているのよ、このテレビ局は!
「……大きさは勘弁して欲しいわ……Aよ……」
 私はそのまま顔を真っ赤にしながら下を俯いた。
 もう限界だわ!恥ずかしさのあまり、窓を開けて飛び降りそうになったぐらいだ。


「では、雪華綺晶さんにお伺いします。貴女はこの旅を終えたら何がしたいですか」
 ラプラスは雪華綺晶にマイクを向ける。
 その後ろでテレビクルーが出しているカンペは……『おとして!』


「ふふふ……そんなの決まっていますわ……」
 雪華綺晶は不気味な笑みを浮かべると、ラプラスの胸倉を掴み、そのまま後ろの車両へと引きずっていった。そして、そのままその車両にあるトイレに入る。


 中で何をやっているのか分からない。
 時折、ラプラスの絶叫が聞こえた気もしたが、対向電車の轟音でかき消されて、よく分からない。

「……ふふふ……ごちそうさま……」
 5分くらいした後に、雪華綺晶は満足げな表情で、私たちのいる車両に戻ってきた。
 そして、テレビクルーからマイクを奪い取りこう言った。
「……廻る……廻る……運命の糸車が廻る……」
 全く意味不明のコメント。
 彼女の狂った笑みも加わり、テレビクルーの中には足元をガクガクと震わせている者もいた。
 そして、彼女は最後にカメラに顔を近づけて言った。
「ばらしーちゃん……この旅が終わったら覚えていなさい……」


『これは今回の撮影のお礼です』

 テレビクルーはガタガタ震えながら、そんなカンペを出して、謝礼の入った封筒を私たちに渡すと、逃げるようにして電車を降りていった。
 丁度、電車は明石に到着していたのだった。
 封筒の中には神戸から大阪までの切符が3枚。
 というか……まだ、この先もこんな課題をやるの?
 気が重いわ、本当に……。


 電車は猛スピードで神戸へ向けて走行していた。
 途中、右側の車窓に明石海峡大橋や淡路島、さらに須磨海岸など、風光明媚なスポットが見えていたものの、それを楽しもうという気にはなれなかった。
 自分達の着ている服装に加えて、先ほどの(恐らくニセだが)テレビ撮影のせいで他の乗客の注目の的になってしまっていた。
 できるものなら、この電車を降りてしまいたかったのだが。
 しかし、財布が無いので替えの服を買うことはもちろん、電車賃ももちろんないので、自宅に帰ることもできない。
 挙句の果てには、後ろの車両から「お持ち帰りぃぃ!」なんて絶叫が聞こえているものだから……持ち帰られたら、家に帰れる保証は恐らく無い。


 やがて電車は神戸の市街地に入った。左手に六甲山系の山々が見えるようになる。
 これまた単純に旅行に来ていたのなら、紅茶でも飲みながら楽しめたのに……。


 ピピピピ!
 またもや、翠星石のポケベルに着信が入った。
「今度は何ですか……」
 私たち3人は一斉にポケベルを覗き込むと、そこにはこんなメッセージが届いていた。


『神戸でキタキタ踊りの伝承者が乗ってくるから、大阪に着くまでにじっくり楽しんで。
 ヒント:ヒップ 薔薇水晶』


「はぁ?何ですの、一体」
「意味不明ですぅ」
「ヒップって何なのよ。というか、非常に嫌な予感がするのだけど、気のせいかしら?」
 私も含めて、3人とも薔薇水晶からのメッセージに首をひねっていた。
 ただ、先ほどのような罰ゲーム的課題の内容から考えれば、次の内容はもっと過激なものになるはず。ヒップと言っているのが非常に気に掛かる。


 電車はやがて神戸駅に到着した。
 多数の人が乗りこんで来る。買い物帰りの主婦らしき人や学校帰りの生徒が多い。
 その中に……明らかに異彩を放っている人物が乗り込んできた。


 丸坊主の頭に太陽を模した飾りをつけて、白い口髭を生やした中年の男性。
 着ているものは――腰蓑だけ!!
 どうみても、この状況……というより街中にいるにはあまりにおかしな格好だった。
 とてつもなく、嫌な予感がする!


 彼は私たちの姿を見つけると、すぐさま近くまで駆け寄ってきて大声で話し掛けてくる。
「あなたがたが、翠星石さんご一行様ですな!今からキタキタ踊りを披露しますぞ!」
 予感は……非常にありがたくない形で的中した。
 周囲からの視線が非常に痛く感じる。


 人違いじゃないですかと言おうとしたが、その人は私たちの返事を聞かないうちに、手にしていたラジカセにスイッチを入れて、踊り出した。


 ピ~ヒャラ~、ピ~ヒャラ~……。
 緩いのんびりとした……というより気が抜けてしまいそうなゆっくりとした曲のリズムにあわせて、その人はさながらフラダンスのようにのんびりと踊り出す。
 女だったら様になるかもしれないが、中年のオッサンだったら正直気持ち悪い……じゃなくて、やって欲しくないわ!公衆の面前で!
 電車は次の三ノ宮に到着し、乗客がほとんど入れ替わる。
 だが、状況はまったく変わるわけがない。目にした途端に大笑いし出す人までいる始末だった。


「い、いいかげんにしやがれですぅ!やめろですぅ!」
 顔を真っ赤にしながら、抗議の声を上げる翠星石。
「何をおっしゃっています。これからが本番ですぞ!」
 その人は全く踊りを止める気配はなく、むしろ動きを激しくしていく。


「仕方ないですわね……大阪までこの踊りをやるみたいですから耐えるしかないのでしょうか……」
 大きくため息をつきながら、目をそむけて左手に見える六甲の山々をぼんやり眺めている雪華綺晶。


「そうみたいね。ただ大阪から先の切符はどうやったら手に入るのかしら……。
まあ、こんなのだったら、あの鉈娘にお持ち帰りされた方がはるかにマシかもしれないわね」
 私もぼんやりと車窓の風景を眺めていた。正直、この場から逃げ出したい。
 できないのなら、舌を噛み切ってしまいたいぐらいだ。


「そういえば、大阪からの切符ですわね。この踊りを見切ったら本当に切符が手に入るのでしょうか?」
 雪華綺晶がそんなことを口にする。
「というと、どういうことかしら?」
「さっき、電車の到着予定のアナウンスを聞いたら、大阪に着くのは16分後みたいですわ。そんな短時間でこんなえげつない罰ゲームを済ますなんて思えないのですけど……」
 雪華綺晶は腕時計を見ながらそんな疑問の声を口にする。
「そーいや、そうです。翠星石だったら、終点まで延々とやらせるですよ」
 翠星石の言うことも十分頷ける。
 薔薇水晶の性格からすれば、それこそ敦賀に着くまでこの踊りに耐えさせるという勢いでやるだろう。それを大阪までといっているのなら、何か別の企みが?


 ――!!
 そういえば……ポケベルのメッセージは『大阪に着くまでに』踊りを楽しんでということだったわね。それがなんか引っ掛かるわね。
 私はそのことを雪華綺晶に話す。


「確かにそうですわ。さらにヒントまで書いていたのですから……あっ?」
 彼女は何かに気付いたようだった。
「何ですか?何か分かったですか?」
 身を乗り出して、雪華綺晶に迫る翠星石。


「あまり……言いたくないのですけど……踊り自体にヒントがあるのじゃないでしょうか……。それで……ヒントがヒップ、つまりお尻って……ありましたから……お尻の動きに注目ってことじゃ……」
 顔を赤らめながら、恥ずかしそうに自分の推測を雪華綺晶は話す。


「なんてことですか!結構人が多いこの電車の中で、セクハラ系お笑い番組定番の字読みクイズをやれというですか!?」
 当然のように、抗議の声をあげる翠星石。


 私は黙って……そのキタキタ踊りを踊っているその人の……尻に注目した……。
 本当にやりたくはないのだが、仕方がない。
 

 電車は芦屋に到着し、さらに多くの人が乗ってくる。
 衆人の注目にさらされながらこんな事をしなければならないわけなのだが……もはや恥も外聞もない。


 分かりづらかったが……尻の動きの軌跡は、確かに何かの字を描いていた。
 恥ずかしさを抑えながらも、さらにじっと見つめる。


「……2……り……よ……う……め、と、3、り、よ、う、め、の、あ、い、だ、の、ゆ、か、し……た……」


 2両目と3両目の間の床下!
 尻の動きから読み取れたメッセージはこんなものだった。
「2両目の連結部の床下ですか!行くですぅ!」
 翠星石は即座に立ち上がり、この車両と2両目の車両の連結部へと駆け出す。


「見つけたですぅ!」
 やがて電車が尼崎に到着するアナウンスが流れた頃に、翠星石は一つの封筒を手にして戻ってきた。
 なんでも、連結部の床代わりの鉄板の下に張付けてあったらしい。
 即座に中身を確認すると……大阪から京都までの切符が3枚あった。


「やりましたわ!となると、あとやるべきことは……」
 雪華綺晶は切符から、キタキタ踊りのオヤジに目をやると静かに立ち上がった。
 翠星石も同じことを思ったのか、何も言わず即座に立ち上がる。


 電車は尼崎に到着していて、丁度ドアが開いた所だった。
 2人はキタキタ踊りのオヤジの肩をがっちりと押さえると、そのまま開いたドアの方へと連れ出していく。


「な、何をするのですか!?踊りはまだまだありますぞ!」
「うるせえですぅ!これ以上アホな踊りを見せられるのはうんざりですぅ!」
「とっとと消えうせなさい!汚らわしいですわ!」
 キタキタ踊りのオヤジを開いたドアから車外へと、思い切り蹴り飛ばす翠星石と雪華綺晶。
 その直後、ドアは閉まり電車はゆっくりと発車していった。
 そのオヤジは泣きながら、走り出す電車を追うが、すぐさまその姿は見えなくなる。


「ちょっとはせいせいしたですぅ」
「まったくですわ!」
 大きくため息をつきながら、席に腰掛ける2人だった。


 その直後にポケベルの着信音が鳴り出す。
「ちょっとまだあるですか!?」
 もういい加減にして言いたげな表情でポケベルのメッセージを覗き込む翠星石。
「まだ京都から先の切符がないですから……それで間違いないでしょう」
 さらにうんざりしたという感じで、となりから覗き込む雪華綺晶。
 私も同じような気分でメッセージを見た。


『大阪からパーシバルご一行様が乗ってくるから、その指示にしたがうこと
 ヒント:変身部 薔薇水晶』


 また意味不明なメッセージね。パーシバルに変身部って何よ。外人かしら?
 やがて、電車は大阪駅に到着した――。


――(これより雪華綺晶視点)――

 ドアが開いた途端に、中にいた乗客の多数が降りて、代わりにさらに多くの乗客が乗り込んでくる。一瞬空くかと思っていた車内は、サラリーマンや学生らしき乗客で一気に埋め尽くされる。
 夕方の帰宅ラッシュはまだ始まる時間ではないのにもかかわらずである。
 さすがは西の大都市圏の大阪梅田。乗降量が半端ではない……。


 って、感心している場合じゃなくて、パーシバルとかいう奴を探さなくてはいけいのではないですの!?
 私は周囲を見回してみた。
 名前からして、恐らく欧州か米国圏の人間と思うが……見た限りそれらしき人は見かけない。


「乗ってきていねえようですね」
「分からないわ。他の車両に乗っているのかもね」
 同じように翠星石も真紅も周囲を見回していたが、やはり見つけられていない様子だった。


「これじゃあ、らちがあきませんわ。他の車両も見てみましょう」
 私の提案に彼女ら2人も同意したのか、座っていた席を目の前の年配の人に譲って、他の車両を探し出した。
 それと同時に、ドアが閉まり、電車は大阪駅を後にする。


 どの車両を探すかは……じゃんけんで決めた。
 結局、真紅が1両目、翠星石は2両目……私は4両目だった。


 なお、この電車は8両つないでいるが、4両目と5両目は車内での行き来が出来ない。前4両で見つけられない場合には、途中の停車駅で一旦降りて、5両目以降に乗って探すしかない。
 アナウンスを聞く限り、京都に着くのは28分後。途中、新大阪と高槻に停車するが、これまでの罰的課題の内容から考えると、悠長に探す暇は正直無い。
 手っ取り早く探すことにした……が、正直気が乗らない。


 そう……あの危険な鉈娘の乗った4両目を探すのは。
 ババを引かされた気分だった。


 車内の通路に立っている乗客を掻き分けて(もちろん、好奇の目にさらされて、ひそひそと噂にされたのを強引に無視しながらだが)4両目のドアを開ける。


「早くお持ち帰り~!!薔薇乙女のみんなかあいいよ~!お持ち帰りぃぃぃ!!」
 ドアを開けたとたんにこんな奇声を耳にしたものだからたまったものではない。


 当の鉈娘は……車両の中央付近のボックスシートでベジータと梅岡がもう限界と言いたげな、苦悶の表情で必死に鉈娘を押さえ込んでいる。
 ここで、彼女に見つかったらお持ち帰り……いや、それ以前に暴動が起きて、最悪、こんな恥ずかしい姿で警察の厄介になるのは目に見えている。
 彼らもとんだとばっちりを受けたものですね、と多少同情はしながらも、彼女の目に付かないように他の乗客や座席の陰に隠れながら、車内を見回す。


 結局、パーシバルらしき外人の姿は見当たらなかった。


 電車は丁度、新大阪を出て、次の高槻に向かっている所だった。
 とにかく、4両目はおいておいて……3両目をもう一度探すことにした。


 しかし、ここで気になることが一つ。
 妹の出した――変身部とかいうヒントである。
 これは一体どういうことなのか?さっぱり分からない。
 まさか、私たちと同じように変な衣装を着て電車に乗っているとか……?
 いや、さすがにこれはないだろう。
 そう思い、3両めに移りふと手近にあった座席に目をやった時。


 ――おい!?
 思わずそう言いたそうになりましたもの。
 だって……そこに、サンタの格好やら、チアガールの格好をした女の子達が座っていましたもの!


 全部で4人。
 サンタの格好をした眼鏡の少女がチアガールの格好をしたツインテールの女の子と仲良くじゃれあっていた。
 その横ではどこかの学校の制服を着た、ソバージュの幼げな女の子が、熊のぬいぐるみを大事そうに抱えながら、私をじろじろと見つめている。
 それらの女の子を見守るように、両側に赤いリボンの髪飾りを着けて、先述の幼げな少女と同じ制服を着た、高校生らしき女性がにこやかに微笑んでいた。


 まさか……これが変身部なんていいませんよね?
 彼女らに声を掛けようか、少し悩んでいた所――


「あのお姉ちゃんかわいい……パーシバル、どう思う……?」
 ソバージュの幼げな女の子が手にしていた熊のぬいぐるみに話し掛けていた。
 そう、このぬいぐるみパーシバルといいますの……じゃなくて!
 大当りじゃないですの、これ!?


「あ、あの~。ひょっとしたらこの熊さんが……パーシバルといいますの……?」
 私は恐る恐るその少女に声を掛ける。


「……そうだよ……」
 その少女は無表情のまま、か細い声で答えた。
「貴女達って……変身部ですの?」
「……そうだよ……ねえ、パーシバル」
 これで確定。私は大きくため息をついた。


「雪華綺晶見つかったですか~?」
 2両目のほうから翠星石と真紅がこちらへと駆け寄ってくる。
「ええ……見つかりましたわ。この方ですわ」
 私はそう言って、ソバージュの少女が手にしていたぬいぐるみを指差した。
「ぬ、ぬいぐるみ?」
 真紅と翠星石は目を白黒させながら、じっとそのパーシバルというぬいぐるみを見つめていた。


「あら、貴女達もかわいい服着ていますわね」
 パーシバルを抱いた少女の向かいに座っていた、高校生らしきロングヘアーの女性が私に話し掛けてくる。


「え……ええ」
 顔を真っ赤にしながらそれぐらいしか答えることが出来ない。
 翠星石に至っては、馬鹿にしているのかと今にも怒鳴りつけそうな勢いだったが、真紅がそれを察したのか懸命に彼女を押さえている。
「で、貴女達がおそらく籠女ちゃんのお友達が言っていた女の子3人みたいですけど……その衣装、この子達に着せてあげたいですわね。どう思う、籠女ちゃん」
「やりたい……パーシバルはどう思う?」
 ロングヘアーの女性の問いかけに、籠女というソバージュの女の子が熊のぬいぐるみに話し掛けている。


 私たちも含めて、このやり取りは傍から見ていたら非常に滑稽に見えるのは請け合いであるのは間違いない。
 もっとも、この時点では周囲にぶっ飛んでいると見えて、噂の種にされても、もはや気にならなかったが。


「いいって……言ってた。
 お姉ちゃん達……着替えが網棚の上の鞄にあるから……着替えてきている服をちょうだいと……パーシバルが言ってる」
 パーシバル、いや籠女の言うように、彼女らの座っている座席の上には小柄のスポーツバッグが3つ置かれていた。


「なるほど、この中に着替えがあるから着替えて欲しいというわけですね……で、どれに着替えがありますの?」
「……一人……1つづつ入ってるって……パーシバルが言ってる……」
 私はすかさず、一番端のスポーツバッグを手にして、4両目にあるトイレに駆け込む。


 丁度、電車は高槻を出発した所だった。時間はあまり無い。
 トイレに入るとすかさず鞄を開ける。
 先ほどはこのトイレでラプラスを……失敬したわけだが、その痕跡は残していないので……というか、そんなことは気にせず、すかさず鞄の中を覗き込む。
 中には恐らく普通の服が入っている……ということは、ようやくこのコスプレ地獄から脱出できる!


 ……わけがない。
 鞄の中から出てきた中身は、世の中そんなに甘くないと語っていた。


 出てきたのは――中世のお姫様のような、苺の飾りや白いリボンが着いたピンクを基調としたドレスだった。ティアラまで付いているのだからたまったものじゃない。
 渋々着替えて、3号車に戻る。


「な、なんですか?その格好?」
「ぷぷ……それはないのだわ」
 当然のように私のそんな格好を見て、当然のように吹き出す翠星石に真紅。
「あらかわいいお姫様ですこと。似合っていますわ」
「……パーシバルも……かわいいって言ってる……」
 席に座っている変身部の少女達に返す言葉もまったく思いつかない。


「で、貴女達も早く着替えなさい」
 私は網棚の上の2つのスポーツバッグを指差す。
 途端に、これまで笑っていた翠星石と真紅の表情に影が落ちる。


「わ、分かったですよ」
 私の着ている服装と、網棚の上の鞄を見比べながら、恐る恐る左の鞄を取って4号車のトイレに入りこむ翠星石。
 はたして、彼女にはどんな様になって出てくるのか……。


「こりゃ、ねえですぅ!」
 少しして、絶叫を上げながら3号車に戻ってくる翠星石。


「病魔から守ってくれる天使さんですね」
「お姉ちゃん……かわいいって……パーシバルが言ってる……」
 変身部の面々の寸評が翠星石の心に深深と突き刺さっているのがよく分かる。


 そりゃあ、青と白のストライプの長袖のワンピースに白いエプロン、さらにはナースキャップときたら、分かりますわ。おまけに天使の羽まで付けさせられて、両手で抱えなければいけないほどの大きさの注射器を持たされているのですから。
 まさに病魔を退治する白衣の天使……もっとも、口汚い天使ですけど。


「いいかげんにしやがれですぅ!お尻にお注射してやろうかですぅ!」
「翠星石、おさえなさい。恨むのはこの子にじゃなくて、薔薇水晶よ」
 もはやブチキレの翠星石をなんとか諌める真紅。
 だが、そんな真紅にも無情の宣告が下される。


「……あと……セーラー服のお姉ちゃんも……着替えてって……パーシバルが言ってる……」


「分かったわ……」
 真紅は顔を引きつらせながら、最後に残った鞄を手にして4号車のトイレへと向かった。 


 数分後――真紅は着替えて出てきた。
「……喜んでいいのか、泣いていいのか、分からないのだわ」
 彼女が着ていたのは、さながら名探偵ホームズが着ているような帽子に外套に茶色のスーツだった。おまけに虫眼鏡を手にしていた。
「くんくんの格好にはあこがれていたけど……公衆の面前でするのはやっぱりなのだわ……」
 自分のしている格好を見回して、大きくため息をつく真紅。


「あら、探偵さんですね」
「……格好いいよ……ねえ……パーシバルはそう思う?」
「ありがとう。嬉しいのだわ……」
 褒め称えているのかよく分からない言葉に、礼を返すのが精一杯の様子の真紅。


 やがて、電車は京都に着くというアナウンスが流れた。
 結局、京都より先の切符はどこですの、と思ったが、その問いにはロングヘアーの女性が答えてくれた。


「そうそう。籠女ちゃんのお友達が渡したいものがもう一つ、その鞄の中にありますから受け取っておいてくださいね」
 その言葉の通り、私の衣装が入っていた鞄の底に封筒が一つ入っていた。


 その封筒を抜き取って、これまで着ていた衣装を鞄の中に詰め込み、変身部の面々に引き渡した。
 同時に電車は駅に到着し、ドアが開く。中の乗客の大半が一斉に降りだす。


「ありがとうございます。じゃあ、私たちはこれで失礼しますわ」
「……楽しかった……パーシバルもそう言ってる……」
 変身部の面々はそう言って電車を降り、京都駅のホームの雑踏の中に消えていった。


「あいつら、あの格好のまま京都の街を散策するつもりですか?」
「そんなこと知ったことじゃないわ。とにかく座りましょう」
 真紅も翠星石も顔を強張らせながら、変身部の面々が座っていた座席に腰掛ける。私も席につき、手にしていた封筒を開ける。


 中には1万円札が1枚に、手紙が1枚。手紙にはこのように書かれていた。
『京都から敦賀までの切符はこの金で車掌さんから買うこと。なお、おつりは後で必要になるから勝手に使わないように。万が一、抜け駆けして横浜への切符を買ったり、逃げ出したり、今着ている服を脱いだ場合には……どうなるかは言わなくても分かるよね?(にやり) 薔薇水晶』
 

「後で徹底的にヤキ入れるですよ、お馬鹿水晶」
「言われなくても分かっているわ」
 怒り心頭の翠星石に真紅。私も当然、同じ気分だ。あとで丸呑みしてやる。
 電車はトンネルに入り、次の山科に向けて轟音を響かせながら爆走していた。


 電車は山科を出て、次の大津へと向かう。
 再び、トンネルに入り、轟音が車内に響き渡る。
 時計を見ると17時8分。さすがに帰宅ラッシュの時間帯に入ったとあって、車内はサラリーマンや学生でごった返していた。
 もっとも、そんな雰囲気――いや日常の雰囲気からもかけ離れた格好をしている私たちは、そんな彼らの嘲笑の的に去れていたのは間違いないのだが……。


「雪華綺晶……何かおかしくねえですか……」
 翠星石が下を俯きながらも、じろじろと周囲を窺っているのが分かる。
 ナースキャップを被りながらという様子でやっているものだから、滑稽で仕方が無く、思わず笑ってしまいそうになるのをなんとかこらえる。
「そんなこと言われなくても……分かっていますわ」
 私も彼女の言う――周囲の異様さにはとっくに気付いていた。
「…………」
 真紅も何も言わないものの、周囲をやたらと警戒している様子がうかがえる。
 探偵の格好をしているとだけあって、それがサマになっているのにも笑いそうになってしまうが。


 トンネルを出て大津駅に電車が滑り込み、ドアが開くと同時に帰宅するサラリーマンがさらに乗り込んでくる。
 一方で私たちのいる席の前にも人が群がる。もっとも――。


「(;´Д`)ハァハァ」
「(;´Д`)'`ァ'`ァ」
 とにかく荒い鼻息。
 横にいてももろに感じることができる異様な熱気。そして汗臭さ。
 そして私たちをじろじろと、興奮しながら見つめてくる、ぎらついた視線。


 そこにいるのはサラリーマンではなく……周囲とは異様な雰囲気のする漢たち。
 山科でそうした連中が2・3人乗り込んできたが……大津ではさらにその4倍にまでそいつらは増殖していた。


「ウヒョー!現代にこんな女の子達がいたとは!」
「某掲示板の情報を辿ってきたんだけど……すごいんだなぁ、ハァハァ」
「これは大発見でおじゃる!今夜はこれでご飯5杯はいくでおじゃる!」
「すばらしい尿!まさしく天使たちだ尿!」
「エンジェル○ートの娘たちもいいけど……目の前の娘達はもっといい……ジュルリ」
「女神光臨キタ━━━━━(゚∀゚)━━━━━!!!!」
「同志達にすぐ連絡にゃりん!大津17時10分発3488M列車で祭り開催にゃりん!」


 言わずとも知れた、いわゆるあからさまなヲタといわれる人種の人たち。
 私たちの情報がどこかの某巨大掲示板で広められているらしい――ばらしたのはおそらく妹であるのはガチでしょうけど。


 時折訳の分からないことをわめきながらも、目の前にいる私たちにいやらしい視線を向けてくる。挙句の果てには手にしていたデジカメで写真を撮る者までいるぐらいだった。


「恐れ入ります~、只今より乗車券を拝見いたしますのでご協力をお願いいたします」
 車掌が車内に入ってきて、乗客に切符の提示を促す。
 なんと間の悪いタイミングで入ってきたものである。
 切符を恐らく買う羽目になるであろうが……その時にはこの連中に私たちがどこに行くのかがばれてしまい、終点まで付き合う羽目になるのは目に見えている。


「ど、どうするですか。こんな気色悪い連中と終点まで道中一緒になるのはごめんですぅ~。勘弁してほしいですぅ」
 今にも泣き出しそうになる翠星石。でも、何というか……。
「おっと、この娘達終点まで行くみたいでおじゃる!同志達よ!金の準備は出来ているでおじゃるか?」
「合点承知だ尿~!」
 行き先が今の発言でモロバレなのですけど。安易に口を滑らさないでくれます?
 私や真紅の冷たい視線が向けられて、さらに落ち込む翠星石だった。


 やがて、車掌は私たちのいる席まで来て、切符の提示を求めてきた。
 私は仕方なく、現金とこれまで手にした合計9枚の切符を出し、京都から敦賀までの料金を精算する。
 3人分で4860円。1万円を出したから、お釣りは5140円。
 車掌は私たちの姿に不思議な物を見るような視線を向けながらも、3人分の切符とお釣りを渡してきたので、私は何も言わずそれを受け取る。


 もっとも、その直後に周囲の男達が車掌に群がり、敦賀までの料金清算を求め出して、ちょっとした騒ぎになったが。その騒ぎのために他の乗客の目に私たちの姿が目に止まり、すっかり思い切り悪い意味での注目の的になってしまったが。

 電車は草津を出た。そのころには、私たちを取り囲むヲタどもはさらに6倍にまで膨れ上がってきた。近畿圏はおろか、中には中京圏や北陸地方、さらには関東圏や中国地方から出張ってきた方までいるという。本当にご苦労なことですね。
 私は連中に目をあわさないように、すっかり暗くなった窓の外をぼんやりと眺めるしかなかった。
 もっとも、そのガラスに私たちの顔とともに映る連中の顔や、カメラのフラッシュは本当に目障りでしたけど!


 やがて、近江八幡を出たあたりで……ポケベルの着信音が鳴った。
 すかさず、私たちはポケベルのメッセージに目をやる。


『視姦プレイの中大変だけど、ここで課題を一つ。米原で売っている駅弁を残ったお釣りで買いあさって。ただし、知名度がかなり高い弁当は必ず買うこと。
停車時間は10分程あるからいけるはずだよ。では健闘を祈る 薔薇水晶』


「頭カチ割ってシャーベットにしてやるです!お馬鹿水晶!」
「腸を引きずり出さないと気がすまないわ!」
 明らかに不穏な内容の文句を口にする真紅と翠星石。
 私ももちろん同じ気分だ。だから私もこんな事を言ってしまう。
「……ふふふ……あとでバラバラにしてステーキにでもしましょう……」
「「賛成だわ(ですぅ)」」
 すっかり、かなり歪んだ意味で意気投合した私たちだった。


 電車はやがて米原に着く。
 関西芸人にとって、ここを越えた仕事が入っているかでステータスが分かる――てのはどこかで又聞きした噂話で……じゃなくて、関西と中京と北陸との交通の要所である駅とだけとあって、乗客の乗り降りは結構激しい。
 向かいのホームに停まっている名古屋方面行きの快速電車や、金沢方面行きの特急電車に乗り込む人はそれなりに多い。
 なお、今乗っている新快速電車も後ろの車両を切り離すために、11分停車するという。


 結局、先ほど車内でやった指相撲で、翠星石が弁当を買いに行くことになった。
「最悪ですぅ!」
 そんな呪詛の声を上げながら、翠星石は頭のナースキャップを押さえながらも、ホームにある売店目指して駆け出していった。


――(これより翠星石視点)―― 

 ふざけんじゃねえです!まったく!
 私は人ごみを掻き分けながら、売店目指して走る。
 後ろから気持ち悪いデブヲタどもがついてくるが、そんなもの気にしていられない。売店はすぐに見つかった。すでに数人のサラリーマンらしき人が駅弁を購入しているのが見えた。
 息を切らせながらも、なんとか辿り付く。


「い……いらっしゃいませ……」
 売店にいた店員は、私をみて唖然としたような顔をしながらも、すぐに愛想笑いを浮かべて応対する。
 周囲の人も、私の異様な姿に思わず視線が釘付けになっているようだが。


 おまけに笑っている人までいて、本気で恥ずかしいが、そんなこと気にしている暇なぞない。


 私はすかさずカウンターに並んでいる駅弁をざっと見回す。
 あるのは、おかかごはんに、伊吹釜飯、牛肉弁当、元祖鱒寿司にステーキ弁当。
「ここにあるので全部ですか?」
 念のために尋ねる。
「ええ……そうですけど。どれにします?」
「全種類一つづつもらうですぅ!ちなみに、この駅で一番有名な駅弁はどれですか?」
 私はポケットから、雪華綺晶からもらった5140円を取り出す。
「いちばん有名なのは、湖北のおはなしですけど……昼過ぎに売り切れましたで。まあ、このおかかごはんも普段なら昼に売り切れますけど、今日はまだ1つ残っていますわ。運がいい方ですよ」

 くそ、遅すぎたです。まあ、お馬鹿水晶がこんな遅くに着く列車を指定したから、売り切れも仕方がねえです。有名な弁当は一つは押さえたし、湖北のおはなしとやらがねえなんてゴネた時には、これを根拠に噛み付けばいいですか。
 代金が全部で5050円という事で、手にした現金を渡し、弁当とお釣りを受け取ると、すかさず乗ってきた車両の方へと戻る。


 発車間際らしく、出発を告げる駅員のアナウンスが響き渡る。
 乗り込むと同時にドアが閉まり、電車はゆっくりと動き出した。
 もっとも、駅に降りていた一部のヲタどもは乗り遅れて慌てふためいていたが、そんなのは知ったことじゃない。


 くそ……結構人で一杯です。真紅らはどこにいやがるですか。
 車内は帰宅途中の人で相変わらずごった返している。


 3両目にはいない様子。まさかホームに出ていて、乗り遅れたなんて言わないですよね。翠星石一人でこんな恥さらしの地獄にいるのはまっぴらごめんですぅ!


 2両目に移ると、近くのドアの傍の座席で2人が座っているのが見えた。
「買って来たです。てか、何勝手に席移動してやがるですか」
「ちょっと、この連中を停車中のドサクサに紛れて捲こうと思ったのですけど……」
 雪華綺晶はちらりと座席の傍にいる人の群れに目をやる。


 そこには……相変わらずヲタどもが群がっていやがったですけど。
 さらに後ろの車両から、さらに増殖してきやがっているですけど。


「てか、全く意味ねえです」
 私はため息をつきながら、彼女が巨大な注射器を置いて席を取っていたところに腰掛ける。
「どうやら……本気で終点までこの人らに囲まれなくてはいけないようね……」
 真紅は窓の外をぼんやり眺めながら、そう呟いた。


 米原より先は終点の敦賀まで各駅に停車するという。
 ただ、乗客のほとんどは3駅先の長浜で降りて、その後も徐々に乗客が降りていく。
 やがて、木ノ本を出たあたりには他の車両については、かなり空き出しているようだ。
 もっとも、翠星石のいる車両は相変わらず満員ですけど……ヲタどもで!


 不気味な鼻息や悶えを耳にしながらも……それから30分位後に、終点の敦賀に着いた。
 電車が到着すると同時に、私も真紅も雪華綺晶も一気に走り出す。
 ヲタどもや、鉈娘や彼女を捕まえながらもベジータや梅岡が追いかけてくる。


 通路を通って、改札を抜けた先の駅前広場にいたのは。
「……やっほー、お疲れさん……」
 脳天気な声をあげながらもこちらに向けて手を振る……にっくきお馬鹿水晶!


「ばらしーちゃん、ここであったが百年目!覚悟は出来ていますわね!」
「徹底的に折檻するわ!歯を食いしばることね!」
「ボッコボコにしてやるです!勘弁しねえですよ!」
 私たちはこれまでに溜まっていた怒りを彼女に向けて一気にぶちまける。


「……みんなそう熱くならない……そんなに怒鳴り散らして……周りが気にしているよ……それこそ恥さらし……」
 薔薇水晶は相変わらずの無表情で周囲に目をやる。
 駅前にいる人たちが一斉にこちらへと視線を向けているのが分かると、私たちは急に大人しくならざるをえない。
「……大きなお友達まで引き連れちゃって♪……それはともかく……おみやげの中身を拝見……」
 思わず薔薇水晶の頭を殴り飛ばそうとするものの、公衆の面前ということで、なんとかおさえた。薔薇水晶はそんな私には構わず、弁当の中身を改める。
「……湖北のおはなしは売り切れだったから仕方ないか……とにかく、これで罰ゲームは終了……」
 薔薇水晶がやっと罰ゲーム終了宣言を出そうとしたその時……!


「こんなのやってられるか!俺はベジータが大好きだ!やらないか!」
「ぐはあああ!これからが本当の地獄だ……」
 後ろでは梅岡がベジータを抱きとめて、無理矢理キスをしようとしていた。


 公衆の面前で、梅岡は何トチ狂ったことしてるですか……って!?
 やつらがこんなことをしているってことは……つまり……!?


 非常に嫌な予感がした……が、遅かった。


「かあいいよぉ~!やっと、やっと、おも、おも、お持ち帰りいぃぃぃ!!」
 狂ったような絶叫とともに……頭に強烈な衝撃が走った。
 なんと、あの鉈女が俊足で近づいてきて――目にもとまらない速さで殴ってきやがったです……。 
 そして、目の前は一気に真っ暗になっていって……。


――(これよりJUM視点)――

 薔薇水晶には一昨日はすっかりご馳走になったものだ。
 なんでも、関西方面に旅行してきて、お土産という事で駅弁を沢山買ってきてくれた。特にステーキ弁当は本場の近江牛を使っているという事で、結構美味しかった。
 その場にいた蒼星石や雛苺と一緒にたっぷりご馳走になった。
 その後に食べた福井の水羊羹も結構うまかったな。雛苺も結構気に入ってたし。


 って、そうじゃなくて。僕は気にしていた事を口にした。
「そういえば……真紅は一体いつになったら帰るのだろう」
「……分からない……お友達の所にいると思うけど……」
 薔薇水晶から返ってくるのはそんな答えばかり。
 なんでも、かわいいものが大好きな薔薇水晶の友人の家で世話になっているという。
 連絡が無いのは問題が起こっていないというけど、さすがに3日経つとなるとね。


「まったくだよ。翠星石もまったく音信不通だし。何やってるんだろ」
「雪華綺晶も姿を見ないのー。寂しいの」
 蒼星石も姉のことが気になって仕方が無い様子だった。雛苺もまったく同じである。
 そんな時だった!


 ガチャン!
 窓ガラスが割れる音ともに――なんと、真紅と翠星石と雪華綺晶が部屋の中に入り込んできた。服はボロボロで、髪はぐしゃぐしゃ。
 そして、狂った笑みを浮かべて、手には釘だの鉈だのスタンガンだのといった物騒な得物を手にして、じっと薔薇水晶を見つめていた。


「ぐぎゃぎゃ!やっと見つけたです、お馬鹿水晶!わた流してやるですぅ!くけけけ!」
「ばらしーちゃん、たっぷり仕返しはしてあげますわ……あはははははは!」
「薔薇水晶、頭かちわってあげるわよおおおおおおお!」


 な、何だよ。一体何が……?
「あの鉈女の家を抜け出すとはさすがだね……絶対無理だと思っていたのに……」
 薔薇水晶はそんな呟きを漏らす。てか、何やったんだよ!
「……とにかくまずい……にげるよ……」
 薔薇水晶は即座に逃げ出した。
 彼女らはすぐに薔薇水晶のあとを追いかけた。
 僕も、蒼星石も雛苺も……ただ、呆然とその様子を見送ることしか出来なかった。

          おわり


 今回の友情出演


 竜宮礼奈@ひぐらしのなく頃に

 アフリカ中央テレビクルー御一行様@ガキの使い

 アドバーグ・エルドル(キタキタ親父)@魔方陣グルグル

 源千華留、白檀籠女およびル・リム女学校変身部の皆様@ストロベリーパニック

 エンジェルモートの常連のヲタども御一行様@ひぐらしのなく頃に

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