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 木枯らしが吹く夕暮れの繁華街。
 誰もが急ぎ足で行き交う。そんな中を私はぼんやりとただ歩いていた。

 真っ赤なルージュに濃い目のアイシャドー。
 白のロングTシャツに黒いタイトミニスカート。
 金色のラメ入りのベルトをして。
 その上に腰まで届かない、短めのGジャンを羽織って。
 黒い本皮のヒールの高いロングブーツを履いて。

 普段では全くしない派手な格好だった。
 いつもは、どちらかというと清楚なワンピースにカーディガンを羽織るのが多いのだが。
 現に、今日この服装をみた友人らは、そんな私を見て驚きの声を上げた。
 頭を打ったのかと口にする者まで。

 失礼極まりないわ。私だって女の子よ。
 今時の女の子がやるこんな格好をしてもおかしいことはないはずよ。

 でも……そんなことはどうでもいい。

 そんな格好を目にした、学校での知り合いの男が声を掛けてきた。
 彼氏に振られたのかなんて脳天気なことを言ったものだから、思わず殴ろうかと
思ったけど、なんとかそれは踏みとどまる。(その代わり、思い切りどやしつけて
やったけど)

「すまないな。わびがわりといったら何だけど、よかったら今夜別のサークルと合
コンをやるのだけど、来るかい?」

 合コン……ね……。
 普段ならそんな誘いは断る。
 不特定の男や女と酒を飲み騒いで、場合によっては関係が出来て……そんな付き
合い方はあまりスキじゃない。
 それに、私には……。

 でも、今は正直そうじゃない。
 とにかく……今の憂鬱な気分を吹き飛ばしたかった。

 私は二つ返事でいいよと言った。

 こうして、学校が終わるとそのサークルのメンバーらと一緒に、合コンの会場の
飲み屋に向かっているわけだった。


 はじまりはほんの些細なこと。

「バイトが入っちゃったんだ。人が思い切り少なくて、どうしても入ってくれって言
われてさ。だから今度の旅行は取消しってことで……ごめん!」
 大好きなジュンのそんな発言。

 幼馴染みで、学校もほとんど一緒で、この歳になる頃には交際もしていたけど。
 でも、ジュンは最近はバイトばかりで私と会う機会も少ない。
 顔を合わすのは学校でだけ。
 仕事は夜遅くまであるので、その後に会うことは出来ない。

 必然的に……交わす言葉も少なくなっていた。
 そんな中、せめて一緒にいる証を確認しようと……私はどこかへ旅行したいとわが
ままを言うと、ジュンは今度のイブにスキーに行こうと言ってくれた。
 宿の予約もして、それまではずっとバイトばかりで顔も合わせられないけど、せめ
てそれまでは我慢しようと思っていた。

 そう思っていたのに!
 裏切られた!
 一気に崖から突き落とされた気分だった。

 私はジュンの前で……泣いた。
 今まで彼の前で見せなかった涙を……思い切り見せた。

「……もういいわ……。一人にして頂戴……」
 私はジュンを拒絶した。
「…………ごめん」
 ジュンは言葉だけのわびをして、そのまま私の前から去った。

 それ以降、暗い気分が続いていた。
 何をしても楽しくない。

 ――それは今までのままでいるからじゃないの?
 ――だったら、今までとはまったく違う自分になったら?

 私はだから……こんな派手な格好をして、合コンの誘いにも乗ったわけなのだ。

 前を歩くサークルのメンバーの背中から、すれ違う人に思わず目が行く。

 仲むつまじそうに歩く数え切れない組みの男と女のカップル。
 女は私と同じような格好をして……楽しそうな表情で男と手を繋いでいた。

 うらやましい。
 私もジュンといつも、そう楽しく一緒に歩きたいのに……。

「着いたぜ」
 やがて、目的の居酒屋に着いた。
 前には男の言ってた別のサークルのメンバーが待っていた。
 男と女が数人。

「……そう」
 私はそれだけ言うと、彼らと一緒に居酒屋の中へと入っていった。
 外はすっかり暗くなっていて、吹き付ける風が肌に冷たく刺さる。

 最初に生中で一気に乾杯をした。
 ビールなんて正直飲まない。
 自分で言うのも何だが、酒はまったく飲めない。

 少し飲んだだけで気分が悪くなってしまう。
 これまでコンパは数回やったが、酒は飲まず、紅茶で済ましてきたのだった。

 でも、今日は違う。これまでと違った自分になりたい。
 私は言われるままに、ジョッキに入ったビールを一気に飲み干した。

 うっ……。
 気分が悪くなって、頭がフラフラしそうになるが、なんとか持ちこたえる。
 でも、その後は少しだけど、浮き上がった気分になって……気持ちよくなった。
 これが、ハイになるってやつなの?

 そう思いながらも、再び注がれるビールに手をつけた。

 その後は、私も含めてメンバーの自己紹介から始まり、互いがいろいろな質問を
したり……。
 好きな服は? 好きな曲は? 好きな車は? 趣味は?
 そんな他愛のない質問が繰り広げられる。
 私にもそんな質問が振られた。適当に答えて流す。

 当然、彼氏はいるのなんて質問もあった。
 私はためらうことなく……今の状況を赤裸々に話す。
「へえ、君は彼氏が構ってくれないんだ」
 目の前の別のサークルの男は興味津々と言った様子で、さらにジュンのことにつ
いて訊いてきた。
 私はいろいろと答えた。正直覚えていないが、散々ジュンのことを罵った。

 その話に楽しそうに反応する男らを見て、私ものってきてしまい、さらに話をエ
スカレートさせてしまう。

 でも……そんな事をいう中で。
 何かしらチクリと胸を刺すものがあった。

 こんなのこといっていいの?
 私はジュンのことが本当に嫌になったの?

 そんな疑問がふと沸き起こる。
 だが、私は心の中でかぶりを振って、その疑念を振り払おうとした。

 コンパはさらに盛り上がり、その後は2次会ということでカラオケ店に移動した。
 そこでは、流行の曲を歌いながら、酒を飲んでさらに盛り上がる。

 時計を見ると0時を回っていた。終電には間に合わないかもしれないが、そんな
のはどうでもいい。
 とにかく今は……楽しみたい。
 ひたすら好きな曲をリクエストして、ひたすら盛り上がる。ただそれだけ。

 そんな中、誰かがリクエストした曲に、古い冬のナンバーがあった。
 Dual DreamのWinter Kissという曲。

 バイトばかりしている彼氏に、旅行をキャンセルされて初めて泣いた彼女。

 そんな内容のフレーズが、心に引っ掛かった。
 今の私と同じじゃない。

 歌詞はその1年後にはよりを戻して仲良くなったっていうけど……ジュンとそんな
ふうになれるなんて思えない……いや、思いたくないわ。

 そんな時、ジュンの顔が心に浮かんだ。
 頼りないジュン。笑ったジュン。怒ったジュン。
 そして……旅行をキャンセルしたことに、本当にすまなさそうに謝るジュン……。

 いろいろなジュンの表情が瞼の裏をに浮かび上がる。

 このままで、いいの?
 ジュンと関係を消してしまって……私は本当にそれでいいの?
 ぼんやりとした頭で、そんな疑問だけが頭の中を渦巻いた。
 周りの男や女が声を掛けてくるが、耳にはあまり入らない。

 やがて、会はお開きになった。
 すでに数組のカップルが出来ていて、この後は各々で楽しむという事になった。
 時刻はおぼろげで分からないが……2時だったような気がする。

「ねえ、真紅ちゃんも俺と一緒に楽しまない?」
 別のサークルのメンバーの男がニヤニヤしながら私に誘いを掛ける。
 この後は恐らく、ホテルかどこかで関係を持つことになるのだろう。
 正直そうなってもいい。

 私はいいわよと答えようとしたが……言葉に出ない。
 ためらいがあった。
「…………」
 ただ、何もいわずその場に立ち尽くす。
「どうなんだよ。まあいいや。とにかく一緒に行こうぜ」 
 男は私の手を掴み、無理矢理強く引っ張る。
「あっ……」
 私は引っ張られた勢いで、慣れないハイヒールのブーツを履いた足を躓かせて転ぶ。

 そのときだった。

「おい……真紅。何やってるんだよ」
 その声を掛けて呆然と立ち尽くしていたのは……ジュンだった。

 心の奥底に溜まっていた感情が一気に噴出した。
 すかさず、私はジュンの元へと駆け寄っろうとした。

「待てよ!」
 男が背後から私の方を掴み、引き止める。

「お前、僕の彼女に何しているんだ!」
 ジュンが目の前のその男を睨みつける。そして、私の手を強く握り締めて!

 ジュン……。
 その握った手は熱く。そして力強く。

「てめえが、この娘の彼氏ってか?残念だけど、この娘は俺が頂くぜ。
 てか、いまさら言ってくるなんて未練タラタラってやつ?
 真紅ちゃん、こんな奴ほうって置いて行こうぜ」
 後ろの男はそんな罵声を上げていた。そして、私の肩を強引に引っ張ろうとする。

 私は……言うことはもう決まっていた。ためらいはなかった。

「……嫌よ……。ジュン帰りましょ」
 私はジュンの男の手を振り解こうとした。

「おっと、そりゃないんじゃないの?」
 だが、男はその手を離すわけがない。
「いい加減にしろよ!彼女、嫌がっているじゃないか!」
 ジュンはその男の手を掴み、私の肩からはがそうとした……が!

「何すんだよ!」
 そいつはジュンを突き飛ばした。

 バシャン!
 勢いよくジュンの体が閉まった店のシャッターにぶち当たり、激しい音を立てる。
「何だ何だ?」
 近くにいた、サークルのメンバーが面白そうに歩み寄ってくる。
 そしてジュンの姿を見るや否や、下卑た笑いを上げて罵り出す。

「ううっ……真紅……」
 ジュンはうめき声をあげながらもゆっくりと立ち上がり、私へと近づこうとした。
「いい加減にしろや、コラ!」
 男はそんなジュンを蹴り飛ばした。
 周囲にいたサークルの男どもも、面白がってジュンを殴ったり蹴ったりしている。

「やめて!やめてぇぇ!」
 私はその場で叫びながら、抗議の声を上げた。
 が、彼らはそれに応じる様子なんか全くなく、酒の勢いもあってかジュンに暴行を
加えつづける。

 何も出来ないなんて……、私……。
 悔しさで……涙が出た。
 リンチにあいながらも、ひたすら私の名前を呼ぶジュン。
 そんな彼に……ただ、下唇をかみ締めることしか出来ない。
 自分の無力さを呪うことしか出来なかった……が。

「貴様ら……何してるのだ」
 後ろから感情を押し殺した低い声。
 振り返ると……そこには友人のベジータ。
 怒りに打ち震え、じっと奴らを睨みつけていた。

「はん?てめえは何者だぁ?喧嘩売るつもりか?」
 やつらはジュンの暴行の手をを止めて、ベジータに挑発を浴びせる。

「貴様ら、俺の連れに何してるんだと言っている」
「リンチだよ、このヘタレ男にリンチだよ!てか、てめえもうぜえからリンチだあ!」
 奴らはベジータに殴りかかった。

 が、ベジータはすかさず奴らの攻撃を避けたかと思うと、的確にやつらの鳩尾
を殴り飛ばす!蹴り飛ばす!
 奴らの体が路上に次々と打ちつけられる。
「げ、げえ……」
「貴様ら、それでもう終わりか?」
 ベジータはまださらに殴る機満々でいるようで、手をポキポキと鳴らせていた。

 周囲にはすでに人だかりが出来ていた。
 そして、中には警察を呼べという声まで聞こえる。

「く、くそったれ!ずらかれ!」
 やつらはフラフラになりながら、その場から逃げ出した。
「ふん、群がってでしか何も出来ない下衆どもが」
 ベジータはそんな言葉を吐き捨てると、私とジュンの方に目をやる。

「……ジュンよ。貴様も情けないこと極まりないな。あれほど、真紅嬢のことが
気になって、そのザマか。俺がいなかったらどうなっていたことか……」
「……本当にすまないな……」
 ジュンは奴らに痛めつけられた体をなんとか起こしたものの、ふらついていた。
 見ているこっちも危なっかしいわ。

「とにかく、この場を去るぞ。人が集まりすぎている。ジュン、歩けるか?」
「ううっ……なんとか……」
 ベジータの言葉にジュンはなんとか自力で歩こうとするものの、やはりふらつ
いて倒れそうになる。
「やれやれ、本当に仕方のない奴だな。肩を貸してやろう。真紅嬢も肩を貸して
やってくれないか」
「わ、分かったわ」
 私はベジータに言われるままに、ジュンの左腕を私の肩に乗せて、そのまま抱
える。ジュンの体の体重が一気に掛かる。
 そして、ジュンの温もりも……。

 そのまま、私とベジータはジュンを肩で抱えながら、繁華街から離れる。
「まったく、貴様がバイト中に真紅嬢が合コンに行ったなんて事を聞いて、ずっ
とうわ言のように彼女の事を口にしていて、バイトが終わった途端に駆け出した
が、気になって来てみたものの……まったく何てザマだ」
「……一言多いぞ……」
「うるさい」
 ベジータは抱えて歩きながらもさらに毒づく。
 それを耳にして私は思った。

 ジュンも……ずっと気にしていたの……。そしてこんな無茶まで……。
 本当に仕方のない下僕なのだわ。

 そして私もこんなジュンのことを無視しようとしたなんて。
 浅はかだわ。
 何も出来ない上に、最低な女ね……。
 
「真紅嬢」
 ベジータがいきなり私に呼びかけてきた。
「何なの」
「貴様も貴様だな。まあ、バイトで旅行をキャンセルされて頭に来ていた気持ち
は分からなくもないが、もっと自分を大事にしろ。あんなヤケを起こしたら、俺
でも面倒を見切れんぞ」
「…………」
 ベジータの言葉に私は何も答えられない。

「ジュンもバイトをやっている中でも結構お前のことを気にしていたからな。本
当にすまない、何か絶対にお返しをしなければなんて言っていたのだからな。
 真紅嬢もちょっとは大目に見てやれ」
「……ベジータ本当に口数が多いぞ……。お前だって蒼星石のことが気になって
仕方がないなんて口酸っぱく言ってるじゃねえか。しかも何回も振られて去勢さ
れそうになってるのによお……」
「黙れ。投げ捨てるぞ」
 ジュンとベジータのやり取りに思わず吹き出しそうになる。

 でも、本当に嬉しいわ。
 身を挺して……私のこと守ってくれようとしたのだもの。
 喧嘩は弱いのに……本当に不器用なのだわ。

「ふふふ……」
 そう思うと、思わず吹き出してしまった。
「何が……おかしいのか?」
「別に?」
 ジュンの問いかけに私は何気なくとぼける。

 やがて、公園まで来るとベンチを見つけた。ジュンをそこに座らせる。
「ベジータ……本当に済まなかったな……」
「ふん。次はもっと強くなることだな。これではまだまだ俺の友人を名乗るには
早いぞ」
 本当、ベジータも心配性なのね。
「私からも礼を言うわ。ありがとう」
「構わんよ。さて、ここからどうするかは貴様次第だな、ジュン。
 野暮な若者はこれにて引っ込むとしよう」
 ベジータはそれだけ言うと、手を大きく上げてその場を去った。
 私はジュンの横に腰掛けながら、ベジータの姿がなくなるまで見送った。

 そして……


「……真紅……こんな最低な下僕で……ごめんな……」
 ジュンは瞼を切った目で私をじっと見つめてくる。
 私はジュンの顔や口に付いた血をハンカチで拭きながら……そっと言った。

「何を言っているの……こんなに主人の事を気にしている下僕なんて……最低じゃ
ないわ」

 そして、ジュンの顔にそっと私の顔を近づける。
 さらに私の唇をジュンの唇に近づけて……触れさせた。

 ジュンの唇から……ほのかな温もりが伝わる。
「……最高の下僕だわ……愛しているわ」
「俺もだよ……」
 私とジュンはそのまま抱き合った。温かい。

 その時、頬に何か冷たい感触がした。
 ふと、その方を見上げると……雪。
 空から、優しく雪がゆっくりと舞い降りてきたのだった。

 でも、温かい。ジュンがそこにいるから。
 私とジュンはそのまま……ずっと抱き合った。

 そして、その日は……ジュンと一緒に寝た。


 ――それから1年後。

 今度こそスキーに行こうということになった。
 ジュンも私のことを気遣って、バイトは一切入れていない。
 むしろ、私に合わせて一緒にいる時間を大切にしてくれた。

「主人として命令するわ。今度のスキーでは雪を降らせてね」
「無茶なご主人様だな。ははは」
 私たちは一緒になって笑った。
 そんなジョークも適当に言い合える仲。
 
 今では何でも互いにいあえる仲。
 これからも……ずっとね。一緒にいましょう……。

 穏やかな冬の日差しがやさしく私たちを包み込んでいた。


これで、投下は終了。
BGMは11年前の歌だが、作中に出したDual Dreamのwinter kissということで。

なお、以下に蛇足のおまけがあるので掲載。


(おまけ)

 そんなジュンと真紅を陰から見守るベジータ。
(俺は結構格好良かったな。さて、ジュンでもあそこまで仲むつまじくできるのだ。
ジュンに出来て、俺が出来ないなんて……いや、俺に出来ないことはない!)
 そして、果敢にも失敗を繰り返しながらも23回目の蒼星石のプロポーズに挑む
ベジータだったが……

「嫌だよ。君と付き合うなんてごめんだね。何回言ったら分かるの」
 素っ気無く突き放す蒼星石。やはり、今回も轟沈したベジータであった。

「それより、君にあこがれているひとがいるよ。構ってあげたら?」
 蒼星石が指差す背後を見たベジータ。

「うほっ」
 そこにはボルテージMAXの梅岡。
「君たち相思相愛のカップルだね。じゃあ、僕は邪魔だと思うからこれで」
 蒼星石はそう言って、手を振ってその場を足早に去る。

「ち、ちょっと待て!蒼嬢!」
「や ら な い か」
「これからが本当の地獄だ……」
 以下、自主規制。

 (今度こそ終わり)
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