※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

第十一話 「戦」


クラスに入ると空気が凍りつくのがわかる。
先生は勿論、クラスメイトも全員驚いて呆気にとられてる。
中でも桑田は一番驚いてるようだった。

「すみません、遅刻しました」

その言葉で先生はハッとする。

「ん、ああ、わかったから早く席につきなさい」

先生はキョどりながら言ってくる。
僕はそれに従って自分の席に行く。
どうやら席替えをしたようで席がわからないが
周りを見回すと空席が二つあるのがわかる。一つは山本君の机だろう。
やっぱり……相当傷付いたんだな。
僕はその二つの内、あまり目立たない方を選んで座る、
瞬間、周りが小声で喋りだすのが分かる。
僕が桑田に色々とされて来なくなった事は誰も知らないだろう。
なので何故いきなり来なくなってまたいきなり来だしたのか
さぞ疑問に思ってこそこそ喋っているのだろう。




話している内容は全くわからないが
僕にはそれが怖く感じられる。
まるでそれが全部罵倒の言葉じゃないかと思ってしまう。

何で来たの?
来なくて良いのに。
価値なんかない人間なのに。

皆にそういう事を言われた事はない。
が、言われてるように思えて怖くなる。
冷や汗をかくのがわかる。
学校に来るのはやはり怖い、とてつもなく怖い。
そして辛い、心に傷が入りそうで。
けど……僕は甘えていた。
もっともっと悲しい人も居るのに。
自分の事を救う事が出来ない人が居るのに。
僕は甘えすぎていた、情けなすぎた。
だから……戦わないと。
キンコーンカンコーン
ビクッと体を振るわせる。
ああ、授業終了のチャイムだった。
暫く来てないからそんなものがある事すら忘れてしまっていた。




次の授業も教室なので僕は動かず鞄の中から教科書を取り出す。
水銀燈にローゼンメイデンで少しは教えてもらってたとはいえ
やはりあまりついていけない。
だから少しでもやらなくては。
周りから声が聞こえる、不安と恐怖を誘う。
ひそひそと静かに話すのが逆にいやらしい。
本人に聞こえてるというのに。
そんな小さな声が自分に近付くのがわかる。
そしてその声の主は僕に喋りかけてくる。

「桜田君大丈夫?」

桑田だ。
まるで善人のような笑顔……いや、本人には悪人という自覚がないから
こんな純粋な笑顔かもしれない。
なんて……悲しく、純粋なんだ。

「ああ、大丈夫だよ。色々と励ましてもらったからね。桑田さんにはね」

嫌味ったらしく皮肉を言う。
心臓が高鳴り緊張するのに口だけは動く。
そのせいか声が少し高くなって強がってるように聞こえたかもしれない。
桑田はそれを聞いて驚いたかと思うとまた微笑みだす。

「よかったぁ、おもちゃは壊れにくい方がいいもん」




嫌味というより純粋な気持ちの声に感じられる。
なんて……恐ろしい子なんだろうか。

「一つ……勘違いがある」

うまく声が出ない。
震えた声で何とか桑田に喋りかける。

「ん?なに?」
「僕は……僕は……」

一息つく。
怖いが……戦わなければならない。

「おもちゃなんかじゃない!」

今度は力みすぎて逆に大声になる。
周りの人は驚き少し引いている。
そりゃそうだ、何ヶ月かぶりに来た不登校児が教室で
いきなり叫び出したら誰でも驚く。
桑田は呆気にとられていた。

「何をやろうが関係ない、何をしてきたっていい。
 けど……もう逃げない」




精一杯の最後の言葉。
もう何かを言う気力も出ない。
怖い、怖い、傷付けてくる。
だけど……傷付けられても逃げちゃ……駄目だ。
少ししてぽかんと口を開けていた桑田はチャイムの音で正気に戻る。
こんな経験は初めてだからだろう。
そんな事を思ってると先生が入ってきて他の皆が席に着きだす。
桑田も席に着こうと自分の席に戻ろうとする。
戻る際に一言、僕の耳元で呟いていった。

「へぇ……驚いちゃった。じゃあこれからも……“よろしく”ね?」

それだけ言うと席に戻っていった。僕も席に座る。
ああ、桑田。
これからは……“よろしく”頼むよ。
もう逃げない、戦うのだから。




午前の授業が全て終わり昼休みに入る。
同時にまた女子が来る。
桑田か?
そう思ったが違うようだ。
金髪にツインテールという一般の高校生とはズレた
スタイルだが顔は美人な子だった。と言うか誰だ?

「あなた……ジュンね?」
「ん、ああ」

何で僕の名前を知ってるんだろう?

「お前は誰なんだ?」
「私は……真紅よ。水銀燈の友達なのだわ」

水銀燈の友達、成る程。それなら僕の事を知ってるのも頷ける。

「話は聞いてたけど……努力したようね。
 おめでとうなのだわ、お誕生日に登校ってのはあなたなりのプレゼント?」
「ああ……って誕生日?」
「ええ、誕生日」
「誰の?」
「……知らなかったの?水銀燈のよ」



それは初耳だった。今日が誕生日だなんて話は聞いた事が無かった。

「……今からどうするつもりだったの?」
「今日来た事は言ってないから……水銀燈に言いにいくつもりだった」
「他には?」
「他って……?」
「何か言いたい事があるんじゃないの?」

言いたい事。
そんな事一杯ある。
ありがとう、すまなかった、これからは戦うよ。
そして……。

「……一杯ある」
「でしょう?なら言いに行きなさい。
 水銀燈の喜ばせたいとは思わないの?
 どんなプレゼントでも“喜び”というものが一番大事なのよ?」
「……だろうな」
「なら行きなさい。
 今日は、……これからも喜ばせなさい」
「……」




いつも僕は”幸せ”を貰ってばかりだった。
水銀燈が僕にずっと“幸せ”を注いでくれた。
笑顔を見せてくれた。笑わせてくれた。癒してくれた。
そんな水銀燈、ありがとう。
けど……まだ言わなくちゃいけない事があるんだった。

「言ってくるよ、最高のプレゼントになったらいいんだがな」
「ええ、きっとなるのだわ」
「……感謝するよ。えーと……真紅」
「気にしないでいいのだわ、友達の友達も私の友達。
 友達を助けるのは当たり前でしょう?」
「は……良い奴だな」
「ええ、けどギブアンドテイクよ」
「なんだ、なんだ?」
「……これから紅茶を煎れてくれると嬉しいのだわ。
 あなたの煎れるのはおいしいと聞くから」
「……そんな事でいいんなら“死んだって煎れてやるよ”」
「ありがとうなのだわ、もう行きなさい」
「ああ、感謝するよ」

真紅にそう告げて僕は席を立ち隣の水銀燈のクラスへと行く。
はは……やっぱ水銀燈の周りには優しい奴が集まるんだな。
これからあの真紅とかいう子に紅茶ぐらい喜んで煎れてやろう。




隣のクラスのドアを開ける。
元々クラスが別なので僕が不登校児だったって事を知る人も少ないようなので
皆が僕を見るなり様子を変えるという事もなかった。
ただ二人を除いて。

「……ジュン」

二人が驚きながら呟く。金糸雀と水銀燈だ。僕は二人に近付いていく。

「来てたのかしら……」
「ああ」
「大丈夫……なのぉ?」
「ああ、なんとか」
「よかったわぁ……」

水銀燈は目に涙を浮かべる。周りはその光景を不思議そうに見ている。

「二人に言いたい事があるんだ」
「なに……かしら?」
「……ありがとう、ほんとに……ほんとにありがとう」
「どうしたしまして……かしら」
「あなたの為だものぉ……」
「水銀燈、二人で話したい事があるんだが……」




「……わかったわぁ」
「んじゃ……外に出よう」

僕は水銀燈の手を握り引っ張る。
水銀燈が驚くのがわかる。
僕が自分から水銀燈に触れようとした事なんてほとんど無いのだから。
そのまま腕を引っ張って廊下へ出る。
そして屋上のある階へと行く。
屋上が開いてる訳なんてない。
普通は危ないから閉まっているだろう。
けど老朽化した鍵はかなり外れやすくなっていて出入りが出来るようだ。
僕はそれを普通に手で外す。
こんな穴場があってよかった。
晴天の下へと出る。

「ジュン……話ってぇ?」
「ありがとうはもう言ったよな?
 だからその先の事を言うよ」

深呼吸をする。
人が近くに居る時以上の緊張。
深呼吸して少しして経ってから僕は喋りだす。




「今まで水銀燈は僕に幸せをくれた。
 一杯くれた、忘れられない“思い出”になるほどに。
 今日学校に来たのは……自分の為、自分を助けてくれた人たちの為、好きな人の為」

好きな人の為と聞いて水銀燈が少し驚いた表情をする。

「幸せを一杯一杯もらったから……今度からは僕から水銀燈に幸せを与えたい。
 幸せにしたい、守りたいんだ。水銀燈……」

頬に水滴を感じる。
喋ってる内に僕は涙を流してたみたいだ。
悲しみじゃなく……歓喜の涙。

「水銀燈……あなたが好きです。
 幸せにしたいです、守りたいです」

涙で顔はひどい事になってただろう。
けど……涙が止まらないんだ。
目が涙で霞んでよく見えないけど……水銀燈……泣いてる?

「ジュン……」

水銀燈が抱きついてくる。思わずドキッとする。




「大好き、大好き、一番好きよぉ……」
「水銀燈……」

ギュッと抱き返す。
抱き合った形になる、僕達は“触れ合う”

「この“喜び”が……あなたへの誕生日プレゼント。
 けど……誕生日だけでなくこれからも……これからも……
 これからも……あなたを喜ばせて……幸せにします」

もう言葉が出ない。
自分の気持ち全てを吐き出した。
そして水銀燈はそれを受け入れてくれた。
なんて……幸せなんだ。
ああ、叫べよ僕のらいおんハート。
僕は……幸せだ。


 

君を守るためそのために生まれてきたんだ
あきれるほどに そうさ そばにいてあげる




僕への罵倒の言葉が出てくる。
僕の恐怖が作るその像。
恐怖の悪夢。

「どうしたの?逃げないの?」

足に結ばれた鎖。
逃げれない呪縛、僕は恐怖に傷付けられてた。
そんな横に僕を癒してくれた堕天使が居る。
けど……僕は堕天使の側から離れ恐怖に向かって叫んだ。

「もう逃げない……戦う!」
「……恐怖はあなたにある限り消えない。
 逃げられないのにそうするの?」
「ああ、そうだ!恐怖が尽きる事なんて無いだろう!
 恐怖の“思い出”は消えない!
 だから……ずっと……ずっと……戦い続けてやる!」

恐怖は少し驚いたようだが消えない。
だけど……もう逃げなんか……しない。




目が覚めると横に水銀燈が居た。
夢でも見てたのかもう結構な時間が経ってるようだ。
屋上のフェンスに二人で腰掛けて寝ていたようだ。
起こそうかなと考えたがやめた。
彼女の横顔が可愛くて。
水銀燈、ほんとにありがとう。
水銀燈、ほんとに大好きです。
水銀燈、これから僕はずっ……ずっと戦います。



眠った横顔 震えるこの胸 Lion Heart

|