【眠り姫】

おとぎ話に眠り続ける姫を王子様が口付けで起こす話がある
王子様はその姫に一目ぼれしたから姫を起こした
しかし王子様は本当に起こしたかったのだろうか

水銀燈「ジュンったら遅いわねぇ」
水銀燈は広い公園の一角にあるベンチにてジュンを待っていた。
今日はデートの日。
2時に待ち合わせだったのだがすでにその時間は過ぎ10分が経過していた。
水銀燈「女性を待たせるなんてひどいわねぇジュンも・・・」
口ではこういってるが水銀燈は待つのはそこまで嫌なわけではない。
ベンチに座り今か今かと待つ。
そして彼が来てくれた時のあの幸せな気持ちがたまらなく好きだった。
水銀燈「ふふ・・・ジュンったら来たとたんに謝るんでしょうねぇ」
あのちょっと気弱で、でも意志が強くとてもやさしい少年が必死で謝っている姿。
多分寝過ごしたか何かなんだろうけど必死で謝るんだろう。
それを私はしかたないなぁという感じで笑う、みたいな光景が浮かぶ。
そんなことを思いながら水銀燈は持ってきた本をバックから出す。
水銀燈「まぁゆっくり待ちましょうかねぇ・・ふああ~」
あくびを一つして水銀燈は本を開いた。

ジュン「やばいなー朝起きたら姉ちゃんいないし、しかも洗濯と洗い物しといてなんて・・・完全に遅刻だなー」
ジュンは走っていた。
今日は水銀燈とデートの約束をしていた日。
しかし待ち合わせ時間はとっくに過ぎている。
起きた時間は別に遅刻する時間でもなかったが、姉がいなくしかも家事をやっておいてとの書置きのため時間は完全に過ぎていた。
ジュン「ちゃんと謝んなきゃなぁー」
一秒でも早く着こうとジュンは走る。
水銀燈が帰ってしまっているって事はないと思うが待たすのはよくない。
何より水銀燈に会いたいから。
彼は走り続けた。
そうして走り続けてようやく公園が見えてきた。
でもここで終わりではない。
この公園はとても広くまだまだ待ち合わせ場所まで距離があるからだ。
公園に入ってからもジュンは走り続けた。
そして―――
ジュン「はあはあ・・・お、あれは水銀燈か」
やっと水銀燈が見えてきた。

王子様が口付けで起こした姫
王子様が一目ぼれするくらいだ、それはそれは美しかったんだろう
でも―――
いや、だからこそ―――
本当に起こしたかったのだろうか
本当は―――

ジュン「水銀燈・・・?」
ジュンが水銀燈の前に着いて挨拶した時、いや正確には着いたとたんに水銀燈の予想どおり謝ったのだが返事はなかった。
水銀燈「すう・・・・・すう・・・・・」
ジュン「寝てる・・・」
水銀燈は本を読んでいる途中に寝てしまったらしい。
閉じた本を膝にのせて寝息を立てている。
ジュン「水銀t・・・」
その姿を見てジュンは起こすのをためらった
なぜなら―――

その姿はとても美しかった
まるでおとぎ話にでてくる眠り姫のように
何か軽々しく触れてはいけないような
でも何時までも眺めていたい
そんな寝顔
起こしてしまったら
その寝顔を―――美しさを―――壊してしまう
そんな気がしてしまう

もしかしたら―――
おとぎ話の王子様も同じ気持ちだったのではないだろうか―――

ジュン「・・・・・・・・」
ジュンは水銀燈の隣に座った。
そして起こすことはせず
ただ静かに―――
起きるのを待った―――


水銀燈「・・・ん」
日が傾きオレンジ色の光が公園に降り注いでいる夕暮れの時間。
その時間に水銀燈は目を覚ました。
ジュン「起きた・・・?」
水銀燈「あれ・・・ジュン?」
だんだんと意識がはっきりしてきているらしい。
きょろきょろと周りをみてジュンにきいた。
水銀燈「・・・なんで夕方なのぉ?」
ジュンは少々考えて現在の状況を説明した。

水銀燈「なるほどねぇ・・・」
ジュン「だから・・ゴメン」
ジュンの話をきき水銀燈は一通りの把握をした。
ジュン「んと・・・この後はどうしようか?」
一通り話し終えたジュンが水銀燈にきく。
水銀燈「そぉねぇ・・・じゃあこのまま公園内でも散歩しましょぉ」
ジュン「それでいいの?」
水銀燈「うん」
そういって二人はベンチから立ちあがる。
水銀燈「あ、ジュン」
ふと思いついたように水銀燈はジュンを呼ぶ。
ジュン「ん?どうしt」
言い終わらないうちに水銀燈がジュンの腕に抱きついてきた。
ジュン「わわ」
思わずよろめくジュン。
水銀燈「えへへ・・もう遅れちゃやぁよ」
ジュン「うん・・わかった、もう遅刻しない」
水銀燈「うん!」
満面の笑みで水銀燈はうなずいた。

ああそうか―――
王子様はわかっていたんだ
眠り顔も確かに美しい
でも―――
一番美しいのは―――
この笑顔なんだって


終わり

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最終更新:2006年11月08日 20:20