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第九話 「忌記」


「ねぇ桜田君何してるの?」

ふと声をかけられたので僕は手を止める。
誰だろうと思い振り返る。

「ああ、桑田さん。ちょっと部活のね」

僕はずっと昔に手芸部に所属していた。
男子は僕を合わせて二人、女子も一人だけだった。
その女子というのは桑田さんだった。

「あ、コンクールに出すやつ?」
「うん、早くしないと締め切りがくるしね」

この時は編み物のコンクールがあって
それに出す作品を時間が無いから休憩時間に編んでたんだ。
別に他の皆にもどやこや言われたりはしなかった。
むしろある意味凄いと思う人まで居た。
僕の担任はご存知梅岡だ。
あの人は人が成功するとそれを褒め称えて
皆にすぐ発表したりした。
部活の試合で勝った人が居るからって
すぐ褒めて皆の前で自分でわざわざ表彰状を作ったりして渡したりしていた。
部活などで特に成功が無い人にも色々と助言していたりしていたらしい。
僕は編み物をするからといってからかわれたりしたのだが
市が開催した小さな小さなコンクール。
それに4位という普通ぐらいの成績で入賞したのだが
それだけで梅岡は僕をクラスで褒め称えた。
実際、市のコンクールの4位なんて大して実力も無くてもいける。
だけどそんな事知らないクラスの連中はへぇと言ったり結構すごいと言ってくれたり。
それからはからかってた奴が休憩時間に手伝ってくれたり
教えてという人もほんの少しだが居た。
それもすぐにほとばりは冷め、僕はごく普通になった。
その時期に手芸部に入ってきたのが桑田さんだ。

「由奈はほとんど出来てないよ」
「それで大丈夫なのか?」
「だから手伝ってよ桜田君ー」
「と言ってもこっちも限界だからなぁ……」

正直自分ので精一杯なので他人のを手伝う暇は無い。
「じゃあどうすればいいかなぁ」
「うーん山本君に手伝ってもらえば?」
「じゃあ先にそうするねー」
「ああ、頑張りなよ」

……“先に”?
何か引っ掛かったがまぁ別に何とも無いだろう。
ちなみに山本君は僕と一緒に入った手芸部の部員だった。
僕、山本君、桑田さん。
この三人だけの構成だった部活が……終わりを告げ始めたのはそれぐらいだったと思う。




「桑田さん、山本君に教えてもらったの?」
「うん、結構出来てきたなぁって思ったら破けちゃってね……」
「んー見せてくれない?」

そう言って桑田さんから桑田さんの作品のマフラーを取る。
マフラーは結構良い出来になりつつあったようだが
それも今や無残に破れまくっている。

「一体どうしたのこれ?」
「編んでる最中にね針がこう……ビリッと」
刺してる針が動くとそれに沿って破けてしまう。
デリケートな糸なら尚更だ。
これもかなり極端だがそのようなものなんだろう。

「歩きながら編んでたらこけてね……。滑ってやっちゃったの」
「歩きながらやるのは危ないよ」

少しきつめに桑田さんにへと言う。
針を扱ってるので転んだりしたら胸に刺さってお陀仏なんてのも有り得ない話ではない。
だから歩きながらやるのはかなり危険だ。

「これから気をつける……」
「そうした方が良いよ、今回は怪我が無かったから良かったけどね。
 ほんとに針は危ないんだから」
「うん」
「そういえば山本君に何か言われたんじゃ?」

桑田さんは山本君に教えてもらっていた。
その山本君が何か言わない訳も無いだろう。

「それが山本君学校休んでてね」
「そうなのか、風邪か何かなのかな?」
「多分ね、だから桜田君代わりに教えてくれない……?」
正直悩んだ。前、桑田さんのお願いを断った時は作品があまり出来てなく
余裕が無かったからだが今は急ピッチでやったかいもあってほとんど出来ている。
うーん……どうしよう。

「お・願・い」

そう言いながら桑田さんが肩をゆさぶってくる。
うーん、必死みたいだし、しょうがないから手伝おうかな……。

「わかったよ、いつ手伝えばいい?」
「んー今度の部活が休みの日でお願い」

手芸部は週休2日。水曜日と金曜日が休みだ。
休みといっても部活の備品は好き勝手に使える訳で。
部員も三人しか居ないので顧問もほとんど何も言わない。

「わかった、じゃあ明日が水曜だしそれでいい?」
「うん、お願いね桜田君」

そう言って約束をし終わると桑田さんはどこかに行った。おそらく他の部活だろう。
桑田さんは手芸部以外にも色々と兼部している。
気がむくままに色んな部活へと行っている。
手芸部の時も例外では無く桑田さんは時々しか来ない。だからコンクールの作品も遅れるのだろう。
まぁ忙しいのだろうししょうがないか。
そう思って僕はまた自分の作品の続きを作る。
桑田さんにも教えないといけなくなったから
自分の分をなるべく切り詰めとこう。
ほんと、たいへんだ。



―水曜日の放課後
部室に僕らは居る。
山本君はどうやらまだ休んでいるようだ。
大丈夫なのかな?

「このちぎれた所なんだけど……」
「ああ、此処はもうこうするしかねぇ」

ちぎれた箇所は大分ひどくなっていて
とてもじゃないが桑田さん一人では無理そうだ。
なので実質はほとんど僕がやっている形になる。
桑田さんははっきり言うと半ば雑用のようになっている。

「どういう風なデザインにするつもりだったんだ?」
「んーこうやってチェックぽくしてー」
桑田さんの作る予定だったマフラーは結構難易度の高いものだった。
なので修復するのにもかなりの神経を使う。
山本君も教えるのが大変だっただろうな。

「大体は修復し終わったよ」
「ありがとー」

そう言って手に取る。そしてじっと修復部分を見つめる。

「へぇ、こんな風になるんだ」

急に声の感じが変わる。一体何だ?

「うん、それが……どうした?」
「いやねぇ桜田君って」

そう言うと桑田さんはマフラーの修復部分の両端を握る。
そしてこう……紙を破くような時の感じのように両手を思いっきり引っ張る。
脆い修正部分はこう音を立てて……再び破れた。

「下手だね」

桑田さんはそう言ってマフラーを捨てる。思わずそれを拾って叫んでしまう。
「何をしてるの桑田さんっ!」
「下手だったもん」

そう言いこちらに近付いてくる。

「下手、凄く下手、下手。才能もない。
 楽しくてもこんだけ下手じゃあね?
 編み方も雑、最悪だよ桜田君。こんなに無様だなんて」

呪いのような言葉を次々とかけてくる。
かなりの時間をかけて必死に修復したものだから自然と愛着が沸く。
それを目の前で破られて思わず涙が出そうになる。

「だから4位程度なんだよ?これも下手だよ」

桑田さんは僕の後ろにいったかと思うと
僕のコンクール用の作品を手に取る。
まさか、まさか。
信じたくはないがもしかして。

「下手なものはいらないよね」

そう言って桑田さんはコンロの方へと歩いていく。
手芸部の部室は数ある家庭科室の一つになってる。家庭科室なので料理を作る為のコンロもある。
「こんなのいーらない」
「やめてくれ!」

だがもう遅かった。
桑田さんは僕の作品を火につけた。
燃えやすい毛糸はかなり早く燃えていく。
その燃えた作品を僕は奪い取る。

「あつ……!」

あつくて思わず放りなげてしまう。
が、投げ捨ててる間にも燃えている事に気付き急いで取りに行く。
燃えた作品を僕は水道の水で消す。煙も収まり火は完全に消える。
作品は焦げて色彩をなくしてもうとても見れるようなものではなかった。
何日もかけた作品が……一瞬で終わった。

「あ……あ……」
「あはは」

桑田さんは楽しそうに笑っていた。凄く、まるで唯一の喜びのように。

「楽しかった、此処まで楽しませてくれるなんてまるで桜田君って“おもちゃ”みたい。
 また由奈を楽しませてね」
そう言って桑田さんは家庭科室を出て行った。
僕は何も言えなかった、あまりに悲しくて。
何も言えずずっと作品を見つめてた。
だけど見つめてもしょうがなく、僕は黙って……捨てた。



次の日は学校に行かなかった。
二つの理由があったからだ。
一つは桑田さんに会いたくなくて。
もう一つは作品を作るため。
期限はもう三日しかなかったが僕はそれでもと思い必死に作り出した。
朝早くに起き、そこからずっとずっと。出来が悪くてもやりとげようと思って。
そうやって二日が過ぎて三日目、梅岡が来たんだ。
すぐに心配する奴だからな。
言い訳では風邪といったがそれでもあいつにとったら大騒ぎだ。

「桜田大丈夫か!?」

仮病だから無論無事だ。
けどある程度ひ弱な振りをしとかないとと思い多少咳をしたりする。

「皆心配してくれたんだぞっ!」
「へぇ……そうなのですか」
ああ、風邪如きで面倒くさい奴だな。
そう思いつつも適当に相手をする。

「じゃあ先生は帰るからなっ!体に気をつけるんだよ!
 あ、それとこれ皆からのメッセージだよ」

そう言って大きな封筒を出す。

「メッセージ?」
「うん、桑田さんが君の為にって皆から集めたんだ。
 それ見て元気だすんだぞ!」

それを言うと梅岡はのりに一言言って帰っていった。
皆からメッセージ?
桑田さんが集めた?
封筒を見る。口の所にシールが貼ってあって剥がした後が無い。
梅岡は生徒の集めたものを見てないのだろう。
僕はまさかと思って封筒を開ける。
中には色紙が入っていた。
そこには確かにメッセージの寄せ書きがかかれていた。
不自然にも全部同じような字。
だけど動揺してる僕はそんな事を考えずメッセージを読んでいく。
気色悪い奴ー。変態みたいだな。そんな奴だったんだ。
何で生きてるの?迷惑だよ、居るだけで。消えてよ。
何でこんな事言うかって?楽しいからだよ。
やめて欲しい?嫌だよ。楽しい事はやめたくないだろ。
しょうがないよ、君は遊び道具なんだから。
遊ばれるのが嫌だって?
色々言われるのが嫌だって?
じゃあ死ねよ。

それぞれのメッセージに生徒の名前が書いている。
無論、桑田さんが一人で書いたものだろうが
混乱している僕にはそんな事は構わずメッセージを読む。
冷や汗が流れる。
怖い、怖い、怖い、嫌、何も言わないで。
そう思っても自然とメッセージを読んでしまう。
そして最後のメッセージ。

だからね、おもちゃに価値はないんだよ?桜田君 by 桑田由奈

ああああああああああ!!!
何かが壊れた。
不信の気持ち、恐怖による不信。
僕は色紙を持って部屋に戻り鍵を閉めた。
何もかもが怖くなってしまった。
色紙が桑田さんによるものだと気付いたのは意外と早かった。
けど、壊れたものは中々治らなくて、治らなくて僕は堕ちていった。
その後にも桑田さんの嫌がらせは続いてね。
罵倒の声を入れまくったカセットテープを配達されたり
他にも手紙が何通も来たりね。暫くしたらそれは終わった。
山本君が来なくなったのもこれかな?
きっと桑田さんは楽しいからやってるだけなんだ。
悪意はなく、それが正しいと思ってるから。
楽しい事をやるのに悪いことはないと思うから。



「と……こんな感じなんだ」

体が震える。
嫌な記憶、怖い記憶。
蘇って、僕に傷を付ける。

「……そう」

水銀燈はそう言って僕に近付くと頭を撫でてくる。
「けど……もう、少しずつだけど治ってきたのよぉ。
 怖がらなくていいのよぉ」
「……ああ」
「人間の骨ってね、骨折したらより丈夫になるんですってぇ。
 心も同じ、傷を負って、傷を負って強くなっていくのよぉ。
 ジュン、あなた……強くなったわぁ。
 もうあんなのに……負けないわぁ」

ああ、癒される。
悲しいから出たんじゃない、歓喜で、涙が出た。
どこか心が……埋まった気がして。
皆に見られてるけど何故か恥ずかしさが無く
みっともなく涙を流して、だけどそれが何処と無く心地よかった。

「もう……負けないようにするよ……」
「ええ、頑張りましょう」
「すまないな、みっともない姿見せて」
「構わないかしらー」
「ええ、しかしジュンさんも大変だったんですね……」
ようやく落ち着いてきて涙も止まり皆で話している。
傷を見せて初めて……立ち上がった瞬間だった。
「じゃあ……オディールさんのお話を聞くかしら」
「ああ、言えますか?」
「……ええ、大丈夫です」
「なら、始めようか」

また雰囲気が重くなる。
暫くしてその雰囲気の中オディールさんが口を開いた。

「私はね、友達にいじめられたりとかしてないんだ」

思わず驚いた表情を浮かべる。
オディールさんもいじめられたと聞いたが友達じゃないと言うからだ。

「私ね……お母さんにいじめられるんだ」
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