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「一つ屋根の下 第七十七話 JUMと五女」



「お兄ちゃん、紅茶を淹れて頂戴。」
僕は今日も今日とて我が家の紅茶ジャンキーである五女に紅茶を淹れていた。
「別にいいけどさ……お前、僕のが兄なんだぞ?」
「そうね。でも、それが何か?」
真紅姉ちゃんは平然と言う。何時もは……つまり僕の記憶の中の真紅姉ちゃんは、「貴方は弟なんだから
姉の言う事は聞きなさい。年功序列というやつよ。」なんて言ってるけど、いざ自分が妹になるとそんな
自覚はないらしい。まぁ、そこがらしいっちゃらしいんだけどね。
「全く、ヒナにでも淹れさせればいいだろう?後は妹を顎で使うならキラとか薔薇とか……」
「そうね。でも、雛苺はあまり紅茶を淹れるの上手じゃないもの。雪華綺晶は、そもそも食べるの専門で
自分で作り出すのは専門外でしょう?薔薇水晶は、何か盛りそうだし……」
あ~……そういう理由か。確かにヒナ姉ちゃんはイマイチ要領がよくない。お湯の温度が低かったり、高すぎたり
してるようだ。キラ姉ちゃんが、わざわざ人のために飲食物を作るなんてありえないし、薔薇姉ちゃんも
ニヤリと笑いながら、媚薬とか笑い薬とか。何か微妙にやばそうなもの混入しそうだ。
「まぁ、そういうわけよ。何より私はお兄ちゃんの淹れてくれる紅茶が一番好きなの。」
真紅姉ちゃんはぺラリと本をめくり、紅茶を飲みながら言う。優雅だ。とても高校一年生とは思えない優雅さ。
「そうか……まぁ、そう言われるのは悪い気分はしないな。」
「でしょう?よかったね。お兄ちゃんにはいい妹が居て。」
「ああ……でもさ。何で僕の部屋でそんなくつろいでるんだよ……」
そう。一番の問題は真紅姉ちゃんは、僕の部屋のベッドにゆったり腰掛けて読書とお茶を楽しんでいる事だ。



「あら、別にいいじゃない。私に見られたらマズイ物でもあるのかしら?」
すこ~しばかりキツイ目をして僕を見る真紅姉ちゃん。それは具体的にはとある本とかDVDの事でしょうか?
「べ、べべべべ別にそ、そそそそそんなの、あ、あ、あ、ああるわけないだRO!?」
「何動揺してるの?ラップ調よ。」
スッとカップを口元に運び紅茶を飲む真紅姉ちゃん。全く音を立てない飲み方は本当に上品だ。
いや、飲み方に限った事じゃないか。僕は真紅姉ちゃんを上から見ていく。綺麗な長い金色の髪。
その長い髪は毎朝僕がツインテールに結っている。ちなみに、自分でも結えるけど自分でするのは
余り好きじゃないらしい。次に顔を見る。まるで人形みたいに綺麗だ。パッチリ開いた蒼い瞳が上下に
動いてる。恐らく本の文を追っているんだろう。そして体。まぁ………散々言われてる事ながら
とある部位は残念な事になってるけど、それを補って余るほど全体的に真紅姉ちゃんは細い。
そして、色も雪のような白さだ。服も、今日は赤のカットソーに、黒のロングスカートといったなかなかお洒落
な服装だ。家着でこれだから素晴らしい。僕なんて、平気でトレーナーとジャージとかあるんだけどね……
僕がじ~っと真紅姉ちゃんを見ていると、視線に気づいたのか真紅姉ちゃんは少し顔を赤らめて言う。
「な、なにお兄ちゃん?そんなにジロジロ見て……私の顔に何かついてる?」
「いや、そうじゃないよ。たださ……」
雰囲気に飲まれてたのか。それとも本心か。僕はなかなかトンでもない事を言った。
「真紅って綺麗だよなって。」
うん、実にトンでもない。勢い余って僕は何てことを真顔で言ってるんだろうって思う。でも、その言葉に
嘘偽りなんてない。普通に出てきた。真紅姉ちゃんは綺麗だって言葉が。
「……へ……?」
真紅姉ちゃんにしては珍しく間の抜けた声が返ってきた。目をパチクリさせてる。不意打ちだな、まるで。
「いや、だからさ真紅は綺麗だなって言ったんだよ。」
僕は同じ言葉を繰り返す。ようやく理解したのか、真紅姉ちゃんは顔を真っ赤に染めた。
はは、なかなか初々しい反応だな。これが銀姉ちゃんとかだとこうもいかない。



「な、な、何を言ってるのお兄ちゃん!?お、おだてても何も出ないわよ…?」
「いや、おだてとかじゃなくってさ。普通にそう思ったんだよ。」
「う…あう…」
う~ん、こんな真紅姉ちゃん見る機会は滅多にないぞ。顔を赤くしたまま指をモジモジさせてる。
「それとも何だ?綺麗より可愛い方がよかったかな?」
女性にしてみれば、可愛いと綺麗ではベクトルが違うらしい。まぁ、言葉の意味も違ってるから当然と
言えば当然か。大人になると、可愛いは余り好きじゃなくなるらしい。まぁ、いい歳の大人になっても可愛い
ってのは、何か幼い感じがするってのはあるかもしれない。
「べ、別にどっちでも……その…褒められてる事には変わりないし……」
「お、褒められてるって自覚はあるんだな?嬉しいか?」
「それは嬉しいけど…やっぱり少し恥かしいわ。」
真紅姉ちゃんの顔はいよいよオーバーヒートかのように赤い。凄いな、一番こういうのに慣れてないと思う
蒼姉ちゃんでさえ、こうはいかないんじゃないかな?真紅姉ちゃんは少し深呼吸して気持ちを落ち着かせると
何時も通り、平然を装って言う。
「ま、まぁお兄ちゃんも幸せ者ね。こ、こんな…綺麗な妹と一緒に暮らしているのだから。」
自信たっぷりを装ってはいるけど、やっぱり照れてるのが見て取れる。愛い奴め……折角だから
もう少しこの珍しい状況を堪能しよう。僕はそう思って、真紅姉ちゃんの隣に座る。ベッドがギシッと音を立てる。
「そうだな。僕は幸せ者だな。」
僕はそう言いながら、横から真紅姉ちゃんを抱きしめた。シャンプーと、ボディソープのいい香りがフワッと
僕の鼻をつく。サラサラと腕の中で髪が流れる。綺麗な髪だなぁ……
「ひゃ…ん…お兄ちゃん……」
真紅姉ちゃんは僕の腕の中で少し驚いた素振りを見せながらも、そのまま僕の腕の中に包まった。



「今日の真紅は妹だな。」
「失礼ね…私は何時もお兄ちゃんの妹よ?」
いや、何時もは絶対違うと思いますよ?姉の時と大して変わってませんから。
「はは、そっかそっか。なぁ、真紅。もし…もし僕が真紅の弟だったら…どう思う?」
僕は今まで姉ちゃん達に聞いてみたことを真紅姉ちゃんにもぶつける。真紅姉ちゃんは少し考えて言った。
「そうね。きっとお兄ちゃんに対する態度はそんなに変わらないんじゃないかしら。」
「へぇ……どうして?」
確かに、唯一僕への態度がほとんど変わらないのは、唯一真紅姉ちゃんくらいだ。他の姉ちゃんは、総じて
遥かに甘えん坊と言うか。そんな感じになってる。対して真紅姉ちゃんは、相変わらず僕を顎で使う。
「私にとって、お兄ちゃんが兄でも弟でも…それは大して意味を成さないものなの。私にとって大切な事。
それは……貴方が『桜田JUM』だと言う事だから。」
そう言って真紅姉ちゃんは微笑む。ああ、そういう事なんだな。真紅姉ちゃんには、僕が兄でも弟でも。
もしかしたら、姉でも妹でも態度は変わらないのかもしれない。僕が、『桜田JUM』である限りは。
「そっか……じゃあ、やっぱり僕は幸せ者だね。」
「ええ、その通りよ。私もいるし、他の姉妹だっているわ。みんなきっと、お兄ちゃんが弟でも、兄でも…
きっと、桜田JUMが好き……そう思うわ。」
『好き』の部分は声が随分小さかったけど。僕は何だか嬉しくなって、真紅姉ちゃんを強く抱きしめた。
「んっ……お兄ちゃん……お兄ちゃんの思いは確かにここにあるのだわ。それが今の真紅の宝物。」
真紅姉ちゃんも僕の背中に腕を回し、僕らは全身でお互いを感じあう。僕は『真紅』という少女を。
そして、真紅姉ちゃんは『桜田JUM』という男を。
「私は誇り高いローゼン家の五女。そして幸せな、あなたの妹…」
END

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