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10月12日  PM 6・12
「・・・・・・・んん・・・あれ・・・・。」
放課後の教室で僕は目を覚ます、もう6時を回ってるじゃないか。
自分のミスに苛立ち思わず舌打ちをする。
いや、いつもであれば放課後こうして寝ていたからといって、
こんな時間まで寝てしまうことはまずない。いつもは
幼馴染が一緒に帰るため、起こしてくれるからだ。
彼女の机に一瞥をくれる。昨日ケンカしてしまっていらい、
まだ口もきいていない。
僕にとってはケンカになんかなるとは思ってもみなかった・・・
いつもの軽口だったんだけど・・・・。

10月11日  PM4・23
「ねえ、ジュン君。」
「ん、どした。」
「中学校に入ってから、ジュン君かわったね。」
どことなく嬉しそうにそう彼女はつぶやいた。
「なんだよ、いきなり、どうしたんだ。」
「だって、声だって変わったし、背も伸びた。前は
僕と同じくらいだったのに、ねえ覚えてる、小さい頃、僕の家で
柱に傷をつけて背比べしてたの。」
「ああ、同じくらいで、よく兄弟に間違われてたよな。」
「そうだね、でも今はもう背伸びをしても叶わない。男の子になっていくん
だね・・・・。」
「そうだなあ、自分ではピンと来ないけどな。」


「ふふ、でも変わったよ。
・・・あのさ、僕はどうかな・・・・」
「へ・・・・・・なにが。」
「だから、僕は変わったかなって。」
「うーん、そんなに変わってないんじゃないか、髪とかも変わってないし。
あっ、変わったっていえば、お前の姉ちゃんの翠星石なんかは、
ますます女の子って感じになったよな。髪は長いし、俺等と違って外では遊ばないし。」
彼女がこの時下を向いたのにも深い意味はないと思った。
「でも、制服だって、ほら男女で違うじゃん。」
「そう、いわれればそうだなあ、でもさ、おとこおんな関係なしに
親友でいような。」
「うん・・・・・。」
僕と彼女の家が近づく
「それにさ、今日なんか変だぜ、どうしたんだよ。
いきなり男とか女って、そんなのお前らしくないよ。」
「・・・もういいよ。」
ぽつりと呟きながら彼女が門をくぐる。僕はか細く震えたその言葉を
うまく聞き取れなかった。
「ん、なに。」
「もう、いいって。」
彼女の声が大きくなる。声は怒りで震えていた。僕はびっくりして立ち尽くしてしまった。
「ジュン君にとって、僕は男でも女でも関係ないんでしょ。
翠星石は可愛い女の子で、僕はただの仲いい幼馴染だもんね。
でもね、僕だって・・・・僕だって。」
「蒼星せ・・・・」
言い終わる前に彼女はドアの向こうへと消えてしまった。
振り帰りざまに彼女の瞳からなにかこぼれたように見えたのは
気のせいではないだろう。

家に帰ってからは、考えがぐちゃぐちゃで、とにかく・・・
なにも考えたくなくて、ベッドに倒れこんだ。
目をつぶっては彼女のことが頭に浮かぶ、
男とか女とか関係なしに仲いい幼馴染だと思ってた。
自分や蒼星石が変わったなんて思ったこともなかったし、
男とか女とか意識したことがなかった。
でも、あいつは僕が男の子になっていくのを感じて・・・・
ここで僕の思考は途絶えた。

朝、目が覚めると、酷く嫌な気分だった。
夢で蒼星石が他の男に笑いかけ、一緒に歩いているのを
見ていた。なぜか自分はそこに入ることはしなかった。

別に変な夢じゃない、あいつにだって男の友達は他にもいる。
でも、嫌な気分だった。


10月12日  PM6・27

「くそ・・・・。」
いつもは自転車通学なんかじゃないから、鍵をはずすのにも
手間取ってしまう。
いつもは行きも帰りも彼女と一緒だったから、家から学校までの
割りと長い道も平気で歩いてきていた。
ただ今日の朝は、いつもと違って家の門の前に蒼星石がいなかったから、
珍しく自転車なんかひっぱりだして学校まで来た。
いつもと違う手順ってのは、調子でないもんだな。

「お寝坊さんだね。」
校門まで自転車を押してきたところでふいに声をかけられた。
「蒼星石・・・」
まさかいるなんても思いもしない。それに昨日のことが引っかかって、
うまく言葉がでない。
「ジュン君。」




二人とも黙っている、数秒のような、もっとのような。
彼女はなにか言いたげに、僕は伏し目がちに。
「あのさ、」
彼女が口を開く。
「昨日はごめんなさい。」
ばっと頭を下げながら。
「僕が突然変なこと言っちゃって、最後は勝手に怒っちゃって・・・
本当にごめんなさい。」
僕はなにか言わなくちゃと懸命に言葉を探すが、出てこない。
「ジュン君は折角親友って言ってくれたのに・・・気分悪くしたよね。」
彼女の肩はかすかに震えている。
僕は呆けたように立ち尽くしている。今までで初めてこんなに
弱い彼女を見た。そして、そうさせている僕自身にひどく腹がたつ。
「ジュン君・・・・・・・だけど、やっぱり仲良くいたいんだ。
だから、僕のこと嫌いにならないでぇ・・・うぅ。」
ぽろぽろと涙をこぼしながら、僕の制服のすそをつまんでくる。


「嫌いになることなんかないから」
思わず声が大きくなる。蒼星石がビクッと震える。
「その・・・・嫌いになることなんかは絶対ないから。」
なんだか初めて言葉を発して大分落ち着いてきた。
「僕のほうこそ、ごめん。
今まで考えもしなかったことだから。つい今までの感じで答えちゃって。」
「ううん、いいんだ。僕があんなこと言っちゃったから・・・・。
ジュン君、これからも仲良くしてくれるかな。」
「もちろん。」
「ありがとぉ。」
涙交じりに彼女が微笑む。あれ、こいつってこんな顔して微笑むことなんか
あったか・・・・
記憶にない微笑み方をされてすこしたじろぐ。柔らかい、そんな微笑み。
ああ、もしかするとこれが・・・・
「あのさ。」
僕は意を決したように言う。
「どうしたの、ジュン君。」
「・・・・・・・・・」
駄目だ、いえない。なんだか恥ずかしい。くそう。
蒼星石は僕の言葉を待ってる。なにか言わなきゃ。
「ぼ、僕、今日自転車で来たから。その、、、、後ろ乗っていくか。」
「いいの。」
蒼星石がたずねる。
「ああ。」
「ありがとう。」
また微笑む。今日はどうしてか、その表情を見るたび心の奥が熱くなる。




彼女を後ろに乗せながらペダルをこぐ。
「蒼星石。」
「なに。」
「今日って、あの時間まで学校にいたのって。」
「うん、待ってたんだ。早く仲直りしたくて。やっぱり
・・・この道は二人じゃないと。」
「そうか。」
「そうだよ。」
言葉が出ない・・・昨日みたいに悪い雰囲気では決してないが、
今の雰囲気も今までなかったものだ。
さーっと、僕らの自転車を追い抜くように風が通り抜けた。
途端、かすかに後ろから甘い匂いがした。
こんなこと初めてだ。
思わずバランスをくずす。
「きゃあ。」
びっくりしたのだろう、蒼星石が僕に強くしがみつく。
すると、今まで感じたこともない、
子供のころには絶対になかった感触が背中に伝わる。
これって・・・・・・





「なあ」
「ん、どうしたの。」
「お前・・・・・女の子なんだな。」
「えぇっ、どうしたの急に。」
「背中に・・・・・・」
それで、意図が伝わったのか蒼星石もだまってしまった。
また怒らせたのだろうか・・・
「ジュン君。」
「はいっ。」
「ありがとう。僕嬉しいよ。」
きっとまたあの微笑みなんだろう。
心の奥が熱くなって僕はペダルを強く踏み込んだ。


帰り道、君を乗せて走る
長い道、言葉は少ないけれど
君と眺めた道、二人だとこんなにも楽しい

帰り道、君の家が見える
長い道、もう終わるけれど
君と眺めた道、二人まだ走っていたい

帰り道、君が微笑みながら
長い道、僕にありがとうと囁く
君と眺めた道、二人また明日歩く道
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