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翠星石が変わった日

「今日出た宿題、ちゃんとやってくるですよチビ人間」
「性悪に言われなくてもわかってるって」
「どうだかですぅ。忘れて泣きついても助けないですよ?」
「いっつも忘れるやつがいうセリフかぁ?
 …全く、そんな性格じゃ一生彼氏できないぞ?」
「な、な、な、何言うですか!翠星石だって彼氏の一人くらい…」
「いるのか?」

ううっと言葉を詰まらせる翠星石。
今日の口喧嘩は僕の勝ちのようだ。

「もういいです!帰るですよ、蒼星石!」
「あ、待ってよ姉さん!…また明日ね、ジュン君」

そう言って、家の方へ走っていく二人。
その後姿に手を軽く振って、僕も家路に戻る。
また明日も今日と変わらない生活を送るだろうと、この時は思っていた。

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次の日。
いつも通り、交差点で翠星石と蒼星石に会う。

「おはようです、ジュン」
「ジュン君、おはよう」
「ああ、おはよう。…ってあれ?」

何か違和感を感じる。

「どうかしましたですか?」
「…いや、なんでもない。多分」
「そうですか。じゃあ、学校行くですよ!」
「ちょっ、姉さん!走らなくても大丈夫だよ」

そう言って走っていく二人。
なんだろう。さっき感じた違和感が気になる。

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結局、僕も学校まで走ってしまった。
体力は無いから、正直勘弁してほしかった。

ふと、時間割を見ると一時間目は現代社会。
…現代社会?

「あぁっ!!」

宿題があるのを忘れていた。翠星石に言われたというのに。
そんなジュンの様子に気付いたのか、翠星石が近づいてきた。

「宿題、忘れたのですか?」

僕は無言で頷く。
昨日ああまで言ったのだ。
どんな暴言が来るのかと思ったら、来たのは一冊のノートだった。

「幸い、まだ時間はあるです。さっさと写すですぅ!」

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翠星石のノートのおかげで、現代社会はなんとかなった。
しかし、僕の中の違和感は大きくなっていく。
仕方ないと思い、休み時間に蒼星石の席に近づく。

「なぁ、蒼星石」
「何?ジュン君」

蒼星石が振り向く。こっちは違和感を感じない。
ということは、翠星石がおかしいのだろうか?

「翠星石に何かあったのか?」
「へっ?どうしたのさ、突然?」
「いや、なんか朝から違和感を感じるんだよ…」

僕がそう言うと、うーん…と考える蒼星石。

「…特に何も無かったと思うけど。病気でもないだろうし」
「そうか。じゃあ僕の気のせいなのかな…」

そう言って去ろうとした時、蒼星石が独り言のように言う。

「…ただ、なんか頑張ってる気はするよ」

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昼休み。
パンを買いに購買に行こうとすると呼び止められる。

「待つです、ジュン」
「翠星石…に蒼星石?」

二人が近づいてくる。弁当箱を三つ持って。

「ジュンの分の弁当もあるから、一緒に食べるです」
「…なんで僕の分まで?」
「たまたま作りす…いや、いいから食べるです!」

よくわからないが迫力がある。助けを求めるように蒼星石を見ると、

「残っても勿体無いし、食べてくれないかな?」

と、苦笑しながら言ってくる。
そこまで言われたら断れない。近くの席をくっつけて弁当を受け取った。

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弁当箱を開けると、予想以上に丁寧に作られたものだった。
おかずの種類も豊富で、多分作るのも大変だっただろう。
そんな感じに感動していると、翠星石がじーっと自分を見てるのに気付く。

「…なんだよ?翠星石は食べないのか?」

蒼星石はもう食べ始めているのに、翠星石はふたすら開けていない。

「もちろん食べるですよ。それよりジュンもさっさと食べるです!」
「わ、わかったよ…」

またまたよくわからない迫力に押され、渋々食べ始める。
しかし、一品目、二品目と自然と箸が伸びる。
…本当においしい。

「…味はどうですぅ?」

翠星石が上目遣いで聞いてくる。
結局、まだふたすら開けていない。
そんな翠星石に対して、僕は「普通」に返す。

「おいしいよ」
『性悪にしては頑張った方じゃないか?』
「それは良かったですぅ!頑張って作ったですからね」
『なんて言い草ですかぁ!この翠星石の弁当を食べられるんですから、
 感謝してほしいくらいですぅ!』


…あれ。

したことも無い会話が、頭の中で再生される。
ここで僕の中の違和感は爆発し、答えを出す。
そうか、そういうことだったのか。

「…翠星石」
「なんですか?」
「なんで今日は一度も悪口を言わないんだ?」

性悪は弁当のふたを持ったまま、固まる。
いや、今日の性悪は性悪じゃない。

「べ、別に翠星石はそんな嫌な子じゃないです…」
「…でも、なんか朝から違和感を感じてたんだ。
 悪口を言わない翠星石は翠星石じゃないような…」

そこまで言うと、翠星石はふたを閉め、下を向く。
何かまずいことを言ってしまったのだろうか?

「いや、僕に悪口を言えっていうわけじゃないんだ。
 ただ…、違和感がむず痒いっていうか…」

そんな言い訳とも言えない言い訳をしていると、翠星石が震え始めた。
そして、両手で机をダンッと叩くと立ち上がった。
彼女は、翠星石は泣いていた。

「じゃあ…、じゃあどうしたらいいんですかぁ!!
 昨日は性格が悪いから彼氏は出来ないとか言って…、
 今日は頑張ったのに違和感、違和感って…、
 翠星石は、…翠星石はどうなればいいんですかぁ…!」

いきなり叫んだ翠星石にクラス中から注目が集まる。
泣き続ける翠星石と慌てている蒼星石を見て、やっとで気付く。
なんて、なんて僕は馬鹿なんだろう。

「…チビ人間、答えろですぅ…、翠星石はどうすれば」
「ごめん」

僕は机に手をつき、土下座のように謝った。
そのくらいしないといけない気がしたからだ。

「昨日は言い過ぎた。翠星石の気持ちも考えないで…」
「今更遅いですぅ…」
「わかってる。でも、出来れば性悪の翠星石に戻ってほしい」
「…ジュンは翠星石に一生一人でいれと言うのですか…?」
「大丈夫。そんな翠星石が好きな奴もいるはずだから。
 …いざとなったら、僕が彼氏になってやるさ」
「!!」

教室中から大きな歓声やら悲鳴やらが聞こえてくる。
そんな声に、僕も翠星石も赤くなる。

「だ、誰がチビ人間にもらわれるですかぁ!
 馬鹿なこと言ってねえで、さっさと弁当食べるです!」

そう言って席に座りなおすと、すごい勢いで食べ始める。
そんな彼女を見て、僕と蒼星石も弁当を食べ始める。
これで良かったのかな…、と思いながら。


「…もしもの時は、考えてやるですぅ」

そんな小声が翠星石の方から聞こえた気がした。
多分これで良かったんだと、僕は思うことにした。
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