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時は9月―――。
長かった夏も終わりを告げ、季節は段々と秋の色を濃くしているそんなある日。
第十回私立薔薇学園体育祭の盛り上がりは最高潮に達していた。

「手抜きなんてしたら承知しないわ。解っていて?水銀燈」
緊張した面持ちでゲート前に並び、キッと隣を睨みつけているのは真っ赤な鉢巻をした真紅。
「はいはい、解ってるわよ。いくら私でもこんな場面で手抜きしたりはしないわぁ」
いかにも面倒だといった感じで真紅の視線を受け流しているのは、真っ白な鉢巻をした水銀燈。

現在の戦況は、真紅率いる赤組870点に対して、水銀燈率いる白組790点。
最終種目を残した時点では、赤組が白組を大きくリードしている。
だが、最後の種目である色別対抗選手リレーで加算される点数は一位に100点。
つまり、この一戦で全てが決まる という事だ。

『次はいよいよ薔薇学体育祭最終種目!色別対抗選手リレーかしら!』
実況席に座った金糸雀の甲高い声が響く。
『実況は私、生徒会書記の金糸雀と、放送部部長の杉本清子で送りするかしら!』

「さあ行くわよ!勝つのは絶対私達、赤組よ!」
力強く叫ぶ真紅の姿を横目に、水銀燈は大きくため息をつく。
「全く……、なんでこんなことになったのかしら……」

もともとは全校生徒の親睦を深めるようにある為のこの体育祭。
しかし、何故真紅はあそこまで気合が入っているのだろうか。
それにはある事情があったりする。



遡る事2ヶ月前。
季節はすっかり夏本番、といった感じのある日。
生徒会室では来る体育祭に向けての企画会議が行われていた。

「今年の体育祭なんだけど……」
遠慮がちに呟いたのは、生徒会長にして理事長子息の柿崎めぐ。
「最後の種目はリレーにしたいの。どう?」

「「リレー?」」
それを聞いて見事にハモったのは副会長である水銀燈と、同じく副会長である真紅。
「そう、リレー。最後はやっぱり盛り上がった方がいいじゃない?アンカーはあなた達二人とかでさ」

「え゛、ちょっと待っ「そうしましょう」
「ちょっと真紅。私の発言にかぶせるのはやめてくれない?」
「あら、気がつかなかったのだわ。ごめんあそばせ?」
「なんですってぇ……!」
2ヶ月後の体育祭の話をしていたのに、今すぐにでも別種目で対決を始めそうな二人を見て

「今年は記念すべき十回目なんだからやっぱり最後は盛り上がった方がいいじゃない?」
冷静に二人を治めるめぐ。この辺り流石といった所か。
「やぁよ。今まで通り最後はフォークダンスでそれが終わったら後夜祭でいいと思うわぁ」
「私はめぐの案は良い案だと思うわ。やはり体育祭の最後と言えばリレーと相場が決まっているのだわ」
「ほら、真紅もそう思うでしょう?はい、2対1で可決ー」
嬉しそうに笑うめぐと、何処か不敵な笑みを浮かべる真紅。
二人とは正反対に渋い表情の水銀燈。

「なんでいきなり今年からリレーになるのよぉ。今まで決着は棒倒しで決めてたじゃない」
「棒倒しは怪我人の問題があるわ。その点リレーならば怪我人も出ないだろうし、何より全員一丸となって応援できるのだわ」
「そうそう、真紅の言うとおりよ。棒倒しだと運動苦手な子は楽しめないしね」
「その通りだわ。だから今年はリレーで行くべきよ。お解りになって?」
「はいはい、わかったわよ。わかりましたぁー。リレーでいいわよ、もう」

イマイチ釣れない返事の水銀燈の表情を見ためぐはこんな事を言い出した。

「そうね、勝った組の団長には今年の文化祭に来るゲストの学校案内をして貰おうかな?」
「あら、今年の文化祭にはゲストを呼ぶの?誰を呼ぶのかしら?」
「……誰でもいいわよ。もう、めんどくさいわぁ」
「とりあえず今の所はくんくんを呼ぼうかなーなんて……」

なんと今年の文化祭にはあのくんくんをゲストに呼ぶつもりらしい。
という事は、もしリレー勝負に勝てばくんくんの学校案内する事が出来る。
あのくんくんとゼロ距離トークが出来る事に加えて、あわよくばそこから芽生える何かがあるかもしれない。
そんな話を聞かされてしまっては―――。

「やるわぁ」

「……。」

「な、何よ。なによなによなによ!私だってやる気になったりする事もあるわよ!」

「……。」



「はぁ……。なんであんな口車にのせられたのかしらぁ」
そういってため息をつく水銀燈。今日だけでも何回したか解らない。

「…私は良いと思うけど。銀ちゃんくんくん好きでしょ?」
そういって後ろを向いたのは、どこかぬけてる一年生の薔薇水晶と、
「そうですよ、副会長。一石二島とはこの事ですわ」
薔薇水晶の双子の妹で、お嬢様然としていながらどこかボケてる雪華綺晶。
一年生ながら姉妹そろってリレーメンバーに選抜された。
ちなみに二人とも一応生徒会メンバーである。更に、
「そうね、勝ったらくんくんの案内できるんでしょ?うらやましいかなー」
二年生で剣道部の新部長でもある柏葉巴も話に加わってくる。
この四人が白組のリレーのメンバーだ。

「確かにそうだけどぉ。なんか納得いかないのよねぇ。ちなみに一石二鳥よ」
「ご指摘感謝しますわ、副会長」
「…そろそろ入場」
「ま、やるっきゃないわよねぇ。くんくんのためだもの。頑張るわぁ」

三人の視線が自然とアンカーであり、白組団長でもある水銀燈に集中する。
その視線を受け、水銀燈は静かにこう呟いた。

「さぁ、勝ってくるわよ」



選手の入場も終わり、後はスタートを待つばかりとなった。
応援席は勿論、観客席も今日一番の盛り上がりを見せる。

『貴女の、そして私の乙女が走ります。第十回薔薇学体育祭、最終種目は色別選手リレーです』
『注目は勿論、赤組団長真紅選手対白組団長水銀燈選手の副会長アンカー対決でしょう』

『ここで選手の紹介です。』
『第一走者は赤組、まさかの美術部からの選抜です。一年B組雛苺選手。
『白組は、同じく一年生からの選抜で生徒会委員、一年C組雪華綺晶選手』

『第二走者は赤組、三年D組ラクロス部の元部長、桜田のり選手。
『白組は、剣道部新部長にしてクラス委員も勤める二年A組柏葉巴選手』

『第三走者は赤組は、陸上部新部長で薔薇学最速の名も高い、二年B組蒼星石選手。
『白組からは、姉妹揃っての選抜です。生徒会委員の一年C組薔薇水晶選手』

『そして注目の第四走者。紅薔薇様とはこのお方。赤組からは燃える副会長真紅選手。二年B組からの選抜です。』
『対する白組は、誰もが知ってる副会長。薔薇学が誇る白薔薇様こと、二年C組より水銀燈選手です』

『以上八名により争われます色別対抗選手リレー。スターターである生徒会長がゆっくりと台の上へと向かいます』

実況の声を合図に、生徒会長であるめぐが所定の位置につく。

「位置についてー。よーい。」



「……ゴフッ」

「じゃなくて、スタート!」

これを合図に、薔薇学体育祭の最後を飾る色別選手リレーが始まった。



『さぁ、スタートしました!第一走者は赤組雛苺、白組雪華綺晶かしら!』
『早くも第一コーナーにさしかかり、赤組雛苺選手がややリードしています!』

最初にリードを奪ったのは意外や意外、美術部員の雛苺だった。
その小さな体からは想像出来ない程のスピードで、白組雪華綺晶を引き離しにかかる。
雪華綺晶も必死に食い下がるが、思った以上に雛苺のスピードが速くなかなか距離は縮まらない。
大方の予想を裏切って(?)、赤組がリードを保ったまま第二走者にバトンが渡りそうだ。

『さあ、赤組リードのまま第二走者にバトンが渡りそうかしら!!』
『第二走者は赤組桜田のり選手、対する白組は柏葉巴選手!下馬評では柏葉選手有利との見方が大きいです!』

「雛ちゃーん!頑張ってー!お姉ちゃんはここよー!」
「のりー!行くわよー!」
白組より一歩早く、第二走者へとバトンをつなぐ赤組。
しかしその差はわずか数メートル。まだまだ安心できる距離ではない。

「巴さん!」
「まかせて!」
『赤組から遅れる事わずか、ここで白組もバトンを繋ぎます!差を詰める事が出来るか柏葉巴!」

一方、第四走者スタート位置では、
「あら、あの子あんなに走るの早かったのぉ?」
「そうね。普段から巴を見つける度に全速力で走っていっていたもの。それで鍛えられたのではなくて?」
「なんか無茶苦茶だわぁ……」
なんて風景も。



赤組白組ともに第二走者へとバトンを繋ぐ。
赤組の第二走者のりが必死に逃げるも、下馬評通り巴が除々に差を詰めてくる。

『巴がのりとの差をどんどん詰めてきてるかしら!』
『さすがに現役の柏葉選手相手に逃げ切る事は難しいでしょうか!』

「巴、恐ろしい子……!」
「そりゃ剣道部ナンバーワンでしょぉ?速くて当然じゃなぁい」
のりとの差を縮めていく巴を見て、にやりと笑う水銀燈。
それとは正反対に若干焦りの表情を浮かべる真紅。
雛苺が稼いだリードは最早無くなったとしまっていいだろう。

「これは第三走者が重要ねぇ、って次って蒼星石じゃないの!?」
「そ、そうね。これなら安心かしら。決して忘れていたわけでなくてよ?」
「誰も忘れてたなんて言ってないわよ……」

『おっと、ここで白組が赤組を抜きそうです!柏葉選手速い速い!』
『でもでも、そろそろ第三走者にバトンが渡るわ!』
『第三走者は白組が一年C組薔薇水晶選手、そして赤組が薔薇学最速の呼び声も高い二年B組の蒼星石選手だ!』



時を同じくして、第三走者待機所ではこんな一幕も。

「…ねぇ、蒼星石」
「うん?なに?薔薇水晶」
「翠星石はどこにいったの?」

「……あそこ。」

蒼星石がため息交じりに指差した先には

『蒼!星!石!そんなネクラ眼帯女なんてぶっちぎってやるですよー!!!』

後ろに赤組の生徒を大量に従え、声高に叫んでいる翠星石の姿があった。
どこから手に入れてきたのが、ご丁寧に学ランまで着込んでいる。

それにしてもこの翠星石、ノリノリである。

「…すごいね」
「う、うん。ごめんね、翠星石が変な事いっちゃって」
「のーぷろぶれむ」

「ネクラじゃないし、眼帯も取るから」

薔薇水晶はそういって左目の眼帯に手をあてて一気に剥ぎ取った……!

『さあ、白組が第三走者にバトンを繋ぎます!」
『第三走者はばらばらかしらー!』

「巴!次は蒼星石だからいそいで!!!」
「え…!?」

そう叫んだのは眼帯を取った薔薇水晶。
普段の彼女からは想像も出来ない程大きな声で、巴にゲキを飛ばす。
どうやら眼帯を剥ぎ取るとテンションMAXになるらしい。

『ここで白組、第三走者にバトンが渡った!柏葉選手大健闘です!』
『ば、ばらばらが叫んだかしら!?』
巴からバトンを受け取り一気に走り出す薔薇水晶。
横目ではしっかりと翠星石を睨みつつ。

「そ、蒼星石ちゃん!」
「大丈夫大丈夫!僕にまかせて!」
のりからバトンが受け取ったと同時に、一気に全速力まで駆け上がる蒼星石。
たとえ白組にリードを奪われていたとしても、陸上部部長としては絶対に負けられない。

『さあ、バトンを受け取った赤組第三走者の蒼星石選手!一気に白組との差をつめる!』
『さ、さすがかしら。ばらばらもよくわからない速さだけど蒼星石はもっとかしら!』

「!?」
「翠星石が見てるんだ!僕だって負けられないんだよ!」
前を行く薔薇水晶との差を一瞬にして詰める蒼星石。
そして並ぶまもなく一気に抜き去っていく。
なんて鮮やかな差し脚だろう。

『赤組の蒼星石選手、一気に白組を抜き去りました!凄い速さです!』
『こ、こけっこけこけここれは恐ろしい速さかしら!まさしく大地が弾んで蒼星石だわ!』

その様子は第四走者待機場所からもわかる。
「あら、薔薇水晶抜かれちゃったわねぇ。アレとってまで頑張ったのに」
「ふふ、相手はあの蒼星石よ。あの子が負けるわけないじゃない」
「存在忘れてたくせに……、ってうそようそ。まあいいハンデだわぁ」

『蒼星石選手!第三コーナーをカーブして、一気に差を広げていきます!』
『さあ、ついにアンカー対決かしら!次は真紅と水銀燈よ!』
『アンカーの真紅選手までもう後わずか!ついに最終決戦です!』

「さて、そろそろだわぁ」
めんどくさそうに立ち上がり、髪を一纏めにしてスタートラインに立つ白組代表水銀燈。

「ええ、そうね」
そんな水銀燈の姿を見て、同じくスタートラインに立つ赤組代表真紅。

そして―――。



「決着をつける時よ、水銀燈!」

『さあ、一気に薔薇水晶選手を抜き去った蒼星石選手!ここでアンカーにバトンを繋ぎます!』

「行くよ、真紅!!!」
「まかせなさい!絶対に勝って見せるわ!」
ついにバトンが真紅の手に渡った赤組。そして遅れる事数メートル。

「銀ちゃん!!!」
「真紅なんかに負けるわけにはいかないわ!」
白組のアンカー、水銀燈の手にもバトンが渡る。その差数メートル。

『ついに赤組白組ともにアンカーの手にバトンが渡りました!これはもう、言葉はいらないのでしょうか!』
『ど、どっちがかつのかしら!?カナ的には真紅に勝ってほしいけど、でもでもすいぎn』
『赤組アンカー真紅が逃げる逃げる!しかし水銀燈も一気に迫ります!その差は縮まっています!』

逃げる真紅と追う水銀燈。
小柄な身体に精一杯の力を込めてゴールに向かって無我夢中に逃げる真紅。
それとは正反対に恵まれた身体を全身バネのようにしならせ、一完歩ごとに差をつめていく水銀燈。

『ゴールまであと50メートル!アウトコースからから水銀燈が来た!水銀燈が来た!さあ一気に並びかけるか!』
『真紅ー!逃げるのよー!頑張るかしらー!』
『しかし真紅選手も赤組の声援をその背に受けて懸命に逃げます!』
『ああ、まずいかしら!並んだわ!並んだわ!水銀燈が並んだかしら!』
『交わすか!?水銀燈が交わすか!?』
『いや、真紅が伸びた!内から真紅選手が伸びた!外から猛然と迫る水銀燈選手に負け時と真紅選手が伸びた!』
『行くのよ真紅ー!そのまま!そのままかしらー!』



『先頭は真紅!先頭は赤組アンカー真紅選手です!力強く右手を掲げて今ゴールイン!』



それから先はもう大変だった。
柄に無くド派手なガッツポーズをキめてゴールした真紅はその場に崩れ落ち、
最後の最後で差しきれなかった水銀燈は悔し泣き。
さらに赤組白組の両陣営がアンカーである二人にかけよったりその他もろもろ。
表彰式の開始時間を30分遅らせる事により、なんとかその場は収まった。

そして表彰式。
優勝した赤組には優勝旗と賞状が授与された。
また団長である真紅には副賞の文化祭でくんくんをエスコートする権利が与えられ、
更に最優秀選手賞に選ばれた蒼星石には賞状とトロフィーが贈られた。

また今年の薔薇学体育祭はヤバかった という噂が近隣の他校にも広がり、
対応に追われた生徒会が、苦肉の策として放送部と協力し臨時の体育祭新聞を作る羽目になったり、
蒼星石がたまたま見に来ていた某陸上競技のコーチの目に止まったりしたのは、また別のお話。



それからしばらくして―――。

季節はすっかり秋本番、といった感じのある日。
二年B組では来る文化祭に向けての企画会議が行われていた。

「ちゃんと聞くかしら!今年の文化祭の事なんだけど!」
声高に叫んだのは、生徒書記にして二年B組の委員長でもある金糸雀。
「うちのクラスの出し物は演劇にしたいのだけれど、どうかしら?」

「「「演劇?」」」
それを聞いて見事にハモったのは先日の副会長戦争に見事勝利した真紅と、最優秀選手賞の蒼星石。
そして蒼星石の双子の姉である翠星石だった。
「そう、演劇。文化祭といったら演劇よ!昔から相場は決まってるのかしら!」
何故かテンションの高い金糸雀を見て、心配顔のクラスメイトたち。
「な、なんで心配顔なのかしら!?みなみなさまー!?
「今年は記念すべき十回目なんだからやっぱり盛り上がった方がいいと思うかしら!」

すると―――、

「あら、良いんじゃないかしら。私は賛成だわ」
「そうだね、僕も良いと思うよ。演劇だったら皆で出来るしね」
「蒼星石が言うんだったら翠星石も賛成ですぅー!」
上から紅 蒼 翠。
この三人が納得したのをみると、クラスの意見も自然とそちらに傾いていった。

「これは決まりかしら!じゃあ、早速だけど主役は―――」

文化祭編に続くかもね

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