第四話 「同窓会」


――朝九時五十分、駅前。
待ち合わせ時間の十分早めの時間に来たのだが
金糸雀はもう僕を待っていた。

「やけに早いな」
「待ち合わせより早く来るのは普通かしらー」

まぁ自分だって十分早く来ようとした訳だからな。
金糸雀が早く来てる事だってあるだろう。

「じゃあ行くか」
「かしらー」

そう言い駅から昔の小学校の方へと向かう。
学校までの道までには昔見た光景が広がっている。
が、大人……いや大人になったかどうかはわからないが
やはり昔と大分違う気がする。
感じ方が変わったのだろうか?

「何考えてるかしら?」
「いや、何でもない」

まぁいいそんな事。
そう思ってぱっと振り向く。
……。
もう何も思う事は無かった。
振り向いた先では兎が“モデルルーム公開!こちら→”
などという看板を持って椅子に座ってる。
船を漕いでる所からするに寝ているのだろう。
ああいうバイトは寝てても出来るのが利点だな。

「ジュン……あれ……」
「……ほっとこう」

兎も寝てる所からするに疲れているんだろう。
ほっといた方がお互いの為だ。
またゴチャゴチャ言われるのも何かと面倒くさい。
こんな事は忘れよう。
僕達は兎を背に小学校の方へと再び向い出す。
お互いに話すことも無くもうすぐ学校に着こうかという時に急に金糸雀が口を開いた。

「あそこのお花屋がまだ無くなってないかしらー」

言われて見てみる。
昔、其処は“柴崎園芸店”という名で店があった。
そこまで大きくも無く種類も少ない花屋だったが
珍しい花ばっかを置いていて中々好感が持てる店だった。
なので帰り道はそこをよく通っていたのだが……。

「まだあったのか……」
正直小さな店であったので何年かすれば潰れるかななどと
不謹慎な事を考えた事もあったのだが店は見ての通り健在していた。
こんな時代に此処まで店を持たせるとは正直凄い。

「あ、誰か出てきたかしら」
「ん?店主じゃないのかな?……って、店主のようだけど人が違う」

昔の“柴崎園芸店”は年寄り二人がやっている店だった。
優しいおばあさんと孫に依存しているお爺さん。
その二人が店をやっていたのだが今は違うようだ。

「ちょっと見に行くかしらー」
「ん?まぁいいが」

そう言って金糸雀が僕の手を掴んで勢いよく走り出す。
あー危ないよそんなに急いだら……ほら自転車にぶつかりかけた。
そんな事を思い浮かべて金糸雀を見てたら一瞬止まりぶつかりかけた
自転車に乗ってる人に謝ってまた走り出す。
謝ってはいるけど入るのはやめないんだな。

「こんにちわかしらー」
「何の用ですか?客ですか?」
「ちょっと聞きたい事があるのかしらー」
「あのおばあさんはどうしたのですか?」
「……おばあさんって此処で店主やってたおばばの事ですか?」
「そうだと思うんですが……」
「おばばは死んじゃったですぅ……今は翠星石がこの店を継いでるのですぅ……」
「……悪い事を聞いて御免なさいかしら」
「別に構わねぇですぅ、何なら何か花を買ってくですぅ。
 それがおばばの一番喜ぶ事ですぅ」
「……そうさしてもらいます」

そうか、あのおばあさんはもう死んでしまったのか……。
店前を通ったりはよくしたりしてけど此処で花を買った事は無かったな。
あのおばあさんから買う事は結局無かったがこのお店で買う事にしよう。

「どれにするかしらー?」
「んーそうだなぁ……そうだ、あの花あるかな?」
「あの花?」
「あの子の歌の花」
「ああわかったかしらー!」

金糸雀はそう言うと周りを見回して花を探し出す。
暫くすると見つけたみたいで金糸雀が花を店主の……
えーと、さっき自分で自分の名前言ってたけど“翠星石”なのかな?
翠星石さんの所に持って行ってお金を払っている。

「どうもありがとうかしらー」
「毎度ありーですぅ、また来るですよバカップル共ですぅ」
「え、だ、だから……」
「ほらさっさと行くですぅ」
そう言って翠星石さんは僕の肩を押して店の入り口の方に追いやる。
しょうがなく僕は入り口から外に出て行く。
しかし何故こんなにも恋人同士に間違われるのだろう?
まぁそんな事はどうでもいいか。
そう言えば時間は大丈夫だろうか?

「時間大丈夫か?」
「まだまだ大丈b……もう遅刻寸前かしらー!」

予想はしていたが流石にこういう場面に直面すると焦ってしまう。
僕は金糸雀の手を掴み学校の方まで走り出した。

「ほら、行くぞ」

今度は逆に僕が金糸雀の手を取って走り出す。
とまどう金糸雀は気にせず学校まで走り抜ける。
元々そんな遠い所でも無かったのですぐに学校に着いた。
うん、流石にみんな大人だな。
どうやらぱっと見た人数からして遅刻者は僕達だけな様だ。

「おや?君まで金糸雀のドジが移ったのかい?
 移る程の付き合いとは付き合っているの?」

いきなり気だるくなるような事を聞いて来たのは笹塚。
昔からこんな奴だ。そして気がかなり弱い。

「ち・・・・・・」
また否定しようと思ったがもう周りがそう認識し出したらしい。
ああ、もうこうなったら反論は無意味だな。
少し黙っていよう。
隣で金糸雀も恥ずかしがり赤面している。
流石のこんだけの人数にそんな事を思われれば恥ずかしくないわけが無い。
「さて、そろそろ校庭の方に行こうよ」

笹塚がそう言うと皆も口々に賛成と言い出し
皆で校庭の方に行く事になった。

「何で校庭に行くんだ?」
「覚えてないかしら?此処の校庭にタイムカプセルを埋めたかしら」
「タイム・・・・・・カプセル…・・・?」

必死に記憶を探る。
確かに卒業式の日に何かをやった覚えはあるような気もするが全く覚えていない。

「そんな事をしたか…・・・?」
「過去の自分のメッセージを調べて確かめるといいかしらー」

確かにそれもそうだ。
タイムカプセルがあるのなら自分が何かを入れている筈だ。
それを見て確かめるとしようい。
しかし、何年も前の自分
“幸せの意味を覚えてた頃の自分”は何を自分に伝えようとしたのだろう?
今の“幸せを忘れてしまった無気力な自分”はそれを見てどう思うのだろう?
そこには“幸せ”の手がかりがあるのだろうか?
「ジュン見るかしら」

ふと金糸雀に声をかけられて金糸雀の指を指す方向を見る。
そこには昔からあった桜の木があった。
大きくなった今の自分から見ても大きい。
桜も成長しているのだろうか?
僕を見て、金糸雀を見て、色んな人を見て
ここまで大きくなってきたのだろう。
そんな事を思い浮かべてると桜の木に笹塚が近付いていく。

「此処だよ、タイムカプセルを埋めた場所」

笹塚はそう言い桜の木の根元を指し示す。
うーん、随分とわかりやすい目印だけど
他の卒業生のとかまで埋まってないのだろうか?

「何か色々埋まってそうかしらー」

金糸雀も同じような事を考えてたようだ。
手っ取り早くすむように祈っておこう。
桜の木に近付きながら思う。
しかし近くで見るともっと大きい気がする。
桜ってこんなに大きいもんだっけ?
まぁそんな事はいいや。
他の生徒らがスコップを持ってきて土を掘り出す。
「桜の木って死体とかよく埋まってるて聞くよね」

笹塚が皆が懐かしんでる中そんな事を言う。
こういう時にそういう事を言うなと言いたい所だが
誰もが口を聞かない。
そりゃそうだ、掘ってる最中に言われれば絶句してしまう。
誰も返す言葉を見つけれない中、少し年老いた人が来た。

「遅れてしまって申し訳がない」

この丁寧な口調の人は確か……そうだ。
小学生の頃の担任の結菱先生だ。
ただし何か違う。
……そうだ、昔は健全な人だった結菱先生が車椅子を使っている。

「……先生、その車椅子は?」

恐る恐る生徒の一人が聞く。

「ちょっと事故でね、なに軽い怪我だ。気にする事は無い。
 さて、採掘の続きをしましょうか」
微笑みながら先生はそう言う。
先生はそう言うがきっと何か大変な事があったのだろう。
それでも先生は生徒らの前で弱々しいところを見せずに笑顔を見せている。
“幸せ”なのだろうか?
それとも“仮面”を覆っているだけだろうか?
幸せそうな仮面、笑顔の仮面。
悲しい顔にそれを被せて生きているのだろうか?
それは幸せなのだろうか?
……自分の事がわからないのに他人の事が分かるわけが無い。
考えるのをやめよう。

「おい、何か出てきたぞ」 

一人がそう言う。
思わず出てきたのかと思い覗き込む。
出てきたのはクッキー箱ぐらいの大きさの箱。
透明のテープで紙が劣化しないように張られている。
その紙には“タイムカプセル”と書かれている。
ついに発見したのか?
久しぶりにときめいてしまう。
心臓をどきどきさしてると笹塚が紙を見て呟く。

「えーと……タイムカプセル 昭和××年」

思わず落胆する。
急かしていたせいで何年のかを見るのを忘れていた。
僕が卒業した年は平成なので昭和という事はまずない。
いろんな年のがあるんだな……。
「おい、今度こそ本物だぞ」
また一人が箱を抱えながら言う。
紙を見てみると平成××と書かれているので
僕らの物で違いないだろう。
遂に対面できる。
箱が笹塚によって開かれる。
皆が一斉に近付く。
中に入ってたのは人数分のカプセル。
直径5センチぐらいだ。
真っ先に自分のを取ろうとしたがある事を思いだしてそれを止める。
「まずは“あの子”のを見ようよ」
笹塚がそう言うと全員納得して“あの子”のカプセルを探し出す。
あの子と聞いて回りを見回すが“あの子”はこの場には居なかった。
一分程すると笹塚がカプセルを手に掲げる。
「あったよ、これだよ」
皆が一斉にそのカプセルに注目する。
カプセルにはラベルが張られていてそこに名前が書いてある。
名前の所には“柿崎メグ”と書かれていた。
笹塚が慎重にカプセルを開けると其処には手紙が入っていた。
笹塚がそれを声に出して読む。
“―――未来の私へ
 元気ですか?私は元気じゃないです。
 まだ心臓病が治ってないし学校にも満足に行けてません。
 治る保証というのも無いみたいです。
 正直私は死にたいとも思ってます。
 けど、もし……もし私が生きてこの手紙を読む事があるならば
 “幸せ”になってください。
 いえ、治ってる時点でもう幸せかな?
 そんな事はいいや。
 元気な私……お幸せにね。
 一杯“思い出”を作って下さい。
 幸せな幸せな“思い出”を……”
……辺りが静寂に包まれる。
“柿崎メグ”は小学校の頃心臓病だった。
学校にはほとんど来ず入退院を繰り返したばかりいた。
卒業式に来たのは覚えているがそれ以外で目にした記憶はほとんど無い。
一番死に近かった子。
もしかしたらもう“柿崎メグ”は到達したのかもしれない。
“死”に。
皆の顔を見る。
金糸雀や笹塚、皆の表情が暗いのが分かる。
だけど“柿崎メグ”はもっと悲しいのだろう。
“幸せを知ってても手に入れなかったのだから。”
自分の持ってる花に視線を移す。
“からたちの花”
“柿崎メグ”が好きだった花。
よく歌を口にしていた。
“思い出”の花、幸せな幸せな思い出を一杯作りたいと言った彼女の言葉だけ覚えている。
笹塚がカプセルに手紙を入れて桜の木の下に埋める。
僕は埋めた土の上に“からたちの花”を置く。
“僕は幸せがわからない。”
けど彼女は“知っていたから幸せを望んだ”のだろう。
だけどそれを手に入れれなかった。
彼女は……可哀想だ。
金糸雀が涙を流してるのでハンカチで拭いてやる。
泣き止む事はないがそれでもずっと拭き続けた。
暫くして気を取り直してカプセルの配布が行われた。
各個人にカプセルが渡されていく。
まだか、まだかと待っているとようやくカプセルが配られる。
僕はプレゼントに飛びつく子供の如く
急いでカプセルを開けた。
中には一枚の小さな小さな紙だけが入っていた。
半分にたたまれた小さな紙を開けるとこう書かれていた。

“幸せになって下さい、未来の僕”
昔の僕は……幸せじゃなかったのか?
紙を見ながら僕は呆然としてしまった。

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最終更新:2006年09月21日 21:50