――なんてこと……。
目の前の光景がいまだに受け入れられない。
閑静な住宅街の中に佇む大きな西洋風の屋敷。
庭は薔薇で埋め尽くされて、その様子から近所の人から『薔薇屋敷』と呼ばれて、一つの観光スポットのようなものにまでなっていた――翠星石と蒼星石の家。
だが――2階の部屋は黒く焦げた梁と壁が、さながら墓標のように天に伸びていて。
辛うじて残った箇所も真っ黒に焼け焦げて、原型を思い浮かべるのは難しいぐらいにまで至っている。
屋根は――まるで広島の原爆ドームのように曲がった梁が残っているだけ。
それらの傷痕が爆発のすさまじさを物語っていた。
薔薇が咲き乱れていた庭も――
消火用の水が徹底的に撒かれて水溜りがあちこちに出来ていて。
人々に薔薇は踏みにじられて無残な様相を残すのみだった。
「……なんで……こんなことするのかしら……!
彼女達が……ここまでの仕打ちを受けるようなことをしたとでもいうの!」
私は拳を握り締める。
「そんなこと……言われても分からない……」
やや困惑した素振りを見せる薔薇水晶。返答に困っているのが手にとるように分かる。
そんな彼女を見ていて――さらに苛立ちをつのらせる。
「こうなったら……絶対にこんなことをした奴を見つけ出してやる!」
2階の残骸を睨みつけながら、心の中に充満した怒りをぶつける。
「駄目……そんなことしたら絶対ダメ」
必死にそんな私を止めようとする薔薇水晶。
貴女――何考えているのよ。
翠星石と蒼星石がここまで悲惨な目にあわせた奴を野放しにするとでもいうの?
のんびりし過ぎているわね。
貴女は自分の友人がこんなことされて悔しくないわけ?
「こんなことまでやる奴……そんな奴に近づこうとしたら、真紅も危ないよ……」
薔薇水晶――そんなことぐらい、私は十分承知なのだわ。
「私は刺し違える覚悟よ」
「ダメ!絶対にやっちゃ……ダメだよ……。
そういったことは警察に任せたほうが……」
必死になりながら私を止めようとする薔薇水晶。
はん?
あんないい加減な連中に任せろと?
ここまでの日数を置きながら、犯人はおろか、蒼星石の居所も見つけられない奴らに?
何寝ぼけたこと言ってるのよ。
「もう待ってられないのよ。私がやってやる。
こんなことした連中を見つけ出して、蒼星石をどこに連れて行ったか吐かせてやる!」
「落ち着いて……あてはあるの?」
「分からないわよ!今からそれを探し出すのよ!
どうせ、また今回の事も旧校舎の呪いにかかったなんて言われているんでしょ!
そんな事を言いふらしている連中からあたる!
カモフラージュのためにそんなこと言い出しているのに決まっているから、そいつらが手がかりを知っているかも!
いや、そいつこそがこんな恐ろしいことをやった旧校舎に巣食う『魔界の死者』に違いないわ!」
「そんな……無茶苦茶すぎるよ……」
薔薇水晶と押し問答を繰り返していても時間の無駄だ。
もう、じっとしていられない!
「じゃあ行ってくるわね!さよなら!」
私は薔薇水晶をその場においたまま走り出した。
「……ちょっと待って!真紅!」
呼び止める薔薇水晶に振り返ることなく、私はその場を走り去った。
※※※(ここで視点変更)※※※
次に向かったのは――学校だ。
私は車を降りると、そのまま校門をくぐる。
時計は16時を回っていた。
普通なら授業が行われているはずなのだが――その気配は全くない。
校舎にも校庭にも、生徒の姿はない。
そうだ。
今日は休日。学校が休みで生徒がいないのも当然だ。
しかし――部活かなんかで普段ならこんな時にもいるのでは?
そんなことを思いつつ、私は旧校舎の入口をくぐろうとした。
「あれ、あんたはゆうべの?」
背後から誰かが声を掛けてきたので振り向く。
作業着を着て、ヘルメットをかぶった中年の男性。
確か、隣の建設現場の現場監督だという男だった。
「こんなところに何の用で?ここはうちが資材を置くのに使わせてもらっているけど、中は老朽化して危ないし、ごちゃごちゃしているから、入るのは遠慮した方がいいなぁ」
私は捜査のために入ると、警察手帳を見せようとしたが……しまった。
車の中に上着を置いてきたのだが、手帳はその中にしまっていたのだった。
急いで車に引き返そうとした時。
「あれ?どうかしたのですか?」
今度は女性の声が。
この学校の教諭の草笛みつとかいう女だ。
確か、彼女は……。
「え?この校舎が気になって?分かりました」
草笛は即座に私の意図を読み取ったのか、作業員の方に向き直り、言った。
「私が立ち会いますので、ご心配は結構です」
「そうですか。まあ、足元には気を付けて下さいよ」
現場監督はそう言って、校舎に入り込む私と草笛を見送った。
「しかし、今回は何の用事ですか?」
決まっているじゃない。見落としている証拠がないか検証に来たのよ。
ここは金糸雀の一件で矢部が検証を行っているが……正直な所あやふやなまま終えていて、全く当てにはならない。いい加減すぎるにも程がある。
そう言うわけで、昨夜も訪問したのだが。
もっとも、そのときは彼女の姪の金糸雀の件に関する質問も行おうとしたのだが、彼女はいきなり私に進路指導の件を話してきたのだ。
何をやり出すのかとも思ってしまうのだが……まあ、これまでに三者面談を行おうとしても、私の予定がかち合わないために延期させつづけてきたのだ。
私も一応は保護者ということで向こうが認識しているのだ。仕方がないといえば、仕方がない。
結局、この進路指導の面談と、そのあとに起こった旧校舎での探索劇のために、私がやろうとしていた聞き込みも――旧校舎の検証も満足行くまでは出来なかった。
もっとも――ゆうべの時点でいろいろと発見はあったわけだが、あの時は照明がない状況で行っていたので、見落としがあったかもしれないが。
とにかく、廊下を進みながら草笛に昨夜やりたかった質問を行う。
「え?カナが殴られた時のことを話していたかって?
ええ。話していましたよ。
あの時、カナは階段の途中でヒナちゃんを追いかけようとして、階段の下に目をやった時に、頭を殴られたみたいです。
え?で、ヒナちゃんは人影を見たというけど、どこからそんな人影を見たかって?
なんでも、2階の廊下のほうからヒナちゃんに向かって歩いてきたのを見たらしいですね」
なお、後の質問は実を言うと雛苺にも行っていたのだが……特に相違はない。
さらに質問を続ける。
「カナが殴られた時に上から誰かが歩いてくる足音を聞いたかって?
そういえば……それも話していたけど……そんな音はあまり耳にしていなかったらしいかった……って、そんな質問なぜ私なんかにするのです?」
少し不快感を示す草笛。本人に聞けと言わんばかりだ。
もちろん、本来ならそうするべきなのだが、矢部のいい加減な訊問のために、こんなことをする羽目になっているのだ。
重要なことをあまり訊かずに、金糸雀の髪をズラだと思い込み、そうでないことがわかるとぞんざいに扱ったせいで、彼女はすっかり警察に不信感を示し、こちらの質問に答えることを拒否するぐらいにまでなってしまったのだ。
(そのときはさすがに私もキレて、矢部のヅラを窓から放り投げてやったが)
もっとも、私がなんとか彼女に謝り倒し、被害に遭った状況を聞き出したのだが、その内容と草笛の言った内容には相違はない。確実と見ていいだろう。
とにかく、念のためと草笛には言う。
そうこうしているうちに件の階段に辿り付く。
階段を上るたびにギシギシと木がきしむ音がする。
もっとも、すぐ隣では建設工事が続けられていて、金属を打つ音が中に響いていて、そのきしみもかき消されそうになっているが。
2階まで上り……問題の3階への階段へと向かう。
聞いた話では、ここは普段は11段だが……12段や13段になっているときがあるという。
そして、それを見た者には必ず災いが降りかかるという――どこでもありがちな都市伝説である。
階段の途中には血痕が数個――金糸雀が殴られて、階段を転げ落ちたときに付着したものだった。
踊り場までたどり着くと、私は踊り場を少し歩き回る。
ギシギシという不快な音がする。
そして、階段の10段目と踊り場の床、さらには踊り場から3階へと登る段や周囲の壁を丹念に見つめる。
「何か気になる点でも?」
草笛がそんな私の顔をじっと見つめる。
――これで十分だった。
私はここを出ましょうと彼女に言った。
一緒になって旧校舎を後にする。
「おかげでカナも体調が回復して、来週には退院できる見込みだと主治医の先生がおっしゃっていました」
嬉しそうに話す草笛。
確かに自分の姪の事だ。そうなるのは至極当然のこと。
夜は連日病院に泊りがけで金糸雀を看病していたのだ。
もちろん、翠星石が襲撃されたり、放火事件があった時も。
(これは看護師から裏を取っている情報だ)
「しかし、下手したら死亡していたというでしょ。それをあの主治医の先生が手術してくれて……日本でも有数の脳外科の先生に診てもらって、本当によかった……」
私の脳裏に一人のとある人物の顔が浮かぶ。
「その先生って?決まっているじゃないですか。○○病院の入江先生ですよ」
彼女に、金糸雀がメイド化したらその先生をぶん殴るようにと伝えて、車に乗り込み、学校を後にした。
※※※(ここで視点変更)※※※
思ったとおり、今回の一件は妹も姉の受けた旧校舎の呪いの報いを受けた噂が広まっていた。
コンビニ、本屋、ゲームセンター、学習塾……私の学校の生徒がよく出入りする場所を探し回っては、そんなことを口にしている人を捕まえる。
そして、尋ねる。
「貴女はどこで、だれからそんな話を聞いたの?」
と。
「そんなの友達から聞いたから」
「知らないよ、そんなの。先輩から聞いただけだし」
返ってくるのはそんな答えばかり。
「嘘よっ!!」
私はしつこく訊き返したが、やはり返ってくる返事はそんなものばかりだった。
時には、そいつの胸倉を掴んだり、殴りそうにもなったが結果は同じ。
変な目で相手は見てきたが、そんなことはどうでもいい。
そして、その噂の出た元を懸命にたぐってみたが……
それはなんとクラスメートのベジータだった!
「あれのこと?いやあ、今回あんなえらいことが起こったから、呪いかと思っちゃってな」
そんな根拠のない憶測を人に言いふらしたというの?
何のために?
「何のためって……話のネタになると思ってだが……」
そんなことで噂をばら撒いたの?貴方は?
何考えているのよ?おかしいわよ、ベジータ。
「おかしいのは貴様のほうではないか!」
おかしいと言う奴がおかしいのだわ!
そうだ……こんなこと言ってごまかしているのに違いないのだわ!
こいつこそ、やっぱり翠星石や蒼星石をあんな目に遭わせて、自分のしたことを噂話でうやむやにしようとしている!
「本当のことを言いなさい!」
「貴様、頭がイカレたのではないか?貴様みたいな奴につきまとわれても迷惑だ!」
ドンッ!
ベジータは私を勢い良く路上に突き飛ばした。
痛い!
私は勢い良く腰を打ち付けた。
真夏の太陽で熱せられたアスファルトの熱が伝わってくる。
ふと、目に入ったのは……ごみ捨て場。
そこにあった――鉄パイプ。
私はすぐさまそれを手にして――
「何をする気だ、貴様?」
怪訝そうに私を見てくるベジータ。
ブンッ!
ためらうことなく、ベジータの体のすぐ真横に鉄パイプを振り下ろす。
空を切る音が周囲に響いて……しばしの沈黙が周囲を支配する。
ベジータの頬から一筋の汗が流れ落ちるのが見えた。
「何度も言わせないで。本当の事を言いなさい。
でないと本気で殴るわよ」
「ま、待て!早まるな、真紅嬢!
本当に何も知らないのだ。この噂は俺が勝手に想像した作り話だ!」
「嘘よッ!」
私は再びベジータに鉄パイプを振り下ろした!
「ひっ……勘弁してくれ!」
ベジータは腰を抜かして、今にも泣きそうな顔で逃げ出した。
「待ちなさい!」
私はすぐさま後を追いかけた。
「……ちょっと、あの娘危ないよ!警察呼べ!」
「君、自分のしていることが分かっているのか!?」
何時の間にか周囲の人が私の方を見て取り押さえようとしていた。
さらには携帯電話で話をしている人も……恐らく警察を呼ぼうとしている!
……まずい!
思えば、この状況を見たら私が一方的にベジータを襲っているのは明らかだった。
今、ここで捕まったりしたら私の話なんかは信じてもらえず、補導されて話はうやむやになってしまうかもしれない!
そんなことになったら、すぐに真相を探ることなんか到底出来ない!
仕方がない、今はあきらめることにしよう。
私は鉄パイプを放り投げて、その場を逃げ出した。
数人が追いかけてきたが、路地裏を懸命に走り回り、何とか追っ手を撒いた。
はぁはぁはぁ……。
私は息を整えながら、追っ手がいないことを確認する。
……考えてみればベジータが犯人だなんて根拠も全くないじゃない。
いや、でもそうでない根拠もない……。
私は懸命にこれまでのことを整理しようとした。
だが、いろいろな思念が私の頭の中を渦巻いて、すぐにはできそうにない。
とにかく、落ち着きなさい……!
クールになりなさい、真紅!
何とか心を落ち着かせようと必死になりながらも、道を歩く。
見たことがある景色……って、私の家の近くじゃないの!
そうだ……くんくんに聞けば……絶対に分かるはず!
私はすぐさま家に辿り付いて、玄関を押し開けて中に入った。
時計を見ると……既に4時を回っていた。
太陽は少しづつ、西に傾いていた。
家には相変わらず誰もいない。
構わず、部屋に駆け込むとパソコンのスイッチを入れて、チャットに接続した。
目的の人物は……いた!
私はすぐさまメッセージを打ち込む。
これまで私が見たことや、蒼星石のことも全部!
くんくん>そうかい。大体真相が見えてきたけど……
決定的な証拠にはならないな。
ルビー>また。その台詞なの!聞き飽きたわ。
メッセージを打ち込みながらも苛立ってくるのを感じる。
証拠が欲しい、足りないばかり!
テレビのくんくんなら、ちょっとの証拠でもすぐに真相を探り当てるというのに……!
やっぱり……こいつは本当のくんくんなんかじゃない!
ルビー>もういいわ。貴方はあてにならない!
くんくん>落ち着きなよ。
ルビー>私は落ち着いているわよ。
真相は私自身で探るわ。今まで相手をしてくれて
有難う。一応礼は言っておくわ。
くんくん>相手は危険な奴かもしれないよ。
君の命も危ないかもしれないよ!もう、首を突っ
込むのはやめなさい!
ルビー>貴方も他の人と一緒ね。まあ、心配してくれる
のは嬉しいけど、私は自分の命なんか惜しくない
から。私が万が一、死ぬことがあったら、せいぜ
い貴方の愚鈍さを恨むことね。じゃあ、さようなら。
くんくん>待ちなって!
こいつにこれ以上話しても無駄だ。
所詮は顔に見えない相手。大変なこととはあまり思っていないのだろう。
まあ、対岸の火事程度にしか見ていないでしょうね。
さて、ここからは私一人で真相を探ることになるけど……あとはどこを探せば……?
少し考える。
結論はすぐに出た。
そうだ……翠星石は旧校舎で何回も転んだから……そこに手がかりが!?
そうしたら、旧校舎ね!
私はすぐさま家を飛び出した。
「……真紅……」
背後から私を呼びかける声。
振り向くと……声の主は薔薇水晶だった。
「何の用?私は忙しいの。貴女に構っている暇はないわ」
私は突き放すように話す。
「……私も一緒に行く……」
はぁ?
さっきは無理矢理止めようとしたくせに、今更何を言い出すのよ。
「……翠星石と蒼星石をあんな目に遭わせた呪いの正体……私も探るのを手伝う……。
さっき、きらきーお姉ちゃんから電話があって……このことに首を突っ込むなって言われた……。遠くに住んでいて、あまり家に帰ってこないくせに……こんな時だけ保護者ヅラしているのにむかついて……このままじゃ翠星石と蒼星石がかわいそう……」
あくまで普段のように抑揚のない声で話す薔薇水晶。
しかし、その目はすでに獲物を探す猛獣のような光を宿していた。
「そうなの。ありがとう。付いてきてもいいわ。ただ、私の邪魔はしないで」
「……分かってる……」
彼女が返事をすると同時に、私達は学校へと走っていった。
旧校舎の前。
時計はすでに6時を過ぎていた。
空はすでに赤くなっていた。
「行くわよ」
「……うん……」
私と薔薇水晶は意を決して、旧校舎の中に入り込んだ。
窓からは夕日が中を照らしていたが、それも徐々に薄くなっていく気がする。
廊下を突き進み、階段のところに辿り付く。
階段室には窓はなく、薄暗く不気味さをかもし出していたが、もはや気にならない。
目指すは『魔の階段』と『血染めの印刷室』!
いずれも今回の一連の騒ぎが起こった舞台である。
手がかりは、きっとそこにある!
ギシ……ギシ……。
静まり返った旧校舎の中に、私と薔薇水晶の2人分の足音が階段の軋む音となって、響き渡る。
昼間はうるさい隣の建設現場の騒音も、今はない。
気味悪くも思えるのだが、それに構わず階段を上る。
2階にたどり着き、ためらうことなく3階への階段――『魔の階段』へと足を伸ばす。
段を上るごとに、相変わらず響くギィギィという音。
ふと、そこで段の数を数えた。
今で3段目……あとは8段……。
そう思い、上をふと見上げた時――!
――!!
目の前に続く段の数は……
……10段だった!?
思わず立ち止まって、登った段の数を数え、もう一度上に続く段の数を数える。
「……どうしたの……真紅……」
薔薇水晶が2階のところから、不安げに声を掛けてくる。
「嘘よ……段が増えてる……」
「え……?」
彼女も段を数え出す。
下に3段……上に……10段!!
そんな……!
頬から血の気が引くのを感じる。
冷汗が静かに頬を伝う。
途端に、全身をおぞましいぐらいの寒気が襲いだした。
バタンッ!
背後から何かが倒れる音がした!
慌てて後ろを振り返ったとき……
――背後に何者かの気配が!
すかさず振り返ろうとしたが……遅かった。
口元に布らしきものを背後からあてがわれる。
薬の匂いがして……急激に意識が遠のく。
目の前が急激に真っ暗になり……
そのまま気を失って……。
※※※(ここで視点変更)※※※
19時15分。
私は次の目的地にたどり着くと、すかさず車を降りた。
中に入り込むと、階段を上る。
向かったのは……真紅の部屋。
ドアを開ける。
窓から今にも沈もうとしている西日が目に入る。
まぶしい。
この部屋を含め、家の中には真紅の姿はない。
改めて、部屋の中を眺める。
布団がまくられたままのベッド。
床に脱ぎ散らした学校の制服。
椅子に掛けられている制服の上着。
ベッドの脇に置かれた学校の鞄。
電源が付けっぱなしの机の上のパソコン。
私はためらうことなく、手袋を付け……机の中や鞄の中をまさぐった。
しかし……目的のものはない。
雪華綺晶の言うことが正しいのなら……目的のものはあるはず!
次に制服の上着のポケットに手を伸ばす。
すると……何か手ごたえがあり取り出すと……。
それは数枚の紙だった。
丹念に机の上に広げて、一枚一枚改める。
ほとんどはコンビニのレシートだったり、メモだったり、プリクラだったり……。
ちなみにプリクラに写っているのは、翠星石と蒼星石……そして、真紅。
――ん?
その紙の束の中に一枚――雰囲気が異なるものを見つけた。
それは――何か黄色がかった紙片だったが――紙質が他のメモ用紙なんかと違う。
やや固く――何か黒系統の線が印刷されていた。
――あった!!
私はすかさず、自分のポケットからチャック付きのナイロン袋を取り出すと、丁寧にしまいこみ、封をする。
そして、私は電話を掛けた。
相手はもちろん雪華綺晶。
「あったのですね。これではっきりしましたわ。あと一つ確認したいのですけど、翠星石の放火事件があったとき、現場にあった遺留品にあったものは何でした?」
今更何を言うのよ。まあいいけど。
「……なるほど『XとY』ですね。となると、大体真相はつかめてきましたわ。
で、真紅は今、いないのですね?」
彼女が話すのを聞きながらも、私はふとパソコンに目をやった。
どうやらチャットをしていたらしい。ログの時間を見ると17時20分。
内容は……え?
ちょっと、これって!?
ルビーって人物がここから書き込んだみたいだけど、これが真紅……!
真紅……何考えてるのよ!
全身から血の気がひくのを感じた。
私はすかさず、そのチャットのことを雪華綺晶に話す。
「そんな……で、真紅のハンドルネームは?」
雪華綺晶がすかさず訊いてきた。
彼女もそれを聞いて、動揺していた。
ルビーだと告げると……彼女は静かに話し出した。
「それ……私にも責任がありますわ……。
相手のくんくんというのは……私のハンドルネームですの……」
何ですって?
何ということをしてくれたの!貴女!
「本当に申し訳なく思っていますわ。まさか、ルビーが真紅だなんて思っていなかったですから。てっきり、彼女の学校に通う別の生徒だと思っていましたから……」
まったく、事は重大よ!
「分かっています。実を言うと、今私もそちらに向かっています。
ばらしーちゃんにちょっと注意したら、喧嘩になってしまって……心配になって新幹線に飛び乗りましたわ。先程、名古屋を出たところですから、まだ時間は掛かりますが……」
そんなことはどうでもいい!
それより、貴女どうするつもりなの?
「実はばらしーちゃん、真紅と一緒に事件の真相を探るって言って、電話を切ったきり、それから彼女の携帯に繋がらないのです。
とにかく、私が考えた真相から見ると、相手は大変危険ですわ。申し訳ないですけどお姉様にはすぐに動いてもらって……」
分かっているわよ、それぐらい!
私はすぐさま家を出て、車に飛び乗った。
で、貴女の考えた真相とやらは?
車載の警察無線に手を掛けながらも、まずは彼女の話を聞くことにした。
「お話しますわ。結論から言いますと……」
-to be continiued-(学校の七不思議(8)へ)
(今回の他キャラ)
矢部謙三@TRICK
入江京介@ひぐらしのなく頃に
(いずれも名前のみ)
(注意)
さて、ここで前に雑談所で話した選択肢を設けます。
次回より、いわゆる真相編に入りますが、この話は論理的(といえるか微妙ですが)に考えて2つの結末が考えられます。
それを踏まえて今回の選択肢を設けさせていただきます。
場所は最後の方の雪華綺晶のセリフの
>「……なるほど『XとY』ですね。となると、大体真相はつかめてきましたわ。
です。この『XとY』の内容になりますが、選択は以下のとおりです。
A:『焼けた乾電池と発泡スチロールの燃えカス』
B:『焦げたガラス瓶とマッチ箱の紙片が焼けた灰』
回答は雑談室、もしくは球掲示板の雑談所で頂ければ幸いです。
なお、できれば双方を掲載しようかと思いますが、土曜までに回答の多かった方を先に掲載する方向です。
ただ、片方は雑談所でも述べました通り、鬱系統になりますのでご注意を。
お騒がせして申し訳ありませんが、ご回答お待ちしております。
(次回掲載は9月23日(土)の予定。回答はそれまでにお願いいたします)