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 んんっ……。


 目を覚ますと……最初に目に入ったのは自室の天井。
 窓からはまぶしい朝日が差し込んでいる。


 私は寝ぼけ眼を擦りながらベッドから抜け出した。
 気が付くと……制服のままだった。


 そういえば、昨日頭に来て、家に帰ってチャットをしてそのままで寝てしまったのだったわ……。


 時計を見ると8時を回っていて……。
 学校に行かなきゃ間に合わない、と思ったのだが、今日は学校は休みなのだ。


 私はため息をつきながら、一旦服を脱ぐとシャワーを浴びた。
 シャワールームから出ると、居間のソファーに腰掛ける。


 相変わらず姉の姿はない。
 昨日の晩あんなに偉そうなことを私に言っておいてだ。
 本当に心配に思っているのか、疑問に思えてくる。


 私は何気なくテレビをつけた。


 なんとやっていたのはくんくん探偵だった。
 この間、野球で中止になったぶんの振替放送だという。
 私は下着姿のままでいるのを忘れて、じっと見入ってしまった。


 ああ……さすがくんくんだわ。
 いよいよ、ここで名推理が炸裂……というところで。


 プルルルルル!プルルルルル!


 居間の電話がけたたましくなった。
 もう、何でこんないいところで電話が掛かってくるの!?


 私は画面から目を離さないようにしながら、受話器をとる。
 もし、セールスの電話だったら即切りしてやるつもりだった。


「もしもし!」
「……真紅……いたの……?」
 電話の主は薔薇水晶だった。
「携帯に掛けても繋がらなかったから……」
「さっき起きたところだけど。ちょっと今目が離せないのよ。後にしてくれない?」
「……それどころじゃない……」
 薔薇水晶の声は普段どうりの抑揚がないものだったが――どこか焦っているような感じがする。
 でも、今はそんなことはどうでもいい。くんくんの名推理の方が大事なのだ。
「何なのよ?」
 私はちょっと苛立ちを交えた声で話す。


「……蒼星石の部屋で爆発があった……」


 ……え?

 私は一瞬言葉を失う。
 彼女の口から告げられた、あまりに突拍子のない内容に。
 そして、我に返る。
 ちょっと悪い冗談もたいがいにして欲しいのだわと言おうとしたが。

「……昨日の夜中の3時頃に爆発したみたい。部屋は隣の翠星石の部屋も一緒に全焼だって……」


 嘘……。
 じゃあ、蒼星石は?彼女はいたの?
 それとも爆発に巻き込まれて……?

 私は頭の中に浮かんだ、嫌な想像を振り払うようにして彼女に問いただす。


「……彼女はいなかったみたい……怪我人や死人は出なかったけど……蒼星石はいなかったって……。
 今、蒼星石の家の前にいるけど……来る?」


 もちろん!
 私は即座に受話器を置くと、私服に着替えて家を飛び出した。
 くんくんはもはやどうでもよくなっていた。



※※※(ここで視点変更)※※※ 


 結局、今日も警察署の一室で朝を迎えた。
 昨夜の結菱家の爆破事件に関しての目撃者は、現時点では一切なし。
 今も一部の捜査員が聞き込みに回っているが、いずれも大した成果は上げられていない。


 私は大きく伸びをして、手元のビックルの瓶に手を伸ばし、一気に飲み干す。
 そして、煙草に火をつける。


「姐さん!報告があるじゃ!」
 石原だった。
 相変わらず、朝からハイテンションなことで。
 というか、その姐さんってのいい加減止めてくれない?
 極道映画の見すぎね。


「ええっとのう、0時を回ったあたりでガラスを割れた音が聞いた人がいたじゃ」
 何ですって?
 というか、人影は見たの?
「いんや。人影は見てないそうじゃ。聞いたのは、アスベスト使用の抗議をしちょるNPO団体じゃ。なんでも、2週間前から市内全域の建設現場を回っていたみたいじゃけ……」
「前置きが長い!」
 石原の後頭部に矢部のげんこつがめりこむ。
「ありがとうございます!」
 にやけながら威勢良く礼をする石原。
 何というか……漫才でもやったら?貴方達。


「とにかくですな、現場を通ったのは0時15分ですわ。現場の近所の家の建設現場を請負っとる土建屋との会合の帰りやったということです。
 パリンというガラスの音を確かに聞いたということですわ」
 結局石原と言ってる内容が同じじゃない、矢部。


 しかし……ここで一つ気になることを思いついた。
 2週間前からこの市内全域の建設現場の調査に赴いているということは……。
 私はその団体に確認してもらいたいことを矢部に告げる。


「え?蒼星石さんの学校の建設現場の査察をやったって?それが事件と何の関係があるっちゅうんですか?それで、査察をやったらそれはいつのことかと?
 よう分かりませんな」
 ほら、ひょっとしたら金糸雀や翠星石の件に関して何か目撃情報があるかもしれないじゃない。
「見てない可能性が高いんとちゃいます?」
 だから確認しろっての。とにかく聞いてみなさい。
「無駄足になりそうですな。こっちもいろいろ忙しいんですわ」
 つべこべ言わず、行け。
「それより、爆破事件の方が優先かと」
 いいから行け。
「何をやりたいのかさっぱり……」


 プチン。
 私の頭の中で何かが切れる音がした気がした。


 即座に私の手は矢部のアフロに伸びた。そして、髪を掴み取り、そのまま放り投げる。


 部屋の中を勢い良く舞うズラ。


「な、何をしますのや!!」
「あ、兄ぃ、えらいことじゃ!」
「じゃかましゃあ!!」
 石原をタコ殴りにする矢部。
 なんで、ここで石原にあたる訳?
 てか、こんどぐだぐだぬかしたらヅラ没収するわよ。


 慌てて、髪を元に戻し、部屋を出て行く矢部と石原。


 私はそれを見てため息を一つついた。
 そして、一気に立ち上がって、捜査本部を後にする。


 向かったのは、翠星石が収容されている病院。
 ためらうことなく、彼女の病室へと入り込む。
 もちろん、担当医も立ち会ってだが。


「貴女……誰ですか?」
 翠星石はややぼんやりした感じで尋ねてきた。
 一応、警察手帳を見せる。


「警察の人……前にも来ましたけど、言うことは一緒です。
 本当に何も覚えていません」
 まだ、記憶は戻っていないのか?
 私は主治医に顔を向ける。


「まだ記憶の方は戻る兆しはありません。とにかく、静養させて観察するしかありません」
 やっぱりか。どうやら彼女に聞いても見込みはない。
 そうだ。念のために彼女が頭に受けた傷のことについて確認しておこう。


「後頭部の延髄に近い部分を、鉄パイプのようなもので殴られた痕跡がありました。
 殴ったのは1回だけです。ただ、打ち所が悪ければ死に至っていたかもしれません。
 そのときのショックで脳が一時的に麻痺状態になりました。さらに仮死状態に陥っていて、脳に酸素が僅かな時ですが行き渡っていませんでした。この記憶喪失もその影響ですね」
 鉄パイプで一撃……もし殺害するなら数回は殴るはず。


 でも、仮死状態に陥っていたのならその時点で死んだと判断して犯人は逃げ出す。
 それならなんとか筋は通る。


 なお、凶器は発見されていない。
 慌ててその場に捨て置いたのなら、犯人は初犯である可能性が非常に高くなるのだが、現実はそううまくはいかないものだ。


 とにかく、ここに長居する必要はないだろう。
 担当医に礼を言ってその場を立ち去ろうとした。


「……貴女……私の知り合いか何か……ですか……」
 いきなり、翠星石の口からそんな言葉が出た。


 ――!!
 私も担当医も思わずその場に立ち止まる。


 確かに……彼女と私は実を言うと過去に顔を合わせたことはある。
 プライベートでだった。
 もっとも、それも数回のことだけど。


「私……どこかで見た気がします……貴女を……」
 ひょっとしたら……記憶が戻りかけている?
 そうしたら、事件の詳細もはっきりと分かるかもしれない。
 記憶を戻す糸口は私だ。
 私は思わず、彼女に問いただす。私の名前を言ってみなさいと。


「……申し訳ありません。やっぱり分からない……」
 翠星石は落胆した感じで呟いた。
 まあ、仕方がないだろう。
 今すぐに思い出せというほうに無理はあるのだが。


 いいのよ、気にしないで。
 私はそう言うと、病室を担当医とともに後にする。
 担当医もあまり深く考えずにゆっくりしていなさいと、彼女に優しい言葉を掛けていた。


「申し訳ありません。ご主人様……」
 何?
 私は一瞬立ち止まる。
 何かズレているような……。
「あはは。気にしなくていいですよ」
 担当医は無理に微笑みながら、病室を出た。


「私も期待はしましたね。でも、本当に記憶を取り戻す保証はないですから。
 脳は未知の分野でありますね。
 私も脳外科を専門としていますが、正直な所まだまだ分からない点が多いです」
 だから、いつ記憶を戻すかという事も分からないわけね。
「まあ、訓練を今後も行ってみます。日常動作を行わせていくというやつです。
 ひょっとしたら物のはずみで、さっきのような兆候を見せて、あわよくば記憶を戻すかもしれません。
 もっとも、彼女の日常の生活を知っている人が傍についてあげればいいですが。
 一番適任なのは、この間来ていた双子の妹さんなのですが……彼女にそう言ってあげてくれませんか?」
 そうだ、この担当医は現状を知らないのだった。
 私は、蒼星石が今行方不明だということ、さらに彼女の祖父もまだ日本に帰国していないことを言った。


「そうですか。本当に大変ですね。
 とにかく、ゆっくりもしていられませんね。こちらとしても何とか彼女が記憶を戻せるように、私が責任を持って対処いたします。貴女も彼女とは知人の間柄にあるようですから、ご協力を」
 もちろん、そのつもりよ。
「現時点では言葉遣いのところからリハビリを行っていきます。
 とりあえず、彼女の普段の言葉遣いはそんな現状から不明ですので、世間一般での正しい言葉遣いの指導を行っております。社会一般で好ましいとされるメイドさんの言葉遣いを基準にしまして……」


 ――は?
 ちょっと、メイドはむしろ社会では少数派、というより皆無なのでは?
 むしろ同年代の少女の言葉遣いを指導した方が効果が出るように思えるのですけど。
 そう思う私とは対照的に、目の前の担当医の顔つきは見る見るうちに険しくなる。 


「何をおっしゃっています。メイドこそ、今の日本社会に必要不可欠とされる要素、いや文化なのです!そもそも古来メイドはご主人様への絶対忠誠を誓い滅私奉公によって美徳と文化を築き上げてきたのです!!
 そんな素晴らしい社会を作ったのに近年の日本はどうですか!!
 メイドの心を忘れた若者は、ガングロ、ルーズソックス、派手派手なハワイ装束!!
 あぁあぁヤマトナデシコがなさけないッ!!
 お肌をすべすべにお手入れして過剰な日焼けには要注意!!ソックスはもちろんニーソですが、ガーターベルトも素晴らしい!!
 いやでもたまにはハイソックスも素敵です!!そして培われるメイドの心!!
 思えば日本はわびさびとメイドを忘れました。
 その結果がこの低出産率、超高齢化社会!!
 今や熟年人口は増え続け、萌えメディアもその層をターゲットにするのは時間の問題!!
 今までHビデオコーナーではキワモノ扱いだったオバサンシリーズがやがては一大コーナーを築くようになるのです!!
 オバサンとメイドの組み合わせはまさにトイレ用洗剤、混ぜるな危険ッ!!
 それを混ぜるとなぜかメイドでなく家政婦になり、家政婦は見ていたシリーズになっちゃうのです!!」

 その担当医は我を忘れて、訳の分からない自論を熱く語り出す。
 私も、その場にいたほかの患者も唖然とした。


「それはつまりメイドの絶滅ッ!!
 その時、月は砕け悲しみの雨を地上に降らし、地球をアステロイドベルトが覆う!!
それこそが預言書に記された最後の審判の日ッ!!
 全世界を偉大なるメイドカチューシャが覆いし時、真のメイド王が復活する!!
 ふはははお静かに、諸君はメイド王の前にいるのだ!!跪けッ!!
 小僧から石を取り戻せッ!!! 
 困った時のおまじない、リテ・ラトバリタ・メイドッ!!
 ふおおおおおおおおおおお!!!」


 バコン!
 無意識のうちに私は担当医の顔に正拳突きをめりこませた。


「ぐはあ!」
 担当医は途端に床に倒れこむ。
 てか、何をやらかすのよ、変態医師。
 逆に記憶を操作しているじゃないの。


 私はナースセンターにいた看護師長と思われる中年の女性を捕まえて、事の詳細を話す。
 その看護師長は途端に血相を変えて、数人の看護師を引き連れると、その医師をタコ殴りにしていた。


 まったく何というか……下手したら緊急逮捕よ。これ。
 私は大きくため息をつきながら病院を後にした。


 - to be continiued -(学校の七不思議(7)へ)


(今回の他キャラ)

矢部謙三および石原達也@TRICK

入江京介@ひぐらしのなく頃に

(注:一部文章は固有結界「メイド・イン・ヘブン」より引用)

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