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第三話 「触れ合い」


適当に入った喫茶店は少々古めだが
感じは良さそうな所だった。
適当な席に金糸雀と一緒に座る。
人と一緒に喫茶店だなんて初めてだな。

「しかし一緒の大学とはな……」
「カナも驚いたかしらー、兎の方向いてるのが誰かと思ったら
 ジュンだったかしらー。」
「はは……どうしてまた此処の大学を受けたんだ?」
「近いし何より理由はサークルかしらー」
「サークル?普通のサークルなら他の大学にもあると思うけど」
「此処は一風変わったサークルばっかりがある事で有名かしらー」
「へぇ……」

僕が此処を受けた理由は金糸雀と同じく近いからであって
他に受けた理由は特に無い。
大学の特徴やらなんやらをほとんどチェックせぬまま受けたから
サークルがうりだってのも知らなかった。

「ご注文はいかがなさいますか?」

店員が注文聞きに来たので急いでメニューから選ぶ。
まぁ……紅茶でいいか。
「紅茶で」
「プレーンオムレツかしらー」
「かしこまりました」

そう言うと店員は注文をしたものを伝票に書き
少しして厨房の方へと戻っていった。

「それにしても相も変わらず玉子料理が好きなんだな……」

金糸雀は昔から玉子料理が好きだった。
考えたら遠足の弁当は必ず玉子の山。
給食の玉子料理に至っては人に見つからないよう給食より前の時間に
他人の分まで盗み食いしてたくらいだ。
結局、それは口についた玉子などでばれていたが。

「玉子さえあれば生きていけるかしらー」

いや、玉子は一日一個、いや二個かな?
それぐらいしか食べたらいけないって。
まぁ金糸雀ならそんな事平気かもしれないが。

「何か入るの決めてたのか?」
「さっきも言った通りまだかしらー、ジュンは何かおすすめのあるかしらー?」
「ん……特に無いな、やはり。明日一緒にでも探すか?」
「それもいいかしらー、何時からがいいかしらー?」
「えーとちょっと待って……講義の時間を見るよ……」
そう言いバッグから自分の講義のコマ割表を見る。
高校の時と違い人によって時間が違うというのが凄いな。

「金糸雀のも見せてくれないか?」
「はいかしらー」

金糸雀の手からコマ割り表を取り自分のと比べてみる。
自分と同じコマは……あれ?

「……何かほとんど同じじゃないか?」
「?見せてかしらー」

金糸雀は僕の手から二人のコマ割り表を取ると
少しして驚いた顔を浮かべる。
そりゃあ驚くだろうな。

「まさにミステリーかしらー!」
「偶然にも程があるな……」
「なら偶然じゃないかもしれないかしら?
 もしかしたら神様や道化の起こした必然かもしれないかしらー」
「だとしたら神様や道化はさぞかし悪戯好きなんだろうな」
金糸雀と早く再会した事と言い
兎との再会と言い
ほとんどコマ割が同じ事と言い
此処まで来ると恐怖を覚えてくる。
此処まで来るとミステリー小説の主人公にもなれるかもな。
いやなりたくはないけれど。
ぱっと時計を見てみる。
もう喫茶店に入ってから結構な時間が経っている。
こんなに長い事人と話したのは久々だな……。
色々と考えてると店員が紅茶とプレーンオムレツと持ってくる。

「ご注文はこれでいいですか?」
「食べ終わった後にデザートにプリンをお願いするかしらー」

食後はプリン。
此処まで来ると最早中毒とも言えるな。
しかし金糸雀がおいしそうにプレーンオムレツを食べてるのを見てると
そんな事はどうでも良くなってきた。

「ジュンも一口食べるかしらー?」
「いや、いいよ。金糸雀が全部食べなよ」
「わかったかしらー、頂きますかしらー」

金糸雀はそれを聞くとまた食べ始めた。
食べている時も喋っている時も彼女の表情はとても楽しそうに見える。
彼女は幸せそうだ。何から何までと。
何事も楽しんでいる。
それに比べて自分は一体何なのだろう?
「何考えてるかしらー?」

気が付くと金糸雀が口に玉子をつけながら
僕の頬を突付いている。
自分の世界に入りきってたみたいだ。

「ん……何でもないさ。ほら、口ついてるぞ」

鞄から駅前で貰える様な小さなポケットティッシュを取り出す
その中から一枚取り出して金糸雀の口に当てて玉子を取る。
少ししてティッシュを口から離す。
玉子は……取れているようだ。

「ほら、気を付けなよ」
「あ、ありがとうかしらー」

そう言うと金糸雀は後ろを向いてしまった。
どうしたのだろう?

「どうかしたか?」
「べ、別に何とも無いかしらー!ちょっとトイレ行ってくるかしらー!」

そう言って金糸雀は席を立ってトイレの方へと行った。
何なのだろう?まぁいいや。
金糸雀と入れ違いに席に店員がやって来て食べ終わったオムレツの皿と
紅茶のカップを回収していく。
それを厨房に持って行った後、何かをこっちに運んでくる。
何だろうと思ったらプリンだった。
しかも写真じゃわからなかったがやけにでかい。
まさにプリンの中のエベレスト。
これを食べるのか?
あまりの大きさに呆気に取られていると金糸雀が戻ってくる。

「……これを食べるのか?金糸雀」
「そうかしらー、ジュンも一緒に食べるかしらー?」
「だが断る、そんなに見てるだけでお腹一杯だよ」
「じゃあカナ一人で食べるかしらー、いただきますかしらー」

金糸雀は別に急ぐ必要も無いのだが早口で食べていく。
オムレツ食べた後によく食べれるな。
こんだけ食べてあれだけ華奢な体というのも凄いな……。
僕なんて何も食べないからこんなにガリガリだけど。
そんな事思って金糸雀を見てると
金糸雀はプリンの側についてるキウイを口に入れる。
思った以上に酸っぱかったのか口を尖がらせている。
甘いのは好きだけどこういうのは苦手なんだろうな。
辛いのを食べたらどうなるか見てみたいものだ。

「あ」

金糸雀がいきなり一言。一体何だ?
「どうしたんだ?」
「やっと笑ったかしらー」
「……え?」
「ジュンに会って初めて笑ったかしらー」

思わず顔に手をつける。
……僕笑ってたのか?

「可愛い顔かしらー」
「何を言ってるんだか」

何で笑っていたのだろう?
金糸雀の酸っぱがる姿を見ておかしいと思ったから?
その一瞬が楽しかったのか?

「……“幸せ”って何だと思う?金糸雀」
「いきなり何かしらー」
「いやさ、最近ずっと考えててさ」

ホントは最近どころか何年間も考えてる事なのだが
敢えて口には出さない。

「んーカナにとって幸せって“頑張る”事かしらー」
「普通は幸せの為に頑張るんじゃないのか?」
「それもあるかもしれないかしらー、けど頑張ること自体にも幸せはあるかしらー。
 講義やバイト、人間関係、何でもいいから頑張ると幸せは訪れるかしらー」
「んーそんなもんなのかな?」
「そんなもんかしらー、ご馳走様かしらー」
金糸雀がそう言うので見てみると皿の上のプリンが丸々と消えていた。一体いつの間に。

「んじゃーそろそろ行くか」
「うんかしらー」

席を立ちレジに行く。
料金は二人合わせても意外と安い料金だった。

「味も中々だけど値段も安くて中々いい店だな」
「そりゃそうかしらー、カナの妹が働いてる店なんだから当たり前かしらー」
「……?妹居たの?」

そんな話は今まで一度も聞いた事も無いし見た事も無い。
妹など居たのか……。

「うんかしらー、此処でいつもバイトしてるかしらー」
「へぇ……じゃあ妹さんが居る時にでもまた来てみるか」
「居るわよぉ」

後ろから声がして思わず振り向く。
男が着るようなウェイター服を身にまとい
微妙に銀色を帯びた様な髪をしている。

「……へ?」
「妹の水銀燈かしらー」
「よろしくねぇ」
「まさか店に居たとは……」
「毎日此処で働いてるんですものぉ、何時来てもいいわよぉ」
そう言うと金糸雀の妹、“水銀燈”はレジの方へと向かっていく。

「蒼星石さぁん、この二人カップルだからカップル割引ねぇ」
「わかったよ、値引きしとくね」

そう言うとレジの人はレジを再び打ち始めて
安い料金をさらに安くしだした。

「え……あの……」
「いいんだよ、君達は割引の対象なんだから」
「え、いや……だから……」
「はい、お会計ね」
「は、はい……」

雰囲気に流されてどうもカップルじゃないとは言えなく
安くなって料金を払う。
金糸雀は愉快そうに笑いながらやり取りを見ている。

「ありがとうございましたぁ、また来てねぇ」
「え、ええ……また来ます」
「それとお姉ちゃぁん、ちょっと人手が足りないのよぉ。
 手伝ってくれなぁい?」
「うー……しょうがないかしらー。妹の頼みは断れないかしらー。
 蒼星石さん手伝うかしらー。」
「ありがとうね、金糸雀」
「それとジュン御免なさいかしらー」
「いや、気にしなくていいよ。頑張ってよ。それじゃあ」
「またかしらー」
喫茶店のドアを開けて出て行く。
久しぶりにこんなに喋ってたのは久しぶりだ……疲れてしまった。
今日は早く帰って寝ることにしよう。
……それにしても笑ってたか?この僕が。
あの時僕は幸せだったのだろうか?
……考えても分からない。
まぁいい。
しかし……頑張る事が幸せか……。
頑張るって何を頑張ればいいんだろな?
頑張った事なんて無いからわかんないや……。
夕日が差す道を歩いて家へと向かっていく。
15分ほど歩いた所でようやく家へと着いた。
考えたらこんなに歩いたのも久しぶりだろう。
この所ずっと寝ていたからな。
そんな事を考えながらベッドへと向かう。
さて……これからどうして行こうかな。
これからの大学生活はどうするか……。
金糸雀の側に居よう。
今日金糸雀は僕を笑わせてくれたらしい。
もしかしたら彼女と一緒に居れば“幸せ”がわかるかもしれないしな……。
そうと決まったら今日は寝よう。
その前に顔を洗うか……。
渋々と僕は洗面所へと行った。
「お姉ちゃぁん、“おにいさま”はどうしてるのぉ?」
「そこら辺でバイトしたりぶらぶらしてるんじゃないかしら?」
「そうなのぉ。ジュンはもう彼氏ぃ?」
「ま、まだかしらー!」
「まだぁ?ふふ……“まだ”ねぇ」
「誘導尋問かしらー!」
「はいはい、姉妹仲良いのはわかったからきっちり働いてね」

蒼星石さんがこっちに来ながら言う。
相も変わらず綺麗なオッドアイかしら……。
惚れ惚れしそうかしら。

「蒼星石さんも姉妹仲がいいじゃなぁい?恋人同士じゃないんですかぁ?」
「す、水銀燈何言ってるんだい!ちゃんと仕事するようにねっ!」
「はぁい……あ、いらっしゃいませぇ」

そう言って水銀燈は入り口に客を迎えに行った。
水銀燈や蒼星石さんを見て思うがホント、ボーイのような服を
着てるなんて珍しい店かしら。

「金糸雀も頑張ってね」
「はいかしらー」

さて……頑張るかしらー。
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