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私の名前は薔薇水晶、こう見えてもれっきとした高校生だ。
さて、なぜ、私がこんなことを言っているのか、それは今私の前で優雅に紅茶を飲んでいる彼女のためだ。

雪華綺晶さん。私のクラスメートであり、文武両道、質実剛健、眉目秀麗、しかも良家のお嬢様だという折り紙つきの女性だ。
彼女を語るに当たって、クラスメート達は、私たちが似ているという。
外見的特徴は確かに似ているだろう。軽くウェーブのかかった髪、私の1番の特徴といえる左目の眼帯。
どれを取っても私と彼女は似ている。…雪華綺晶さんの眼帯は右目だけど。

でも、私はクラスメートたちが雪華綺晶さんと私が似ていると言う度に劣等感に苛まれる。
だって、そうだ。私の成績は頑張ってもせいぜい平均点、運動神経も中ぐらい、家も中流家庭、なにより口下手で閉鎖的で社交性が薄いそんな私が、
完璧超人と言ってもいい雪華綺晶さんと似ていると言われても苦痛なだけだ。

雪華綺晶さんも口には出さないが、きっと迷惑に思っているに違いない。

「薔薇水晶さん?」
「は、はい!」
「どうかしましたの?」
「い、いえ、なんでもないです…」
「そう」
まただ…何で私は人前に出るとこんな口数が少なくなってしまうのか…情けなくて穴があったら今すぐにでも入りたいぐらいだ。

今、私たちは放課後の学内カフェテラスで二人っきりでお茶をしている。雪華綺晶さんに誘われたからだ。
放課後に呼び出された理由は薄々わかっている。おそらく私に対してなにか文句の一つでも言いたいのだろう。
雪華綺晶さんは学園の人気者だ。その雪華綺晶さんと似ている私は稀に、厭味や、妬みの対象として扱われてきた。
雪華綺晶さん本人は、今の今まで言い出さなかったが、それもどうやら我慢の限界に達したのだろう。

私はいつでも人の非難を受身で受けてきた。だから、雪華綺晶さんが、私に文句があってもそれは正当な事なんだ。
私なんかと似ているなんて言われて、不満があっただろう。悔しかっただろう。それを思えば、遅すぎるくらいだ。
でも、本人は黙ったままだ。席に着いてお茶を買ってきてからほぼ無言だ。これでおよそ10分ぐらい経つはずだ。
しかし、いつまでも黙ってるわけにはいかない。
恥ずかしいけど、どうやらこちらから話しかけないと、進展しないようだ。

「あの雪華綺晶さん…」
「なんでしょうか?」
彼女はカップをテーブルに置き私の目を見て、聞いてくる。そんな何気ない動作もいちいち洗練されている。

「今日は私に話があるって…だから…呼び出して…」
ああ、もう…どうして私はこうなの!?言いたい事の半分も伝えられない。とても惨めな気持ちになる。
でも、雪華綺晶さんはわかってくれたようだ。静かに話し始める。
「わたくし一度貴女とお話ししてみたいと思っていたんです」
やっぱり、今まで薄々だけれど彼女からの視線は何回も受けてきた。気付かない振りをしてきたけれど…。

「ですから、今日は思い切って、貴女とお話したいと思いお茶会のご提案をしたんです」
「…そう…なんですか」
「でも、いざ目の前にしてみると駄目ですね。お話ししたいことが沢山あったはずですのに、まったく言葉が出てきませんでした。ごめんなさい」
そう言うと驚く事に、雪華綺晶さんは私に向かって頭を下げてきた。
私はあわててフォローした。
「あ、頭を上げてください!私こそ、折角雪華綺晶さんからお誘いしてもらったのにずっと黙りこくって!…だから、雪華綺晶さんが話しづらかったのも当然なんです!!」
その後、私たち二人は「私が悪い」、「いや私が悪い」といい続けた。
そんなやり取りを続けてるうちにどちらともなく、やがて「プッ」とお互い吹き出して笑い出してしまった。
雪華綺晶さんのこんな笑い顔初めてみるなぁ。私はそんなことを考えながら。

「ふふふっ、本当におかしいですね。私たちお互い遠慮しあって、ふふふっ」
「ふふっ、はい、本当に」

いつのまにか私たちの前にあった。重く暗鬱とした壁はなくなっていた。いや、雪華綺晶さんが取っ払ってくれたんだ。

「あーホントにおかしかったですわ。こんなに笑ったのは久しぶりですわ」
雪華綺晶さんは本当におかしかったのか、目にハンカチをあてて拭いていた。よっぽどおかしかったのだろう。
「雪華綺晶さんは、いつもみんなの中心で笑ってるじゃないですか」
私の言葉に雪華綺晶さんは、一瞬キョトンとしていたが、すぐに話し始めた。
「ええ、ご学友の方々にはいつも良くしてもらっています」
「だったら…」
なんで私なんかと。という台詞は出てこなかった。それは、

「でも、本当は心から笑うことはほとんどないんですよ?」

彼女の言葉によってだ。
「どうして?」
彼女は、「うん…」と一言呟き話し始めてくれた。

「私は今まで、家の家名や周囲の期待に応えようと思い、生きてきました。でも、そのおかげでいつまにかわたくしと周囲には重くて分厚い壁が出来上がってました」
「そんなこと…」
「いえ、わたくし自身のせいなのです。今まで周囲の期待に応えようとするあまり、薄っぺらで、一定の距離を置いた付き合いをするようにしていましたから…。
 だから、憧憬や尊敬の感情を向けられる事はあっても、友愛の情を受けうことはほとんどありませんでした…」

私は言葉を失った。完璧だと思っていた雪華綺晶さんもこんなって言ったら悪いけど普通の悩みを持っていたなんて、私には驚きだった。
「わたくしあなたが羨ましかったんです。」

え?今彼女は何と言った?私が羨ましい?そんな馬鹿な
「馬鹿なことではありません!」
…どうやら口に出ていたようだ。
「す、すいません。でも、本当なんです」
雪華綺晶さんの目はとても真摯で透き通っていた。とても嘘を言ってるようには思えない。
でも、いまいち私は納得できない。
「えと…でも、なんで私なんですか?私は雪華綺晶さんのように頭もよくないし…口下手で友達も少ないし…社交性もないです」
でも、私の言い訳を雪華綺晶さんは首を振って否定した。
「それでもあなたは自分のことを表現できています。わたくしなんかよりもずっと本心で」
「………」
「わたくしには、本当の意味で気の置けない友人というものがおりません。でも、あなたにはいるでしょう?桜田さんや水銀燈さん、他にも心を開いてくれる方が沢山おります」
確かに、ジュンや銀ちゃんは親友だ。交わす言葉は少ないが真紅たちとも仲がいいと思う。
それが、雪華綺晶さんには羨ましいという。

「貴女とわたくしは似ているとクラスメートの方々からも言われます。でも、わたくしはそう思いません。確かに外見は似ていると思いますが、
 貴女はわたくしなどよりずっと眩しい人です。そのような人と比べられるのはとても強いプレッシャーでした…」

なんてことだ…雪華綺晶さんも私と同じ悩みを持っていたんだ。

「なんで…こんなに似てるのに、こんなに違うのかといつも考えていましたわ」
「そう…だったんですか…」
私は既に答える言葉を失っていた。だから、続く言葉に対処できなかった。

「…だから、わたくしはあなたとお友達になりたいと思っていたんです」

「…………はい?」
多分この時の私は、よっぽど間抜けな顔をしていたと思う。

「で、ですからっ…よろしければ、わたくしとお友達になってくれませんかっ!?」
最後の方は、尻すぼみになりながら雪華綺晶さんはそんなことを言った。
うわぁ~顔真っ赤っかだなぁー。って違う!違う!

「わ、わたしとですか…」
「…は、はい…」
もう雪華綺晶さんは、耳まですっかり赤くして俯いてしまった。驚いた今日は驚きすぎだが、まさかこんな展開になろうとは夢にも思わなかった。
「やっぱり駄目でしょうか…?」

う!?可愛い……だから違うって!お返事しなくっちゃ!!

「あ、あの私でよければ…」
「本当ですかっ!!」
「きゃ!?」
雪華綺晶さんのあまりの勢いについ悲鳴を出してしまった。

「す、すいません。OKしてもらえると思っていたので…」
「そ、そんなことないです。ただ私なんかでいいのかと」
「もちろんです。薔薇水晶さん貴女とご友人になりたいと思っていたんです。ずっと、ずっと」
「あ、ありがとうございます。でも、どうして私なんかと?」
「そ…それは…、怒らないで聞いてくれますか?」
雪華綺晶さんが上目遣いで聞いてくる。ずるいそんな顔でお願いされては何を言われても怒れないではないか。

「あのですね。わたくしたち外見が似てらっしゃるじゃないですか?ですから、まるで姉妹のようだなと思い、本当の姉妹のように仲良くしたいって思いまして、わたくし一人っ子ですし…」
私は無言だった。雪華綺晶さんはその無言を悪い方に受け取ってしまったようだ。
「ご、ごめんなさい…やっぱり気持ち悪いですよね…」
と、今度は急に泣きそうな顔で言ってきた。今日はホントに色んな顔を見れるなあ。
それに、私もこんな感情が昂ぶるのは久しぶりだ。自分で言うのもなんだが私は動じない女だと思っているから。
「そ、そんなことないです。雪華綺晶さんにそんな風に思ってもらえてたなんて、嬉しいです」
「本当ですか?」
コクンと私は彼女の目を見て、大きく頷いた。ありったけの想いを視線に込めるように。
「ホッ」とようやく彼女も信用してくれたようで、その眼帯で覆われていない右目も今までで一番輝いているように見えた。

「そ、それではこれからもお願いします」
「こ、こちらこそお願いします」

私たちはまるで、お見合いの席みたいに頭を下げあった。
でも、それも正しいのかもしれない。これからは、親友という新しい関係へと私たちはなっていくのだから。

『これからもお願いします』が、私たちには一番ふさわしいのだろう。




~エピローグ~

「そうですわ!」
そうして二人で下校中の帰り道、雪華綺晶さんはまるで「わたくしとてもいいことを思いつきましたわ」といった感じで、いきなり声を上げた。
「き、雪華綺晶さん、ど、どうしたの?」
「それですっ!!」
「そ、それ?」
なんだろう。
「呼び方です!薔薇水晶さん、わたくしのことはこれからどうぞきらきーとお呼び下さい。本当に親しい人だけに呼んでもらっている言葉です!」
「きらきー?」
「はい、そう呼んでください」
彼女は本当に嬉しそうに笑う。ならこのぐらいなら私もよろこんでするよ。
あ、そうだ!

「ねぇ、きらきー?」
「なんですか?薔薇水晶さん?」

私はきらきーの目を見て、私に出来るとびっきり上等の笑顔で告げた。




「私のことは薔薇しーって呼んで?本当に大事な、大事な人だけに呼んでもらう私の名前で」




Fin
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