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「なつかしいな…」
「うん、懐かしいねぇ。」

それはアルバム
まだ真新しい革表紙
人工革の匂い
やわらかい手触り

それは思い出
出会いの記憶
あの日の夕陽
あの日の朝日
あの日の笑顔
二人過ごした時間

それは薔薇水晶
僕の彼女
僕の大切な女性
腕に抱きしめる暖かい感触
柔らかい肌
柔和な微笑


「ねえ、ジュン?」
振り向く、薔薇水晶。
その瞳、不安で、儚げで。
「なんだ?」
「ジュンは本当にあたしでよかったの?」
「変な事聞くなぁ。一体どうしたんだよ?」
「んーん、ただ聞きたくなっただけ。あたしなんかで良かったのかなって。」
「お前しかいないよ。僕には薔薇水晶しかいない。」
僕は後ろから彼女を優しく壊れないように、だけど強く誰にも離されない様に
抱きしめる。柔らかくて暖かい感触を感じ取る。
薔薇水晶を感じる。
「でも、まだあたし達大学生だよ?あたし達、きっと卒業の時には―――」
「離さない、就職難でへーこら言おうが何だろうが僕はお前を離さない。」
僕は彼女の言葉を切り、抑え込む。
「僕は約束したんだから、薔薇水晶を離さないって。それにだ、まぁ……
 惚れた弱みというかなんというか………うむぅ……」
恥ずかしいもんだ、こういう事言うのは。
「あ……えへへ……うん……うん、そうだね。あはは、何だか思い出しちゃった。」
「何をだよ?あ、恥ずかしいのは禁止な。って……ん。」
首を振り僕の腕を解いた薔薇水晶。そして僕の首に腕を回し抱きついてくる。
「恥ずかしくないよ、ジュンがあのとき言ってくれた事思い出したの。」
「ああ………」
僕も薔薇水晶の背中に腕を回し引き寄せるように抱く。
脳裏に浮かぶあの日の情景。

「もしジュンがいなかったらね、きっとあたしは昔のまんまだったよ……
 不思議だね、まるでギャルゲみたいだよね……」
「んー、ムードぶち壊しだな、おい。」
「えへへ♪でもね、本当なんだよ。あんな恥ずかしくてだけど嬉しい台詞
 なんてゲームのなかでしか聞いた事なかったんだもん。」
首を少し傾け微笑む。だけどすぐに僕の胸に顔をうずめてしまう。
「あたしはあれでジュンにべた惚れしました。ジュンが大好きで大好きで
 大好きで大好きになってしまいました。だからね、だからこそ不安に思うんだ。
 これがいつか壊れちゃうんじゃないのかなって。いつか、ううん、
 明日にでもジュンがいなくなるのかなって、不安になっちゃうんだ。」
ぎゅうと、僕の服を握り締める手。僕はそれをなだめるように髪を撫でる。
「…………ないって。」
「あるよ……きっと。」
「もしあるとしても、僕は、今はそんな事考えなくても良いと思うけどな。」
口をついて出た。
「…………」
「未来の事なんて誰にもわからない、だから僕は現在(いま)を大事にしたい。
 僕が薔薇水晶に惚れて、薔薇水晶が僕を好きになってくれて、それで
 今はこうやってほとんど同棲状態。それが今のすべて。それでお腹いっぱい。」
「ジュン………」
薔薇水晶が瞳に涙を浮かべ僕を見上げる。

「不安に思う事なんてない。まあ、そりゃ、別れる事もあるかもしれないけど
 今は知ったこっちゃない。僕は今、薔薇水晶といれて幸せだからさ。
 薔薇水晶はどうなんだ?」
「あたしも……幸せ。」
僕は薔薇水晶の涙を拭ってやる。
「なら大丈夫。不安に思う事なんてない。」
「うん、そう……だよね。でも……でも、もし不安にまた思ったら………?」
まだ不安げな表情で僕を見上げる薔薇水晶。
「なら、こうするだけだ。」
「え?あ………ん……」
口付け、キス。唇と唇を重ねあうだけの行為。
少し驚いた薔薇水晶もその行為に浸る。
はじめた僕もその行為に浸る。
お互い目を瞑り、唇でお互いの温度を感じあう。
長い時間そうしあって、名残惜しそうに離す。
「………ん。ジュンはだいたん……」
そう言いながらも嬉しそうに僕を見上げてくれる薔薇水晶。
「でも、不安はなくなったろ?」
「うん……でも、少し不安かな。」
「そか。それなら、もう一回………」
「ジュン………ん……」

では御伽噺をしよう

これは僕と薔薇水晶の出会いのお話

まるで三文芝居の様な出来すぎたお話

だけどこれは幸せな夢物語

始まりは青とピンク

閉ざした函

終わりはオレンジ

開かれた函


『きみとぼくと、えがおのオレンジ』
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