※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「あぅあぅあぅ……お部屋は4階になりますです」
 言葉の端々に意味不明な発音を交えながら、僕を案内する羽入。
 暗いロビーを横切り、エレベーターの前まで着く。
 だが、僕の前を歩いていた羽入はその前を素で通り過ぎた。そのまま横の階段へ
と足を踏み入れようとしている。
「あの、エレベーター使わないのですか?」
「あぅあぅあぅ、エレベータは故障して使えないのです」
 すまなさそうな顔をして階段を上る羽入。
 6階まで階段を上れというの?
 どうなってるんだよ、まったく。
 不満を漏らそうとも思ったが、羽入がおどおどと僕の顔色をうかがっているのを
目にした途端そういう気も失せた。
 何も言わずに階段を上る。

 ようやく4階まで着いた時には正直息が切れていた。
 最近運動不足かなとも思えてしまう。
 
 階段から廊下に出てそのまま奥へと進む。
 営業を止めてから年月が経っているのか、床には埃がうっすらと積もっており、
窓は薄汚れて、おまけにところどころに蜘蛛の巣が張っていたりする。
 照明は当然のごとく、ほとんどついていない。
 辛うじて非常口を示す非常灯が灯っていて、周囲を薄く照らしているだけである。

「この部屋になりますです」
 案内されたのは廊下の一番奥の部屋だった。ちなみに部屋番号は404号室だっ
たりする。
 ドアを開けて、すぐ横にある照明のスイッチを入れる。
 電気が灯り、部屋の中を明るく照らし出す。
 中は一応掃除はされているらしく、一見しただけではどこにでもある普通のホテ
ルの部屋だった。
 もっとも、よく目をこらすと、壁の隅の方に黒いカビが付いていたりもするが。
 中にあるのはベッドと椅子とテーブルと電話とが一つづつ。ポットと茶道具に灰
皿もあった。
 あとバスルームもあるのか、中にドアが一つある。
 しかし、故障中なんて紙が張られている。
「お風呂とかは使えないのかな」
 僕は何気なく訊く。
「あうあうあう……すみませんです。水が出なくて使えないです。お風呂は1階に
大浴場がありますので、そこを使って下さいです。お手洗いは部屋にはないですの
で、2階の階段横のトイレを使って下さいです。
 あと、もうすぐしましたらお食事のご用意が出来ますです。その時は内線電話で
お伝えしますです。ではごゆっくりおくつろぎくださいです……あうあうあう」
 羽入は相変わらずおどおどと落ち着きなく、僕の鞄を玄関に下ろすと、ゆっくり
とドアを閉めた。

「本当、こんなところで一晩過ごせっていうの」
 僕は椅子に腰掛けて、大きくため息をつく。
 テレビもなく、正直言ってこんなところにずっといるなんて苦痛になること請け
合いだ。
 それよりもなんとなく蒸し暑い。机の上にエアコンのものと思しきリモコンもあ
るので、スイッチを押す。空調の電源が入り、部屋の中に涼しい風が吹き込む。
 改めて部屋の中を見回す。
 クローゼットが一つに窓が一つ。
 外は当然真っ暗で何も見えない。
 しかも、ベッドには布団などの寝具はなく、マットレスが剥き出しになっている。
 普通のホテルだったらありえないよ、これ。

 僕は内心呆れながら、胸ポケットにあった煙草を取り出し火をつける。
 銘柄はKOOL。最近マルボロから乗り換えた。
 強いメンソールを含んだ煙を吸い込んでは一気に吐き出す。
 何となく落ち着いたなと思った時……部屋の中にどこか違和感があるのに気付く。

 部屋の中に掛けられている絵がやたらと多いのである。

 絵自体はどこにでもあるような風景画ばかりだった。
 しかし、普通なら1つだけ掛かっているケースが多いのに、ここでは4つもある。
 その時、ふと一つの知識というか噂が頭に浮かんだ。

 曰くがある部屋の場合は、絵の裏に札が張られているという。

 まさかと思い、煙草を灰皿でもみ消して、絵の一つに近づく。
 そして恐る恐る絵の裏を覗き込むと……

 ――!!

 あったのだ。
 まぎれもなく、どこかの寺で書かれたらしき札が貼られていた。
 仏教文字で書かれているのか、内容までは分からない。
 でも、そんなことなぞ正直どうでもいい。

 僕はすかさず絵から手を離し、椅子に腰掛けなおす。

 なんてこったい。
 僕はぼんやりと頭を上に向けて天井をぼんやりと眺めた。
 その時――

 プルルルルル……

 突然、机の上の電話が鳴り出して、思わず飛び上がりそうになる。
 だが、すぐに落ち着き、すかさず受話器を取る。
「もしもし」
「あぅあぅあぅ……蒼星石様、お食事の用意が出来ましたです。1階の食堂ま
でお越しくださいです」
 声の主は羽入だった。案内だけ告げると電話が切れる。

 結構、早いね。
 時計を見ると8時前。まあ、普通なら遅い時間か……。
 やれやれと思い、腰を上げる。
 部屋の外に出て、そのまま廊下を進む。
 403号室、402号室と部屋のドアの前を通り過ぎようとした。

 ドンッ!

 うわっ!
 僕は突然402号室のドアからした音に、思わず後ろにのけぞった。
 怯えのためか、息が荒くなっている。

 勘弁してよ、もう!
 僕は何とか心をなだめると、そのまま階段へと歩き出した。
 階段は非常灯しか灯っていなく、やはり薄暗い。
 何気なく階段を下りて、踊り場を折れてさらに下へと降りようとした……が!

「うあっ!」
 目の前に飛び込んできたものに、僕は情けない声を上げた。

 踊り場より下の段には、バラバラになったマネキンが散乱していたのだった。

「いい加減にしてよっ!」
 僕は頭にきて、散らばっていたマネキンを足で階段の端の方へと乱暴に寄せる。
 本当に趣味が悪い。
 水銀燈と雪華綺晶の顔を見ることがあったら、小一時間問い詰めてやりたい。

 階段を1階まで下りて、ロビーを通り過ぎようとする。
 そこにはソファーとテーブルが数個整然と並べられていたが、そのソファーの
一つに一人の女性が腰掛けていた。
 茶色がかった長い髪の綺麗な女性だった。
 年齢は20代後半といったところだろう。
 もっとも、机の上に広げた何かの資料らしき紙を目にしては薄ら笑いを浮かべ
ているのを見ては、不気味に思えたが。
 それ以上は特に気に掛けることもなく、その女性の後ろを通り過ぎ、案内の看
板にしたがって、食堂に辿り付く。

 中は結構広く、宴会場にあるような椅子とテーブルが並べられていた。
 もっとも人の姿は僕以外にはなく、照明も天井の蛍光灯が一つだけ灯いている
だけだったが。
 テーブルの一つに布を掛けられた何かが置かれていた。
 その脇に『404号室』と書かれた札があった。おそらく用意された食事だろう。
 何気なく、その布を取り去った。

「うわああ!」
 僕は布の下から出てきた中身を目にして、椅子から転げ落ちた。

 出てきたのは――大きな兎の首だった。

 そして――そいつは目を見開いて、僕をじっと眺めて――口を開いた。

「ようこそ、廃という名の美しい館へ!
 一見、廃墟に見える館もそれなりの美しさがあるのです!是非、貴女も味わうべ
きでしょう」
「ラプラス……?」
 僕は恐る恐る立ち上がって、その雄弁に語る兎の首をまじまじと見つめた。
 よく注意して見ると、テーブルには丸い穴があけられており、そこから首を出し
ているだけだった。現にその下には胴体がしっかりとあるのが見える。
 その張本人は僕もよく知っている、単に鬱陶しいだけの兎の道化だった。
「綺麗は汚い。汚いは綺麗。表裏一体になっているこれこそ美の極みと……」
 ラプラスは僕に構うことなく、延々と喋り続ける。
「君のごたくはどうでもいいから。さっさと目の前から失せて。
 でないと……切るよ」
 僕はどこからともなく、護身用の庭師の鋏を取り出した。

「…………」
 数分間、何ともいえぬ沈黙が食堂を支配する。

「やれやれ、分かりました。邪魔者は退場するとしましょう」
 ラプラスはすっと立ち上がった……頭を出したテーブルも一緒に。
 そして、そのまま歩き出した。
 もっとも、出口のところで机が引っ掛かってずっこけていたが、もはやどうでも
いい。本人がアホなだけだ。

 食事ってまさかこれだけ?
 僕はそう思いながら他のテーブルを見ると、もう一つ布が掛けられた何かが置か
れているのを見つけた。
 そこにも『404号室』と書かれた札があった。
 まさかと思い、テーブルの下を覗き込むが……今度は何もない。
 そして、恐る恐る布を取り去ると――出てきたのは普通の食事だった。

 僕はため息を一つつくと、椅子に腰掛け、食事に手をつける。
 すっかり冷め切っていて、正直あまり美味しくない。
 ないよりましかと思い、平らげると足早に食堂を後にした。

 ロビーへと再び差し掛かるが、ソファーのところには先程見た女の人が相変わらず
机の上の資料に目を通していた。
 どうでもいいと思い、通り過ぎようとした時……。

「くすくすくす……貴女、ここの宿泊客?」
 いきなりその人は僕を見つめながら話し掛けてきた。
 美しい女の人。でも、その薄ら笑いから放たれる不気味な視線に僕は一瞬その場に
立ちすくんでしまう。
「は、はい」
「そうなの。こんな所に泊まるなんてよっぽどの物好きかしら?」
「そ、そうじゃないんですけど」
「だったら、何故?」
「ちょっと罰ゲームでここに明日の朝まで過ごせといわれて……」
 僕は特に隠すことなく理由を告げる。
「そうなの。まあいいわ。こっちに来て。面白い話を聞かせてあげる」
 その人は僕に横へと座るように促してきた。
 特に逆らう理由もないので、何も言わず腰掛ける。

「自己紹介しておくわ。私は鷹野三四。本業は看護師だけど、民族学の研究もしてい
るの」
「僕は蒼星石といいます。今は大学2回生ですが」
「変わった名前ね。まあいいわ」
 鷹野さんは僕を一瞥すると、くすくすと笑いながら話を続けた。
「私はこのホテルがあるところに変わった因果があってそれを調べに来たのよ」
「因果って……何かあるのですか?」
「大有りよ。このホテルがあるこの森一帯は昔は一つの村だったのよ。といっても、
江戸時代の頃の話だけどね。
 その頃、大飢饉があって……飢えに苦しんだ農民が我が子を間引きと称して自ら殺
める風習がこの東北地方にあったのは知っているよね」
「は、はい。それは聞いたことがあります」
 高校の歴史の授業でそんなことを触れていたのを思い出した。

「この村でもかなりの幼い子の命が間引きによって消されたみたいなのよ。その風習
は昭和初期まで続いたというわ。本当に可哀相な話なのだけどね」
「はあ……」
 特にそれ以上何も言えず、相づちを打つ。
「で、戦後になってこの村は人が都会に流出して、無人になって廃村になって、バブ
ル時代を迎えて、このホテルが建ったのだけど……問題はそれから。
 自殺者が続出したらしいわよ」
 ここで鷹野さんは話を切り、僕の顔をまじまじと見つめる。
 そして、唇を三日月状に歪めた。
「オープンしてから1年もしないうちに20人の人が自殺したらしいのよ。それも飛
び降り自殺や焼死……さらにはバスタブで無理心中ってのもあったわね」
 ぞっとするような笑みで話す鷹野さん。
 思わず背筋が凍る気がする。
「それって……本当なんですか?」
「ええ。何だったら、当時の状況を記した新聞のスクラップがあるけど……見てみる?」
 鷹野さんはそう言って、机の上に広げていた資料を僕に差し出した。
 僕は恐る恐るその中身に目を通した。

『また自殺者!今度は親子で焼死』
『曰くつきのホテル!恋人に裏切られて投身自殺!』
『死者の霊が出る呪われたリゾートホテル!間引かれた幼児の呪いか!?』

 中身はいずれも週刊誌や新聞のものらしき記事だった。
 日付はいずれも同じ年だった。

「…………」
 僕は絶句してしまった。
 足元が少し震えているのを、相手に気付かれまいとなんとか押さえようとする。
「くすくすくす……怖くなるのも無理ないわ。
 で、このホテル度々お祓いをしてもらったり、札をあちこちつけたり……ほら、部
屋に掛かっている絵の裏に貼り付けるってやつでね」
 僕は自分の部屋で見た、あの札を思い出した。
 途端に体がさらに震え出すのを感じる。
「でも、結局何の効果もなく自殺者が後を絶たなくなり、バブルの崩壊もあいまって、
このホテルは閉鎖したの。でも、人がいなくなって廃墟になった後でも、噂を聞きつ
けて、肝試しと称して中に忍び込んだ人がいたけど……彼らも後日不幸な目に遭った
と聞くわ」
「というと、自殺したとか」
「ええ。実は面白いのはここなのよ」
 目を輝かせながらさらに話をする鷹野さん。正直何が面白いのか分からない。
 あまりにも不謹慎すぎる。
 だが、そう思う僕をよそにして、彼女はさらに続ける。

「自殺した人やこのホテルに忍び込んで不幸な目に遭った人に親しい人に話を聞いて
みると、ある共通点があったのよ。
 彼らはまず、不気味な物音を耳にする所から始まって、そして何かしらの形で死者
からのメッセージを受け取ったと聞くわ。
 誰もいない部屋から痴話喧嘩の声を聞いた者、電話で自分の辛い感情をぶちまけら
れた者、携帯のメールでメッセージを受け取った人もいたわね。
 そして、その後は背後に何かがつけている感じがするの。それもどこでもいつでも。
 ぴったりと真後ろに張り付く形でひたひたと……足音が一つ余計に聞こえたというわ。
 寝ているときも横に誰ががいる感覚がして……最後には得体の知れないものを目に
して……哀れな末路を辿ったという話よ」
 話が終わった後、何ともいえない気持ちの割る感覚が僕を襲う。
 そういえば、さっき別の部屋からドンと叩く音がしたっけ……。
 全身がぞくぞくしてしまう。

 ちょっと待って。あれは関係ない。
 きっと水銀燈たちが僕を驚かそうと仕組んだネタなんだ。
 この鷹野さんの話だってそうに違いないよ。

 だが、頭の中で懸命に否定しようとしても、心の奥底にある不安感は拭い去れない。
 むしろ増幅するばかりである。

「それって……幽霊とかですか?」
 僕はなんとかネタと確信付けられる結論に至らせようと、ありきたりな幽霊という
言葉を口にした。
「それは分からないわ。だからそれを確かめにこのホテルに来た訳。
 今のところ私は遭遇していないけどね……くすくすくす。
 貴女はそんなことを目にしたり、耳にしたりしていない?」
 正直、逆効果だった。核心を突かれる質問をされ、余計手や顔の震えが止まらなく
なる。
「い、いえ。別に」
 僕は何事もないかのように装った。
「そう。ならいいわ」
 彼女はやや残念そうに言う。

 ピピピッ!

 突然、僕の携帯から着信音がした。メールが届く音だった。
「あっ、ぼ、僕はこれで失礼します!お話ありがとうございましたっ!」
 これを機に立ち上がり、彼女を背にして階段へと早足で向かう。
「どういたしまして。でも気をつけなさいね」
 彼女は僕を呼び止めるかのように話し掛けてくる。
「何を?」
「さっき言ったこと。死者からのメッセージ、得体の知れない者との遭遇。
 せいぜい貴女も呪われないようにね……くすくすくす……」

 僕はそれ以上何も言わず、一目散に階段を駆け上がった。
 2階まで上がった時、メールの中身を確認する。

『誠さん、あなたは私のもとを離れるのですね』

 は?
 僕はメールの中身に一瞬首をかしげた。
 送信者のアドレスを見るが、まったく知らないものだった。
 間違ってますよ、相手が……と返信を咄嗟にすると、さらにその相手からまた
メールが届いた。

『きっと二人は幸せになれないと思います』

 中身見てるの、この人?
 僕はすぐに相手を確かめてくださいと、階段を上りながらメールを送ろうとし
たが……さらにメールが届く。

『永遠に幸せにさせませんから』

 いいかげんにしてよ。
 何考えてるのと思い、4階まで上がった時……先程の鷹野さんの言葉を思い出した。
 ――死者からのメッセージ……

 まさか。
 これがそうなの?

 いや、そんなことはない。単に間違いメールじゃないか。

 その考えを頭から振り切ろうと廊下を早足で歩いた……その時!

 パコン……。

 何かが落ちる音。
 思わずその方向を振り返る。

 廊下の窓が一つ開いていた。
 音はどうやらそこからしたようだ。

 …………。

 下を覗き込もうと、ゆっくりと窓に近づこうとしたその時。


 ――!!

 目の前を――ゆっくりと何かが通り過ぎようとする影が目に入った。

 上から下へと向かって落ちていく何かを。

 それは……人の顔だった。

 髪が長い女の人の――薄ら笑いを浮かべた顔が!

 視線が合う。

 何も映し出していないうつろな瞳。

 一瞬の間だが――はっきりと見えた!

 すぐにその影は窓から消える。

 そして数秒間の静寂の後――

 どさっ!!

 何かが――地面に落ちる音がした!

 まさか……そんな!!

 僕はその場から全く動けなかった。
 いや――体が金縛りに遭ったかのように体が動かない!!

 そんなことない!!
 幽霊なんて非現実的なものなんてない!!
 きっと鷹野さんのさっきの話を聞いてしまった影響なんだ!!
 落ち着け……落ち着いて考えろ!!
 クールになれ、蒼星石!!

 僕は……足音を忍ばせて窓に近づいた。
 見たくない、でも確認しなければ……。
 地面に人が倒れていたら――間違いなく死んでいるかも。
 でも、生きているかもしれない。そうしたら救急車を呼ばなきゃ!

 モシ……イナカッタラ……!

 いいや、そんなことなんてない!
 僕は迷わず窓から下を覗き込んだ。

 下には――かすかに――

 ――人が倒れている影が見えた!!

「うわああああああ!!」
 僕は叫びを上げながら、自分の部屋に駆け込んだ。
 そして、咄嗟にフロントに内線を入れる。

 プルル……プルル……

 何回鳴らしても相手は出ない。
 早く出ろ!一大事なんだぞ!!

「……がちゃっ」
 15回くらい鳴らしたあたりで相手が出る。
「あうあうあう……ふ、フロントです」
「大変なんだ!!人が転落した!!早く救急車呼んで!!」
「あぅあぅあぅ!!ど、どうしたのですか!」
「何回も言わせないで!早く救急車呼んで!」
「あうあうあう、わ、分かりましたです!連絡して、すぐそちらに行きますです!!」
 羽入は大慌てといった様子で電話を切った。
 僕は受話器を戻すと、全身から力が抜けきったかのようにその場に崩れる。


 数分後。
 ドアを誰かがノックする。
「あうあうあう……開けてくださいです。お、落ちた人はどこですか」
 羽入が来たようだ。僕はドアを開ける。
「こっちだよ!」
 僕は羽入の手を引っ張ると、先程の廊下の窓の所まで連れて行く。

「この下に倒れた人がいて……あれ?」
 僕は覗き込んだ下の光景に……頭の中が真っ白になった。

「誰かって……誰もいないです、あうあうあう」
 羽入は訳がわからないといった様子で僕を見る。
「そんな!確かに人が落ちて倒れているのを見たのに!!」
 僕は混乱してしまっていた。
 さっき、確かに下に倒れている人を見た。
 この目で確かに!

 でも……今はだれもいない……。

 目の前の現実に……呆然とするしかなかった。

「落ち着いてくださいです……」
 羽入は相変わらずおどおどとした様子だった。
 それを見ているとなんとなくいらついてくる。


 まさか……幻覚……幽霊……!

 僕の体はその場に崩れ落ちた。

「あうあうあう……だ、大丈夫ですか!」
 羽入は僕の体を支えるようにして介抱してくれる。
「あ、ああ……ごめん。どうやら見まちがえたかな……」
 そう答えるしかなかった。
 この現実に対しては。
 まさか幽霊をみたなんて言えない。
「きっとお疲れのせいだと思いますです。お風呂の用意が出来ましたので、ゆっ
くりつかるといいです」
 羽入はそんな僕に怒りをぶつける様子もなく、ただねぎらってくれていた。
「そうだね……そうするよ……本当にすまない、ははははは……」
 僕はただ乾いた笑いをするしかなかった。

      - to be continiued -

(蛇足2)
 同時刻――作戦本部にて。
 モニターに映し出される蒼星石の様子を目の当たりにして、大爆笑している雪
華綺晶と鷹野。
「結構悪趣味じゃない、これ。ちょっと可哀想ね」
「貴女に言われる台詞じゃありませんよ。あのホテルの嘘の噂話、相当の出来で
したわ。水銀燈も思わず信じ込んでいましたもの」
 くすくすと笑いながら、スクラップブックを指差す雪華綺晶。
「まあ、間引きの風習は史実だけどね。あとはあちこちにあった都市伝説や噂話
を寄せ集めて編集しただけよ」
 自慢げに話す鷹野。悪笑を浮かべながら、スクラップブックを目にしている。
「新聞記事はパソコンで編集して、紙も出版社で使っているやつを使うなんて、
本当に細かいですわ」
「くすくすくす。こんなの朝飯前よ。それより約束の例の件は大丈夫?」
「ええ、ばっちりと。園崎家の当主とはすでに話を付けてありますわ。
 後日、園崎本家地下祭具殿特別招待ツアーということで」
「さすがね。雪華綺晶さんの人脈の広さには感謝するばかりね」
「そんな。礼を言うなら水銀燈に言ってくださいな。もともと、彼女があの家の
親族と悪友の仲だから実現できた話ですから」
「本当、そうね」


 そこへ、作戦本部に入ってくる2人の人物。
「やったわよぉ、作戦大成功!蒼星石ったら、すっかりヘコんでしまっているわぁ」
 意気揚揚と親指を立てて、中に入ってくる水銀燈。
 その後ろには、先程飛び降りたと思える長い髪の大人しげな女性がいた。
「言葉ぁ、貴女の鬼気迫る演技は最高だったわぁ」
「そんな……あんなのでよかったのでしょうか……」
 その女性――桂言葉は恥ずかしそうにしていた。
「もう、十分よぉ。屋上からバンジージャンプしながら、あの笑みをうかべるなんて。
 並みの人間じゃできないわぁ」
「実はちょっと怖かったのですけど……壁にぶつけるんじゃないかと思って」
「でも、結果として無傷だったでしょぉ。段取りはしっかり組んであったから。
 連れを信じなさいってぇ」


(このレス、ひぐらしのネタばれ要素あり。注意!)

「しかし、水銀燈。貴女も芸が細かいですわね。言葉さんをバンジーさせて、上へと
戻る瞬間に5階で人手を使って回収。それと同時に言葉さんそっくりのマネキンを下
においておくとは……悪趣味にも程がありますね」
 にやけながら話し掛ける雪華綺晶。
「あれぐらいやらないと、本気で怖がらせられないと思ってねぇ。まあ、こんな芸当
ができるのも天下の小此木造園御一行様がいなかったらできない芸当よぉ」
「当たり前ですわ。それぐらいの仕事はやってもらわないと。出来なかった場合には
貸した9桁の借金を強制キリトリ&あの人たちの致命的な弱みを雛見沢の愉快な住民
の皆様にばらすと脅してますので」
「あらあら、どんな弱みなの?」
 自慢げに語る雪華綺晶に鷹野さんが興味深々と言った様子で首を突っ込んでくる。
「仕方ないですわね……絶対に口外しないと約束できます?」
「するわ。で、何なのかしら?」
「ではほんの一部だけ……ごにょごにょ」
 鷹野にそっと耳打ちする雪華綺晶。
「あははははは!!圭一君あたりが聞いたら間違いなく大爆笑だわ」
「まあ、これでもごくほんの一部で……ネタはまだまだ数え切れないほどありますので」
「貴女の情報収集力には本当に感心するわね。でも、そんなことしたら消されるかも?」
「ご心配なく。その場合にはそれこそあの人たちが一瞬にして社会的に抹殺されるよう
に他者からバラされる手筈になっていますので。まあ、もっともそういう考えを起こさ
ないように調教はすでに行っておりますわ」
(ネタバレ注意区間、ここまで)

「あ……あの……」
 背後から寂しそうな声がする。
 ラプラスだった。
 いまだにテーブルから顔を出したままの形でいた。

「何?」
 突如、冷たい表情で背後の兎を見る雪華綺晶。
「私はいつまでこうしていればよいのでしょう」
「そんなの知ったこっちゃないですわ」
「そんな……酷い」
「がたがた言ったら、串焼きにしますわよ」
「はい……」
 ぴしゃりと撥ね付けられて、すっかり落ち込むラプラス。

「とにかく、さっきのシーンの画像ビデオに納めたぁ?」
 何も聞いていなかったかのような素振りの水銀燈。
「ええ、ばっちりですわよ。爆笑すること請け合いですわ」
 雪華綺晶はそう言って、DVDプレーヤーを再生するのであった。


ふう、これでとにかく本日分の投下は終了。続きは後日。
しかし、2回もさるさんに引っ掛かっちまったいwww

なお、本日登場の他キャラは下記のとおり。

鷹野三四&小此木造園の愉快な仲間達&前原圭一(名前のみ)@ひぐらしのなく頃に
桂言葉&伊藤誠(名前のみ)@SchoolDays
|