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機巧励起ローゼンメイデン第11話「EVENING GLOW」


それからの事は少し記憶があいまいだ。
教室に戻り、授業を受け、昼食をとり、また授業。
気づけばもう終業のチャイム。
終わりのHRも耳には入らなかった。
いや、いつもか。
「ジュン………一緒に……帰る?」
僕の席まで来て首をかしげる薔薇水晶。
「んあ?」
「いや、一緒に帰ろうかって彼女聞いてんのよ。」
どこからか横から湧いて出てくる笹塚。
話があるといってたが、真紅もそれなりに心の準備があるに違いない。
ゆっくり帰ってもいいか。
「ああ、別に良いけど。」
「なら決まりだ、んじゃとっとと行こうぜ。な、薔薇水晶さん?」
「え?えと……」
「ほらほら、お2人さんとも早くしましょうぜ。」
笹塚に押されるがまま流されるまま下校する僕。

「でさぁ、おとといの番組でさぁ―――」
「……うん。」
「まったく昨日は大変で―――」
「そうだったね……」
「それで、うちの家もさ―――」
「うん……えと…」
「…………」
「…………」
「………」
「おい、ジュン。」
「え?あ、え、どうした?」
「何だ、ってさっきから話を振ってんのにボーっとしてんのは何所のどいつだ?」
「え?」
言われて僕は2人を交互に見る。
「マジ?」
「大マジ。」
「ジュン……大丈夫?今日は……えっと………」
顔を真っ赤にして俯いてしまう薔薇水晶。何が言いたいんだ?
「便所行ってからずぅっとお前さん様子おかしいって言いたいんだよ。」
ああ、そう言う事ですか。

「あー、別に大丈夫。何だか昨日の事件のせいでちとナーバスになってんのかも。」
一割は本当、九割はウソだ。
「あ……そう………そうだよね……」
シュンとうなだれてしまう薔薇水晶。
「ごめん……みんなが……平気じゃない……わかってるのに…ごめん……」
どぉんと暗くなる雰囲気。
いかん、別にこんな雰囲気にするつもりはなかったのだが。
後ろめたい、それに申し訳ない。
「あ、いやっ!べ、別にお前のせいじゃないって!全然へーきへーき!
 ほれ!ほら!うら!とりゃぁ!!」
ビュッ、ビュッ。ボクシングの真似をして元気なのをアピール。
「まだまだぁっ!オラオラオラ!!オ……おごぼぎゃばッッ!?」
調子に乗りすぎた、背中を危険角度まで曲げた拍子に腰が…ゴリゴリっと…ラップ音…
膝をつく僕の前に笹塚の顔。片眉をつい、と上げて
「あほぉ。」
「黙れ…」
「………くすっ♪」

「ジュン……やさしい…」
「へ?」
立ち上がる僕に微笑みかける薔薇水晶。
「だって……平気じゃないのに……あたしの事気にしてくれる…やさしい。」
「あは、ははは……あは…あははは……ありがとな。」
なぜこんな恥ずかしい台詞を平然と言えるのかこの娘は。僕も薔薇水晶を
見つめ返してやるが背中がむず痒くてしょうがない。
「あー、ラブラブっぷりを見せ付けてくれるのは構いませんがねぇ。ここは
 天下の往来ですよ、お2人さ~ん?」
楽しげに、愉快げに、むしろ面白半分なトーンで僕達に声がかけられる。
「「っ!!」」
2人して顔を真っ赤にして顔をそらしてしまう。
声の主はもちろん、
「おいおいおいおい、冗談を真に受けて顔を真っ赤にしないでくれよ。
 まったく、君達は初心だねぇ。」
「笹塚、てめぇ……」
「あひゃひゃ。」
「殺すッッ!!!」
持っていたカバンを思い切り笹塚の頭、もちろんこめかみに向って叩きつける。
ドドゴッ、非常に良い音を笹塚の頭蓋骨が奏で空を飛ぶ。
「ご…おごご………おま………何をするだぁ……」
「自業自得だ。」

「やりすぎ……じゃない……かな?」
「大丈夫だすぐ復活する。アイツの性命力はゴキブリ並みだからな。」
「おい、こら……生命力の『生』が違うのに変わってるじゃないか、おい………」
「デフォルトだ、気にするな。」
「泣くよ?僕ちん泣いちゃうよ?ワンワンと泣いちゃうよ?」
「泣け、みっともなく泣け。」
「ひでぇ。」
いつのまにか回復している笹塚と問答しながら家路に着く僕。
後ろからは薔薇水晶がテクテクと子犬みたいについて来ている。
そんなこんなしているうちにどんつきT字路が目の前までやって来る。
そこで僕は、薔薇水晶と笹塚2人と別れる。
「んじゃ、また明日な。」
「おう、また明日。」
「バイバイ……」
別れの挨拶をし、僕らは逆方向へと歩いていく。
さて、真紅も家で待ってることだろうしさっさと帰るか。
話とはいったいなんなんだろうな。

「なあ、薔薇水晶さん。」
「何………?」
「聞かなくて良かったのかい?」
「何を………?」
「朝のこと。」
薔薇水晶さんが僕のほうをビクっとして見てくる。
「分かっちゃってた……?」
「ん、まあ。」
そりゃあ、あんな目でジュンを見てたら気づかないことはないよなぁ。
まあ、付き合いが長い僕にしか分からないことなんだろうけど。
この学校に入って以来、ジュンと僕が友達でいて以来、
彼女とジュンを見てきた僕としては彼女の言動は分かりやすい。
ジュンといるときだけは彼女の顔は明らかに輝いている。
それを向けられているニブチン眼鏡はそれに一向に気づいてないようだけど。
「……好きかい、ジュンの事?」
「ふぇっ!!??」
そんな驚かないでも。
「好き……キライ……キライじゃない……好きじゃない……」
「ん??」
「よく……分からない。」
少しさびしそうな顔。

「でも、朝のことは気になってるんだろ?」
「うん……」
だったら好きじゃん、口をついて出そうになるが薔薇水晶さんの口が
開かれるので喉の奥に収める。
「ジュンといると……落ち着く。けど……朝、女の人といて……変な気分になった。
 でも……恋じゃない。だって……」
「だって?」
「………恋したことないから。」
また変なことを。
「今の気持ちが恋じゃないの?」
「違う……違うの。」
微かに首を振って否定する薔薇水晶さん。恋じゃないってぇのなら
いったい何よ?首をかしげて唸ってしまう。女の子の気持ちは難しい。
「恋なんかじゃない……恋なんかじゃないの。好き、とかキライじゃない。
 もっと………ごめんなさい……あたし、言えない。」
「いや、嫌なら言わなくても良いよ。」
ここまで言わせておいてなんだけどね。
「まあ、ジュンといてたら楽しい。今はそれで良いんじゃないかな?」
「………」
押し黙ってしまう薔薇水晶さん。

「今は、うん、自分の気持ちに整理が付けられないだけだけ~ってね。
 僕も初恋のころはそんな甘酸っぱ~~い気持ちを抱えてましたから。」
にやりとかっこつけて彼女に笑ってみせる。
ちょっとナルシスト気味に、んでもってお馬鹿っぽく。
ああ、なんて健気な僕。
「………くすっ。」
あ、やっと笑った。
「ありがとう……笹塚君。笹塚君も………優しい、んだね。」
でもその微笑みは、とても寂しげで、哀しげで。
友達だからと別にその人の全部が分かるわけじゃない。
それは分かっている、だけどこれは気になる。
『これ』はジュンと話すときに時折見せていた表情。
あのニブチンが好きなのになぜそんな表情を?
ただ、好きって言ってしまえばいいのに。
ただ、心の底からその感情だけぶつければ良いのに。
なのに、それをせずにただこの貌をアイツに向けるのを
僕は何度も見ている。

恋ってのがそんな簡単なもんじゃないし、綺麗なもんじゃないのは知っている。
お互いのエゴをぶつけ合うだけの話だ。
きっと彼女もそれが分かってるんだろう、だから踏み出せない。
踏み込めない、おそらくそう。
はあ、これってつまり僕が2人の仲を取持ってやらないといけない話ですか?
僕は薔薇水晶さんの顔を見る。
既にさっきの表情はなく、いつもの無表情。
前を向いてただ歩いている。
不安だ、不安すぎる。
応援してやらないとこの二人、本当に何も進まなさそうだ。
「なあ薔薇水晶さん。」
「……何?」
「あー、明日もジュン誘って帰ろうな。」
「え?」
「アイツと話してて落ち着くなら一緒に帰るのも重要、これに限るっしょ?」
「……かな。」
「もちろんだって!ま、アイツってば奥手だし?ニブチンだし?ほんでもって
 自分では女の子に好かれることなんてねー、とかほざいてるし?
 おまけに薔薇水晶さん女の子として見てねぇし?だから、ここらで
 アイツも自分が如何に薔薇水晶さんの心の支えになっているかを
 自覚する必要があると思う次第であります!」

一気にまくし立ててそしてスマイル。薔薇水晶さんも少ししてから微笑む。
今度もやはり、少し寂しげな微笑み。
「うん……ありがとう。」
「いえいえいえー。これくらいお安い御用ですよ?楽勝ですよ?」
今はこれで仕方ないかもしれない。でも、いつか、あのニブチンに
自分の想いを伝えられるようになれれば良い。
それまでは僕がお馬鹿なことでもして、2人が一緒にいれる時間を
作ってやれればいい。それで、万事OK。
ほんと、こまった友達で、でもそんな日常が一番大事な訳で。
昨日で立ち止まるんじゃなくて明日に向かって歩く。
そんな気持ちで2人が進めりゃいいじゃないのよ、ってな。
ま、そういう感じで僕は2人を応援する訳だ。
夕焼けが滲み出す空、僕は家路に着く。
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