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「一つ屋根の下 第三十二話 JUMと悪夢」



「うあああっ!!!………はっ……はっ……夢……?」
ある寝苦しい夏の日。僕は深夜に目を覚ました。時計を見ると夜中の二時。
「まだ二時かよ……くそっ……」
その日、僕は悪夢を見た。夢の内容は覚えていない。ただ、悪夢だった事だけはしっかりと覚えていた。
クーラーが入っているのに、僕は脂汗をダラダラと流す。背筋が凍りそうなほど寒くなる。
嫌だ……怖い……理由はない…でも、怖い…一人でいたくない…誰かといたい…
僕は自分の腕で体をガッチリと抱きしめる。それでも、完全に脳にこびり付いた意味のない恐怖は離れて
いく感じがまるでしない。経験がないだろうか?突然、意味もなく恐怖に襲われる事が。
心臓がドクドクととんでもない速さで高鳴っていく。僕はまるで心臓病の患者のように胸を掴む。
それでも、鼓動は一向に収まる気配がない。まるで、今この世界には僕一人。誰もいない世界。
誰も助けてくれない。僕は……一人……?
「ぐっ・・・はぁ・・・嫌だ……怖い……誰か……誰か…お姉ちゃん!!!」
僕は部屋で叫び声をあげる。声をあげずにいられない。誰かにいて欲しい。誰かに来て欲しい。
誰かに助けて欲しい。布団を被る。目が完全に冴えている。目覚めているのに悪夢に悩まされる。
コンコン コンコン ふと、ドアがノックされる音に僕は気づく。
「JUM・・・?どうしたの?入るわよぉ?」
ガチャリとドアが開けられる。入ってきた人物は銀姉ちゃんだった。眠そうにゴシゴシと目を擦りながら
入ってくる。
「あ……姉ちゃん…銀ネエ……ちゃん……」
「ちょ…ちょっとJUM?どうしたの……ひゃあぁ!?」
僕は、もう自分ではどう動いたのか分からない。ただ、銀姉ちゃんが来たのがとてもとても嬉しくて。
僕は銀姉ちゃんに飛び掛るように抱きかかっていた。


「J、JUM……?」
さすがに銀姉ちゃんも未だに状況が全く飲み込めていないようだった。当然だろう。恐らく、僕の声で目を
覚ました銀姉ちゃんは何事かと僕の部屋に来てみれば、急に抱きしめられたのだ。
「ねぇちゃん……ねえちゃん……」
僕は銀姉ちゃんに抱きつきながらうわ言のように繰り返す。すると、銀姉ちゃんは僕の体を優しく抱きしめて
頭を撫で始めた。銀姉ちゃんの柔らかくて温かい体が僕を包んでくれる。さっきまであれだけ寒かった
体が少しずつ熱を持ち始める。人は頭を撫でられるとどうしてこんなに落ち着けるんだろう。
さっきまであんなに荒んでた僕の心は少しずつ落ち着いていく。
「JUM……だぁいじょうぶよぉ?お姉ちゃんがいるからぁ……」
銀姉ちゃんは僕を抱きしめて、頭をなでながら優しく、優しく言う。
「JUM……話せる?お姉ちゃんに話してみさぁい?」
「うん……でも、僕にもよく分からないんだ……何だか怖い夢を見て…起きたら、なんだか急に凄く
怖くなって……一人が怖くて……誰かにいて欲しくて…それで……」
僕が銀姉ちゃんの胸に顔をうずめながらボソボソと小さな声で訥々という。銀姉ちゃんは僕が少しずつ
話すたびに、ウンウン、と聞いてくれている。
「そっかぁ……JUMは、怖い夢見ちゃったのねぇ…でも、もう大丈夫だからねぇ……怖い夢は
お姉ちゃんが追い払ってあげるから……」
そう言う銀姉ちゃんはとっても優しかった。普段は姉妹や僕をからかうのが趣味と大人気ない長女の
銀姉ちゃん。でも……やっぱり僕らの事を一番想ってくれてるのもきっと銀姉ちゃんなんだろう。
それは、長女としての責任。銀姉ちゃんはやっぱり、お姉ちゃんだ。


「JUM……それでももし怖かったら…泣いてもいいのよぉ?だから、人は泣けるんだから……泣くのは
恥ずかしい事なんかじゃないわぁ……弱さを見せれる事も、立派な事なのよぉ?」
銀姉ちゃんはどっかで聞いて事あるような事を言う。でも……僕は銀姉ちゃんの言葉で溜まっていた
涙が一気にあふれ出るのを感じた。怖ければ泣くでしょ?
「銀姉ちゃん……ぐっ…うわぁあああああああ!!!」
僕はただ、子供みたいに銀姉ちゃんの胸の中で泣いた。怖いから、いや怖かったからってのもある。
でも、本当は。僕が泣いたのはきっと……嬉しかったからだと思う。僕はやっぱり一人じゃなかった……
銀姉ちゃんがいる。カナ姉ちゃんも、翠姉ちゃんも、蒼姉ちゃんも、真紅姉ちゃんも、ヒナ姉ちゃんも、
キラ姉ちゃんも、薔薇姉ちゃんも。僕には誰かがいる。一人じゃない。それが嬉しくて……
「よしよし……JUMには、お姉ちゃんがいるからね。水銀燈だけじゃないわぁ…みんないるでしょぉ?」
銀姉ちゃんは子供をあやす様に言う。事実、僕はその姿にもうほとんど記憶にない母さんの姿を見た気がした。
「ふふっ……そういえばJUM覚えてるぅ?JUMは小さい頃とっても怖がりでねぇ?今日みたいに、怖い夢
見るといつも水銀燈のトコに来たのよぉ?」
銀姉ちゃんが言う。そういえば、そんな事もあった気がする。まぁ、そうとう小さい時だろうけど。
「それでねぇ、JUMはお姉ちゃんがオマジナイをしてあげると、すぐに泣き止んだの。」
そう言って銀姉ちゃんは僕の顔を上げさせて、じっと僕の顔を見る。いつもは妖艶な銀姉ちゃんの瞳は
今日は母性に満ちていた。
「だから……今日は久しぶりにオマジナイ……してあげるね……」
銀姉ちゃんはそう言うと……僕の唇にキスをした。温かくて、柔らかくて……そして、銀姉ちゃんの優しさが
唇から伝わってくる。
「んっ……えへへっ……まだ、怖いかな?」
「……もう少しだけ……」
僕が言う。すると、銀姉ちゃんは「そっか」と笑うと、もう一度僕にキスをした。


「よかったわぁ……やっとJUM落ち着いてくれたぁ。」
しばらくして、僕はようやく落ち着きを取り戻した。あれだけ寒かった体は今は温かい。あれだけ脳にこびり付いて
いた恐怖も今は存在しない。あるのは、銀姉ちゃんの気持ち。
「有難う、銀姉ちゃん。僕……本当に嬉しかった。銀姉ちゃんが来てくれて。もし、誰も来てくれなかったら
僕はきっと……」
「いいのよぉ…他の姉妹だってきっと部屋がJUMに近かったらすぐ来てくれたわぁ。今回は私がJUMの部屋の
隣だからJUMの声が聞こえただけよぉ。だから……他の姉妹を恨んだらダメよぉ?」
銀姉ちゃんは他の姉妹をフォローする。恨むなんてない。きっと、銀姉ちゃんが言うように僕の部屋に
近ければきっと来てくれた。自惚れかもだけど……それでも、自惚れたい。
「さてとぉ……JUM、今日は一人で寝れる?それともぉ…」
僕はスッと人指し指で銀姉ちゃんの口を押さえた。そこから先は僕が言いたかった。
「今日は、銀姉ちゃんと一緒に寝たい。」
僕はそう言う。銀姉ちゃんはニッコリ笑うと、僕の体を抱きしめて一緒に布団にもぐった。
やっぱり、銀姉ちゃんは凄く温かい。僕も銀姉ちゃんを抱きしめる。
「あのね、JUM。私もとっても嬉しかったのよぉ?JUMったらね、お姉ちゃん!って叫んだの。それがね、
凄く嬉しかったわぁ。JUMは……血は繋がってなくても私達姉妹を信じてくれてるんだなぁって。」
「そんなの……当然だろ。僕にとっては姉ちゃんたちは姉ちゃんたちなんだから。」
確かに血の絆ってのは濃いと思う。でも、僕は血よりもさらに来い絆って言うのもあると思う。
「そうねぇ……そろそろ寝ましょうか。ふふっ……JUM、お休みのちゅ~よぉ?」
銀姉ちゃんはそう言って僕にキスをする。僕はそれで安心したんだろうか。すぐに闇に意識が落ちた。
「おやすみなさい……」


「JUM……そろそろ起きるですよ?JUM?」
ふと、意識が覚醒する。ドアの向こうからそんな声がする。僕は起きようとするが体の自由がきかない。
はて?旅行の帰り新幹線で姉ちゃんたちを抱っこし続けたせいで筋肉痛になったが、それは治ったはず。
「全く、寝惚スケですぅ。入るですよ?」
この声は翠姉ちゃんか。ガチャリとドアが開かれる。入ってきた翠姉ちゃんは僕を見ると、一気に表情が
険しくなった。何だ?まさか僕服着てないとかか?或いはテント張ってるとかか?まぁ、テントは朝だから
しょうがない。生理現象だし。でも……それはテントなんかよりよっぽど不味いものだった。
「J、J、JUM!!!!何で水銀燈と寝てやがるですかーーーー!??」
その言葉で、ようやく昨日の深夜の出来事を思い出した。あまりの大声に銀姉ちゃんが目を覚ます。
「むにゃむにゃ……あらぁ?すいせいせきじゃなぁい……にゅうはんひんとってうるぅ~?」
「そんな事は聞いてねぇです!起きろですぅ!!!」
翠姉ちゃんがガクガクと銀姉ちゃんを揺さぶる。だらしなく乱れたネグリジェを思わず僕は見据える。
「あうあうあうあうあう……ん~…目覚めたわよぉ。何だったっけぇ?」
「だから!何でおめぇはJUMと寝てるか聞いてるですぅ!」
「……JUMが一緒に寝たいって言ったから。」
即答する。翠姉ちゃんの怒髪が天に突く。要するに怒り心頭。
「本当ですか!?JUM!!」
「まぁ、確かに言ったけど……」
誤魔化せばよかったかもしれない。でも、僕が言ったのは事実なんで僕はついそう答えた。
「~~~~~~!!!!!JUMの変態ですぅううううう!!!」
バチーンと僕の頬に翠姉ちゃんのビンタが炸裂する。僕の意識は再び落ちそうになる。その瞬間、声が聞こえる。
「あらあらぁ……JUM?水銀燈はJUMのお姉ちゃんだけど…それでも大好きよぉ…」
END

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