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無邪気。

おしまいのはなしをしよう。それは、遠い昔の、未来の話。
1と0の違いを考える。在るか、無いか。存在しえる話は既に意味をなくし、存在し得ない話など、そもそも意味などない。
なら、1と、0は。そして、∞は。どこに向かい、どこに発散し、そしてどこに収束するのか。
因果の輪は永劫に回る。くるくるくるくる。ロンド。輪廻の、輪。
誰かはそれから逃れたくて、それを壊そうとして。そして絶望した。
……ああ、だから、自覚せよ。君たちの世界は、希望に満ち溢れている。
希望しかない、絶望の世界。絶望しかない、希望の世界。1と0。どちらも、たいして変わりは無く。

故に、夢は、未だ、覚めず――



「朝だ」
普通の女の子は思った。空は広い。どこまでも続く、蒼空。

「……どうか、世界が幸せであるように」

それは、愛の夢。永遠の、愛の夢。決して目覚めることのない、愛の、夢。



「忘れ物はありませんか?」








無垢。

唄え唄え、輝きを唄え、夢を唄え。



「かがやくゆめを探してほしいの」
 真紅は言う。
「わかった」
 だから、僕は探しに行くことにした。



 相違のことがら。駆け下りるのか、駆け抜けるのか、昨日はどちらだっただろう。
 落ち着くことはもはや、必要ないように思えて、だから、のどが渇いた。
 ひどく、暑い。今日は、夏だったはずなのに、雪が降り出したというのに、暑い。これでは、夢もきっと、凍りながら溶け出してしまう。
「あら、ジュン。かがやきは、空に帰っていったわ」
 凍りながらその持っているはずの無い黒い羽根を羽ばたかせ、そして水銀燈は廻る。
「ありがとう、水銀燈」
 しょうがない。空に行こう。



「あれ、ジュン、何やってるんですか?」
 翠星石が、空に水をまいている。枯れ木が、花を咲かそうと必死に花を奪い合う。
「かがやきとゆめを探しに着たんだ」
「かがやきは、空から追い出されました。ゆめは、湖の底で泣いています」
「それは、大変だ」
 急がないといけない。ああ、急ごう。

 いつまでも世界を構築できると思ったら大間違いだ。
 世界は切り絵のようにざくざく切られる。或いは、ぶしゅぶしゅと斬られる。対して変わらないのは、世界が対して変わらないからだろう。
 さて、どうしようもないかがやきは、一体どこに行ったんだろう。
「やあ、ジュン君」
「ああ、蒼星石。あの、どうしようもなく可哀想なかがやきを知らないか」
「君は、かがやきのことが大好きなんだね」
 腐ってしまう世界を鋏でじょきじょきと切り落としながら蒼星石は言うものだから、照れる。
「ああ、じゃあ、水面のそばに行くといいんじゃないかな」
「水面?」
「そうだよ。水面には、逆様があるからね」
「真逆」
 でも、蒼星石の言うことにも、一理ある。逆様に行こう。



「あ、ジュンなのー」
「雛苺。イチゴは、おいしいかい?」
 雛苺は、そこでうにゅーを食べていた。
「最近のイチゴは、うにゅーを堕落させたわ。もう、戻れないのかもしれない」
「それは、どうして?」
「ジュンは、知っているはずなのー」
 ……ああ、そうかかがやきと、ゆめを、手に入れないと、いけないのか。
「ジュン。これをあげるわ」
「何だ、これ」
「滅び」

「ああ、あと少しだ。でも、疲れた」
 森が見える。荒廃して、どこまでも灰色になる森だ。命の鼓動が、どこまでも響き渡る。
 ふと、【フォトグラフ】が堕ちているのを見つけた。堕ちる? 【フォトグラフ】なのに?
「どういうことだ?」
「そんなときこそ、カナの出番かしら!」
 金糸雀が、地中の中からやってくる。世界に孔が空いた。
「金糸雀、どういうことだ?」
「ふっふっふ、こんなの、簡単よ! ほら、こうして、こうすれば――」
 金糸雀が、【フォトグラフ】を破り、引き裂き、そして、燃やした。
「――ね、ジュン? これで、いいでしょう?」
 金糸雀は、まるで甘い甘い毒の入った玉子焼きを食べたような顔をした。
 幸せそうだった。



「着いた」
 そして僕は、水面の湖に着いた。もう、闇と黒と暗のある夜になっていた。
 月が、気だるそうに笑っている。湖の中の月は、ちゃんと笑っているのに。
「ああ、そうだ。湖の中では、ゆめが泣いている。そして、水面の上では、かがやきが舞っている」
「そうだよ、ジュン」
 薔薇水晶が。舞う。
「輝き、すなわち、水晶なり。白き水晶薔薇のごとし。――さあ、ジュン、一緒に踊りましょう」
「ああ」
 とりあえず、月も夜も鴉も何もかもがうるさかったから、湖の上で舞う薔薇水晶を抱きしめる。
 そして、踊る。踊る。踊る。詩を唄いながら。かがやくゆめを唄いながら。
「……ねえ、雪華綺晶が泣いているの。世界が、世界がと嘆きに嘆いて泣いているの。王子様、どうか、あの人を、助けてください」
「そうか。わかったよ」
 薔薇水晶とキスをした。僕は、湖の底に沈んでいった。
 優しい旋律に身を委ね、哀しい戦慄に身を焦がす。
「雪華綺晶」
「ジュン」
「泣いているの」
「泣いていたよ」
「何で?」
「いえ、その話は、もう、いいのです」
「……ああ、かがやくゆめが、見つかった」
 白い水晶。かがやく世界。誰にも見つからない、きっと本当に白い牢獄(らくえん)。
「ジュン。永遠を、過ごしましょう?」
「ああ、もちろんだよ、雪華綺晶――」
 そして、僕は、笑顔を作る。
「――絶対に、こんなところに居てやるものか」



 黒と白。真っ白真っ黒。陰と陽。回転、そしてまた元に戻す。

 世界を鏡に映しましょう。

 ――彼女は、笑う。八人と、一人を見て、笑う。


「忘れ物は、ありませんか?」


 くすくす。くすくす。くすくす――。


【はっぴーえんでぃんぐ。えいごうの、ほんとう】










無心。 

 嫉妬の話。それも、世界を二通りに分割して考える嫉妬の話。
 一人、大事な人が居る。それだけ。その人が居れば、それ以外は、あってもなくても関係なくて、むしろ無い方がいいくらい。
 安らぎに満ちて世界を見つめることはなく、繰り返す日常を悪夢として、目覚めればそこには悪意に満ち足りた幸せ。
 まどろみ、まどろみ、まどろみ、そして現を抜かす。それでもなお足りない。足り無すぎる。
 無尽蔵の欲望と無限に与えたいと想う愛は既に相反し、背徳となる。

 ……………………ああ、愛は、つまり、檻だ。



 愛情。愛情。愛情。愛情――。もっと必要かしら。もっともっと、必要かしら。愛情というものは、もっともっと必要なものなのかしら。
「いつまで、好きで居続けるの?」
 冷蔵庫の中の氷の中の真っ白な雪の中で白い少女が私に背中から呼びかける。
 それにしても、その質問は今日になって5787回目だ。飽きないのだろうか。飽きないんだろう。
「……何で、答えないの?」
 そんなの、私が料理で忙しいからに決まっているのに。ああ、決まっているのに。どうして、そんなこともわからないのか。
 可哀想な、白い少女。貴方は、一生凍っていろ。
「いつまで、いつまで、貴方は料理を続けるの?」
 そんなのは簡単だ。好きな限り。
「好きな限り。何を、どんな風に好きなの?」
 彼を、あの人を、消して、壊して、どろどろのぐちゃぐちゃにするプランを799通り瞬時に思いつき、そしてそのどれをもシミュレートして、絶頂に達するくらい好き。
「変態」
 あはははは。そんな、褒めるなよ。
「……お前なんかが、幸せになれるはず、ない」
 あはははははは。あはははははは。あはははははははは。あはははははは――。

「――黙れよ」

 私は、氷を砕いた。水になって、零れ、流れていった。



「忘れものは、ありませんか?」

 今日も、彼女は、そう呟く。くすくすと、笑いながら。【幸せ】を願って。







無中。


六の話。かみさまは、六日目にひとを作ったから、六は、ひとを表す。それに一を足せば、七。すなわち完全。
三は、かみさま。三位一体。四は、せかい。三足す四は、七。
六が、かみさまの数と同じだけ並ぶ。六、六、六。すなわち、それは――

神への反逆。



【皆知ってる彼女は誰にも認識されません】

「バベルを知っている?」
「大罪だね」
「そうでもないよ。きっと、神さまは勘違いしたんだ。だから、私たちは母国語なんていう言葉を使う羽目になった」
「ああ、それは、勘違いだ」
 笑う。そういうものなのか。でも、そんなこと、もう関係ないんじゃないか?
「ねえ、完全な君」
「何、不完全なジュン」
「不完全の方がいいよ。……ああ、平行線になるから、議論はしないでいい。それよりも、愛の話をしよう」
「あはははははははははははははははははは!」
 大爆笑だった。
「わ、私に、あれだよ、
 水銀燈とか、
 金糸雀とか、
 翠星石とか、
 蒼星石とか、
 真紅とか、
 雛苺とか、
 雪華綺晶とか、
 ましてや薔薇水晶でもない、私に、あ、愛……っ。
 あははははははははははははははははははははは!」


「君が哄笑じゃない、純粋に面白いから笑うのって、初めて見た」
「そりゃ、そうよ。生まれて初めてだもの。ああ、これだから、ジュンと会話するのはやめられないのよ」
「そんなにおかしいことを言ったかなぁ」
「言った、言った。具体的に言うなら、宇宙が無限に膨張し続けてる速度のベクトルを時間に転換して過去へと突き進み、三次元では捉えられない方向性を持たせる感じ」
「意味がわからないんだけど」
「ジュン、大好きってこと」
 笑顔が、眩しかった。
「……ホントに、君は、似てる」
「誰に? あの八人の、誰が好み? 誰にでもなって、ジュンの望むように奉仕してあげよう」
「じゃあ、メイドさんで」
「ジュンの性癖暴露だ」
「ギャグだよ」
 ……どーも、はぐらかされてる。
「っていうか、今回は割りとふつーなんだね、ジュン。つまんない」
「いや、今回は、とか言われても。僕はいつでも普通だし、不安定なのは、君だろう?」
「ん、いやまあ、そうだけど、雪華綺晶がさぁ、ムカつくこと言ってくれやがったから、たまには、ふつーなところも見せとこうかな、と想って」
「何の話?」
「三のジュンにはわからない話」
「三?」
「水銀燈は一。金糸雀は五。翠星石は二。蒼星石は二。真紅は七。雛苺は五。雪華綺晶は六。薔薇水晶は零。私は七。あ、最近は、六になってもいいと思ってる」
「……えっと、何の話?」
「愛についての話」
 不覚にも納得してしまった。じゃ、この話はおしまい。



 夜空が堕ちてくる。堕ちる夜空に降り注ぐ流れ星。羽根はないけど尾っぽはある。
 だから神話が崩壊する。星座が崩れる。刻まれた時が、曖昧になる。
 かみさまかみさま。どうかお願いです。私は私は、純粋なねがいしか持っていません。
 たとえケモノが私ののど笛に食いつこうとしても私はそのケモノを一瞥し侮蔑もせずになかったことにします。
 たとえケモノが月を落としてこの湖とこの原っぱとこの地獄をヒカリで飲み込もうとしても私は何もなかったかのように振舞います。
 ああ、だから、かみさま、かみさま。私の純粋な願いを聞いてください。

 白い水晶に、薔薇の模様の水晶に囚われているかみさま。

 わたしは、

 あなたを、

 ……くす、くす、くす、くす、くす、くす。



「忘れ物はありませんか?」

 今度は帰ってくる。返事が、帰ってくる。わすれものは、ありませんか。



→【おしまいのゆめのはなし。】
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