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 あらすじ

 真夜中の学校の七不思議に挑んだ金糸雀が連れ去られ、焼却炉で発見される。
 それを見た先輩の真紅と翠星石。
 人事のように思っていたが、彼女達も七不思議に巻き込まれていく……。
 そして、翠星石が通り魔に襲われて……!!



 もはやじっとしていられない。
 すぐにも学校を抜け出して病院へ行きたい。
 このあとの授業なんかどうでもいい。
 翠星石のことが気になって仕方がない。
 適当な理由をつけてでも早退して……。

「あと、ゆうべ学校の職員室で小火がありました……」
 草笛先生の言葉に教室は騒々しくなる。
 不気味ねと不安がる者、さらには旧校舎の呪いだなんて言い出す者……

 旧校舎の呪い!?
 
 いい加減にして!! 
 何でそんなものに翠星石が巻き込まれなければいけないの!?
 彼女が何をしたというの?

 魔界の死者とやらだっけ……
 旧校舎に巣食っている災いの根源とやらは。
 そいつを見つけ出して、胸倉をつかんで小一時間問い詰めてやりたい。
 そんな気分だった。

 でも、現実としてそんなことを今すぐにするのは無理だ。
 何も出来ず、ただじっとしているのにどこか腹立たしくなってくる。

「……いかつくなってるよ……顔……」
 隣から私に話し掛けてくる者がいた。
 思わず私はそいつを睨みつける。

「……怖い……」
 その人物――クラスメートで従姉妹の薔薇水晶はすっかり怯えた目で私を見つ
めていた。
 薔薇水晶は左眼に薔薇をあしらった眼帯をしていたが――そこから一筋の涙が
流れているのが見えた。
 それを目にした途端、私ははっとした。
 そうだ、ここで怒りを撒き散らしても何もならない。
 自分の大人気なさに思わず恥ずかしくなる。

「ごめんなさい」
 とにかく、私は彼女に詫びを入れる。
「いいの……。翠星石が旧校舎の呪いのせいであんな目に遭ったなんて噂で頭に
来ているのは分かってる……それは私も同じ」
 相変わらず、すごい洞察力だ。
 昔からだがこの子には嘘はつけない。
 本人は多少ほっとしたのか、流していた涙は止まっていた。
 普段の無表情に戻る。

「呪いなんていろいろ言ってる人が多いけど……そんなのはない……。
 何かしら原因があるはず……」
「そうね。今回の件も考えてみれば人間がやった仕業のはず。でも、なぜ翠星石
がやられなくてはいけないの?そこが本当に頭に来るのだわ」
 私達は声を潜ませながら話した。
「これはまだなんともいえないけど……ひょっとしたらそうなる原因を翠星石は
目にするか手にしてしまったのかもしれない……」
「そんなことって……」
 そこまで言い出したとき、ふと口を止めた。

 思い当たることがあったのだ。
 それは、昨日の夕方――翠星石と駅まで来た時。

「これ、貴女の手帳でしょ。渡しておくわ」
 私は旧校舎の階段の下で拾った彼女の手帳を差し出した。
「ありがとうです。今日は結構落としてばかりだったです」
「そうなの」
「まず旧校舎の池の前でつまずいてしまって落として、旧校舎の階段を上ろうと
したときにも段につまづいて落として、さらに印刷室から資料室に入ろうとした
時にもつまづいて落としてしまったです」
 何回つまづくの。不注意過ぎるわね。
 まあ彼女は結構前を見ていないときが多いから、結構転んでいるけど。
 そんなことを意にも介さず手帳を手にして喜んでいる翠星石だった。

「まったく。気をつけなよ」
 そのやり取りを見ていた蒼星石も大きくため息をついていた。
「なんか旧校舎で物を落とすと大切なものを無くすなんていわれているみたいだ
から……まあないとは思うけど」
「そんなつまらない噂話を信じてるですか、蒼星石。
 翠星石はそんな噂なんか信じてないですよ。ちーっとも怖くねえです!」
 舌を出しながら笑い出す翠星石。
 でも、会話がどことなくちぐはぐな上に、ちょっと足元が震えているけど。
 素直じゃないわね。
 でも……そんな彼女をみているとどこか微笑ましくなってくる。
 そして思わず笑い出してしまう。
 同じことを蒼星石も思ったのか、顔に笑みが浮かぶ。
「ち、ちょっと。翠星石が怖がってるとでも言うですか!」
 私達の反応にムキになる翠星石だった。

 あの時は笑いあいながら、二人を見送った。
 でも……その後であんな目に遭うなんて……。
 そう思うと気が沈んでくる。

 私はその時のことを薔薇水晶に話した。

「……なるほど……確かに旧校舎で物を落とすとその人にとって大切なものを失う
という噂話はある……命じゃなかったらいいけど……」
「な、何言ってるのよ」
 思わず彼女が話すのを制した。
 命を無くすなんて……何考えてるのよ!
「……ごめん、言葉が過ぎたみたい……。
 でも、物を無くすというか……盗られたのかなということは昨日起こっているよ」
「何ですって?」
 私は咄嗟に薔薇水晶に掴みかかる勢いで迫った。

「……どうも……翠星石が襲われた数時間後に、彼女の家に空き巣が入ったらしい
よ……さらに翠星石の部屋に火がかけられて……それは小火で済んだみたいだけど
……結構大騒ぎになったみたい……蒼星石も今朝から警察や消防の人の質問攻めに
あってるみたいだし……」
 それは初耳だった。
 というか、翠星石……いや蒼星石も巻き込んでの災厄が集中的に起きている。
 本当に彼女が何かまずいこといでもしたのかと思えてきた。
「……結局、金目のものを始め家の中にあったものは盗られなかったけど……家の
中は滅茶苦茶に荒らされて……翠星石の鞄と制服が燃やされた……」
 訳がわからない。
 家に入って、何も盗らずに鞄と制服に火をかけるなんて。
 何をしたいのかまったく不明だ。
「……今朝、学校にきたら部活の先輩が話してくれた。さらに、早速これが旧校舎
の呪いだなんていう噂になってる……」
 冗談じゃない。
 いい加減なことを流さないでほしいものだわ。


 そう思っている時、草笛先生の言葉が耳に入る。
「なお、本日はそういう事情もあり、休校にします。下校時は集団で固まって下さ
い。できるだけ一人にならないように。では、号令を」
 学級委員の号令とともに、全員が起立して礼をする。
 チャンスだ。
 私は鞄を手にすると即座に教室を後にする。

「……今から病院へ?」
 私の後を付いて来る形で薔薇水晶が話し掛けてくる。
「当たり前じゃない」
「でも……どこの病院にいるのかわかるの……?」
 そうだった。
 私ははっとして立ち止まった。
「落ち着いて……翠星石が運び込まれた病院は草笛先生から聞いているから……。
 遠い所にあるから車で行こう……今、白崎を呼ぶから……」
 薔薇水晶は鞄から携帯を取り出すと、自宅に電話を掛けた。
 白崎というのは薔薇水晶の家の執事である。
 従姉妹である私ももちろん面識はある。
「……すぐに来るって。5分ほど待って……」
 薔薇水晶はそのまま私の前を通り過ぎて校門へと歩き出した。

 彼女の言葉通り、少しして黒塗りのベンツが校門に停まる。
 運転席には、髪を綺麗に真ん中で分けて鼻眼鏡をつけた青年――執事の白崎さん
がいた。
「乗りなよ。すぐに行くよ」
 彼の声を合図に私達は車に乗り込んだ。
 それを見計らって、彼は車をゆっくりと発進させる。

 私はぼんやりと窓の外を流れる風景を見ていた。
 しかし……やはり落ち着かない。
 最悪の場合……いや、それは考えては駄目!

「……焦っても仕方がない……気持ちは分かるけど……。
 こんなときこそしっかりと構えなければダメ……この先に待っている現実にも、
不可解な超常現象と思えるものにも……どんとこい、と。
 私の心の師がそう語ってる……」
「心の師?」
「この人のことだよ……」
 薔薇水晶はそう言って鞄の中から一冊の本を取り出した。

 『どんと来い、超常現象』という本。
 上田次郎とかいう、日本科学技術大学の教授が書いた本だ。
 確か、一部のマニアの間ではウケている本だが。

「はぁ……」
 私はただため息に近い返事を返すだけだった。 


 目的の病院まで着くのに30分位掛かった。
 市内の救急病院だった。
 車が着くや否や、私と薔薇水晶は車から飛び出して、正面玄関をくぐる。

 中には待合室があり、そこには外来の患者らしき人が多くいた。
 そしてその中には……梅岡先生と蒼星石、さらには先日学校に捜査に来た刑事が
2人いた。もちろん、あのヅ……というよりアフロの男性と金髪オールバックの男
性である。
 蒼星石はどうやら一睡もしていないようで、顔色が悪い。眼を真っ赤にして俯き
がちなままで、刑事の質問に答えているようだった。

「……んで、まとめると昨夜10時過ぎに翠星石さんがコンビニに行こうとして、
近くの公園を通った時、背後から後頭部を殴られたわけや。んで、通りがかった人
に見つけられて、救急車でこの病院へ運ばれた。君が病院からの通報で家を出たの
が11時半すぎやな。その間、家には誰もおらへんかったというわけやな」
「はい……」
 すっかり沈みきった声で答える蒼星石。
「で、翠星石さんの部屋から火の手が上がっているのを近所の人が見たのは12時
半過ぎ。その時間あたりに、この火事の件が消防の通報記録にも残っとる。んで、
確認するけど、盗られた物は本当に何もないのやな」
「さっきから何回も同じことを言ってますけど……翠星石の私物は燃やされました
けど」
 くどい刑事の質問にうんざりしているのが見て取れる。

「石原、学校の放火事件が起こったのはいつのことや?」
「夜中の1時を回ったあたりじゃの。見つけたのは隣の建設現場の作業員じゃけん。
職員室がえろう真っ赤になっちょるんで、おかしいと思って中に入ったら職員室が
燃えちょったそうじゃの」
「で、ここで梅岡先生。念のために確認しますが、あなたはこの時間、この病院に
いたということでよろしいですね」
 蒼星石にはタメ口で、梅岡先生には丁寧語。
 この刑事の性格が大体わかる。
 しかし、こんな時にしつこくアリバイを聞くなんて思慮に欠けているにも程があ
るわね。
「間違いありません。病院の方から電話があって、家を出たのが10時15分でこ
の病院に着いたのが10時25分です。その時に担当の先生と話をしています」
「兄ぃ、この医師は裏をとったじゃけ。確かじゃ」
「うるさいわい!」
 バコンと金髪の刑事の顔面に裏拳がヒットする。
「ありがとうございます!!」
 金髪はニヤニヤして即座に立ち上がると礼をする。

「蒼星石。大変な所悪いけど……翠星石はどうなの?」
 私は刑事らの目が梅岡先生に向いている隙を見て、蒼星石の横に腰掛ける。
「うん……処置は終わったのだけどね……まだ目を覚まさないんだ」
 表情に影を落としている蒼星石。
「そうなの……」
 私はそれ以上彼女に掛けてやる言葉を思いつけなかった。
 ただじっと黙りながら彼女の横に座っているのが精一杯だった。
「……とんでもないことばかりで大変だけど……気をしっかり持たなきゃダメ……。
 ……きっと……翠星石は回復して……陽気に毒を吐くと思うから……」
「ありがとう、薔薇水晶」

「なんやねん。お前ら」
 アフロの刑事が私と薔薇水晶を怪訝な顔つきを向ける。
「失礼ね。いきなり何者だなんて」
 私は刑事の言葉にかっとして、そのまま食って掛かろうとした。
「……押さえて……」
 横から薔薇水晶がなだめてくる。
「お前こそ失礼な奴やな。こっちは捜査をしとるんや。邪魔せんといてくれるか」
「邪魔ならどくわ」
 私は怒りを押さえながらも立ち上がろうとする。
 気まずい空気が周囲を支配していた。
「まったく、タカビーなやっちゃのう」
 お高くとまっているのはどっちよ。
「まあまあ、兄ぃ。かわいい女子高生じゃけ、ここは……」
「じゃかましい!」
 バコンと、アフロをなだめようとした石原という刑事の顔面にまた裏拳がヒット
した。直後にお約束のごとく石原はありがとうございますと威勢良く礼をする。
「まあええ。口を挟まんのならそこにいてもええわ……その横の眼帯もな……って?」
 アフロの刑事は薔薇水晶に目をやった途端に、目を大きく見開いて彼女を見つめる。
「この金髪の娘もかわいいけど、この横の女の子もいいじゃけの。眼帯がけったい
じゃけどの」
「アホ!」
 再び石原の顔面に裏拳。
「ありがとうございます!!」
 そして、威勢の良い礼。

「この娘、どっかで見たかと思ったら……あなた、ひょっとしたら人間国宝の人形
師の槐先生の娘さんやないですか?」
「……確かに槐はお父様ですけど……」
「やっぱりや。大変失礼しました。私、警視庁の矢部といいます。先ほどのご無礼
お許しください」
 掌を返したかのように、深深と礼をするアフロのヅ○(自主規制)の刑事、矢部。
「……別に気にしていませんので結構です……」
 薔薇水晶は表情を変えないままでいた。
「今回の一件ではお友達が不幸な目に遭われて大変かと思いますが、是非捜査にご
協力願えますか」
「……いいですけど……」
「ありがとうございます。もし何かありましたらご連絡下さい。いつでも駆けつけ
ます。こら、お前も礼せんかい!」
 矢部は石原の頭を無理矢理掴むと、頭を下げさせる。
 本当に現金な性格である。
 そして、白崎の方に目をやる。
「んで、あなたは?」
「私、槐の家の執事をやっております白崎と申します」
「そうですか……しかし、あなたも私と同じニオイがしますなぁ……」
 矢部は白崎に近寄って、額をまじまじと見つめる。
「はぁ……?」
 白崎は訝しげに矢部をじっと見詰めていた。
 それにも構わず、矢部は白崎の頭――というより髪に手を触れようとする。


「……やっちゃダメ……」
 薔薇水晶は即座に矢部の腕を掴み上げた。
「な、何をしますのや。薔薇水晶さん」
「……それはやっちゃダメ……ものすごく傷つくことだから……。
 ……"ソレ"同士である貴方ならわかるはずですよね……」
 無表情で矢部の腕を掴みあげているものの、声には僅かな怒りが込められている
のが分かる。

 その時――!!
 一人の看護士がこちらの方へ駆け寄ってきた。

「翠星石さんが意識を回復しましたよ!」

 ――!!

 その言葉を耳にするや、私と蒼星石は病室の方へと走り出した。
 薔薇水晶と他の面々も後に続く。

     -to be continiued -

本日の他キャラは以下の通り。
矢部謙三および石原達也、さらに上田次郎(名前のみ)@TRICK
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