幸~FOREVER MEMORYS~

第一話 「拒絶」


終とは何でしょうか?
永遠とは何でしょうか?
それは死を経て得られる人の唯一の幸せの権利
あなたはどちらを選びますか?
これは永遠の幸せを望んだ少年の物語
その少年の幸せ、そして悲しみ
とくとご覧あれ


先程まではノリの声などして
騒がしかった早朝。
しかし今は人の声も眠りを妨げる目覚ましの音なども無い
静かな朝にとなっている。
暫くして僕は自然に目が覚める。
時計を確認すると朝の10時。
普通の人なら学校にでも行ってる時間帯だろうが
そんな事は僕には関係ない。
僕は拒絶したから、学校という存在を。
ベッドから起き上がり腕を天井に向かって伸ばす。
はっきりとしない視界の中机へと歩いていく。
折りたたんだノートパソコンの側に自分愛用の眼鏡がある。
そしてそれを手に取り慣れた手つきでかける。
カーテンが閉まってるので薄暗いが開けたら開けたらで眩しい。
それにわざわざ窓の所まで歩いていって開けるのも面倒くさい。
窓といっても3メートル程先なのだが。
ドアを開け誰も居ない事を確認し一階にと下りる。
確認すると言っても親は海外に居るし姉のノリも学校に行ったので居るはずもないんだが。
何故かそれでも確認するのは癖みたいなものだろうか。
季節は夏、鬱陶しい蝉の鳴き声がずっと聞こえてくる。
風流も何も蝉とはうるさいだけのそれ以上でもそれ以下でもない存在だ。
リビングのドアを開け冷蔵庫の方へと向かう。
暑くて食欲が湧かないので冷凍庫を開け朝っぱらからアイスを食べる。
とことん不健康だな、僕は。
小さな棒アイスを咥えながら自分の部屋へと戻っていく。
これで暫くは自分の部屋から出る用事は無いだろう。


部屋のドアを開ける。
あらかじめ冷房を付けて冷やしてたのでほどよい
涼しさが体をめぐる。
うん。いい。これぞ現代人。
もっともその現代人の落ちこぼれかもしれないけどね。
机の上のノートパソコン起動させる。
今となっては僕の右腕とも言っていい程の相棒みたいなもんだ。
パソコンとは凄い。
一日でも何日でもネットに繋がっていたら暇がつぶせる。
この長い長い人生の暇つぶし。
あっという間に過ぎてしまう短い一生。
その暇つぶしにはちょうどいい。
さて、何をしようか。
お気に入りのサイトでも見に行きますか。



パソコンを弄り出してから早3時間近く経つ。
時間が流れるのを忘れるとはまさにこういう事なんだろう。
腹が減ってくる。
流石に朝がアイス一本じゃお腹が減るな。
しょうがなく僕はパジャマ姿から着替える。
着替えるといってもパジャマとほとんど変わらないぐらい
地味で現代人とかけ離れた格好だが。


着替え終わると一階へと降りていく。
玄関に向かいドアをほんの少しだけ開ける。
その僅かな隙間から周りに人が居ないかを見る。
見た所特に人は居ない。
僕は扉を開けると外に出てドアを閉めた。
暑い、とても暑い。
湿気はそれ程無いがそれでもやはり暑い。
地球温暖化が進んでるのだろうか?
去年より暑い気がする。
まぁ暑かったら暑かったでクーラーのある所に行くだけだ。
そんな事を考えながら道を進んでいく。
この時間は同級生が居ないからほんとにいい。
会ってしまうと急に気分が悪くなったりする。
これだから学校は行けないんだ、全く。



暫くすると古びたバーのような店が見えてくる。
一見そう見えるが此処は喫茶店なのだ。
すでに潰れた店なのかと思うぐらいボロいドアを開ける。
カランカランという音と共に店主の威勢のいい声が聞こえてくる。

「やぁ、ようこそローゼンメイデンへ・・・ってジュンさんですか。」
「僕じゃ不満ですか?白崎さん。」
「とんでもない、客さんは皆歓迎ですよ。」
「どうだが。」
「はは・・・またキツいですね。」


「じゃあいつもの。」
「いつもの、なんて漫画らしいですね。」
「まぁいいじゃないですか。」
「ふふ・・・はい、どうぞ。」

そう言うと店主の白崎さんは僕に紅茶を渡してきた。
この紅茶はサービスで無料で毎回客に渡している。
そういう事をやっても儲かるものなんだろうか?
まぁそんな事はいいか、頂くとしよう。
カップに口をつける。
あまりに熱かった為にカップを置いて
口を抑えてしまう。
これだから熱いのは嫌なんだ、暑いのも。

「お味はどうですか?」
「毎日来てるのに湯加減も覚えれないんですか?」
「紅茶はそれぐらいが美味しいらしいですよ。」
「らしいって・・・。」
「で、お味は?」
「・・・微妙。」
「厳しい評価ですね。」
「まぁ何事も厳しく評価するのがその人の為になるんですよ。」
「はは・・・もうちょっと工夫していきますか。」


喋り終わると白崎さんは厨房の方へと行き料理を作り出す。
料理と言っても僕は金があまり無いので
安くて紅茶とは違って結構美味いスパゲティにしている。
もっと他の物も食べてみたいのだが学生で金が無いし
ましてひきこもりの不登校児。
金などそう一杯使える訳も無い。
自分の猫舌に合わないやけに温度の高い茶を飲みながら
料理が来るのを待つ。
5分ほどしただろうか。
白崎はスパゲティの入った皿を持ってカウンターに戻ってきた。
やけに作るのが早い気がするがまぁ気にしないでおこう。

「どうぞ召し上がってください。」
「はい、頂きます。」

それだけ言うと僕はスパゲティを食べだす。
食事中は特に喋りはしない。
少ないスパゲティを味わう事に集中したいからだ。
食事中に喋ったりする奴は結構いるが
どういう神経かあまり理解できない。
10分ほどして食べ終わる。
人と一緒に食べたりしないのでこれが早いのかゆっくりなのかもわからないが。


「ごちそう様。」
「どうも、食後のカクテルでもどうですか?」
「生憎未成年なんですが、知りませんでした?」
「まさか、冗談ですよ。半分。」
「半分ですか。」
「ええ、お酒をいれる方が自信がありましてね。いつか評価してもらいたいと。」
「成年になったら評価しますよ。」
「はは・・・それまでに潰れたらどうするんですか?」
「そんな悲しい事を言わないで下さいよ。潰れる訳無いじゃないですか、恐らく。」
「恐らくと言うあたり怖いのですがね。」
「はは・・・冗談ですよ、半分。」
「それは私の台詞ですよ。」
「でしたね。」

そんな風に談笑しながら時間を潰す。
長い長い人生の暇つぶし。
パソコンは暇つぶしには最適だがこうやって
人と喋るのもいいもんだ。
だけどそれを僕は“拒絶”してしまった。
昔は人と喋ったりするのが”幸せ“だった。
それが今ではか鬱陶しいとまで感じたりするようになっている。
悲しいな・・・まぁ自分が悪いんだけど。
そんな中で不思議と白崎さんとは喋りあえる。
こういう喫茶の店主をしているとやはり客と喋る事も一杯あるのか
実に喋り慣れてる人だ。僕とは大違いだな。


「前から思ってたんですが学校行けとか白崎さんは言わないですよね?」
「ええ、それがあなたの選んだ道なのですから何も言う事は無いですよ。」

全く変わった人だ。
普通の人だったら呆れるか怒ったり
あるいは行ってみたらどうだと勧めてくるのに。
まぁそういう人と喋りあえる自分も相当な変わり者なのだろう。
店内をぶらっと回る。
この店の中にはやけに“不思議の国のアリス”や兎のぬいぐるみなど
兎関連の物が沢山置いてある。
何でこんなに多く置くのか全く意図はわからないが
何かしらの意味があるのだろう。
“不思議の国のアリス”の本をぱっと開けてみる。
ネットの文字ならいくらでも読めるのだが
文庫になるとどうも駄目だ。
結局一文字も読まないままいつものように閉じてしまう。

「今日も一秒本を見てギブアップですか?」
「文庫は苦手なんですよ。」

そんな会話をしてると時計の音がする。
鳩時計のようなもので五時ぐらいになるとこうやって音がするのだ。
ようなと言うのは鳩では無いからだ。
時計の中から軽快な音を伴いながら出てくるのは兎。
何故此処までこだわるかがわからない。


「もうこんな時間ですか。」
「いつも同じ事を言ってますね。」
「そうですかね?」
「ええ、毎日言ってらっしゃりますよ。」
「覚えてないな・・・。」
「若年性のアルツハイマーとかいう奴ですか?」
「怒りますよ。」
「いえいえ冗談ですよ。」
「半分?」
「まぁそんな所ですね。真と虚とは常に隣り合わせ。
 切っても切れない関係なのですよ。」
「小難しい事を言うのがホント好きですね。」
「そんな性格なので、もうお帰りで?」
「そうします、ごちそう様でした。」
「いえいえ、会計は200円で。」
「ホント安いですね。」
「それがウリなので。」
「はは・・・それじゃあ。」
「またお越しください。」

ドアを開けて白崎に手を振ると僕は出て行く。
流石夏だ、もう夕方時にも関わらずまだほとんど青空だ。
そしてまだ暑い。
もう夕方なんだから涼しくなってもいいだろうに。
そんな事を考えながら帰路へとついた。


この時間はちょうど部活が無い生徒は全員帰り
部活の生徒はまだ学校に居るので道でばったり生徒に出くわせたりするなんて事は
早々無いのだ。いや、一回だけ誰かに会った気がしたな。
誰だったかな・・・。そうだ、あの“桑田”だ。
僕が一番嫌いな奴とも言える。まぁそんな事はいいや。
まだ明るい道を僕は進んでいく。
家へと続く曲がり角を曲がろうとした瞬間誰かが出てくる。
誰だっ!?

「やぁ!担任の梅岡だよっ!」

強盗では無いにしろ自分の担任とわかって
蹴りたくなって来る。
だけどそうしたら本気でヤバイ事になりそうなので
やめておく。全く、よく飽きない人だ。
梅岡はこうやって時々僕の家に来たりしている。
それが自分の意思なのか仕事としてかはわからないが。

「元気だったか!?桜田っ!」

気安く人の名を呼ぶなとでも言いたい所だが
流石に実の担任にそこまで言うほど
僕は性格がひねくれてるという事も無いので黙っておく。

「大丈夫なのかっ!?体が細いぞっ!」


細いのは生まれつきだ。
だが敢えて黙っておく。
相手にするのもしんどい。

「先生が癒してやるぞっ!今日も色々持ってきたんだっ!」

この人は何やら生徒励ましの言葉やら
やるき倍増!などの気力回復剤。
何から何まで持ってくる。
何故かスッポンのエキスまで持ってきた事まである。
精力増強の意味はよくわかるがんなもんいらん。
生徒の家にスッポン持ってくるなんて常識を考えて欲しい。

「帰ってください。」

それだけ言うと僕は家の角を曲がって家の方へと向かった。
梅岡はそこに立ったまんまこちらを見てくるが気にしない。
全くどういう人なんだろう。
悪気やら何やらは感じないのだがどうも空回りしている人だ。
もう少し生徒の心理というのもわかってあげるのが良いと思う。
道を真っ直ぐ歩いていくと家が見える。
ローゼンメイデンから10分程度の距離なのだがそれでも疲れてしまう。
ふと見ると誰か家の前に居るのが見える。
そういえばもう時間帯からして・・・。

「ジュン心配したのよぉ!」


走ってこっちに向かってくる。
間違いない、水銀燈だ。
僕はそれに向かって走っていく。
水銀燈は僕に抱きつこうとするが無論僕にそんな気は無い。
水銀燈の目前で避けてそのまま家へと走りこむ。
急いで靴を履くと二階へとダッシュで上がる。
そして自分の部屋に入りドアを閉め鍵をかける。
気分が悪い。
幼馴染に会っただけなのに。
全く何故自分はこうも駄目なんだろう。
一階のドアを開ける音がする。
そして足音は僕の部屋の前まで近付いてきて
部屋の手前で止まった。
水銀燈はいつも僕の家に来るが
僕は顔を見ただけで気分が悪くなってしまう。
なのでいつもこうやって鍵を閉めているのだ。
なので水銀燈はいつも廊下に居るのだ。

「こっちに走ってくるから抱きついてくれるかと思ったじゃなぁい。」
「ん、んな訳あ、あるか。」

どうもドモってしまう。
白崎は例外、梅岡は論外なので普通に喋りあえるのだが
基本的にマトモに喋りあえる事が出来ない。
こうやってドア越しだからまだマシなのだが
顔を見ると気分が悪くなってしまう。


「何処に行ってたのぉ?」
「き、き、喫茶店だよ。ひ、昼ご飯食ってただけだ。」
「言ってくれるならお弁当でも作ってあげるのにぃ。」
「い、いるかよ。」
「ふふ・・・可愛いわぁ。」
「な、何を言ってんだよ!」

どうも調子が狂う。
水銀燈と話すと何故か相手のペースに引き込まれる。
どうもこいつも変わった奴だ。

「聞いてぇジュンー。」

そう言うと水銀燈は学校の話をしてくる。
ひたすらひたすら。
何故こうも長い間話せるんだろう?

「・・・だけどジュンが居ないと寂しいのよぉ。一緒に行きましょう。」

毎回学校の話をして来た後にこう言って来る。
そんな事を言っても・・・。

「こ、こ、こんな状態で行けないだろ!顔さえ見れないのにっ!」

こんな対人恐怖症の状態じゃあとてもじゃないが行く事など不可能だ。


通学路で人を見た瞬間卒倒してしまうかもしれない。

「なら少しでも治しましょう、水銀燈が協力するわぁ。」
「む、無理だって!も、も、もう帰ってくれ!」
「ジュン・・・。」

何時もこんな感じで一言呟いて暫くすると水銀燈は帰ってしまう。
そしてまた明日来るのだ、無駄だとわかってるのに何故こう毎回来るのだろう?
ほんと一体何を考えてるかわからない。
今日も何時もどおり暫くすると水銀燈は帰っていった。
全く、何を考えてるのだろう。
時間は夜6時、まだ外が少し明るい。
さて・・これからどうしよう。
ほんと暇だ、凄く暇だ。
なのに人生はまだまだ長いから困る。
さて・・どう暇を潰そう。
ネットでもするか。
そう考え僕はパソコンを起動した。
ノリが帰ってきたようだがそんな事も気にせず
ずっとネットしている。
やがて眠くなり意識が飛びそうになるが
必死に堪えてパソコンの電源を消しベッドに行き
眠りについた。

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最終更新:2006年08月23日 03:03