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雪華綺晶が転入して来てからというものクラスの男子たちが落ち着かない。転入生なのだから珍しがっているのと彼女の透明感のある美しさに惹かれてのことだろう。

どうせ数日すれば飽きて普通に戻るとわかっている僕にはどうでもいい筈だった。けれども彼女は僕の妹で今は亡き薔薇水晶とそっくりの容姿をしている。

そのためにどうしても薔薇水晶が絡まれているように見えて鬱陶しいことこの上なかった。

 「ねぇねぇ、雪華綺晶さんは彼氏とかいるの?」

 「いえ、殿方とこうしてお話する機会が余りなかったものですから…前までは女子高に通っていたもので。」

お嬢様っぽい口調とは裏腹に雪華綺晶はノリがよく人と打ち解け易いのでこうして絡まれているのかもしれない。

人と接することを億劫に思っていないのだろうか?

 「マジで!?じゃあ好みのタイプって何!?」

 「え、えっと…好みのタイプですか?………優しくて勇敢な人が好ましいですわね。」

無難な選択をしたなと僕は隣で聞いていて思った。そんな理想を描いたような奴なんてそこら辺にいるわけがない。

というか何故に僕はコイツの話を盗み聞きしているんだ?いや、聞こえてしまうだけだ。きっとそうだ…。

雪華綺晶のタイプを聞いた男子生徒は自分の優しいところと勇敢なところをアピールし続けていた。その中で一人の男がある男の名前を出した。

 「おいおい、それだったらベジータとかが最適なんじゃねぇかぁ?」

 「よせよ、俺は確かに優しくて勇敢だけれどもお前等とは違ってそこまで女に飢えていないって。」

ベジータの一見、硬派な発言に男子生徒たちから歓声が沸く。自分から優しいとか言う奴ほど胡散臭い奴はいない。

けれども話の流れはもう既にベジータと雪華綺晶のデートの話になっていた。

 「雪華綺晶ちゃんさぁ。まだこの学校のことよく知らないだろ?ベジータに案内して貰えって。」

 「え、でもベジータさんのご都合は…。」

 「チ、仕方ねぇな。今日の放課後にこの学校のこと案内してやるよ。」

 「そうですか?ありがとうございます。」

雪華綺晶の何気ない清らかな微笑に男子生徒は思わず下心を忘れて顔を赤らめて見惚れてしまっていた。実際に彼女の微笑は非情に美しかった。

そして思い出してしまう。薔薇水晶もこんな無邪気な笑みを僕の前で見せてくれていたことを…。傷を抱えた僕はいたたまれなくなって雪華綺晶が視界に入らないように机に突っ伏して眠りに入った―――



そして昼休み、放課後まで後4時間ほどある…。今頃アイツはどうしてるんだろうか?と男子トイレの洗面所で手を洗いながら考えているとベジータとその取り巻きたちが入って来た。

 「なぁなぁベジータ、あの子可愛いだろ?」

 「ああ、上物だな。流石はお嬢様学校から来ただけのことはあるぜ。」

 「だからさぁ、学校を案内した後にどっか連れてって回さね?」

 「け、お前も好きだなぁ…まぁ最初っからそのつもりだったけどな?」

 「さっすがー、星の王子様は違うねー!」

こんな大声であんなことを言うなんて…アイツ等頭が足りていないんじゃないのか?

 (………関係ない。アイツは僕の妹じゃないんだ。全くの別人なんだ…干渉しない方がいい。)

下手に干渉して情が沸いてしまったらそれは薔薇水晶への裏切りにしかならない。みんなが薔薇水晶のことを忘れてしまっても、僕だけはずっと忘れない、忘れたくない。

鏡に映った僕の姿は酷くみじめなものに見えていた。流しっぱなしの水が五月蝿く僕を諌めている。



放課後、生徒たちが下校の準備をしてる中で僕は雪華綺晶を呼び止めた。

 「なぁ」

 「何ですか?」

素っ気無く呼びかけた僕に対して彼女も素っ気無く反応を返す。それに多少むかっ腹を立てたが冷静に対処しようと僕は感情を押し殺して言った。

 「ベジータのことだけど、行かないほうがいいぞ。」

 「どうしてそう言えるのですか?」

 「………僕には人を見る目がある。大体自分から優しいとか言う奴のことなんてあてにならないぞ?」

 「貴方のように優しいところを隠してわざと意地悪く見せている人の言うことのほうこそあてになりませんわよ!」

 「な…人が折角忠告してやってるのに…勝手にしろ!!」

僕は自分の鞄を引っ掴みわざと雪華綺晶の肩にぶつかって教室を出て行った。もうアイツのことなんか知るもんか。どうなったって構いやしない。

僕の靴が入っている下駄箱の前で喋って屯していたカップルがいた。僕は一言大声で退けよと言うと驚いた男女はそそくさと何処かへと行ってしまう。

苛々の募った僕の足取りは荒く傾きかけた太陽が眩しく僕の目に突き刺さる。



自宅に着いた僕は着替えもせずにベッドに横たわる。横たわってから机の上にある薔薇水晶の写真を手にとって眺める。

普段は絶対に手にとったり眺めたりしない。アイツの所為で…こうしてしまったのかもしれない。そして心の中で薔薇水晶と雪華綺晶を比べていた。

やっぱり本当によく似ている。これが別人だというのだから尚更納得がいかない。雪華綺晶は本当に薔薇水晶じゃないのか?ひょっとしたらこれは夢なんじゃないのか?

夢だとしたらなんて悪夢なのだろうか。どうしてあの日が過ぎてからまた薔薇水晶の辛い思い出を思い出してしまうのだろうか。

ふと、僕の脳裏に今朝見た雪華綺晶の美しい微笑が横切った。僕はゆっくりとベッドから起き上がり部屋を出て行く。



雪華綺晶は一通りベジータに学校を案内されて最後に部室のある棟のある部屋に来ていた。

今は中間テストの時期なので部活動は何処も休みとなっているので誰もいない。

 「さぁて、大体はこの学校のことわかったか?」

 「ええ、おかげさまでよくわかりましたわ。」

 「そうか、じゃあ…お礼を貰うとするかい。」

 「え?」

部室の中にある道具の陰から男が二人ぐらい現れる。危険を察知した雪華綺晶は逃げようとするがベジータに羽交い絞めにされて身動きを封じられる。

部室の思いドアは閉められる。生憎と鍵は壊れており使い物にならない。

 「さぁ、此処からが本当の地獄だ…」

 「い、嫌です!離して下さい!!」

 「離せって言われて誰が離すかよ。オイ、コイツの口を塞げ!!」

口にタオルを詰め込まれる。このままじゃヤバイ…雪華綺晶は絶望を抱きその中で何かと世話を焼く素っ気無い男を思い出す。

あの時にあの人の忠告を素直に聞いていたら…。

突然、重い部室の扉が開く。其処にいたのは………

 「お前等って本当に頭が足りてないよな…。こんな分かり易いところに居るなんて…。」

 「て、テメェ…桜田!?なんでこんなところにいるんだ!?」

 「誰かさんがバカみたいに大声で話してたからな。それで今の時期で人が少ない場所なんて此処ぐらいだっての…。」

 「チ…けどテメェ一人で何が………」

 「僕が一人で来ると思うか?梅岡ー!こっちに居たぞー!!」

 「げ!?う、梅岡だと!?クソ…チクったなテメェ!?」

余裕だったベジータの表情は崩れ焦りの表情に変わる。まさか此処まで効果があるとは思ってもいなかった…。何かあるんだろうか?

何にしてもこれを使わない手はない。

 「おいベジータ。このままだと梅岡が来るぞー。此処でのんびりしてる暇があるのかー?」

 「ぐく…クソ、桜田ぁ…覚えてろよぉ…」

 「梅岡―。」

 「ち、ちちち畜生!!」

捨て台詞を吐いてベジータたちは出て行った。残されて力の抜けてその場に座り込んでいる雪華綺晶の口からタオルを取る。

見た感じではまだ何かをされる前のようだった。何故かそれを知った僕は安堵の息を漏らす。

 「大丈夫か?全く…心配かけさせるなよな。」

 「あの…どうして………」

 「助けたんだから文句はないだろ…?ちなみに梅岡は嘘っぱちだけどな…」

 「やっぱり…私が妹さんと似ているからですか?」

図星だった。薔薇水晶の姿をした雪華綺晶があんな下衆な男達に好きなようにされるのが堪らなかったからだ。

暫くの間、沈黙が流れた。雪華綺晶はまだ立ち上がる気配がない。

 「もう、僕の前に出て来ないでくれ。僕ももうこれ以上アンタに干渉しない。」

 「か、勝手なこと言わないで下さい!私だって…事情があってこの学校にしか………」

白い君は俯いて何故か目に涙を浮かべていた。こういう場合はどうしたらいいのかが分からない。混乱した僕は思わず怒鳴ってしまう。

 「ば、薔薇水晶の顔で泣くのは止めろよ!…だったら僕がお前の前から消えてやる。それでいいんだろ!?」

 「何でそうなりますの!?どうして貴方は…そうやって過去から逃げようとするんですの!!」

 「五月蝿い!お前に…お前なんかにわかるもんか!!大事な人が自分の所為で死んだ悲しみなんて…わかってたまるかぁ!!」

僕は自分の臓物をぶちまけるように腹の底から声を出して怒鳴り座り込んでいる雪華綺晶を残して部室を背に走り出した。

呼び止められた気がしたけど聞こえない振りをして僕は足を止めることはなく学校から出て行った。

すっかり沈みかけている夕闇の空が僕の不安定な心の中を隠してくれるかのようだった。



 「くそ、桜田の奴…俺をハメやがって…何時か仕返しを…」

 「お、ベジータじゃないか。」

 「げ、梅岡!!」

 「先生な、最近は寂しかったぞー。もうずっと構ってくれないんだからさぁ。」

 「ど、何処を触ってるんだ変態!!」

 「ふふふ、今夜は寝かせないぞ。チェリーボーイ…」

 「こ、此処からが本当の地獄だ………アッー!!

夜はふけて行く…。それぞれの悩みを包み隠して。ちなみにその後、ベジータは突然として学校を辞めていった。

そしてその後を追うように梅岡も学校から姿を消したという。

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