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「何だか複雑そうな表情ね。いずれは知ることかもしれないこと――貴女もそう、言って
 いたでしょう」
「ん……そうねぇ。……けど……」

 それぎり、彼女は言葉を続けるのをやめる。
 今私達は、花火大会の会場から少し離れた――林の中。丁度その陰になる辺りに、ふた
り並んで木に背をもたれている。
 覗き見というと酷く言い方が悪いけど、タイミングが丁度被ってしまったのだからしょ
うがない。――それに。またもし彼が心的な発作を起こしてしまったとしたら、急いで私
が駆けつけなければならないから。どうやら話を終えたらしい彼らを見る限り、その心配
はなさそうだけど。

「何を話していたのかしらねぇ」
「んー、自己紹介っていうのもおかしいかなあ」

 ただ、それ以外に当てはまるうまい言葉が見つからない。

「ねぇ、めぐぅ」
「何? 水銀燈」

「ジュンと直接話をしたいって言ったのは、あの娘だけど……どうして、今なのかしらぁ。
 何かジュンに、伝えたいことがあったとか……」
「どうかなぁ。それは本人に聞いてみてもいいんじゃない?」

「そんなぁ。――聞ける筈、ないじゃなぁい。意地悪ぅ……」

 そう言って彼女は腰を下ろす。あ、地面にのの字を書き始めた。
 今、私の見下ろす視線の先に居る少女。彼女は年の割に大人びていて、それでいてうつ
くしい。普段学校の生徒には、冷たいパーソナリティの持ち主であると認識されているよ
うだが(実のところ、周りが彼女の頭の良さや、日本人離れした容姿等から彼女を避けて
いる節があるだけ)。

 実際の彼女は、とても思慮深く、ひとのこころを察することが出来る優しい少女である。
昔から彼女を見てきた私が言うのだから、間違いない。
 最近の彼女の様子を見るにつけて、水銀燈は多分、彼のことを――

「まあ、桜田君も相当鈍い子だからねー。これから色々、話も動いていくでしょう」

 そう。話は、動いていく。彼が、彼女の存在を、改めて認識したことによって。
 正直、恋愛沙汰についてのことなら、自由に動いてくれて構わないのだ。しかし、彼ら
には――もっと気をつけなければならない問題を内包しているから。
 彼と、彼女"達"の、意識の問題が。
 さっきまた彼女の意識が、真紅ちゃんからヒナちゃんに戻ろうとしたとき。その"変わり
ゆく流れ"が、見た感じ以前よりも滑らかになっている感がある。

 真紅ちゃんは、特に何か兆しを見せないままに"前面に出る"ことが出来る。ただ、また
"後ろへ隠れる"ときに、ヒナちゃんの意識がすぐに"前面に出る"ことは無い。
 初めに私が彼女の認識したとき。――そう。真紅ちゃんに初めて相談を受けたとき、彼
女が元に戻った際は、殆ど昏倒に近い様子で慌てたものだった(それは真紅ちゃんから聞
いていたので、様子見に徹することが出来たが)。

 かわるがわる、前面へと出続ける彼女"達"の意識。意識とは、こころの世界そのものだ。
ひとりひとりに、広大なフィールドが確実に存在する。
 世界の、切り替わりが、――滑らかになってきている……?

 ――そんなことをうだうだと考えると、隣に居た少女の声で、思考を現実に引き戻された。

「もう。鈍いのは、お互い様じゃなぁい。仕事に関してはほんと鋭すぎる位なのにねぇ……
 すぐに自分の世界にいっちゃうしぃ」
「え?」
「ううん、何でもないわぁ」

 なんだろう。よくわからないことを言うなあ、この娘も。
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