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第七話 「名残雪」


一瞬夢だと思った。
いつもそのように考える。
目の前で何かあったらすぐ現実逃避に走る。
今回もそう。そして

―何時もの様に現実からは逃げれなかった―

「・・・!」

声が出ない。目の前の事に驚愕しすぎて。
慌てて近寄りメグの顔を覗き込む。
そして力一杯体を揺する。
そうしてるとメグは何時もの様に笑顔で喋りかけてきた。

「何かな?天使さん。」

ごくごく普通の様にメグは喋りかけてきた。
思わず平手で頬を叩いてしまう。

「何をしているんですか!?」

叩いてもメグは表情を変えず、ずっと微笑んでいる。
今自分が何をしたかをわかっているんだろうか?
「何って・・・死のうとしてるだけだよ。」

ちゃんとわかっている。わかっているのにこの子は何で、
何で笑っていられるのだろう?
私はナースコールを押すとメグの方を振り向く。

「もう遅いよ・・・?」
「何で・・・何で!?死ぬなんて言わないって・・・言ったんじゃ・・・。」
「うん言ったよ。」
「じゃあ・・・何で?」
「生きる意味を見つけたから。」

メグはゆっくりとベッドの上に座る。
動きの弱々しさから危ない状況だとわかる。

「生きる意味を見つけたんだよ、白い天使さん。」
「・・・。」
「生きる事って・・・死ぬ事だと思うんだ。
 最後に雪みたいに美しく散る為、それが生きる意味、理由じゃないのかなって。
 だけど・・・私の人生は・・・他の人に迷惑をかけ過ぎた。
 他の人に迷惑をかけすぎた。
 お母さん、お父さん、看護婦さん、天使さん・・・皆に迷惑かけちゃった。
 そんな中私は“殺して”って言ってた。わがままだよね。迷惑かけている人に
 自分を殺すようにお願いするなんて。
 自分で死ぬ勇気が無いからって他の人にお願いしちゃうなんて。
 だから私は自分で死ねるよう・・・それを考えてた。
 そして今日こんな薬がたまたま手に入った事だし死のうと思ったの。
 そして今に至る訳なの。わかった・・・?」
「・・・悲しいんですよ?」
「・・・?」
「人が死ぬのって・・・凄く悲しいんですよ・・・。」

雪華綺晶はそう言うとメグをぎゅっと抱きしめる。
涙を一杯流しながら。

「御免ね天使さん。けどね・・・私は自分以外の人の為に生きれなかった。
 雪のような“生”。自分の為であれ他人の為であれ雪を見た時のように喜ばしたり
 何かをしたりしてあげるのも“生”だと思うの。
 けど私は他人を喜ばせる・・雪のような人にはなれなかった。
 喜びをあげる事も出来なかった。だから死ぬの。
 天使さん、だからね・・・私の事・・・忘れて。
 死んだ後も迷惑なんてかけらんない。」
「・・・。」
「私の事なんて・・・“思い出”に残さなくていいから。
 悲しい“思い出”なんか残さなくていいから。
 忘れてね・・・。」
「・・・。」
「・・・天使さん?」
「・・・忘れられる訳・・・無いじゃないですか。
 あなたの事なんか・・・忘れれないですよ・・・。」
「・・・。」
「迷惑かけてもいいじゃないですか・・・。
 私はあなたと居る時・・・ずっと・・・楽しかった・・・。
 死ぬ理由なんて・・・無いじゃないですか。」
「・・・優しいね天使さん。」
メグはパジャマの裾で雪華綺晶の涙を拭き取っていく。
力がほとんど無く手が震えていてほとんどまともには拭けてなかった。

「・・・御免ね。最後まで迷惑かけて・・・。
 もう私に出来る事は1つしかないの・・・。
 忘れて・・・。」

声が段々小さくなっていく。
メグはそれでもずっと笑ったままだ。

「1つだけ・・・忘れないで欲しいの・・・。」
「・・・何ですか?」
「・・・もう泣かないで。私は人に迷惑をかけちゃうからずっとこんなへらへらした
 顔してたの・・・涙は人を傷付けちゃうから・・・もう泣かないで・・・。」
「・・・。」

雪華綺晶は黙って頷く。

「メグ・・・言っても無駄だから・・・せめて歌わせてくれませんか・・・?」
「・・・駄目。」
「何で・・・?」
「あれは私だけの・・・悲しい歌。生きている間に私が私に向けて・・・ずっと歌ってた
 鎮魂歌(レクイエム)・・・。あの時は・・・一回歌わせて満足させたら
 もう歌の事は考えないでくれると思って・・・一緒に歌ったけど・・・。
 今は駄目・・・今歌ったら・・・天使さん・・・私の事を記憶に残してしまう・・・。
 だから・・・私だけに歌わせて・・・。」
メグはそれだけ言うとちいさな声で・・・いつもよりさらに小さな声で
歌い始めた。悲しい歌、名も知らない自分だけの忘却の歌。
魂を鎮め人の記憶から消えようと思う為の歌。
少しするとナースコールを受けて来た医者たちが来た。
医者たちが移動用ベッドに乗せて運んでる時もずっと歌っていた。

―全ての人の“思い出”から消えたいと願う悲しい歌を―

メグはその後医者が処置を施す前に死んだ。
死に顔はずっと幸せそうに笑っていたらしい。
最後まで人の迷惑になりたくないと思ってたのだろう。


からたちの・・・花が咲いたよ・・・
―翌々日

私はやはり病院に来ていた。
悲しくも何時も通り。
エレベーターから降りて薔薇水晶の部屋へと
雪華綺晶は近付いていく。
いつもは聞こえる歌が聞こえてこない。
一昨日にメグが死亡した。
そして昨日、オディールが退院しそのまま刑務所の方へと送られた。
もう会う事は無いだろう。これでいいのだろう。
そんな事を考えながら私はドアを開く。

「おはようですわ、ばらしーちゃん。」

何時もの様に声をかける。
やっぱり返事は無い。
私は近付いていき髪をといたり
顔を拭いたりしてあげる。
そうやって何時もの様に過ごしているとノックの音が聞こえる。
私は入っていいですよと声をかける。
すると中に二人の人が入ってくる。
この二人は・・・確か・・・。

「こんにちわ雪華綺晶さん。」
「久しぶり、雪華綺晶 。」
「ええ・・。久しぶりですわ、笹塚ご夫妻。」

そうだ、結婚したという笹塚と柏葉さんだ。
暫く会ってなかったな・・・。
この二人の結婚式以来だ。そんな事を考えてると笹塚夫妻らが声をかけてくる。

「薔薇水晶・・・大変だね。」
「ええ・・・けど死んではいませんわ。私はずっと待ちますわ。」
「うん・・・きっと目を覚ましますよ。」

ええ、目を覚ましますとも。
きっと・・・目を覚ましてくれますわ・・。

「毎日毎日あなた方が交代で来てくれて本当に嬉しいです。
 感謝しますわ、ばらしーちゃんも喜んでいるでしょう。」

私の友達らに感謝しよう。
ほんとにありがとう、ありがとう。
ばらしーちゃんの為に来てくれたりしてありがとう。

「とんでもない、友達がこんな状態なんだからみんな駆けつけずにはいられないさ。」
「うん、みんな心配してるもの、水銀燈や真紅らもね。」

ほんとにいい友だ。
こんな友を持った事を誇りに思おう。

「しかしもう一週間ですのね、早いですわ・・・。」
そう、もう一週間も経っていた。
考えたらほんとに色々あった。
小さな“思い出”、一杯出来た。
そしてその思い出は・・・忘却の彼方へと置いて来るべきなのか。

「そうだね・・・ずっと寝ているんだね。」
「でもきっと目を覚ましますよ。」
「ええ、きっとじゃなく必ず覚ましますわ。」

強い子だもんね、ばらしーちゃんは。
だからすぐ目を覚ますよね。

「・・・ばらしーちゃんはあの人らのようにはならないで下さいね。」

ジュン・・・翠星石・・・蒼星石・・・そして・・・メグ。

「あなたは死んだりなんかしませんよね、あなたは強いものの。」

早く・・・戻って来て下さいよ・・・ばらしーちゃん。
ふと思い耳を澄ます。
何も聞こえない。あの悲しい歌はもう聞こえない。
少しだけだけど一緒に歌ったあの歌。
もう聞こえない。
暫く私は病室で座ったまんまだったが笹塚夫妻らも
帰りもう面会時間終了間際なので帰る事にした。
静かに一人で帰っていく。
家の近くまで来たときに見覚えのある影を見つける。
「・・・水銀燈。」
「・・・雪華綺晶。」

喪服を着ている事からメグの葬式だったのだろう。
私は水銀燈の近くまで寄っていく。
正直気まずいが話さなければならないと思って。

「そこで・・・座って話しませんか?」
「わかったわぁ。」

二人は近くにある小さな公園へと向かいベンチにと座る。
遊具がほとんど無く寂しい雰囲気を漂わせる公園だ。
ベンチに座るといきなり水銀燈は質問してきた。

「メグ・・・なんて言ってた・・・?」

私は少し考えた後水銀燈にあの時の事を全て伝えた。
水銀燈は目に少し涙を浮かべながらも黙ってずっと聞いていた。

「それで・・・メグは・・・忘れてって・・・。」
「そうなのぉ・・・。」

水銀燈は話を聞いてから益々涙を流さないようにしている。
メグが涙を流さないでと言ってた事を聞いたからだろう。
「ほんと・・・お馬鹿さぁん・・・。
 忘れれる訳なんか無いのにねぇ・・・。」
「・・・ええ。」

頬に水滴がつく。
雪かな?と思ったがそれは雨だった。
小降りだったが強くなったら大変なので私達は別れる事にした。

「それじゃあ・・・また・・・。」
「ええ・・またねぇ。」
「・・・水銀燈。」
「・・・何ぃ?」
「この・・・“思い出”は忘れるべきなのでしょうか・・・?」
「・・・あなた自身が決めなさぁい。」

水銀燈はそう言うと振り向き自分の家の方へと帰っていった。
自分で・・・決めるべきか・・・。
私は家に入るとご飯も食べず仏壇のある部屋にと向かう。
そして手を合わせお祈りをする。
答えはない、自分で導き出すしかない。
私はどうすべきかずっと考えていた。
しかし結局答えは見つからずそのまま眠りについた。
もう体が起きる時間を覚えてしまって
自然と早い時間に起きてしまう。
私は服を着替えると冷蔵庫からヨーグルトを牛乳を出し
軽い食事を取った。
食べ終わり顔を洗う。
顔を拭き玄関に行き誰も居ない家に挨拶を告げ出て行く。
何も考えずに病院へと向かう。
歌の聞こえなくなった病室付近にある薔薇水晶の部屋へと入る。
ノックをしても返事が無いので入る。
ベッドに近付いていき異変に気が付く。
小刻みにだが薔薇水晶の体が震えている。
それをじっと見てるといきなり薔薇水晶の腕が天井に向かって伸びて壁にコツンと当たる。
もしかして・・・ばらしーちゃんは・・。

「ばらしーちゃん!起きたのですね!?」

薔薇水晶は目を擦りながら眠そうだ。
小さな声で喋りかけてくる。

「きらきー・・・ちゃん?」

喋っている。つまり起きている。
嬉しさの余り私は涙を流してしまう。
泣いちゃ駄目だって言われたのに。
私って悪い天使さんね。

「・・・お早う。」
そう言いながら薔薇水晶は私の体を抱きしめて来る。

「何があったか知らないけど・・・心配かけて御免ね。」

雪華綺晶は薔薇水晶を抱き返す。
ずっと泣いていた。嬉しさと悲しさの涙が流れていた。
ほんとに良かった。
精密検査の結果特に後遺症は無いという。
ただし骨折などの怪我がまだ残っている為
薔薇水晶は入院したままだ。
今日は雪華綺晶が薔薇水晶を車椅子に乗せて
病院の中を散歩している。

「何を考えてるのです?ばらしーちゃん。」

ばらしーちゃんがぼーっとしていたので尋ねてみる。

「ううん、何でもない。」
「そうですか。」

中庭へと目を移す。
この病院には小さいが中庭が設けられている。
のんびりしたい時には最適の場所だ。

「少し中庭へ行きましょうか?」
「うん・・・。」

中庭へと車椅子を進めていく。
周りを見回し座れそうな所を探す。
小さなベンチがあったのでそこに行く事にした。
ベンチの横に車椅子を止めて私はベンチに腰掛けた。

「そう言えばばらしーちゃん、リハビリ辛いのですか・・?」
ふと気になったので聞いてみる。

「ん・・・確かに辛い・・・痛いし。」

・・・辛い、あまりの辛さにばらしーちゃんは
死にたいだなんて思うような事があるのでしょうか?

「じゃあ・・・死にたいなんて思いますか?」
「なんでそんな事聞くの・・?」
「え・・そんな事どうでもいいですわ。」
「何か・・・不思議と思わないなぁ。」
「また・・・なんでです?」
「んー。」

そうやって喋りあってる中薔薇水晶が
何か落ち着かない様子である事に気づく。
何なのだろう?
そう考えたとき薔薇水晶は左目の眼帯を外し始めた。
事故の後遺症・・というよりショックで涙腺が
調節できなくなってた筈なのに何故?
よく見てみると涙で溢れる筈の左目から
涙が全く出ていない。

「・・・!ばらしーちゃん・・・目・・。」
ばらしーちゃんは私に言われて気付いたのか
目を触って確かめている。
涙が出ていないのを確認して驚いてるようだ。

「治ったのですね!ようやく・・・。
 ショックから立ち直れたのですね!」

良かった。
左目はもうずっと治らないかと思ってた。
けど今もう治っている。
良かった。

「ほんとだ・・。」
「何ででしょう?」
「もしかして・・・。」
「何か心当たりでも?」
「いや・・・さっきの質問の答えにもなるけど・・。」
薔薇水晶はそう言うと眼帯をベンチ横のゴミ箱へと投げ捨てる。
ゴミ箱の中に入ったのを確認し一息おいて喋りだす。

「自分から・・・逃げたいとは思わなくなって・・・。
 何故だかしんないけど・・・。
 “生きたい“って凄く思うからかな・・・?」

生きたいって思うか・・・。
ばらしーちゃん、あなたは私から離れないよね?
死にたいなんて思わないならずっと一緒にいてくれるよね?
そんな事を考えながら雪華綺晶は薔薇水晶をぎゅっと抱きしめた。
―数十年後

「御免ね・・きらきーちゃん、先に還ってるよ。」

助手席で頭から血を流しながら薔薇水晶は言ってくる。
それだけ言うと目を瞑り段々と眠りについていった。
何故こんな事に・・・?
私達は今もはや冬に近付き紅葉がほとんど散ってしまってる
山へと来るまで来ていたのだった。
しかし山道でカーブを走る途中前方からまるで
狙ったかのように車が正面から突進してきた。
運転席にはエアバッグがついていて雪華綺晶は
無傷だったのだがシートベルトをつけてなかった薔薇水晶は
パワーウインドに頭を当てそのまま死んでしまった。
何故・・・何故・・・!?
私は車を降りてぶつけて来た車のほうへと向かう。
許せない。
ばらしーちゃんをこんな事にした奴を許せない。
そう思って割れたフロントガラスから顔を見る。
ぶつけてきた本人は動いてない。
何故かエアバッグが作動してなくハンドルに顔をぶつけている。
天罰が下ったとでも言うのだろうか?
そんな事を考えながら髪を掴んで顔を持ち上げる。
・・・誰だろう?
顔は血で汚れててあまりわからない。
血を自分の服で拭いていく。
年齢は自分と同じぐらいだろうか?
しわもかなりあり老けている。
髪型は半分ほどがおでこにとかかっている。
こんな人に私は覚えは無いのだけれども・・・。
記憶を辿る。
自分と同じ位の歳のこんな人なんて居ただろうか?
ふと嫌な考えが走る。
たった一週間ぐらいしか会った事がないあの人。
あの時はこんな老けた顔じゃなかったから見ても思い出せなかったのだろう。

「オディール・・・?」

声をかけても返事は無い。
揺さぶっても返事は無い。
頬を叩いても返事は無い。

殺されることを願った少女はとうとう死んだから。

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

悲鳴をあげる。
しかしそれで生き返ったりするわけも無く無常に
声が響くだけで終わる。
雪華綺晶の思い出に残る人はこれで全員

―全員消えた―
―後日喫茶“ローゼンメイデン跡”前

私は特に意味は無いけども此処に来ていた。
今では無くなってしまった思い出の喫茶店。
大家さんに貰ったばかりの鍵でドアを開けて入っていく。
中は埃で汚れまくっていた。
喫茶なのに何故かバー風のカウンター。
誰も座らない椅子。
弾き手の居なくなった舞台。
紅茶を入れる人の居ないカウンター裏。
運ぶ人の居ないトレー。
花が枯れて無くなった植木鉢。
其処にあった思いはもう朽ちてしまい
“思い出”の場所とだけなっている。
椅子を引いて其処にへと座る。
目を瞑って色々と考えてみる。
友達が死んでいった事。
大切な人が死んだ事。
会いたくなかった人に相手は死体という立場であった事。
色んな事を考えていた。

「寂しいですね・・・。」

思わず涙が出てしまうけど拭きもせず放っておく。
何で皆居なくなったのだろう・・・。
何で私だけずっと生きてるんだろう・・・。
何であの人に会ってしまったのだろう・・・。
ずっと同じような事を座りながらひたすら考えていた。
そしてずっと寂しいと思っていた。

「死のうかな・・・。」
「駄目・・・。」

誰かの声が聞こえ思わず振り向く。
しかし誰も居なかった。

「死にたいなんて思っちゃ駄目・・・。」
「ばらしーちゃんなのね・・・。」

自分でも驚くほど何故か冷静だった。
目に見えぬ妹に喋りかける。

「けど寂しいですよ・・・。」
「ずっと・・・一緒にいるから・・・。」
「そうですか・・・。」

空中に手をかざす。
何かに触ってるような感触などしないが
抱きしめるような動作をする。
「ずっと居てくれる・・・?」
「うん・・・。」「
「・・・ありがとう、ばらしーちゃん。」
「けどね・・・。」
「ん・・・?」
「もう長くないと思うし・・・そろそろ会えるかな?」
「多分ね・・・けど早く会いたいからって自殺したら怒るよ・・・?」
「ええ・・・。」

姿は見えない。
幻聴かもしれないが私はずっとずっと喋り続けていた。
何日も何日も・・・。
やがてその日々に終わりが来る。
「ばらしーちゃんが見えたよ・・・。」
「・・・ほんと?」
「ほんとですわ、体も軽い・・・。」

そんな事を喋り続けている中ばらしーちゃんと同じ目線に
なってる事に気付く。

「体・・・遠くなってきたね・・・。」
「うん・・・。」

薔薇水晶は雪華綺晶の手を握ると上へ上へと昇っていく。

「こうやって・・・二人で昇ってみると天使みたいだね・・・。」
「ふふ・・・そうですね。天使なんて久しぶりに言われましたわ。」
「誰かが言ってたの・・・?」
「・・・ええ、けど秘密ですわ。」
「う~・・・意地悪・・・。」
「ふふ・・・あ、粉雪ですね。」

空からはチロチロと雪が降っていた。
積もりもしない程小さく儚く綺麗な雪。

「綺麗ですね・・・。」
「うん・・・。」

そうやって喋ってる間も薔薇水晶はずっと雪華綺晶を引っ張って昇っていき
やがて何かドアが見えてくる。ドアが開きその中にへと入っていく。
やがて雪は見えなくなった。
「これで全員集合だな。」
「そうですぅ、ようやく全員揃ったですぅ。」
「ふふ・・・嬉しいね。」
「かしらー!最高かしらー!」
「なのー!」
「・・・また賑やかになるのだわ。」
「そうねぇ、楽しくなるわよぉ。」
「雪華嬢が来て遂に薔薇乙女に薔薇紳士全員集合だなっ!」
「君は紳士に見えないけどね。」
「よく言うわね・・・あなた。」

水銀燈、真紅、翠星石、蒼星石、雛苺、金糸雀 、笹塚、ベジータ、、柏葉、ジュン
全員が私が来てくれた事を喜んでくれた。

「歌でも歌うか。」
「幸せの・・・。」
「愛歌をですぅ・・。」

私達は歌い始めた。
終わりなき歌を。
・・・メグ。
その名前がふと浮かんだ。
忘れてと願われた存在。
私は彼女の事を考えていた。
何故彼女は“名残雪”に望まなかったのだろう?
小さく儚い粉雪、ただそれは消えても心に降り続ける。
居なくなってもずっと居る。
何故そうなりたくなかったのだろう。
悲しませたくないから?
そんな事無いのに・・・。あなたとの“思い出”は
楽しみばかりなのに・・・。
ばらしーちゃんにはオディールの存在、メグの存在を喋っていない。
雛苺とオディールの話題を、水銀燈とメグの話題をしてもない。
こうやって粉雪のような思い出は消えてくのだろう。
けれど一人でも覚えてくれる人が居たらその思い出が生きて“名残雪”になる。
あなたとの思い出は“いずれは消える粉雪”、“名残雪”
どっちにすべきなのでしょう・・・。
ふと見回してみた。
そこには枳殻の花が一輪咲いていた。
思い出だから消える事は無いのだろう。
それを思いだして今までずっと歌う事をやめてたあの歌を歌い始めた。
彼女だけの哀歌。
けれど何も知らずに一緒に歌ったあの歌は哀歌じゃなく私にとっては愛歌なのだろう。

からたちの・・・花が咲いたよ・・・
楽しい思い出なんて忘れれるわけが無い。
ほんの少しの小さな思い出でも忘れれるわけが無い。
乙女は“思い出”を“名残雪”のようにする事に決めた。
答えは無いからそれが正しい事なのかなどわからない。
けれど大切な事だとはわかっていた。
だから雪のような思い出は小さくても少なくても悲しい事があっても
忘れないと決意した。
雪は降る。
粉雪がずっと降り続けていた。
綺麗な綺麗な思い出。
それは“名残雪”になり永久になった。


からたちの花言葉―思い出―


fin
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