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J「ん…、っ……」
僕が眼を覚ました時、眼の前にはオレンジに染まる空が広がっていた。
ここは学校の屋上にある給水塔の上のようだ。
…どうしてこんな所に居るんだっけ?
J「ふぁ…」
欠伸を噛殺し、ふと辺りを見回す。
すると足元にカバンの他に黒い筒が転がっているのに気付いた。
J「…そっか」
その黒い筒は卒業証書。この学校での修学をすべて終えたという証として、
今日校長先生から直接受け取った物だ。

僕達三年生は今日でこの楼漸高校を卒業した。
最後のホームルームが終わった後、
卒業生達はみんな別れを惜しんでそれぞれ打ち上げ会の様なものを開いていた。
僕もそれに誘われたのだが、
僕はそれを断って学校が見渡せるここで一人学校を眺めていた。
…途中で寝てしまっていたようだが。

全部思い出して立ち上がる。
その時横から吹いてきた風に、少し肌寒さを感じて僕は軽く身震いをした。
春先とは言え、風はまだ冷たいようだ。
J「…帰るか」
僕はこれ以上身体が冷える前に、カバンと卒業証書を持って給水塔から降り、
足早に屋上を後にした。

階段をリズミカルに下りていると、少しずつだが身体も温まってくる。
そうして階段を下りて三階へと差し掛かった時、僕はふと足を止めた。
J「……」
三階、ここは僕達三年生の教室がある階だ。
…折角だから、ちょっと覗いていくか。
そう心の中で呟くと、僕は足を自分の教室へと向け歩き始めた。


教室は無用心にもドアが開けっ放しになっていた。
まぁ、すでに教室には私物は何も残っていないから、
無用心も何もあったものじゃないが。
僕は開いているドアから教室に入る。
んっ…。
すると誰もいないと思っていた教室に、僕の良く知る少女の姿が在った。
彼女は自分の物だった席に座り、ぼーっと誰もいない教室を見ている。
僕の存在にはまだ気付いていないようだ。
僕は少し息を吸い、その人物に近づきながら声をかけた。
J「蒼星石」
声をかけられた少女は驚いたように顔を向ける。
蒼「ジュン、くん…」
J「よっ」
僕は彼女に近づきながら軽く手を上げて挨拶し、彼女の横の机に腰掛けた。
蒼「…どうしたの? こんな時間に」
J「ん、ちょっと屋上で学校との別れを惜しんでたら寝ちゃってな。
  んで、帰る前に折角だからと思って教室を見に来たんだ。お前は?」
僕が軽い感じで言うと、蒼星石は少し微笑みながら口を開いた。
蒼「僕は打ち上げを途中で抜けて帰ろうと思ったんだけど、
  なんだかもう一度この教室が見たくなって…」
僕は軽く息を吐く。
J「…そうか」
蒼「うん…」
そこで一度会話は止まる。
少しの間僕たちを沈黙が包むけど、それは決して気まずい物じゃ無かった。
蒼「…ねぇジュン君、どうして打ち上げに来なかったの? …みんな寂しがってたよ?」
J「…あまりみんなで騒ぐって気分じゃなかったからな。みんなには悪いけど…」
蒼「そう…」
また沈黙。今度はさっきよりも少し長い…。
僕は視線を教室に向けた。
空と同じようにオレンジに染まる教室には他に誰もいない。
僕と、蒼星石以外には…。


蒼「ねぇ、ジュン君」
J「ん…?」
僕は視線を蒼星石に戻す。
蒼「…僕、この教室でみんなと勉強したりちょっと騒いだり、
  ケンカしたりする時間がずっと続くと思ってた」
J「…僕もだ」
蒼「…でも、やっぱり時間は止まってくれないから、
  どんなに楽しい時でも過ぎて行っちゃうんだよね」
J「…そうだな」
彼女は少し寂しそうな顔をしていた。多分僕も…。
蒼「みんな進路も別々で…。僕達、このまま離れ離れになっちゃうのかな…」
J「……」

きっとその言葉は、ずっと蒼星石の胸の中にあった不安なんだろう。
いや、気付かない振りをしていただけで、僕にも、そしてみんなの胸にもあったはずだ。
居心地のいい場所、気を許せる仲間と別れて、自分達の道を行く不安…。
…でも。

J「…縁があればまた会えるさ」
僕はなんでもない風に言った。
蒼「縁って…」
蒼星石の眼が僕を捉える。
僕はその眼を真っ直ぐ見つめて少しだけ笑い、口を開いた。
J「…縁って言うのは要するに繋がりの事だ」
蒼「繋がり…」
僕は頷く。
J「その繋がりが本当に確かなものなら、
例え離れ離れになったとしてもまた会えるさ、きっと…」

もしも会えないのなら、それはそれまでの繋がりと言う事だ…。
でも、僕は信じてる。僕達の繋がりは、こんな事ぐらいで切れたりしない事を…。

蒼「そう、だよね」
そう言って蒼星石は軽く微笑んだ。

…綺麗だ。

夕陽せいもあったのかもしれない。
今の僕の眼には彼女の微笑みがとても綺麗なものに見えた…。
J「なぁ、蒼星石」
蒼「なに…?」
J「僕と付き合ってくれないか?」
…その言葉は驚くほど自然に出た。

僕は多分ずっと前からこいつの事が好きだった。
どうして好きになったのか、何処を好きなったのかなんて覚えてないけど…。
こいつとだけは、縁よりももっと確かな繋がりが欲しかった…。

蒼星石は僕の言葉に少し驚いた顔を見せた後、微笑みながら答えてくれた。
蒼「いいよ」
そして彼女は僕に向かって手を差し出す。
蒼「よろしくお願いします」
僕はフッと笑って、彼女の手を取る。
J「こちらこそ」


高校の卒業式の日。
夕陽が彩る教室の中、僕たちは恋人になった。


/終わり
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