真夏に雪が降るなんて、ある筈がなかった。
私は両手を広げる。あつい、あつい。
真っ赤に染まるは、昔に紡がれた物語。
この世界が夢であることを知っているから、
私はいつまでも手を広げ続けることが出来る。
この物語を、彼は忘れてしまった。
彼女は少しだけ覚えている。そして少しだけ、間違っている。
……苦しい。意識は薄れていく。
夢の中の息苦しさは、何処からやってくるのだろうと。
存外に冷静に考えてしまうのは私らしいのだろうか。
今感じてる"雪のようなもの"。
これが全てのものへ等しく降らないのと同じ様に、
私の言葉も全てへは届かずに、宙を舞っては消えていく。
はじまりがあれば、必ず終わりはあったけれども。
ひとつの終わりが、新しいはじまりをうむとは限らない。
私の物語は、終わってしまった。
だからよろこびの唄は、ここでは響かない。
ああ、雪のように白い灰が、舞い降りてくる。
そっ、とそれを手で掬って。また零してみた。
そして全て、灰がちになる。はいがちに、なる。