『日常の価値』

つまらない、日常が。

漫画やアニメみたいなコトがいつか自分にも起きるって昔から思っていた。

気付いたらもう高校生。周りの女子はみんな恋愛に夢中になってる。

いつのまにか置いていかれてしまった。

いまだに恋愛の一つもせずに、空想の世界に幻想を

抱いているなんて、こういうのをオタクって言うんだろうか・・

でも、オタクって呼ばれたって私は信じてる。

いつか空想みたいなスゴイ体験ができるって。

きっと、いつか漫画みたいな非日常が手に入るって―――


『日常の価値』

学校も終わり、皆家に帰り始める。
「銀ちゃん、一緒に帰ろう・・・」
いつものように仲の良い銀ちゃんに声をかけた。銀ちゃんは私の一番の友達、
というよりなんだか姉と妹みたいな感じの付き合いだ。
「あ・・・ごめんなさい薔薇水晶。今日はちょっと用事があるのよぉ。」
「用事・・・?」
「うん、今日はジュンの家にいって晩御飯を作る約束しちゃっててぇ・・・ゴメンね」
「そっか・・・いいよ・・・・ガンバってね、銀ちゃん」
「ありがとう、それじゃ、また明日ね!」
「バイバイ・・・・」


楽しそうに教室を出て行く銀ちゃんの後姿を見送る
銀ちゃんも恋してるんだな・・・・

仕方ないので、一人で帰途につく。

日が傾きかけていた。しかし、このまま家に帰るにはまだ早い時間だった。
いつもは銀ちゃんと寄り道したり話したりしながら帰るから、
あっという間に家の近くまで来てしまう。

「どうしようかな・・・・」

結局、家には帰らずに、散歩に行くことにした。そういえば、こんな風に
ひとりで散歩するなんてどのくらいぶりだろう――

気付くと見たこともない場所だった。
そこが町外れにある小高い丘とわかるのに結構かかった。

前に銀ちゃんとお弁当もって来たっけなあ・・・

ぼぅっと夕焼けを眺めていたが、薄暗くなるにつれて、段々怖くなってきたので、
帰ろうとして振り向いた。

「?」

何かが少し先の林の中で光った。

「なんだろう・・・・」

だいぶ暗くなってきているのに林の中へ入るのは少し怖かったが、
恐怖よりも好奇心が勝っていた。

林の奥には、二人の男がいた。一人は地面にへたれこみ、もう一人が
それを見下ろしている。そしてなにより目に付いたのが、
見下ろしているほうの男の髪が・・・・光っていた。金色に。

「これに懲りたらもうココには来るんじゃない。わかったか?!」
「わ、わかった。もう来ねぇ!頼む、命だけは・・・」
「わかったんならさっさと消えやがれ!」

へたりこんでいた男は、それを聞くと、林のさらに奥へと消えていった。
まるで漫画の登場人物のようなやりとりだ・・・そう思うと、思わず胸が高鳴った。


「まったく・・・最近は来なくなったと思えば・・やれやれ。」

金髪の男は、相手が去ったのを見送ると、独り言をはじめた・・・なんだか
聞いたことがあるような声だ。

「ああ、疲れた。今日は数学の宿題をやらなきゃいかんってのに・
 ・・家に帰ってからが本当の地獄だな」

宿題・・・・?学生・・・?そういえば頭にばっかり目がいってたけど、
あの服、ウチの学校の制服じゃ・・・?

「さて、帰るか・・・・・」

まさか・・・あの人は

がさっ。よく見ようとして、つい樹に当たってしまった。
でも、このくらいで気付かれるはず――

「おい、そこに隠れてるヤツ・・・誰だ!?」
「!!」

まさか、あの程度の音で気付くなんて・・・男が素早くふり向いた

「ベ、ベジー・・・タ?」
「ゲッ!ば、薔薇しー!何でこんなとこに・・・」
「いま、何・・・してたの・・・?それに・・・その頭・・・?」
「え、いや、これは、その~・・・」

その時、突如として轟音が鳴り響いた。と、同時に突風が起こり、
私はバランスを崩し――倒れた。
ついでに、後ろの樹で頭も打ってしまった。
薄れゆく意識の中で、私が見たのは、慌てふためき近寄ってくる
ベジータの顔と・・地面から昇っていく大きな流れ星と

・・・そして

切望していた・・漫画みたいな、非日常だった―――


次の日、私は家のベッドの上で目覚めた。なんでも、誰かが倒れていた私を
家まで運んでくれたらしい。その人は名は名乗ってくれなかった、と
説明するラプラスの言葉を半分無視して、昨日の出来事を思い返していた。

夢だったのだろうか―――いや、そんな筈ない。ぜったいナイ。

学校に行けばわかること。そう思い、急いで準備をして家を出た。

朝の教室はいつもと何も変わらなかった。昨日は本当は何もなかったんじゃないかな
と思わせるほどに普通だった。

授業が始まろうとするとき、ベジータが教室に走りこんできた。

「とうあ!ギリギリだったか!」

クラスに小さな笑いの波が起きた。ベジータ・・・昨日みた姿と違って
髪が黒くなっている。こんな風にクラスの皆に笑われている姿を見ると、
ますます昨日の出来事が嘘のようだ・・・・

結局、あれこれ考えていたら、もう昼休みだった。

全然授業聞いてなかった・・・・まあ、いいか。

それよりも、今日は朝急いで出てきたせいで弁当の用意をしてなかったので、
パンでも買いに行こうとふらっと廊下に出た。

「あ・・・・・」
「あ・・ば、薔薇しー・・・」
「・・・昨日のことだけど」
「ちょ、待って!とりあえず屋上に来てくれ!」

良い天気だ。まさしく快晴。下を見ると外で昼食をとっている人が、ちらほら見えた。

「人が・・・ゴミのようだ・・・」
「なんか言った?」
「いや・・・・ねえ、昨日のことだけど・・・あなたって・・・・一体なにもの?」
「う~む・・その・・・何から説明していいものか・・。その、俺
実は地球人じゃないんだよな!」
「???・・・誤魔化そうと・・・・してるの・・?」
「いや、本当のことなんだけど・・。」
「まあ・・いいや。よくあることだし・・(漫画では)」
「(よくあるっけ?)うん。わかってくれたか。それで、俺は地球
を奪いにやってくる極悪宇宙人どもを追い返しているんだ。」
「・・・・・・・・」
「(あんまり唐突すぎたか・・)」
「・・・・スゴイ」
「へ?」
「・・スゴイ・・・すごいよ・・・ベジータ。」
「スゴイ?」

やっぱり、昨日のことは夢じゃなかった・・・・夢じゃなかった!

ああ、さよなら日常の世界。こんにちは、非日常の世界。

「ふふふ・・・・」
「薔薇しー?・・オイ!」

そして私は、また、意識を失った。

 
放課後、私は昨日と同じ場所に向かっていた。
私が倒れたあとは、ベジータがとうとう犯罪に手を出したとかいう
話になったらしい。私が教室に戻るまでは、本当の地獄だったろう。
教室に戻ってから、ベジータの誤解をとくかわりにもっと詳しく事情を
聞く約束をとりつけた。

ま・・・あの状況ならベジータに拒否権は無かっただろうけど(笑)

なんだか興奮してしまってやけに早く目的地に着いてしまった。
まだ夕焼けも見えない。やることもないので空を眺めた。

・・・・・なんだろう、アレ。なにかが飛んでる。あ、消えた・・・・

「よう。早かったな」
「?!・・・まさか、今飛んでたのベジ・・・・」
「ああ、手っ取り早く理解してもらおうと思ってな。俺が地球人じゃないってわかったろう?」

―――無言で頷く。

「それで、これ以上何が聞きたいんだ?」
「・・・・全部。なんで地球に来たのかとか、どんなことできるのかとか・・・・・・」
「う~ん・・・そんなに聞きたいのか?」
「襲われたって言う・・・・・」
「わかった!教えるから!」

「俺は、赤ん坊のころ地球にきた。え?そう、宇宙船でだ。昨日見ただろ?
俺が追い返したやつが乗って帰った丸いの・・・あんなヤツだよ。それを
いまの親父に拾って育てて貰ったんだよ。ああ・・・もっとも親父は
この学校に入学する前に死んじまったけどな。」

そこまで話すと、彼は少し遠くを見るような目をした。

「まあ・・・なんで宇宙人と戦ってるのかって言うと、たまたまだ。たまたま。
自分がほかの連中よりもかなり運動能力があるのは昔からわかってた。
でも、別に戦闘したことは無かった。で、中2の頃かな。ある日デカイ流れ星が
この森に落ちるのを見たんだ。俺は興味本位でそれを見に行った。
そしてそこで見たのが・・・・こないだのやつみたいな宇宙人さ。」
「ドキドキ」
「口で言うなよ・・・。それで、見ちまった俺は逃げようとした。でも一瞬で
気付かれてな・・・そいつは襲い掛かってきた。もう俺はやけくそになっていた。
どうせやられるなら一矢報いようと攻撃したんだ・・・・・すると」
「・・・・すると?」
「なんと俺の拳のほうが相手に先に当たったんだ。驚いたよ。まあ、相手はもっと
驚いただろうけどな。しかし相手もなんだか頭にきたみたいで、
俺に向かっていきなり手をかざした。そんでなんだかビームみたいなものを
撃ってきたんだ。ああ、こんな感じで」

そう言って、彼が手をかざした。刹那、その手の延長線上にあった岩は粉々に砕けた

「でも俺は逃げなかった。効かないって気がしたんだ。・・・・思ったとおり俺は
それを直撃したけどダメージは無かった。それで相手は完全に戦意を喪失したみたいで、
俺に土下座して謝ってきた。宇宙人なのにな。その後そいつにいろいろ聞き出したら、
惑星を征服して売るっていうビジネスが宇宙にはあるらしい。最近発見された地球は
資源もあるしなかなかの高値で売れると思ってるやつは少なくないそうだ。
それでそいつが惑星征服にきたやつの第一号だったってわけだ。」
「・・・・・・・・・・」
「それを聞いて俺は宇宙人を撃退するため日夜戦っている・・・というわけだ。」
「いつもここで・・・?」
「ん?ああ、どうもこのあたりが一番着陸しやすいらしくてみんなここに降りてきやがる。
まあ、俺としてはありがたいんだけどな」

ふぁんたすてぃっく・・・・・こんなこと現実に起こっているなんて・・・・

聞けば聞くほどうそ臭いが、空を飛ばれたり、手からビーム出されたりしたら
信じざるを得ない・・・・

「あ、この話は頼むからクラスの皆なんかには言わないでくれ。」
「・・・・・どうして?」
「ほら、普通こういう特別な力を持ってるやつって、怖がられるし・・・・それに、
なにより巻き込みたくないしな。」
「意外と・・・優しいんだね」
「え?いや、別に・・・まあ、ほら、守ってやってる連中が巻き込まれて怪我でもしたら
本末転倒じゃないか。」

ベジータは恥ずかしそうに、ハハハと笑った。

「さて・・・もう暗くなってきたし、帰ろうぜ。」
「・・・・・うん。ねえ・・・・ベジータ」
「どうした?」
「明日も・・・・話が聞きたい」
「ほ、ほかに何を話せっていうんだ。もうほかには・・・・」
「なんでもいいよ・・・私、銀ちゃん以外とこんなに話したの・・・・・
 初めてだったから・・・・明日は私も話すから・・・・・ダメ?」
「あ・・ああ、そういうことなら、まかせろ!いくらでも話し相手くらい
 なってやるぜ!とうあ!」

妙な掛け声とともに、妙なポーズをとるベジータ。すごく、くだらないのに
何故か笑ってしまった―――


それから、放課後はよくベジータと過ごした。もう、話す内容は
その日学校であったこととか、読んだ本だとか、

ほんとうにどうでもいいような内容だった。

それでも――楽しかった。理由はわからないけど。

もう、ベジータの正体や、戦いの話を聞くためじゃなく、まるで
話すことそのものが目的みたいになっていた。そんなある日

「ねえ・・・・、ベジータもさ、クラスに好きな子とか・・・いるの?」
「俺?そうだなあ・・・・・」

ベジータは教室にいるときは「蒼嬢モエスwwww」とか「翠嬢(;´Д`)ハァハァ」とか
クラス中の女の子に言っていて、誰が好きなのかさっぱりわからなかった。
だから、ちょっと好奇心聞いてみた。・・・・たぶん、好奇心で。

「やっぱり銀嬢かなぁ!」
「銀ちゃんか・・・・・・」

銀ちゃん・・・・銀ちゃんか。たしかに凄い美人だし、優しい。
好きになるのもわかる。でも・・・

「でも・・・銀ちゃんは・・・桜田くんの・・・ことが好きなんじゃ・・・・」
「ジュンか・・・・あいつはモテるよなあ。まあ、良いやつだしな。俺みたいな
 変なヤツとつるんでくれる数少ない人の一人だし。」
「いいの・・・・?」
「まあ、叶わぬ恋は、叶わぬ恋なりの美しさがあるだろう?」

言い終わると、彼は笑った。どこか寂しそうに。彼のそういう笑いを見ると、
とても悲しくなる。

叶えてあげたい・・・・彼は、私の夢――非日常体験を叶えてくれたから。

そして、私に初めて銀ちゃん以外との日常をくれたから。

「薔薇水晶、久しぶりに一緒に帰ろうか」

銀ちゃんだった。

「ごめんねぇ。最近貴女と帰れなくて。寂しかった?」
「ううん・・・いいよ。大丈夫だったよ」

ベジータがいたから・・・と、言おうとして思わず口をつぐむ。
銀ちゃんは私が放課後ベジータと過ごしているのを知らないから・・・・。

「あらぁ、そお?薔薇水晶も成長したのねえ」
「うん・・・・ところで・・・・桜田くんと・・・・どうなの?」
「あら、珍しいじゃない。そんなこと聞いてくるなんて。」
「え・・・・まあ・・・・ちょっと気になったから」
「まさかあんたまでジュンのこと・・・・・?」
「!ち、違うよ・・・・」
「まあ、そうよねぇ。・・・・ジュンねえ・・・あの人、ほんとに女が好きか
わかんないくらい鈍感なのよね。暖簾に腕押し、ぬかに釘。
なにやっても反応がないわぁ。全く・・・かといって誰かのことが
特別好きってわけでもないみたいだし。」
「そっか・・・・ねえ、銀ちゃん?」
「なあに?」
「銀ちゃんは・・・・愛するのと愛されるの・・・・・どっちがイイ・・・・?」
「へ?きょ、きょうの貴女はほんとにおかしいわね。熱でもあるんじゃない?」
「無いよ・・・・・」

そういって体温計をさしだす。三十六度五分。全くの平熱。

「・・・・準備のいいこと。そうね、やっぱり・・・愛するほうかしら?
 あんなに無反応なジュンのことが好きなんだもの。」
「そっ・・・か」
「な、なんで悲しそうな顔するのよ。愛されるのがキライなわけじゃないのよ?」
「ホント・・・?」
「当たり前じゃない。あなたにこんなに愛されてるんだから、愛されることの
素晴らしさは知ってるわぁ(こういうこと言うと、とっても喜ぶのよねぇ)」
「そっか・・・よかった。」
「(あれ?反応がなんか違う)」

その日は、ほかにも久しぶりに銀ちゃんとたくさん話した。まあ、銀ちゃんの話す内容は
ほとんど桜田くんのことだったけど・・・・でも、いつもと違ったのは・・・
銀ちゃんの話がいつもよりもなんだか身近に感じたことだった。

週末、今日はベジータと出かける約束をしていた。すぐ近くの街に買い物に
出かけたりしてクラスの人に見つかっていろいろと噂されたくなかったから
・・・・すこし遠出することにした。ラプラスが電車で四駅ほどいったところに
いい場所があると教えてくれた。

・・・・・聞いた覚えは無いんだけどな。まあ、この際気にしない。

電車にひとりで乗る。景色を眺める。彼と会うときはいつも現地集合だ。
空を飛べるっていいなあ。

駅から出ると、もうベジータは待っていた。

「よう!おはよう!」
「お、おはよう・・・・」

挨拶を交わすとすぐに目的地に向かって出発した。歩いて二十分くらい・・・・と、
ラプラスのくれた地図に書いてある。

「そういえば、薔薇しーの私服見るの初めてだな」
「あ・・・・へ・・・変かな。あんまり休みの日に出かけたりしないから・・・・その」
「いや、よく似合ってるさ!かわいいって!」
「・・・・・ありがとう」

変だ。すごく恥ずかしい。銀ちゃんと出かけるときはこんなことないのに・・・・。

「お、着いた。ココじゃないのか?」
「え・・・・・」

古い門があった。・・・・まるで幽霊屋敷の入り口みたいだ。ラプラス・・・・・

「ま、とりあえず入ってみようぜ。」
「う・・・うん」

門がきしみながら開いていく。

「すげえ・・・・」
「・・・・・・・・・」

幽霊屋敷なんてとんでもなかった。そこには、見事なバラ園が広がっていた。

「よくこんな場所しってたなあ~」
「ま・・・・まあね」

なにがまあね、なのか自分でもよくわからなかった。バラ園はとても広く、
見てまわるだけでもだいぶ時間がかかった。

「なあ、薔薇しー。」
「なあに・・?」
「こないだの話のお返しって言ったら変だけどさ。薔薇しーは好きなやついるの?」
「えっ?・・・・・」
「やっぱり、薔薇しーもジュンが好きなのか?」
「いや・・・私は・・・違うよ・・・・」

なんだろう、ドキドキする。気をつけないと、とんでもないことを
言ってしまいそうだ。もしかして私は・・・ベジータのことが・・・・す

「どうした?まさか銀嬢が好きなんていうんじゃないだろうな~」

銀ちゃん・・・・・そうだ、ベジータは銀ちゃんが好き。

その願いを叶える。そう決めた。

「・・・私は、好きな人なんかいないよ・・・・」
「ふ~ん、そっか。お、いつのまにかこんな時間だ。」
「あ・・・・帰ろうか」

駅に着くと、彼は来た道を戻ろうとする。また飛んで帰る気なんだろう。

「じゃあな!」

最初に、人に見つかりたくないから、行き帰りは別々、現地集合、
現地解散にしようって言ったのは、私なのに・・・・でも

「待って・・・・やっぱり、一緒に帰ろう・・・・」
「え?いいのか?」
「いいよ、だから・・・・・」

たぶん・・・銀ちゃんとベジータが付き合えば、こういう時間も減るから・・・・
せめてそれまで少しでも長くいたい・・・なんて、どうなるかもわからないのに、
そう思って、つい口をついて言葉が出てしまった。

帰りの電車は、駅になんか着かなければ、よかったのに・・・・


週明け、銀ちゃんと家に帰る。

「ねえ、銀ちゃん・・・・もし、もしさ・・・・」
「なによ?もしもしって電話じゃあるまいし」
「もし、銀ちゃんのことが好きだって人が・・・・現れて・・・・そのひとが、
 ジュンくんみたいに、優しくて・・・・あ、タイプの違う優しさだけど
 ・・・・ステキな人だったら、どうする?」
「やけに具体的ねぇ。そりゃあ、ジュンみたいに優しくてステキな人なら、
 うーん・・・どうするかな・・・」
「銀ちゃん、愛されるのも好きって言ったよね。それなら・・・その人と付き合うよね?」
「やけに短絡的ね。まあ、本当にジュンくらいステキだったら、そうなるかもね。
 最近、反応のないジュンにアプローチするのも疲れてきちゃったしねえ・・・」
「実は・・・銀ちゃんと、一日・・・・デートしたいって人が・・・いるんだ。」
「は?!あ、あなたがそんな薦めを持ってくるなんて・・・・?」
「お願い・・・・会ってあげて・・・・今週の水曜・・・・開校記念日で・・・
 休みだから・・その日に」
「ちょ・・ちょっと、えらく急じゃない」
「お願い・・・・」
「まあ、珍しくあなたからの頼みだからね・・・で、その人って誰なの?」
「それは・・・秘密」
「ひ、秘密ぅ?!」
「うん、ごめんね・・・場所はまたメールするね・・・・じゃ・・・バイバイ」
「あ、薔薇水晶!・・・・・?一体最近どうしたのかしら」

実は、ベジータの頼みってわけじゃない。私が勝手にやったことだ。ベジータには
これから連絡する・・・・きっと・・・一度一緒に過ごせば、
ベジータのよさが、銀ちゃんにも伝わる・・・・・・

これでいい・・・

なんだか、思わず笑ってしまった。声も出さずに。静かに。

きっと、鏡を見たら、ベジータのあの悲しい笑い顔と似てるんだろうな。


それから二日間、なにも手がつかなかった。気になる。気になるけど・・・。
水曜日は、いっそのこと、あとをつけてどうなるのかこの目で
確かめようかとも思った。

でも・・・・そんな勇気私には、無い。

家に居ても落ち着かないから、外を散歩することにした。あの場所・・・・
あの小高い丘に行くのは気が引けた。
かといって街に出て、二人に出くわすのも嫌だ。
しかたなく、学校の近くの公園に行った。
公園に着いて、ベンチに腰掛けた。

・・・・やっぱり落ち着かない。これなら家に居たほうがよかったなあ

・・・・そんなことを考えていると、突然声をかけられた。

「やあ、薔薇水晶。」
「!さ、桜田君・・・・・と真紅」
「こんなところで会うなんて珍しいわね?」
「・・・・・」
「そういえば、さっきベジータと水銀燈にも会ったな」
「ああ、あれも珍しかったわね」
「!・・・・・・・・桜田君・・・・真紅・・・・少し、話聞いてもらえるかな・・・・?」
「話?いいけど、なあ、真紅?」
「いいわよ。薔薇水晶から話を聞かせてもらうなんてめったにないことだわ」

私は、自分の気持ちを二人に打ち明けた。最初は、言うのが恥ずかしかったけど・・・
話始めると、堰を切ったように、言葉が次々とでてきて、止まらなかった。

もちろん、ベジータの秘密は話さなかったけど・・・・

「こ、こんなによく喋る子とは思わなかったわ」
「そこは、驚くところか?・・・で、薔薇水晶、どうしたいわけ?」
「え・・・・」
「このままでいいのか?」
「だって、ベジータは、銀ちゃんのことが好きだし・・・・・・私、ベジータの願い
 叶えたかったから。叶えるって・・・決めたから」
「本当にそうおもってるなら、私たちにそんな話はしないはずよ・・・」
「ッ・・・。」
「それに、ベジータは本当に水銀燈のことが好きなのか?」
「たぶん・・・銀ちゃんとデートできるってメールしたとき・・・・うれしそうだったし」

「それは、嘘かもしれないわよ?」
「・・・どうして?」
「せっかく薔薇水晶が、がんばって取り付けてくれたデートなんだから・・
 ・・嬉しそうにしないわけないじゃない」
「・・・・・でも、もう・・・いまさら・・・・いまさら言えないよ。
 それに・・・それも勝手な解釈だし・・」
「薔薇水晶。恋愛なんて、勝手なものよ。だって、自分たちが主役なんだもの。
 勝手と勝手がぶつかるから、実ったとき代え難い素晴らしいものになるのだわ」
「お前は、勝手すぎるけどな~」
「・・・・ジュン。とにかく、いまからでも遅くないから、街にいって二人を探すのね」
「薔薇水晶、大丈夫さ。水銀燈だって、お前の親友なんだから、わかってくれるさ。」
「でも・・・・」
「後のことなんか考える必要なんかないわ。いつだったか、あなたの読んでた漫画に描いて
 あったわね。『見敵必殺』って。いい?みつけたら、すぐに気持ちを伝えなさい」
「・・・・なんか例えがわるいな・・・・」
「・・・・私・・・・行く。」
「がんばれよ。薔薇水晶の知ってるベジータなら、きっと・・・どんな形になっても、
 後悔しないはずさ」
「二人とも・・・・ありがとう」

そう言うと、私は走った。後ろから、

「駅の近くの喫茶店にいるはず」

って声が聞こえた・・・・

なんで桜田くんが人気があるのか、わかった気がする

「やれやれ、ベジータもアイツも世話のやけるやつだ」
「見てて気付いてないとでも思ってるのかしら・・・・・」


駅の近くには、喫茶店は一つしかない・・・・いろんな考えが頭をめぐる。
でも、それを走ることで誤魔化した。

喫茶店の戸を開けると、一番奥の席に、二人は、いた。

「薔薇水晶・・・・?どうしたのぉ?」
「薔薇しー・・・・」

近づいて、話そうとするけど息が切れて、言葉が出ない。

「ベジ・・・タ・・・・私・・・・ベジータのことが・・・・好き・・・」

ああ、どうして、もっと気の利いた言葉が、出ないのだろう。いつもなら、
ベジータとなら、普通に、話せるのにっ・・・・!

「ベジータは・・・ベジータは、私の・・・・漫画みたいな・・・
体験したいっていう願いを・・・そんなつもりなかったかもしれないけど
・・・・叶えてくれた。・・・・だから・・・ベジータが、銀ちゃんが好きだって
・・・・言ったから・・・お返しに叶えてあげたかった・・・・・」

まるで時が止まったように、目の前の二人は動かない。かまわず言葉を紡ぐ。

「でも、そう決めたときから・・・なんだか・・・・心が苦しくなった・・・・
そのとき私はベジータが好きだって気付いたんだ・・・!だから・・・・
もうこれが最後のチャンスかもしれないから・・・・伝えたかった・・・・・」

そこまで言うと、なんだか体がふわふわしてきて・・・・・・


私はまた意識を失った―


「・・・・・あれ。」
「起きたか?お前はほんとによく気絶するんだな」
「・・・・・・ベジータ・・・・・・・・・・・!」
「あ、オイ!逃げるな!」
「ゴメンね・・・・いきなり邪魔して・・・・せっかくのデート、邪魔しちゃったね。
 ・・・・私のせいで台無しだったよね・・・・・・」
「気にすんなよ、薔薇水晶が、用意してくれたデートなんだから、構わないさ」
「でも・・・・・・・あれ、ここは」
「そう、あの丘だよ。水銀燈がここに連れてけってさ」
「何で銀ちゃんが・・・・・・・・」
「さあ?・・・・・薔薇水晶。さっきのお前が言ってたことだけどさ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「お前、俺に願いを叶えて貰ったって言ったよな?」
「うん・・・・わたし、ずっと退屈な日常からぬけだして・・・・
 漫画みたいな非日常が、体験したかったから」
「そうか・・・・・それで、そのお返しに俺に銀嬢と付き合うって
 プレゼントを贈ろうとしたわけか」
「うん・・・・」
「ギブアンドテイクってやつか・・・・でもな、薔薇水晶。俺はもうお前から
 願いを叶えてもらってる。」

「え・・?」
「俺がどうして自分が宇宙人ってわかったか教えて無かったよな?
「そういえば・・・・」
「俺の、親父が死んだときに、荷物を整理していたら、妙なカードがでてきてな・・
 ・・・それには俺がどうして地球にいるのか、自分がどこの星の出身なのかが
 刻まれていたんだ・・・・」
「それで・・・・?」
「俺は、惑星ベジータって星生まれらしい。その星の人間はサイヤ人っていう
 戦闘種族なんだ・・・・・そして」
「そして?」
「俺は、地球を征服するために、この地球に送られたんだとさ・・・・
 ハッ、実の親父もひどいことするもんだぜ」
「そんな・・・・・」
「俺はそれをみて愕然とした・・・・そして、なにもかも嫌になった。
 でも、生まれ育ったこの街を国を地球を征服するなんて、出来なかった。
 そのとき、ちょうどお前に話した宇宙人の襲撃を受けたんだ。」
「でも・・・・なんでいまそんな話を・・・?」
「最後まで聞けよ。・・・・俺はその日から日常を捨てた。みんなを、地球を
 守るために。だから、学校では馬鹿な真似をしたりして、あんまり友達も
 作らなかった。最初は、自分が犠牲になってるんだってかっこつけてたけどさ・・・
 俺は、いつしか日常に飢えていたんだ。なんの意味もない会話、
 なんの意味も無い行動・・・・」
「・・・・・・・・・」
「そんなとき、薔薇水晶、お前が現れた」

ベジータがこちらを見る。真剣なまなざしだ。


そういえば、今日のベジータは、一度も私のことを、薔薇しー、と呼んでない・・・・・


「最初は、あまり関わりあいになりたくなかった。こんな妙な力持ってるやつを見たら、
 普通ビビって嫌われると思ったからな。だから、見つかったときは
 もう終わりって思ったよ。」

ベジータが微笑む・・・・いつもと違う、笑い方で

「でも、お前は俺のことを、凄い。っていってくれた。俺は嬉しかった。
 それになにより嬉しかったのは、お前のおかげで・・・

            俺は『日常』を得ることが出来たんだ       」

「あ・・・・」

「わかったか?これがお前のくれたお返しだよ。だから・・・・銀嬢のことは、
 もういいんだ・・」

「ホント・・・?」

「ああ!だから・・・薔薇水晶!好きだ!俺と付き合ってくれ!どんな敵が
 来たって、必ず守るから、頼む――」

「・・・・・・・・・・・」


次の日、教室は相変わらず朝独特の喧騒であふれていた。

今日も変わらぬ日常が過ぎていく・・・・・

変化が無くてつまらないけど、だからこそ愛すべき日常が。

そういえば、一つだけ変わったことがあった。

「おい!薔薇水晶帰ろうぜ!」
「・・・・・うん!」


これからは、ふたりででかけるときは現地集合じゃ、無くなったってこと・・・・・


 FIN


「ようやく結びついたか」
「やれやれ、手間かけさせてくれたわねぇ・・・」
「まあ、面白いものが見れて、よかったのだわ」
「あの二人、まだだれも気付いてなかったって思ってるのかしらぁ」
「鈍いからな、二人とも・・・」
「さあ・・・?さて、帰りましょう、ジュン」
「あら、ジュン今日は私と帰るんじゃないのぉ?」
「ちょっと!ジュンから離れなさい!」
「あんたには関係ないでしょお」
「全く!いつもいつも勝手なんだから!節度というものを知らないの!人の下僕に!」
「僕は下僕じゃ無いっての・・・・。恋愛って勝手なもんなんだろ・・・・ハァ。」

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最終更新:2006年02月28日 22:13