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  翠×雛の『マターリ歳時記』

―水無月の頃 その3―  【6月11日  入梅】


入梅。
読んで字の如く、暦の上で梅雨に入る頃を指している。

だが、世の中では既に、六月初旬から梅雨が始まっていた。
折角の日曜日だというのに、朝から雨のそぼ降る景色を見せられては、
気力も意欲も急降下。一気に、倦怠感と脱力感に襲われる。
翠星石も、カーテンを開いて窓に付く水滴を見た途端、二度寝モードに突入してしまった。


カリッ……カリカリカリッ……。

例によって、チビ猫が起こしに来たが、翠星石は瞼を閉じたまま、聞き流した。
やがて、ドアを爪で引っ掻く音が止み、チビ猫も諦めたものと思いきや、
今度はニャ~ニャ~と悲しげな声で鳴きだす始末。

(うっ…………流石に、罪悪感を覚えるですぅ……いやいやいや。
 ここで起きたら、ヤツの思う壺です! 意地でも二度寝してやるですぅ!)

すると、今度はトントンと階段を昇ってくる足音が響いてきた。

「おや? 入れてもらえないのかい?」

チビ猫の声を聞きつけて、祖父が様子を見に来たらしい。
さて、これで祖父がチビチビを連れていってくれるのだろうと、
安堵したのも束の間――

「どぉれ。じゃあ、儂が扉を開けてあげよう」

などと、戯けたことを言い出したではないか。
ちなみに、蒼星石と翠星石の部屋のドアには、鍵が付いていない。
中学になる頃、祖父母は付けても良いと言ってくれたのだが、姉妹の方から、
必要ないと断ったのだ。実際、今までは必要性を感じていなかった。
今になって、後悔する日が来ようとは……。

(……しゃーねぇです。これで静かになるなら、我慢してやるですぅ)

チビ猫は直ぐに胸の上に乗ってくるので、息苦しいし暑苦しい。
と言って、横臥していると髪の上に寝そべるから厄介なのだが……仕方がない。
翠星石は、寝返りを打ってドアに背を向け、タヌキ寝入りしていた。

――――すると。

小走りに駆け寄ってくる猫の足音と、のしのしと床を踏み締める祖父の足音が、
徐々に近付いてきた。時々、くくっ……と、祖父の含み笑いも聞こえる。

(……おじじ、まぁた妙なコトを企んでやがるですか)

顔に落書きだとか、前髪にミョーな寝癖を付けられたりとか、前科は幾つもある。
出かける予定がないとは言え、おかしな悪戯をされては堪らない。
翠星石は仰向けになって、パカッ! と瞼を開いた。

緋翠の瞳に映ったものは、金ぴかのマスクに頭部を包んだ、祖父の姿だった。
まさか、そんな被り物をしているとは思いもしなかったから、
翠星石は咄嗟に枕元の目覚まし時計を掴んで、祖父に投げ付けていた。
鈍い音を立てて、時計がトラに似た黄金のマスクに当たる。

「なっ! なにバカやってるです、おじじ! 
 年甲斐もなく牙狼の真似です? 恥を知れですぅ!」
「いやぁ……商店街の福引きで、魔界騎士のマスクというのが当たったのでな。
 ちょっと翠星石を驚かしてやろうかと、思ったんじゃよ」
「……ったく、しょーもねぇ老人ですぅ。さっさと外すですよ」
「そうじゃな。このマスク、頭をすっぽり覆うから暑くて……? お……おお?」

やおら、魔界騎士のマスクを撫で回して、祖父が狼狽えだした。
異変に気付いた翠星石は、ベッドの上で居住まいを正して、様子を窺った。

「どーしたです? まさか、脱げなくなった……なんてお約束じゃねーですよね?」
「…………お約束じゃ。ファスナーに何か挟まって、動かん」
「可愛い孫を脅かそうとするから、罰が当たったですぅ。確か、そんな伝説があったですね。
 嫁を脅かそうと鬼の面を被った姑の顔に、面が貼り付いて外れなくなるです。
 ああ、怖い怖い……ガクガクブルブルですぅ」
「わ、儂が悪かった。謝るから、これを外すの手伝ってくれんか?」

「しゃーねぇです」と重い溜息を吐いて、翠星石は肩を竦めた。

「私が聞いた伝説だと、改心して念仏を唱えたら、ポロッと外れたそうです」
「念仏かい? 南無阿弥陀仏…………むむぅ……脱げんぞ」
「きっと、方法が違うですよ。だから、外れないのは当然ですぅ。
 いいですか。まずは、アブラカダブラと三回唱えやがれです。
 それから三回廻ってジョジョビジョバァ! これで完璧ですぅ」

普通に考えれば、あからさまにウソだと解る話だが、溺れる者は藁をも掴む。
祖父は疑いもせずに、翠星石の言った方法を、忠実に再現した。
何やら、ワケの解らない身振りまで付けて。

「儂の中の、よからぬモノが……ジョジョビジョ、バァーッ!」
「きゃはははははっ! おじじ、そこまでしろとは言ってねぇですぅ!」

翠星石は笑い転げるあまり、ベッドに寝転がっていたチビ猫を、背中で押し潰しそうになった。
だが、そこは流石に敏捷な猫。素早く逃れて、にゃん! と文句を言った。

「ああ、ごめんですぅ、チビチビ~」

ひょいと抱き上げて、翠星石は柔らかな毛並みに頬ずりした。
そのまま祖父のことなどすっかり忘れ、チビ猫と戯れる翠星石に、
祖父が情けない声を出して纏わりついてくる。

「むうぅ。やっぱり脱げんぞ、翠星石~」
「あーもう……ホントに世話が焼ける老人です。今、おばばを呼んでくるですぅ」
「っ!! ちょ、ちょちょちょっと待ったぁ!」

チビ猫を胸元に抱いて部屋を出ようとした翠星石の前に、
老人とは思えぬ俊敏さで、祖父が立ち塞がった。

「マツに知られたら、こっぴどく叱られてしまうわい」
「自業自得じゃねぇですか。私の知ったこっちゃねぇです」
「ま、ま、そう言わずに。なんとか、ここで外す方法を、考えておくれ」

泣きついて懇願するものだから、やむなく、翠星石は机の椅子に腰掛けた。
「まずは、よーく見せてみるです」

祖父を床に座らせて、後頭部のファスナーを調べる翠星石。
内側で、布の切れ端が挟まっていているらしく、ちっとも動かなかった。

「……む~」
「どうじゃ、開きそうかのぉ?」
「私の手には負えねぇです。もう、死ぬまで魔界騎士のままでいやがれですぅ」
「そ、そんなぁ……これじゃあ飯も食えんのじゃ」

言われてみれば、これは一大事。
マスクが脱げなくなって飢え死にしたバカな爺さんと、祖父だけが嘲笑されるなら良い。
だが、そうではない。
祖母や、翠星石もまた、あの爺さんの身内だと後ろ指を指される事になるのだ。
そうなったら、恥ずかしくって街を歩けなくなってしまう。

(そりゃ拙いですね。ならば、この手の事が得意な助っ人を、呼ぶしかねぇです)

翠星石は、机の上に置いてあった携帯電話を掴み、電話を掛けた。


――――三十分後。
玄関のチャイムが鳴るや、翠星石は階段を駆け下りて、祖母より早くドアを開いた。
傘を差し、立っていたのは、眼鏡を掛けた青年――桜田ジュンだった。

「待ってたですよ、ジュン! 雨の中、よく来てくれたです」
「……お前、なんでパジャマのままなんだよ。人を呼び付けといて寝てたのか?」
「気にすんなです。それよりも、早く上がって欲しいですぅ!」
「ええ? うわっ、ちょっと待てって」
翠星石に腕を引っ張られて、ジュンは久しぶりに、彼女の部屋を訪れた。

「……まずは、こいつを見て欲しいですぅ」

ドアを開いた翠星石が指し示す先を覗いたジュンは、
やおら目の前に現れた黄金の魔界騎士と直面して、腰を抜かすほど驚いた。

「うおわぁっ?! な、なんだぁ?」
「落ち着けです。これは、おじじですぅ」
「はあ? おい…………まさか、驚かす為だけに僕を呼んだのか?」
「ち、違うんじゃ、ジュン君。詳しくは、儂が説明しよう」



話を聞き終えると、ジュンは翠星石に向けて、ふっ……と微笑みかけた。

「孫娘への思いやりがあって、いい爺さんじゃないか、翠星石」
「お世辞なんて必要ねぇですぅ。おじじはバカタレですから、甘やかすと付け上がるです」
「バカタレ、とは酷い言われ方じゃのう」
「言われて当然ですっ! これに懲りて、ちったぁ悪戯を控えやがれですっ」

ジュンは笑いながら、老人の後ろに回って、状況を確認し始めた。
触れてみて、少し動かしてみる。

「うん……これだったら、ハサミで切らなくても、なんとか開きそうだ」
「ホントです?」
「まあ、任せておけって」

ジュンの指が、器用に動いていく。さながら、優雅に舞う蝶の様に。

神懸かり的な技に魅せられ、翠星石が我を忘れた刹那、

「これで、よし……っと」

祖父の頭部を覆っていたマスクが、ジュンの手によって外された。
さっきはビクとも動かなかったくせに、ファスナーは呆気なく開かれている。
まるで魔法の指だと翠星石は思ったけれど、敢えて、口には出さなかった。

「おおっ! ありがとう! ありがとう、ジュン君っ」

フルフェイスのマスクを被りっぱなしで、よほど暑かったのだろう。
祖父は、顔中びっしりと汗をかいている。
やっとの事で苦痛から解放された祖父は、喜色満面でジュンに抱き付き、
容赦なく汗まみれの顔を擦り付けた。

「ジュン君っ! 儂は……儂は、もう辛抱たまらなかったのじゃ」
「う、うわあぁっ! ど、どうなってるんだよ、これ? 助けてくれえっ」
「おじじが熱暴走したですっ! ジュン、いま、助けてやるですぅ!」

翠星石は、どこから持ち出したのか如雨露を振り上げ、祖父の頭を殴り付けた。
それほど強くは叩いていないが、暫しの間、祖父の動きが止まる。

「今ですっ。早く逃げるですよ」

如雨露を放り投げてた翠星石は、ジュンの手を握ると部屋を飛び出し、
一目散に階段を駆け下りて、玄関に向かった。
そして、ジュンが靴を履き終えると、自分もサンダルを突っ掛け、見送りに出た。

「ジュン……今日は、ホントに助かったです。あ……ありがと……ですぅ」

傘を差して、家路に就こうとするジュンの背中に届く、しおらしい台詞。
ジュンは振り返って、梅雨空の鬱陶しさなど霞んでしまうほどの笑顔で、翠星石に応じた。

「別に、構わないよ。今日は、柏葉との約束も無かったからな。
 この程度のことなら、いつでも手を貸すさ」
「…………そ、そんなの当ったり前ですぅ! 
 私の頼みを断る権利なんて、お前には無ぇですよ」

照れ隠しのつもりが、ついつい、いつもの憎まれ口を叩いてしまう。
習慣とは恐ろしいものだ。無意識の内に、口をついて出ているのだから。
けれど、気心の知れたジュンは、怒るどころか陽気に笑い飛ばすと、
「じゃ、またな」と別れの挨拶を告げて立ち去った。


「……ジュン」

雨靄の彼方に遠ざかる背中を見詰めている内に、唇が、彼の名前を紡ぎ出す。
何年も前に棄てた筈の想いが、胸の奥底で燻りだす感覚。
彼は最初から、翠星石を友人としか見ていなかったのに。

(私……まだ、あんなヤローに未練があるです?)

胸中で自らに問いかけたと同時に、玄関のドアが静かに開き、祖父が顔を覗かせた。
そして、六月の雨に煙る街を、じっと見据えている翠星石を眼にすると、
穏やかな笑みを浮かべて問いかけた。
「ジュン君は、もう帰ってしまったのかい?」

翠星石は、ジュンの去った方を向いたまま、無言でコクリと頷いた。
すると、祖父は「そうか」と呟き、暫し黙った後、思い出したように口を開いた。

「なかなかの好青年じゃな、彼は」
「…………あんなヤツ、箸にも棒にも掛からねぇです」
「ほほう?」

吐き捨てるように呟く翠星石に、祖父の好奇に満ちた眼が向けられる。
少々、ひねくれ者の孫娘は、想いや感情を、素直な言葉で表現しない。
それを知っているから、祖父は彼女の言葉を、逆の意味に解釈していた。

「本当は……ジュン君が好きなのじゃな? もしや、もう付き合っておるのか?」

祖父は、戯けた口調で翠星石をからかった。
だが、猛烈に反撥してくるものと構えていた祖父は、予期せぬ肩透かしを食らった。
翠星石は癇癪を起こすどころか、溜息を吐いて、寂しげに目を伏せたのだ。

「私は…………あいつの彼女になんて、なれねぇです」
「なんでまた、そんな弱気な事を言うんじゃ。強力な恋敵でも居るのか?」
「まあ、そんなトコです」

彼女も、ジュンとは幼なじみ。立場は同じ。
だけど……彼は、彼女を選んだ。翠星石ではなく。

屋根から落ちてきた雨だれが、風に流され、翠星石の目元に当たって砕けた。
まるで、涙の粒みたいに頬を濡らしてゆく。
翠星石は、パジャマの袖で雨に打たれた頬を拭うと、祖父に笑いかけた。

「なぁんちゃって。実は、もう恋敵ですらねぇのです。
 だって……高校生の時に…………私はフラれちまったですから」
「なっ?! なんじゃとぉー!」

突然、叫んだかと思うや、わなわなと身体を震わせる祖父の豹変ぶりに、
翠星石はビックリして息を呑んだ。
優しい慰めの言葉でも掛けてくると思っていたから、不意を衝かれて驚かされた。
一体全体、祖父は何故、猛烈に怒っているのだろうか?

「儂の可愛い孫を、フッたじゃと? 傷物にしおったのかっ!」
「ちょっ……いきなり、ブッ飛んだコト言うなですっ」

翠星石の怒声には耳も貸さず、祖父はさっき外したばかりのマスクを、ぐいと被った。
マスク越しに、くぐもった声が紡ぎ出されてくる。

「……あの小僧、ちょっと今から狩ってくる」
「なななっ?! お、おじじっ! 落ち着けです。犯罪行為は止めるですぅっ!」
「ええい、放せ! 乙女の純真を踏みにじった輩を狩るのが、魔界騎士の務めじゃあっ!」
「ウソですっ! そんな話は聞いたコトねぇですぅーっ!」



それから、騒ぎを聞き付けて祖母が現れるまで、祖父の魔界騎士モードは静まらなかった。


雨降って地固まる――――という風には、そうそう巧くいかない。
しとしと降り続く雨の下で、翠星石は、つくづく思い知らされるのだった。



『保守がわり番外編  着信アリかしらー!? その5』

蒼「金糸雀は、最も信頼してた人に裏切られたら・・・どうする?」
金「迷わず復讐するかしら。目には目を・・・と、モーゼも十戒で言っているかしら」
蒼「なんだってーっ?! ボク、ちっとも知らなかったよ。
  まあ、それは良いとして、やっぱり仕返しすべきなのかなぁ」
金「そりゃあ、もう! 信頼を裏切った罪は、万死に値するかしら」
蒼「・・・・・・なるほど。そう言われると・・・そんな気がしてきたよ」
金(うふふふふ。よしよぉし、決闘フラグktkr~。
  対決になれば、どちらか一方が確実に・・・あわよくば共倒れかしらー)

蒼「姉さん・・・ボクを裏切った報いは、受けてもらうよ」

♪www♪
翠「? 蒼星石からメールですぅ。何の用です?」

【やあ (´・ω・)
 突然だけど、このメールを読んだキミに、明日、死んでしまう呪いをかけたよ。
 ショックじゃないよね? だって、身から出た錆だもの。
 だから・・・ボクは呪いから逃れる、たった一つの方法を実行したんだよ。

 うん、強引なのはわかっている。 地獄の沙汰もギブミーマネーって言うしね。
 謝って許しを請う気なんて、これっぽっちも無いから。じゃあね、姉さん】

翠「なっ・・・なんですか、これはっ!?
  信じらんねぇです・・・・・・一体、蒼星石に何があったです?」
金(さぁ~て。次は、翠ちゃんを焚き付けるかしらー)

・・・反間苦肉の策かしら~。
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