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あらすじ

機巧神招喚。ジュンと真紅はホーリエを操り巨大化した異形の蜘蛛と対峙した。
その力はすさまじく、近接滅壊術式『ローズテイル』にて蜘蛛を撃破した。
しかし、その戦いを眺める物がいた。
彼らは魔術結社『幻塔社―ファントムバベル―』の幹部たち。
彼らとの邂逅はいまだ訪れず。




機巧励起ローゼンメイデン 第6話「SCHOOL LIFE」

「んで、これからどうしたら良いんだ?」
僕は赤く燃える夜空を見上げながら隣にいる真紅に声を掛けた。
真紅も同様に空を見上げている。少し隣を見ようと思ったがやめた。
またさっきと同じ半裸状態の服装だったから。
「そうね、貴方は私と契約したからこれからは私のミーディアムとなった。
 つまりは家来なのだわ。このまま外にいるなんてみっともないし、そうね。
 そうだわ、これが良いわね、ジュン、お前の家に案内なさい。」
はい?今なんと言いやがりましたか、この娘わ?
僕は見上げていた視線を戻し、しれっととんでもない事言ってのけた
人外娘に視線を合わせなおす。向こうも同様に視線を合わせてきた。
「あら、不満?」
「ああ、不満だ。」
「そう、でも私がいなければ死んでいたわよ?」
「それはそれだ。つか家来ってなんだ家来って。」
「家来は家来よ、言葉どおり。契約者と言えど、私はローゼンメイデン。
 誇り高き至高のホムンクルス。お前のような人間とは格が違うのだわ。」
なんちゅう傲慢だ。どこぞの『パンがなければケーキを食べれば良いじゃない』
とか言ってのけたあのオバさん超えてるぞ、多分。
「あら、傲慢ではないわよ。本当のことなのだわ。自分の潜在能力に
 気付かなかったどこぞの人間の力を引き出してあげたのは誰のお陰?」
グサリ、なんだか胸にでっかい銛を突き刺されて引き抜かれて
ポッカリでっかい穴が開いたようなダメージが心に。
ちくしょう、反論を考えろ僕。反論だ、ぐうの音が出ないほどに決定的な反論を
考えろ僕。つか、何。この平和な空気?

「な、ならそんなちょ~~~~~ぅ、偉いローゼンメイデン様が
 僕みたいな下賎で、下卑で、蛆でもうお前は豚よ豚!って言われるくらいに
 駄目でノビタもビックリなそれ以下の存在の僕の家で寝泊りするのは
 貴方様のすんごく高くて、ダレとも比べられないような尊大で
 重要で世界、いや宇宙ナンバーワンなプライドを傷つける
 結果にはなりやしませんかね、ええ?」
どうだ、これならどうだ?なんだか言ってる途中で胸が
ズキズキと痛んだ気もしたけどこの際無視だ。
これなら反論のしようがないだろ、どうだ!どうだっっ!!
「あら、さっきも言ったわよ?私は貴方と契約した。だから契約した
 魔術師である貴方の力を生命活動の動力として貰い受けてるとね。
 貴方から離れてしまったら私は生命活動を停止してしまう。
 だから離れようとしても私は貴方から離れられないの。
 もし離れようとしたらそうね・・・・・・・警察に言って貴方に襲われたと言うわ、
 いきなり林に連れ込まれて犯されそうになった、というのが妥当ね。」
なんという・・・・・・微笑みながらすらっと言いのけましたよこのお嬢さん!?
「お、鬼だっ!!悪魔だ!鬼畜だぁ!!!脅迫するか普通!!??」
「仕方ないのだわ。私には行くアテもないし、それに・・・・・・」
瞬間真紅の顔に影が落ちる。あの不遜な態度が掻き消え、
そこ佇むのは僕と同じ年頃のただの少女。
今にも消えてしまいそうなその雰囲気にグラリと心が揺れる。
「私は、追われる身よ・・・・・・そんな中で信じれるのは貴方だけだったけど・・・・・・
 でも、駄目なら・・・・・・・・仕方ないわよね・・・・・・ごめんなさい。」
「あ、おい。」
「大丈夫よ、貴方と離れたら契約を破棄してあげるのだわ・・・・・」
僕に背を向け去ろうとする真紅。
寂しそうで、か弱くて、小さい背中。
なんだか、悪い事をした気がする。さっきの蜘蛛は倒したけど
よくよく考えたらアイツ、本当は真紅を追って来てたんだよな。
あんな奴に追われ続ける日々なんて僕には想像つかない。
僕なら、多分耐えられないし、あんな事言っても誰かと一緒にいたいと
本当は心の中で思てんじゃないのか?やたらと口悪くて態度デカイけど。
ああ、畜生。このままじゃ後味悪すぎだ。
「分かったよ!!僕の家に泊めてやる!!!住ませてやる!!」
言ってしまった。衝動的に口から言葉が出てしまっていた。
「あんな奴に追われる位なら僕の家でかくまってやるよ!!三食飯つきだ、
 文句はないだろ!!ただしな、どっかで倒れられるのが
 ごめんなだけだからな!!!」
叫ぶ僕、振り向く真紅、その笑顔がとんでもなく上機嫌。
あ、これって、もしかしてもしかする?

「ふふ、ありがとうジュン。貴方ならそう言ってくれると思ってたのだわ。
 家来としてその受け答えはとても上出来。ただ、もう少し言葉づかいを考えて
 使わないとレディに失礼なのだわ。あと、口が悪いと言うのは
 聞き捨てならないわね。」
あ、うわ、最悪だ。僕、自分で墓穴踏んじゃった。スラスラと言葉を繋げて
真紅の顔が目の前にまで迫ってくる。微笑む、最上級にかわいいけど
それは悪魔の微笑。僕の手を取り一言。

「――――というわけでさあジュン。家まで案内してちょうだい。」


かまかけられた。ちくしょう。


さっきのあの蜘蛛のせいで大騒ぎの町内、僕と真紅は一気にその中を
駆け抜けていった。みんなあの騒ぎに呆気に取られ、
誰も真紅の服装になんか気にも留めていない。
できればこのまま見つからない様に行きたいもんだ、見つかったら
それこそ何を言われるもんだかわからないしな。
「それもそうね。ねえジュン、貴方の家には女性の服はあるかしら?」
「ああ、あるよ。姉ちゃんのだけどな、つか心を読むな。」
「仕方ないのだわ、時たま勝手に流れ込んでくるのだから。」
「はいはい。」
と、ここで疑問符が頭に浮かんだ。
「なあ真紅、僕のウチにくるのは良いが一体どうやって僕の家に入る気だ?
 うちの姉ちゃんに説明しようにもどうにもならないんだけど。」
「それなら大丈夫よ。私に任せておきなさい。」
「大丈夫かすっごく不安なんだけどな。って着いちまっ―――ゲッ。」
ほんとに家に着いてしまった、と同時に最悪の状況カミング。
玄関のドアの前に目を点にして戦慄している我が姉、桜田のりの姿が。

「ジュ、ジュジュジュジュジュジュジュジュンくぅんっっ!!!???」
素っ頓狂な声をあげてガクガクブルブルと震えている我が姉。
真紅と僕を交互に指差しながら一人でわたわたたと取り乱しまくっている。
「そそそそそそのっ!そのおあおあおあ女の子はだれ!!?
 ああっ!!!良いわ言わなくてもおねえちゃん分かるから!!
 ジュン君あれなのね!?思春期の若さゆえの性への欲望が
 とうとう抑えきれず暴走して!!!ああっ!!お母さんお父さん!!!
 何てことでしょうジュン君が犯罪者になっちゃいましたぁ~~~~!!
 ああ~~~~~~私がいながらどうしてぇぇ~~~~~っ!!」
どうやら脳内で妄想が一人歩きを始めたようだがとにかく落ち着け。
僕はそんな鬼畜じゃないしここは天下の往来ですからどうか、
どうぞ落ち着いてください姉ちゃん。お隣さんに迷惑です。
「変わってるわね、貴方のお姉さん。」
率直に、かつ冷ややかに感想を述べてくれる真紅。
当ってるので否定しない。
「でも、このままじゃ埒があかないのだわ。さて・・・・・・・」
真紅はスタスタとのりの前まで行くと、ビシっと指差した。
「人間、家の中に案内しなさい。」
「直球かよっ!!」
「でおmでもでもでもでもでも今すぐ警察に・・・・・・・・・へ?」
「だから早く家の中に案内するのだわ、のり。」
「え、え、え、え?」
わけがわからないといった顔で僕を見るバカ姉。
残念、僕に説明を求められても困る。
「まったく人間っていうのはどうしてこうも愚図なのかしら?
 さあ、ぼうっとしてないで早くなさい!」
「え、え、え?あ。ハハハハハハイ~~~~~~~~~!!!」
そう言ってピューーっと家の中に走るのり。
「何した?」
「あら、何のこと?」
シレっとした顔をするが騙されんぞ。
「なんか使ったろ、魔術。」
そう言うと真紅の顔が小悪魔的に歪む。
「少し言霊に魔力を込めたの。普通の人間がするよりも強制力のあるものよ。
 ほら、人間の中にも有無を言わせない力を持つ者がいるでしょ?
 アレを強力にしただけよ。」
はあ、そうでございますか。おそろしい、そう思った。
ま、そんなこんなで僕が犯罪者だという間違いは正され僕と真紅は
家の中に入る事が出来た。
だがしかし、だがしかしだ。
「のり、お茶を入れなさい。紅茶よ、紅茶しか許さないのだわ。」
「はいぃ~~~~!」
「のり、夕飯はまだかしら?」
「はぃ~~~~~~~~!!」
「のり、この部屋、ほこりが残ってるわよ。私が寝るのに・・・・・・ぶつぶつ。」
「ははははははひひひぃ~~~~~~~~!!!!!」

「どぉぉぉぉしてお前が主人面してるんだあぁぁぁぁぁ!!!!!」

ガタン、大きくリビングの机が揺れる。上に乗った醤油入れがこけそうに
なったのですかさず忘れずキャッチ。
ビシっと指差した先では優雅に、紅茶を嗜む真紅。
「あら?ジュンは私の下僕、なら、こののりも私の下僕よ?」
「どおおおおおいう理由だそれは!!!!!」
「え?お姉ちゃんってメイドさんだったの?」
「そこォォーーー、間違った解釈しないっっ!!」
「え、でもジュン君。真紅ちゃんと出会ってすぐに真紅ちゃんの
 イヌになるって約束したんでしょ?お姉ちゃん、ジュン君がMだったなんて
 知らなかったからすっごくビックリだったわあ。」
なんだなんだすんごく間違いなくどこをどうやったらそんな解釈の出来る
腐りきったおとぼけダメ脳みそ持ってるんだ、この洗濯糊は。
「とにかくだ、真紅をここに当分かくまうだけ、アーユーオーケー?」
「お姉ちゃん理由は聞いちゃだめかなあ?」
「あー、話すと多分すんごく長くなるし姉ちゃんの脳みそじゃ理解できない。」
「酷い~~、昔はお姉ちゃんにそんな事を言うジュン君じゃなかったのに~。
 お母さんお父さん、ジュン君が非行の道に~よよよよよ~~~~。」
もういい、もう無視だ、ちくしょう。よよよと泣いている姉を
横に置いて今も尚寝巻用のゆったりしたズボンと胸元がやったら
スカスカのTシャ――――
「殺ァァアー!!!!!」
「ゲボオホォォォ!!!!」
いきなりテレビのリモコンが僕の顔面、正中線上眉間の中心に直撃。
のたうちまわる、激痛に地面でミミズのようにのたうつ僕。
「自業自得よ。」
ボソリと呟く真紅。目がギラギラと輝いてる。ああ、そないですか。
とにかくだ、燃えるように痛む眉間を押さえつつ真紅に向き合う。
「つぅ~・・・・んで、一応かくまったは良いが明日からどうするんだ?僕は
 明日も学校だからお前の傍にはいられないぞ?」
「心配しなくて結構よ。私も貴方と一緒に学校に行くから。」
またも頭の痛くなるようなことを。
「あのですね、学校に行くには沢山手続き踏まないとダメなの。わかってんのか?」
「大丈夫よ。この近辺に他の魔術師の波動も感じないし。」
「人の話を聞け。」
「それに、数百メートルも離れられないと言ったはずよ?」
「何メートルが許容範囲なんだ?」
「貴方の意識の海から汲み取った言い方で言うなら半径200mほど。」
「離れたらどうなる。」
「眠りにつくわ。生命活動が停止して私は完全な無防備。」
「んじゃ寝てろ。」
「なんて身勝手な。貴方はもう魔術師よ?それなのにな―――
 あ、待つのだわ、どこに行くの!?」
「寝る。」
真紅はまだ何か言いたそうだったがそこで話題を打ち切って
僕は自分の部屋に戻った。

「はあ、疲れた。」
僕は真暗な自分の部屋に入るとそのままベッドに倒れこんだ。部屋にあった
パソコンに目をやるけどする気が起きない。
今日は色々な事がありすぎた。いきなり現れた真紅、襲ってきたピエロ蜘蛛、
魔術師の契約、巨大ロボでの激闘。
テレビの中のお話を一気に経験してしまった。
身体がとてつもなく疲れる。魔術を使うと言う事は精神を世界の裏、
宇宙の深遠に意識をめぐらせる事。真紅からインストールされた
魔術師の理論をゆっくりと脳内で紐解いていきながら理解する。
そのために精神と魂に多大な負担をかける。
最初のうちは仕方のないことだそうだ。
腕を挙げ自分の手を握り締めてみる。魔力の流れがまったく分からない。
やはり真紅に手助けをしてもらわないと魔術を行使できないか。
脳裏に浮かぶのは先程の惨劇、阿鼻叫喚図。
歯軋りをする。気分が悪かった。
あの頃の自分を思い出した。思い出したくもないあの頃を。
真紅は知ってしまっただろうか、あの頃の僕の悪夢を。
眠い。
明日からは、また・・・・・・あの・・・・・日常・・・・・
眠い
僕は目を瞑った・・・・・・・・夢の中へ・・・・・・・堕ち

ここは円卓。集うは異形、淀んだ瘴気は凝り、不定形の異形をも生む。
ここは円卓。魔術を執り、魔となり、魔そのものとなった魔人の集い。
ここは円卓。円卓を取り囲む重なった円卓には魔教の信徒。
ここは円卓。人外たちの血の宴の酒場。
円卓の向こう、そこは玉座。だが主の姿はない。
虚空の空間。
ふと大気が歪んだ。世界が歪んだ。
集う、闇黒が更に闇黒を重ね合わせ幾つもの輝く闇を生む。
その中から生まれたのもまた闇。闇、闇闇闇闇。
それは『幻塔社―ファントムバベル―』の最高幹部たち。
人外の中の人外。人外の中にあってなお人外。
途方もない魔力を持ち、途方もない力持つ魔導書の主。
魔典紐解く者、魔に魅入られ、魔を従える者。
大きな雄叫びが聖堂に響き渡る。
「いやぁ、皆が集まるなんて久しぶりだなぁ。先生うれしいよ。」
一人は梅岡、にわか雨の天使ザフィエルの印章を襟元に。
異形の笑みはバックリと赤い口内を。
「ふん、失敗した野郎の梅ちゃんが楽しい事言ってくれるねぇ。」
一人は少年、竜巻の天使ラシエルの印章を刻む右手。
その外見はストリートファッションに身を包んだただの少年。
「ま、良いじゃねえか。ソイツだって分かってるよ。バカだがなぁ?」
同じく少年、風の天使ルヒエルの印章。それは左手に
同様にストリートファッションだがこちらのほうが落ち着いた印象。
「やめなよ二人とも。少しはおとなしくしたらどうかと思うけど?」
彼女は美の天使ハニエル。魅惑の微笑み、妖艶を滲ます怪異。
その姿はただの少女、無垢なる乙女。首に刻む刻印。
「気にすることでもないよハニエル。これこそが僕達にはふさわしい。」
静かに椅子に腰掛ける青年。彼は嵐の天使ザキエル。
優しい笑みを湛える瞳の中の刻印は昏い炎を湛える。
「そうだのぉ。わしらは闘争に身を焼き、血闘を嗜む者じゃからなぁ。」
老齢の翁、夜の天使レリエルの刻印を持つ懐中時計。
凪の如き静けさ、死の匂いを孕む大気。
「まったくですねぇ。若いっていうのはうらやましいですわ。」
老齢の女性、昼の天使シャムシエルの刻印が刻まれた和服。
凪の如き平穏、死の芳香を漂わす佇まい。
円卓に集った7人。異形ゆえに、暴虐の徒故に、天使の名を語る。
天使と程遠い存在、己の欲求に従い行動する、絶対正義を否定する者達。
ふと、好青年の姿をとった魔人、ザキエルが少年、ラシエルに
侮蔑の視線を向け口を開いた。
「そうそうラシエル。キミがガキだからと余り我らの真名を唱えるのはよろしくない。
 例え、そこの・・・・・・気色悪い笑みを浮かべたザフィエルだろうとね。
 真名は我々を縛るもの。名は我々の力の源の一つ、存在の証明なんだよ。
 この中に真名を縛れる輩はいないだろうがわきまえたまえ。極めて無粋だ。」
「なんだとテメェ!!!??」
ラシエルは立ち上がりザキエルを睨みつける。ザキエルは座りながら彼に
視線を合わせ見下すように笑う。それだけで空間が歪む程に魔力が迸る。
「やめろ、勝手にキレてんじゃないラシエル。ザキエルてめぇも言いすぎだ。」
ルヒエル…同様にストリートファッションをした少年がラシエルを諌める。
「黙れ!!こんないけすけねぇ糞にバカにされて黙ってられるか!!」
「はっ、これだからガキは。すぐキレるしか脳がないのかねぇ?」
「てめっ・・・・・・・・・・この場でブッ殺してやろうか!!??」
「ほぉ・・・・・・?」
いよいよ臨界点に達そうとする魔力のぶつかり合い。他の幹部たちは
やれやれと言った顔でそれをつまらなさそうに見つめるだけだ。
「糞が糞が糞が糞がクソクソクソクソこのど畜生の糞野郎がぁぁぁ!!!」
「来いよ、沸点の低い、愚かで無粋な糞ガキ君。」
拮抗しあう魔力が爆発するその瞬間だった。



「おやめなさい。」

堂内に突如として響き渡った、静かながら威圧感を伴った声。その場にいた
全員がその声の主へ向き直った。
誰もいなかったはずの玉座、今、その時までは確かにいなかったはずの
玉座。だが、今この瞬間、そこに一人の少女が佇む。
闇を孕んだ金色、流れる金色、青海の瞳もまた闇、虚無、虚無、虚無。
闇に浮かぶ純白、清らかな闇を纏う法衣。白、黒、白、相反する二色。
少女は佇み眼下の信徒たちを眺める。
彼女こそファントムバベルの主、可憐な少女である彼女が全ての大母。
『ロード』の名を冠する魔人の中の魔人。
瞳の奥、底知れぬ虚無、闇、深遠。
その場にいた全てが彼女に傅き、頭を垂れる。
底知れぬからこそ、闇の奥の闇を秘めるからこそ帯びる畏怖。
「ラシエル、ザキエル。」
「「はっ・・・・」」
今先程まで魔力をぶつけ合っていた二人の額に冷や汗が浮かぶ。
突き刺さる視線、魂を引き裂かんとする威圧感。
それほどまでにかけ離れた魔力の差。
「互いにじゃれあうのは良いですけど余り度が過ぎるといけないですよ。
 私自身が力を行使するのは避けたいですから。」
「「申し訳ありません・・・・・」」
「構いません。分かってくれたら、それで良いんです。」
ロードと呼ばれた少女は、微塵にも感情をあらわす表情を浮かべず
玉座に腰掛けた。
「報告します我が主。今宵、ローゼンメイデンが新たな契約を結びました。」
梅岡、否、この場ではザフィエルと呼ばれた男が少女に報告する。
「そうですか。」
静かに紡がれる祝詞。傅く者はそれを一字一句逃さぬように感覚を研ぎ澄ます。
「それはそれは仕方のないこと。また、ゲームが始まるだけですね。」
「ははっ・・・・・」
「それで、他のローゼンメイデンは?」
少女は他の幹部たちにも視線を移す。
「第壱、第弐、第参、第四、第五、第六精製体までは存在を確認。
 第七精製体のみがいまだ発見できていません、ロード。」
可憐な少女、ハニエルが報告する。
「そう。」
「いかがなさいますか我らが主?契約を確認したあのローゼンメイデンの
 術者をすぐさま屠るというのが得策かと思われますが・・・・・・」
少年、ルヒエルが進言する。少女は微かな逡巡の後答えた。
「今はまだ放って置いてください。」
「は?」
「契約した者から彼女を引き剥がすのは余りよろしくないですから。
 無理矢理術者を殺して奪い取ったは良いが使いモノにならなくなった
 では本末転倒です。契約を確認していないローゼンメイデンを
 探してください。」
抑揚のない声で玉座に肘を付きつつ、つらつらと言葉を繋げる。

「では、これからわしらはいかがしたら良いですかな?」
老体のレリエルが尋ねる。またも逡巡、そして開かれるその唇。
「いつも通り好き勝手に。ただ、もし彼女の術者を屠ろうと思うのなら
 ザフィエル、貴方に全てを一任します。」
瞬間梅岡の笑みを浮かべた顔がピクリと反応した。同様に他の幹部たちも
苦々しい思いにピクリと顔をゆがめる。
皆が彼女を見る。しかし彼女はただ無感情な表情を浮かべ、
ここではない、どこか遠い場所を見つめていた。
「いやぁ、ありがとうございますロード。先生頑張りますよ。」
一礼、苦々しい表情を浮かべる彼らにまたも気味の悪い笑み。
彼らはただ何も言わず、その決定に従うのみ。
「では、今日はこれで終りとしましょう。もう眠りたいですから。」
少女は立ち上がり闇の奥へ消えようとする。
「お待ちくださいなロード。」
老女シャムシエルの声が彼女を引きとめる。
「まだ、何か?」
「いえ、今回貴女がなぜ私たちを呼んだのかお聞きしておりませんので。」
老女の質問、沈黙、ほんの僅かな沈黙だった。口を開く少女。
それは、初めて見せたかすかな微笑。

「ただの余興です。くるくる廻るウロボロスの輪は未だ揺るぎませんので。」

闇、闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇。
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇。
闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇闇一辺の光のない闇。
闇の中にあらわれる微かな白。兎の面を被った道化師。
闇を闊歩していた少女、『ロード』の御前にて頭を垂れる。
それは尊敬の念ではなく、道化の嘲り。道化の皮肉。
「エノク書に記された天使を率いる、エノク。久方ぶりでございますなぁ。」
兎は上目遣いに少女を見つめる。
「久しぶりですね、ラプラス。」
「ははっ。天使を率いる『天使王』と『ラプラス―悪魔―』が言葉を
 交わす、実に一興ですな、『ロード・エノク』。」
「何の用かしら?その言葉はもう聞き飽きました。」
少女は感情を灯さないその貌に微かな怒り滲ませラプラスと呼ばれた兎に向ける。
「なあに、今回もちゃんとお仕事をしているか見に来ただけですよ。
 このNのフィールドでは何も聞く者はいませんから。」
「私が何を知っていようと貴方には関係のないことですよ、兎。
 道化は道化らしく踊っていればよいのです。」
切り結びあう視線、一切の魔力は伴わないのに威圧する大気が
空間を歪ませるような錯覚を生む。
「これはこれは手厳しいフロイライン。成るほど成るほど、仕事は
 手はずどおり。劇の幕開け、終幕の準備は淡々と、ですか。」
「答える必要はありませんわね、ラプラス。」

少女は兎から視線を外し、彼の横を通り抜け、ここではない何処かの闇へと
消えていく。それは闇を蹂躙するように。
「そうですか・・・・・・お気をつけてフロイライン。輪廻するウロボロスの
 尾を切り落とすのは手はずを順に踏まないといけませんのでね。」
「いずれ終わるとも知れぬウロボロス、いつか終わらせますよ。」
「いつかは今か、それとも永劫か。楽しみですな。」
「・・・・・・・・・・・・・」
少女は何も言わず、闇へ消えた。
同様に道化も闇にステッキを振り闇を切り、更なる闇へ消える。
「さあさあ、道化芝居がまた始まる。ウロボロスの輪がまた巡る。
 廻る廻る、誰も知らない道化芝居の輪が巡る、ぐるぐると。」

ここは闇。光の一切合財を許さぬ闇。
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