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水「はぁ・・・」
携帯を見て溜め息をつく。
着信履歴は非通知ばかり。
メールの受信ボックスは私を罵倒するメールばかり。
水「もぅ・・・やだ・・・」
思わずそんな言葉が出る。
私が告白を拒否してからずっとこの調子だ。
ちょっとモテるからって告白してきた男が私のありもしない噂を流してから。
正直もう学校にも行きたくない。
でも親や友達の手前そうゆう訳にもいかない。
私はどうしたら良いんだろう・・・
水「もう・・・消えたい・・・」
日に日にそう思う事が強くなってきた。
もう無理かも知れないと思う事も。
水「誰か助けて・・・」
ずっとそう思ってる。
友達たちは心配してくれてるけど助けてはくれない。
私が何をしたって言うの!
もうこんな思いは嫌!
心の中で叫んでも誰の耳にも入らない。
結局いつも寝れないまま学校へ向う。
寝てしまったらすぐに地獄を味あわなきゃいけないから・・・
水「行ってきまぁす。」
結局今日も一睡も出来ないままいつもどうり学校へ向う。
親には極力普段どうりに振る舞っている。
何も知らない親には心配をかけたくないから。
水母「あなた大丈夫なの?顔色悪いしそれに最近急に痩せてきたじゃない。」
水「大丈夫よぉ。心配しないで。それじゃあ言ってくるわぁ。」
親には何も知られちゃいけない。
何をするか分からないから。
家を出てとぼとぼ学校まで歩いて行く。
足が重い。
これはきっと気のせいじゃないんだろう。
足が思うように動かない。
携帯を開けて時計を見る。
時刻はもう遅刻ギリギリの時間だった。
新しいメールや電話も着ていた。
水「私を追い詰めて何が楽しいのよ・・・」
思わずそんな台詞を吐き捨てていた。
水「うっ!」
地獄の入口まで着くと突然凄まじい吐き気が襲ってきた。
自分でもこれ程追い詰められていたのかと少し驚いた。
幸いもう完璧に遅刻の時間だったので生徒や教師など誰も居なかった。
?「水銀燈?」
突然背後から男の声が聞こえた。
ハッとして振り返る。
水「桜田君?」
そこには同じクラスの桜田君が心配してる顔でこっちを見ていた。
そんな顔で私を見ないでよ。
J「おい、大丈夫か?」
水「・・・貴方には関係無いでしょ。」
思わず冷たい態度を取る。
でも仕方無いじゃない。
J「関係無いなんて言うなよ。クラスメイトだろ?」
突然そう言われ驚いた。
彼は何を言っているのか分かってるのか?
J「とりあえず、学校行きたくないなら僕の家に来ないか?」
水「何言ってるの貴方?」
彼は何がしたいの?
私みたいなのを家に呼んで。
J「別に行きたくないなら行かないで良いじゃないか。それが常識や道徳に反しても。」
水「・・・貴方、私を襲う気?」
甘い言葉で誘って私を襲う気に違いない。
男ってホントにサイテーね。
J「そんな事する訳無いだろ普通。僕はそこまで非常識な男じゃない。」
彼はそう半ば呆れながら話した。
水「じゃあどうするつもりなの?」
J「少しで良いから話をしたいんだ。」
水「話?」
私と何を話す事があるのだろう。
今日が初めてまともに話したってのに。
水「桜田君、学校はいいの?」
J「僕の事は気にするな。どうせ今から行っても遅刻だし。それと僕の事はジュンで良いよ。」
とりあえず今までで分かった事は彼は馴々しい事だけ。
J「早く行こうぜ。ここに居ると誰かに見られるかも知れないし。・・・お前はもうこれ以上根拠の無い噂を流されるのは嫌だろ?」
水「そうだけど・・・」
J「あぁもう!ほら、行くぞ。」
と言って彼は私の腕を握って歩きだした。
水「ちょ、ちょっと・・・」
学校から少し遠い所に彼の家があった。
私は彼に腕を握られたまま家へ招待された。
水「手、離してくれない?いい加減痛いんだけど。」
私はたまらなくなり彼にそう告げた。
J「あっ、ゴメン。」
私の言葉を聞くと彼はすぐさま手を腕から離した。
J「とりあえず好きな所に座ってくれ。」
彼の部屋へ招待されそう言われた。
パソコンとベッドくらいしか無い殺風景な部屋。
だが振り返ると段ボールが山積みにされ所々からいかがわしい人形や何かがはみ出していた。
彼の趣味が分からない。
水「で話ってなんなの?」
仕方無くベッドに座ってから彼にそう疑問を投げた。
J「あぁ、話すけどその前に何か飲まないか?」
と彼が言うので。
水「ヤクルト。」
と私は答えるしかなかった。
J「・・・分かった。取ってくる。」
少しのためらいの後彼はそう返事をした。
私が何かおかしな事でも言ったのか?
彼が持ってきてくれたヤクルトを飲む。
乳酸菌は良い。
心を潤してくれる。
人間が見つけ出した文化の極みだ。
J「で話の事なんだけど・・・」
私がヤクルトを飲んで感慨に浸っていると彼が突然話かけてきた。
水「何?」
J「その・・・あんまり一人で考えこむなよ。」
何を言い出すのかと思えばそんな事。
J「一人で考えこんでも、悪い方にしか行かないから・・・」
水「貴方に何が分かるのよ。」
分かった様に言わないで。
どうせ貴方も他の奴と同じなんでしょ?
私の気持ちなんて分かるはず無いのよ・・・
J「分かるよ、僕にだって。僕もいじめられてたから。」
水「えっ?」
私は思わず聞き返した。
クラスでは確かに少し浮いてはいるがいじめられたりする様な感じはしない。
J「信じて無いなお前。本当なんだぞ。」
彼はそう冗談めかして言った。
J「僕、裁縫が得意なんだ。小さい頃からずっと。」
彼は話出した。
自分の過去を反芻する様にして。
私はそれを聞くだけ。
J「別に隠してたつもりは無かったんだけど、それが小学校の高学年の時にバレてそこから『女男』とか言われ出したんだ。」
彼はただ話を続ける。
J「中学校の時には、破かれた僕の制服を目の前に持って来られて、『直してみろ』って言われたり、靴の中と机の中と椅子の上が裁縫針だらけになってたりして。」
J「・・・あの時は本当に辛かった。」
彼はそう話した。
少し震えながら。
水「何で私にそんな話するのよ。」
彼の意図が分からない。
そんな話を私にして何になるのか。
J「独りじゃないって知って欲しくて。」
水「独りじゃない?」
J「うん。自分だけじゃないって。仲間が居るって。」
仲間。
今の私にその言葉はとても強い言葉に思えた。
J「だから一人で考えないで。辛い事があれば僕に言ってくれれば良いから。僕が水銀燈を守るから・・・」
水「桜田君・・・」
私はいつの間にか涙を流してた。
それは今まで流していた涙じゃなくて。
とても暖かい涙で。
感情を素直に出してる涙だった。
水「どうして・・・そんな・・・優しくするのぉ?」
涙と嗚咽で上手く言葉が言えず多少詰まりながら話した。
J「僕が一番辛かった時にそばに居てくれた人が言ったんだ。」
水「なん・・・てぇ?」
J「『いつか今の貴方と同じ様に苦しんで悩んでる人が居れば、その時は助けてあげなさい。』って。」
自分で話を振っていてどうしようも無いけどあまり話の内容を聞いていなかった。
今はただ桜田君の声を聞いていたかった。
少しでも多く少しでも長く彼の声を聞いていたかった。
涙で顔が見れない分声を聞いて仲間がいると言う事に安心したかった。
J「泣き過ぎだぞお前。ほら、ティッシュ。」
涙でよく見えないが彼はきっと穏やかな笑顔のはず。
J「はいこれ。」
と私の前に来てティッシュを渡そうとしている彼に抱き付く。
J「えっ!?ちょっ・・・えっ!?」
明らかに戸惑っている彼の声が可愛い。
涙も徐々に収まってきた。
水「桜田君・・・」
J「ジュンで良いってだから。もう仲間なんだし。」
と言って抱き付いてる私の頭を優しく撫でた。
彼の手は思いの外に大きくて暖かかった。
水「ジュン・・・ありがとう・・・」
J「うん。」
これからはどんな事も耐えれる気がする。
いじめなんてもうどうって事無いくらい。
だって私には頼もしい仲間が居るから。
二人一緒ならどんな事でも・・・
終わり
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最終更新:2006年07月23日 10:17