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第八話 「還る場所、帰る場所。」


「どうしてあなた達が・・?」

居るはずの無い2人に聞く。
翠星石、ジュン。
4年前に死んだ・・・二人が何故此処に?

「ま、ちょっとね。」
「簡単に言えば兎に呼ばれたんですぅ。」

兎・・・そうかラプラスか。
成る程と思い一息つく。
ラプラスに会ったという事は・・。

「・・・此処はあなた達の世界?」
「ご名答ですぅ。」
「ああ、僕達の思い出が作り出した世界。
 数字で言えば・・・悦楽の第5世界なのかな?」

名前から察するに楽しい感情が思い出しやすい世界なんだろう。

「もう心は癒されたか・・?」
「・・・まだ死にたいとは思う。」
「何でなんですぅ?」

翠星石が訊ねてくる。

「私は昔お母さんを殺した・・・。
 そしてお姉ちゃんを傷付けた。
 私は・・・“罪人“。
 罪は死んで償うものと思って・・。
 けど私は最低な子。
 自分の弱さを隠して愚かさを隠して
 自分から逃げている・・。
 死にたいと思っても死ねない・・・。」

眼帯を外す。
目から涙が溢れ出ている。
一瞬2人は見た事の無い泣き顔にびっくりしたが
気をとりなおして再び語りだす。

「おめぇは馬鹿ですか?」
「・・・!」
「罪ってのは・・・個人の概念、だから裁く事も償う事も出来ない。
 自分が罪を感じれば罪となる。」
「じゃあ何を・・・何をすれば罪は消えるの?」

「・・・知らんがなですぅ。」
「・・・へ?」
「僕は神様じゃないからわかんないけど
 罪とは消えるものとは思ってない。
 イエス=キリストが背負ってくれるものでもない。
 自分が生きて背負うものなんじゃないかなぁ・・?」
「・・・!」
「薔薇水晶・・・あなたは偉い所もあるけど馬鹿ですぅ。」
「・・・。」
「罪を罪とわかってるならそれだけで充分ですぅ。
 罪を受け入れて背負い生きることが最大の償いですぅ。」
「・・・!」

生きて・・・背負うこと・・・。

「死んだら・・・誰かを悲しませるんだよ。」

涙が溢れて来る。
右目だけじゃない。
左目からも涙が溢れてくる。

「生きる事こそが最大の罪であり罰であり償いであるってね。
 そして死を望むという事は罪から逃げるという事。
 だから・・・薔薇水晶、死んでもいい奴なんか誰も居ない。
 君は死ぬべき奴なんかじゃない。」

目から涙が止まらない。
枯れた左目から涙が蘇る。

「心の・・・雑草が切れたみたいですぅ。」

自分という木にからみついてた
自分への悲しみという雑草が。

「ふふ・・・もう大丈夫みたいだね、薔薇水晶。」
「・・・ありがとう。」

パンパン!

後ろから手を叩く音がしたので
驚きながら後ろを見る。
其処にはラプラスが居た。

「良かった良かった、これで丸くおさまりましたね。」
「ラプラス・・・。」
「しかし呼んでいないのに蒼いお子さんに会うとは・・・。
 運命の悪戯ってものなのですかね?」
「蒼・・ってもしかして・・・。」
「居る場所を教えましょうか・・?」

翠星石にラプラスが尋ねる。
返答はかなり早いものだった。

「だが断るですぅ!」
「ほうほう・・・それまた何故なのでしょう?」


「あの子は・・・まだ会いたくないと思ってるはずですぅ。
 あの子は・・自分なりの償いをしてるですぅ・・。」

そう言えばそんな事を言ってたな・・・。

「ほう、だから会いたくないと。
 大した決心でございますね。」

目線を私に変えてくる。

「そうそう薔薇水晶さん、いいお知らせと悪い知らせと
 二つありますがどちらを聞きますか?」

良いニュースと悪いニュース?
それなら無論・・?

「・・・良いニュース。」
「わかりました、では言いましょう。
 良い知らせとはあなたの目が覚める事です。」
「・・・!」

やっと・・目が覚める。

「良かったですぅ!」
「ああ・・・本当に良かった。」
「・・・みんなありがとう。」

また溢れてきた涙を拭う。しかし悪い知らせって・・・?

「・・・悪い知らせって何なの?」
「あんたは寝てる時に見た夢を覚えてる事がありますか?」

そんなの・・・ほとんど覚えてる事なんかないよ。
・・・待って、私の今居るのは・・。

「って事は・・・もしかして。」
「そう言う事です、恐らく全て忘れてるでしょう。」
「そんな・・・嫌だ!」

ラプラスを掴み言いかかる。
しかし表情を変えないまま言う。

「・・・どうしようもありません。」

折角・・・癒されたと思ったのに・・・。
また自分から逃げるの・・・?

「良いニュースはもう一つありますよ。」

・・え?

「何なの・・・?それは・・・。」

ラプラスに聞こうとした瞬間私の体が光りだす。
これって・・・もしかして・・・。

「どうやらお目覚めの時間のようですね。」
「い・・・嫌!」
「薔薇水晶。」

ジュンが声をかけてくる。

「君は還るには早い・・・まだ君には“帰る場所“があるんだから。」
「で、でも・・・。」
「ごちゃくちゃ言うなですぅ!しょうがない事ですぅ!」

翠星石が横から食い入って来る。
私の体を掴み続けて言う。

「おめぇの帰りを待ってる奴らがどんだけ居ると思ってるんですぅ!」

帰るのを待ってる人・・・。
きらきーちゃん・・・。

「おめぇには帰る場所があるんですぅ!
 わかったらさっさと帰りやがれですぅ・・!」

目に涙を浮かべながら翠星石が私を突き飛ばす。
するとそのせいで夢の中なせいか空までも私の体は飛んでいく。

「薔薇水晶・・・。」

ジュンが語ってくる。

「もう大丈夫・・・君は全てを忘れてても覚えてる事があるよ。
 君の心はちゃんと・・・。」

体の光が弾けていく。

「“生きる“という事だけはちゃんと理解してるはずさ・・・。」
「ジュン・・・。」

もう声も何も聞こえない。
衣擦れの音さえわからない。
だけど・・・言えたかどうかはわからないけど言う。

「・・・ありがとう。」

・・・此処はどこだろう?
腕を伸ばしてみる。
ゴツンと壁に当たる。
一体此処は・・・?」

「ばらしーちゃん!起きたのですね!?」

誰かが声をかけてくる。

「きらきー・・・ちゃん?」

其処には目から涙を流しながら
私の体を掴んでくるきらきーちゃんがいた。

「・・・お早う。」

言いながら抱きしめる。

「何があったか知らないけど・・・心配かけて御免ね。」

その後きらきーちゃんから聞いた話によると
私は事故にあってずと意識不明だったらしい。
何でもおもちゃ屋に走りだした時に轢かれたと。
この歳になって何やってるんだろう私・・・。

「何を考えてるのです?ばらしーちゃん。」

車椅子を押しながらきらきーちゃんが喋りかけてくる。
事故の際に足の骨も骨折したらしく
車椅子生活にへとなってしまったのだ。

「ううん、何でもない。」

言い返すとそうですかときらきーちゃんがいい返してき
また前を向く。

「少し中庭へ行きましょうか?」
「うん・・・。」

中庭へと車椅子は進んでいく。
ベンチの側に車椅子を止めると横のベンチにきらきーちゃんは止まる。

「そう言えばばらしーちゃん、リハビリ辛いのですか・・?」
「ん・・・確かに辛い・・・痛いし。」
「じゃあ・・・死にたいなんて思いますか?」

突如きらきーちゃんがこんな事を聞いてくる。
一体どうしたのだろう?

「なんでそんな事聞くの・・?」
「え・・そんな事どうでもいいですわ。」

少し気になるけどまぁいいや。
しかし・・死にたいと思う事か・・・。
そうだなぁ・・・前までならよく思ってたけど。

「何か・・・不思議と思わないなぁ。」
「また・・・なんでです?」
「んー。」

わかんないなぁ。
けど・・・死ぬって自分から逃げる事だからかな・・・?
逃げたいと思わないからかな?
色々考えてると右目のいつもある違和感が無いのに気付く。

「・・?」

何でだろう?
私は眼帯をとってみる。

「・・・!ばらしーちゃん・・・目・・。」

目?目がどうかしたの・・・ってあれ?
涙が・・・出ていない。

「治ったのですね!ようやく・・・。
 ショックから立ち直れたのですね!」

精神的な原因による涙腺の異常だったのだがそれが治っている。

「ほんとだ・・。」
「何ででしょう?」
「もしかして・・・。」
「何か心当たりでも?」
「いや・・・さっきの質問の答えにもなるけど・・。」

眼帯を側のゴミ箱に投げ捨てる。
そして一息置いて言う。

「自分から・・・逃げたいとは思わなくなって・・・。
 何故だかしんないけど・・・。
 “生きたい“って凄く思うからかな・・・?」

そう・・・何故かそう思う。
頭じゃ理解できないけど・・・。
何故か・・生きたいって気持ちに溢れてる。
もう・・・自分から逃げたいなんて思わない。

その後私は一ヶ月程で退院し
今まで特に怪我もせず生きてきた。
けど・・・。

「御免ね・・きらきーちゃん、先に還ってるよ。」

私はたった今・・・人生二回目の事故にあったあの時から
何十年か後の今、人生三回目の事故にあっている。
何でこう何度も事故にあうんだろう・・・。
それに・・・今回はもう生きては帰れないようだし。
最後に一言・・言おうか。

「・・・ありがとう。」

ゆっくり目を閉じる。
きらきーちゃんが泣きながら私の体を揺さぶってる。
そんな感覚もやがて無くなっていきやがて・・・。
私は還った。
もう帰る場所は無いから・・・。

・・・此処はどこだろう?
私は目を覚ますと周りを見回す。
周りには建物も何もない。
紫色の光景が広がっている。
以前にも見た気がするんだけど・・・。
これなんてデジャウ?
ん・・・?

「この声は・・?」

声のする方向にへと向かっていく。
どこかで聞いた覚えのある声だ・・・。
声のする方へ近付いていくと
そこには友がいた。

「皆・・・!」
「やっと来やがったですか!」
「まぁまぁそんな事言わない。」

怒鳴る翠星石を蒼星石がなだめる。

「遅かったのだわ、遅刻なんて言ったら変だけど。」
「久しぶりなのー!」
「かしらー!」

三人が声をかけてくる。
ほんとに懐かしい面々だ・・・。

そしてもう一人・・・。

「ジュン・・・久しぶり・・・。」
「ああ、どれぐらいぶりかな。」

昔と変わりない様子で返事をしてくる。

「そう言えば・・・言わなきゃならない事があったな。」
「え・・・?」
「・・・どういたしまして。」

微笑みながら言ってくる。
何がどういたしましてなのだろう?
意味がわからない・・・けど・・・何故か心がこう思う。

“ありがとう“

ありがとうという気持ちがこの心に溢れていた。
知らない内に涙が出ていた。

人には帰る場所と還る場所がある・・・。
帰る場所がなくなった時人は還る。
夢の迷宮から帰り夢の迷宮へと還っていった乙女は
両の目から涙を流していた。
だけど・・・それは悲哀の涙じゃない。
喜び、生きる事の喜び。
体は死んでも心は生きている。
乙女は喜びという名の出口の無い迷宮で迷い続ける。



fin

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