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 ――ずっと疑問にしていることなのだが。
「ねえ」
「ん?何だい、巴?」
 何事も無かったかのように話す蒼星石。
「一つ聞きたいのだけど……」
 ずっと思っていた疑問をぶつけることにした。


「なんで、こんなところにいるわけ?」


 周りは綺麗なぐらいに雪で真っ白な山々。
 シーズン真っ盛りという事もあり、多くのスキーヤーやスノーボーダーが色とりどりのウエアに身を包みながら、滑走を楽しんでいた。
 新潟県は湯沢にあるガーラ湯沢スキー場にて。



『最終電車にて』(蛇足その2・お疲れ様会(という名の反省会))



「決まってるじゃない……スキーだけど?」
 そういう彼女は青のスキーウェアを纏い、カービングスキーを履きながら、何をいまさらと言いたげな顔つきで私を見つめてくる。


「そういう君こそ……ちゃっかりスノボしてるじゃない」
 言われたとおり、私は灰色系のボードウェアを着て、スノーボードを履いていた。
 そしてさっきまでは私も楽しんでいた。
 ボードは小さい頃からやっていて、自信はあった。しかも、今シーズンは初すべりということもあり、すっかりその疑問を忘れて朝から滑り倒していた。
 さすが、この辺は雪質もよく滑りがいがある……じゃなくて!


 当初は『最終電車にて』のネタのお疲れ様会をやろうってことになっていた。
 私はてっきりどこかのレストランかホテルで打ち上げをやるのとばかり思っていた。
 それがなんで、いきなりスキーやらスノボやらすることになったのという話だった。
 それが私の疑問だった。


「だって、それは……」
 蒼星石が何かを言いかけた……その時!!


「わわわわ!!どいてなの~!!」
 いきなりゲレンデの上の方から叫び声がしたかと思うと、こちらに向かって猛烈な勢いで直滑降で滑り降りてきた。
 見ると――雛苺だった。


「あ、危ない!」
 私も蒼星石もとっさに身をかわした。
 直後に私の数センチ横を雛苺の体は猛スピードで通り過ぎていき……雪を大きく舞わせて派手に転んだ。 
 スノーボードをはいた足が雪に引っ掛かり、斜面の下のほうに頭を向ける形になって、なんとか止まったのだった。可愛い桃色のウエアはすっかり雪まみれになっている。
「ちょっと、大丈夫?」
 その後ろから赤いウエアのスノーボーダー……というかオディールが倒れた雛苺のところまで難なく滑ってくると、心配そうに彼女に駆け寄る。
「ひょっとしたら、怪我してるかも……」
「何やってるんだい、まったく」
 私も蒼星石も気になって雛苺をゆっくりと抱き起こす。


「う……うう~」
 雛苺は泣きそうな顔で私たちをじっと見つめて……
「ぶわ~ん!」
 思い切り泣き出した。


「ほらほら、大丈夫?」
 私は雛苺の足からボードを外すと全身をさすってやる。
「雛苺。足とか手は動かせるかしら?」
 オディールも彼女のウエアを袖やズボンを捲り上げて、手や足の関節をじっと観察していた。
「わ~ん!」
 相変わらず激しく泣いている雛苺。
 ただ、むやみやたらに手や足を動かしていたり曲げたりしているので、多分骨折はないだろう。
「ただ、念のために医務室に連れて行ったほうがいいね」
「そうね。私が連れて行くわ」
 蒼星石のその言葉にオディールは雛苺を背中におぶると、そのままセンターハウスの医務室に連れて行った。


「雛苺って……確かスノボどころか、スキーもしたことなかったんだよね?」
「そうだけど。朝から私とオディールでみっちり教えたから、何とか滑れるようにはなったけど……ただ、うまくなったことに舞い上がってしまって、調子に乗ったからコントロールが効かなくなったってところでしょ」
「まあ、そんなところかな」
 そんな会話をしながら、ぼんやりとセンターハウスを眺めていた。


「しかし、今回は雛苺は幽霊だという設定とはいえ……結構ツボにはまっていたね」
「まったくだね。幼さがかえって恐怖感を引き起こすっていうか……いい仕事してたよ。でも今回のヤマ場は案外巴だと思うけど、僕は」
「何で?」
 正直、蒼星石の話すことにピンと来ない。
「だって、悪霊に取り付かれたとき……結構鬼気迫るものはあったよ。真っ黒なネタは数多くあったけど、あんなに変貌したのは結構意外性があっていいんじゃないかな」
「……」
「んで、雛苺のお父さんの愛人の役だけど、桑田さんか水銀燈か真紅が候補に上がっていたみたいだけど……1番目はそれ系ではあまりピンと来ないので却下。2番目や3番目はハマリ役っぽかったけど、ちょっとやりすぎな気もしたので却下。
結局、オリジナルの女の人でいくことにしたみたいだけど……巴でも案外良かったかも」
「……余計なこと言い過ぎ」
「そういう君も結構怖いよ」
 平静を装って話し掛ける蒼星石。
 でも、目は結構正直ね。やたらと落ち着きなく動いているから。
 内心は奥歯をガチガチ震わせるぐらいに怖いのじゃないの。ククク……


「ともかく……それはいいとして……今回のこのスキーの言い出しっぺは誰?」
「それはね……決まってるじゃない」
 蒼星石はため息をひとつついて、上級者向けのゲレンデを指差した。
 そこには3人の人物が……まさしくプロ級の腕前といっていいぐらい、颯爽とスキーで滑り降りているのが見える。
 黒いウエアを着た先頭の人物が、同じ赤系のウエアを着た人物を圧倒的な差をあけて滑っていた。
 後の二人もそれに追いつこうとするが、差は縮まらず、むしろ広がるばかり。
 挙句の果てには、そのうちの1人がゲレンデの途中で横転してしまった。

「あ~あ。やんちゃしすぎだよ、あのオヤジ……じゃなかった、マスター」
「ふ~ん。なるほどね」
「折角、シーズン真っ最中の湯沢まで来たのだから、滑らなきゃもったいないって。
てか、このネタが終わったら、スキーへいく気まんまんだったみたい」
 結構、不満タラタラで口が悪いんだね、蒼星石。実は案外彼女の双子の姉とそんなところで似てるんだね。
 そのことを本人の前で私が話したらどうなるだろう……という想像は置いといて。
 そんな会話をしているうちに先頭を滑っていた人物が私たちのところまで来て、猛烈な雪しぶきを上げながら止まる。


「ふん、蒼星石。いつまで初級者コースでのんびりしているつもりだ。さっさと上級コースに来て腕を磨かんか」
 ゴーグルを外して、蒼星石をどやしつける結菱さん。
 蒼星石も結構スキーはうまいけど、彼の腕前はそれ以上だ。
 年齢は60近いはずなのに、若い人に引けを取らない……いや、それをまったく寄せ付けない滑りだ。大会……いや、オリンピックに出てもおかしくないだろう。
「すみません、マスター。ちょっと雛苺に滑りを教えていたら、怪我しちゃってそれが気になって」
「まあ、それなら仕方がないな。待つのも暇だから、ちょうど……」
 結菱さんがそこまで言いかけていたとき、先ほど彼の後ろを追いかけて滑っていた赤系のウエアを着た男2人が駆け寄ってきた。一人は転んだせいで足を捻挫でもしたのか、もう一人の肩に腕を預けている。
「何だ?」
 じろりと彼らを見る結菱さん。

「参りました!まさかあなたが、伝説のアノ人とは知らずに……失礼しました」
 いきなり結菱さんに土下座をする二人。
「ふん。大学か企業のスキーチームか何か知らんが……永遠のハッスルダンディである私に敵おうなぞ3万年早い!」
 腕組みをしながら二人の前に仁王立ちになり、勝ち誇った笑みを浮かべる結菱さん。
 というか、思い切り痛い言動なんですけど。


「あーあ。また退屈しのぎにスキーチームをからかっていたみたいだね」
「どういうこと?」
 そんな結菱さんを目にしながらも小声で話す私と蒼星石。
「昔からなんだよ。マスターはスキーの腕前は国体やオリンピックに出てもおかしくなく、過去にもスキー連盟から何度も声が掛かっていたんだけどね……断っているんだ」
「何で?」
「合宿で缶詰にされて、コーチの厳しい指導のもとで練習ばかりするのが気に食わないらしいんだ。自分の思うがままにやるのが一番なんだと。
 で、そんなマスターにアマ・プロを問わず数々のスキーチームやオリンピックや国体の出場選手が挑戦状を突きつけているんだけど……いずれも返り討ちにしてるんだ」
「すごいね」
「でも、彼らを屈服させるのに味をしめたのか……マスター自ら全国のスキー場に出向いて、そこにいたスキーチームを挑発しては叩きのめしたりしているものだからね」
「……」
 何というか、趣味が悪い。
「めざすは全国制覇だということで、シーズンになっては全国各地にスキー場で滑り倒しているからね……その度の僕も引き連れられているけど、つきあわされる方もたまったものじゃないよ」
 そんなエキセントリックな人が育ての親だなんて……結構災難だね。
 でも、まあがんばって。それだけしか言えないよ、私は。
(ちなみに後でオディールにこの話をしたところ、彼女も過去にスイスのアルプスのスキー場に行ったときに、スイスやイタリアやフランスのプロのスキーチームの面々をゲレンデで土下座させていたのを目撃したことがあるという。
 もう、なんていうか。世界制覇ですか、あなたの野望は……ねえ、結菱さん)


 そんな内緒話が結菱さん本人に聞こえているわけはなく、有頂天な様子でさらにこんなことまでプロスキーヤーの2人に言い出していた。
「あんたらの泊まっている宿はどこかね。今夜じっくりと指導してあげよう」
「はあ……」
 なんかうんざりした感じになってるんですけど、この二人。

「あちゃ~、今夜は反省会確定だね」
 蒼星石は大きくため息をついた。
「何、その反省会って」
「勝負にかったら、負けたスキーヤーの泊まっている宿に押しかけて、夜通し説教するんだよ。これも昔から」
 本当にはた迷惑な話だね。
「大体3時間ぐらいかな。徹底的に相手の欠点をなじっては……最終的に貴様らはへたれていると言い出すんだ。一番酷かったのは5年前に白馬に言ったときだったかな。
 確かあの時は日本各地のスキー場を荒らしていた『アーバンインパルス』とかいうスキーチームと地元の『白馬ドルフィンズ』ってチームが勝負して盛り上がっていたんだけど……そこにマスターが乱入したんだ。んで、例のごとくに双方のチームの主力メンバーを徹底的に叩きのめして……その日の夜に説教会をやらかしたんだ。
 双方のチームのメンバー全員を正座させて、8時間も延々と……やってらんなかったよ」
 なるほどね。でも私にそんな話をされても仕方ないんだけど。


「蒼星石!さっさと行くぞ。柏葉さんも折角だから上級コースに挑戦してみるといい。
 君のボードの腕前もなかなか大したものだから、上級でいっても大丈夫だろう」
 意気揚揚とリフトに私たちを連れて行こうとする結菱さん。
 というか、別にいいですけど……私までそんな勝負に巻き込まないで下さいよ?
 私は内心そんなことを思いつつも承諾すると、結菱さんの後に続いた。
 当然、彼に対する拒否権が無いのか蒼星石もうんざりした顔でリフト乗り場に向かっていた。
 実を言うと、初級コースは結構、初心者がたむろしていてやりにくいと思っていたので、それも悪くないとも思っていた。


 結菱さんが一人リフトに乗り込む。
 私と蒼星石はその後からきたリフトに乗り込んだ。
 猛烈なスピードで上へと運んでいく。
 眼下には斜面を滑り降りるスキーヤーやスノーボーダーの姿が見えた。


「しかし、今回のネタでは結菱さんは探偵だったけど……原作では確か元華族らしいけど。なんで探偵なのかな?」
「なんでも、マスターのお父さんが生前に財産分与をしたらしくてね……早い話が金はやるからあとは勝手に自分で生きろって訳で……んで、薬販売、鉄道の車掌、自衛隊、税理士、テキ屋、ピンサロ店長、闇金、議員秘書なんかの職についたり、かと思えば修験道の修行をしたりして……たどり着いたのが探偵業だったって訳」
 なんというか……性格といい、成り行きといい、まあある意味波乱万丈な人生を送ってらっしゃったわけで。
(電車を止めれたのも、鉄道会社に就職していたことがあったからか。納得)
 しかし、そんな奇天烈な子を育てた親の顔を一遍見てみたい気もする。


 リフトを乗り継ぎ、来たのはスキー場のもっとも高い場所だった。
 眼下にはゲレンデが、そして湯沢の町並みが一望できる。


「これはないよ……」
 私は思わず目の前に広がるゲレンデの光景に呆然としてしまった。
 上級者コース。
 目の前を急な角度で下る斜面。
 おまけに無数のコブのおまけつき。
 まあ、私も白馬は八方尾根あたりでコブだらけの斜面をボードで滑る練習をしていたこともあって、多少はいける気もするが……下手したら怪我するかも。
「まあ、ガーラの上級コースっていったら、コブ斜面だからね。モーグルもやったことはあるけど……」
 蒼星石もこの辺は分かっているようでも、今ひとつ自信はないようだった。


「何を躊躇しておるのだ!私は先に行くぞ」
 結菱さんはそんな私たちとは対照的に自信満々といった様子で、斜面の方へと滑り出す。
「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!
 ハッスルダンディーに後退の文字はないのだ!HAHAHA!」
 奇天烈な笑い声を上げながら、結菱さんはコブ付きの斜面を猛烈な勢いで滑り降りる。


「アホね」
「まったく……」
 私も蒼星石もただその場に突っ立ちながら、大きくため息をついた。

              -今度こそfin-

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