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―――二〇一〇年十一月十三日午後六時二十分 茨木市上空八千五百メートル―――


「こちらフォッセー3、なあ、俺たちは一体なにをしてればいいんだ?」


通信機から、フォッセ―3ことウィリアム・オーキンス軍曹の退屈そうな声が聞こえてくる。
フォッセ―2こと、ジェイムズ・サザーランド軍曹はこう答えた。


「簡単なこった。素人さんと空戦の練習をして、親鳥が爆弾をばら撒くのを見物して帰る、そんだけだよ」
「フォッセー1より各機へ、作戦中の私語は慎みなさい」


フォッセ―1こと、『フォッセ―隊』隊長オディール・フォッセ―中尉が談笑を続ける僚機を一喝した。


彼女達に与えられた任務は、日本航空機から味方の爆撃編隊を護衛することであったが、彼女はあまり乗り気ではなかった。
と、言うのも当初この任務は別の隊が担当することになっていたのだが、
その隊が出撃を頑なに拒否したため、その代わりとしてフォッセ―隊が選ばれたのだ。
自分は他の隊の代わりに過ぎない……それが彼女のプライドを大きく傷つけていた。
そんな彼女の元に、ウィリアムから航空無線が入る。


「隊長、あれ見てくださいよ。少しはこっちに獲物をわけてくれてもいいと思いませんか?」


オディールは彼の指した方向に目をやった。
そこでは第一次爆撃大隊五十六機を護衛する友軍機九十八機が迎撃に上がってきた日本機を一方的に叩きのめしていた。


「くそっ!くそぉ!!エイリス野郎めぇ!!ウワァァァァァァァ!!!!」」
「助けて下さい隊長ぉ!!!」
「嫌だ、死にたく……ぎゃああああああああ!!!」


開戦当初は何度か苦渋をなめることがあった日本航空隊が、稚拙なパイロットというハンデを抱え、
ミサイルの直撃を受けて空中爆発したり、コックピットを打ちぬかれたのか、煙も出さずに堕ちていく様子を彼女は黙って見つめていた。
今は少数の日本機が機体をすべらせて必死に逃げ惑っているだけで、反撃しようとする機体はない。
オディールは、愛機であるタイフーンのコックピットでふぅっと溜息をついた。


「(こんな空戦で撃墜数を伸ばしてもなんの自慢にもならない)」


彼女の家系は空軍の家系であった。
祖母は『ユークの魔女』と呼ばれ、母親も『北方の妖精』という異名を持つエースパイロットであった。
母親は今でもユーク空軍で現役として活躍しているらしい。
そんな二人に影響され、彼女も空軍に入隊するも、なかなか名を上げる機会に恵まれなかった。
それどころかユーク軍の中ではいつも二人と比べられ、肩身の狭い思いをしていた。
それは、彼女がローゼンの革命に参加し、エイリス軍に移っても変わらなかった。
自分を周囲に認めさせるためには、こんな素人同然の相手ではなく、もっと実力のあるエースを堕とさなくては……
だが、それもこの戦争中には叶いそうもない。彼女はこの現実に失望していた。


「こちら空中管制機サウザンドアイズよりフォッセー隊へ―――」


エイリス側のAWACSから彼女達へ通信が入った。


「こちらに接近する敵増援を確認。作戦中の各機は十分に警戒せよ」
「増援ねぇ。敵さんは未だ諦めてねぇのかい」
「爆撃機へ、日本機の神風アタックに注意するよーに」


AWACSからの報告に、ジェイムズは呆れたように呟き、ウィリアムはふざけたようにそう言った。
対するオディールは冷静にその報告を受け止めていた。


「(増援……でも技量に劣る日本機のこと、私達が出なくても他の隊でなんとかなるわね)」


彼女はそう結論付けて、増援部隊は他の者に任せることにした。


彼女は気付かなかった。
増援の中に、自分が待ち望んだエース達が居たことを。
そして、彼らの登場でこの戦局は急展開をむかえることとなる。



――ACE COMBAT ROZEN―――「第2話“戦場”」



「ターゲット……マルチロック……」


ミーディアム4こと、薔薇水晶機が味方機を狙う敵航空機をレーダーに捕らえると、瞬時に装備をミサイルから特殊兵装に切り替えた。
彼女の機体に搭載されている特殊兵装XMAA(高機能対空ミサイル)は、4.5キロ先から最大四つの空中目標をロックし、
同時に攻撃することが可能な優れものだ。しかも撃墜率を上げるために、弾速と追尾性が強化されている。
彼女は味方への攻撃を続ける敵編隊をロックオンすると、XMAAを一斉に発射!!
味方を追いかけるのに夢中になっていた敵編隊は対処が間に合わず、XMAAの直撃を受けてそのまま爆散した。


「ふぅ、助かったぜ譲ちゃん。基地に帰ったらなんか奢ってやるよ」


味方から感謝の通信が入った。


「奢ってくれるって、よかったね薔薇水晶」
「からかわないで下さい……」


コンビを組んでいるミーディアム3こと柿崎機からの通信に、薔薇水晶は少し照れたように答えた。


「敵はまだ沢山いるわね。ふふっどの子が私の天使になってくれるかしら?」


その言葉を合図に柿崎機は敵軍の真っ只中に飛び込んで行く。薔薇水晶も慌ててその後を追った。
女同士であることを理由に、部隊発足当初からコンビを組まされていた二人は見事な連携を見せて敵を撃墜して行く。
一機が接近戦で突っ込むと思いきやもう一機が支援攻撃をかける。
そして攻撃を回避されても、またもう一機が攻撃を仕掛ける上に、立ち直りも早いのか、片方もすぐに再攻撃を仕掛ける。
そうやって二人は友軍を助けるついでに、自身の撃墜スコアもどんどん伸ばしていった。


「ようやく援軍が来たぞ!!」
「待ちくたびれたぜちくしょう!!」


他の味方も援軍の到着を把握した。そして押されていた味方は徐々に勢いを取り戻していった。



「うぁ、うわわ!!」


隊長機である白崎機の援護によって爆撃機に追いついたミーディアム2こと草笛機であったが、
その対空砲火に驚き、機体を急上昇させて爆撃機から離れてしまった。
恐怖心から体がガタガタ震え、歯がカチカチと音を鳴らす。
そんな彼女に白崎が通信を送る。


「ミーディアム1から二番機、貴女は一体なにをやってるんですか?」
「す、すみません」


白崎の言葉に、彼女は少ししゅんとなりつつ答えた。


「対空砲火など距離を取れば命中することはありません。もう少し落ちつきなさい」
「はい……わかりました」
「返事はよろしい。では直掩の戦闘機は僕に任せて、貴女は引き続き爆撃機への攻撃を継続してください。出来ますね?」
「は、はい!!了解しました!!」


彼女はそう、答えるともう一度爆撃編隊に向かって急降下を始めた。
それを敵が見逃すはずもなく、即座に敵の編隊が草笛機の迎撃に向かった。
それを迎え撃ったのは白崎機であった。


「貴方達の相手はこの僕です!!」


白崎の駆るF-15Jが六機の敵戦闘機目掛けてマッハ2に近い速度で襲撃する。
銀色のF-15Jが一筋の銀糸となって敵編隊に向かって突き進み、すれ違った時には、敵戦闘機の姿が半数になっていた。
白崎はそのまま急旋回し、残りの三機にもミサイルと機銃弾を打ち込み、これを撃墜した。
―――わずか十五秒の出来事だった。


その隙に草笛機が再度爆撃機に向けて攻撃を開始する。
今度は敵の弾が届かない距離から、落ち付いて敵機を射程に収める。
そして、そのままミサイルを発射した!!
二発発射されたミサイルは、見事敵に命中、敵爆撃機はエンジンや燃料タンクから煙を噴き出し、
そのまま火達磨となって爆発した。


「やった!!敵を撃墜しました!!」


興奮しているのか、草笛機から喚声が聞こえてくる。


「浮かれてはいけません。そんなことではすぐに死にますよ」


白崎が興奮する草笛みつを諌めた。
そのまま草笛機は白崎の援護に助けられながら、爆撃機を一機ずつ、確実にしとめていった。



「なんだあいつは?」


単機で飛ぶF-15Jを発見した敵兵がそう呟く。


「一人か、戦争をしらないようだな」
「どうします隊長?」
「決まってる、あいつを堕とすぞ。付いて来い」


そのF-15Jを撃墜するために四機の敵機が急上昇を始める。
相手もこちらに気付いたのか、そのまま急降下してこちらに突っ込んできた。


「真正面から?馬鹿かあいつは」


そのあまりにも愚かな行為に驚きつつも、四機はその敵に向けてミサイルを放つ。
これだけのミサイルをかわせるものか……
だが、敵はミサイルを回避してそのままフルスロットルで向かってくる。


「……!!」


あれだけのミサイルを回避された!?
隊長が驚いている間に、その日本機は視界から飛び去った。


ドガァンッ!!


それから少し遅れて、両脇から爆発音が響き渡った。
彼が両脇を見回すと、つい先ほどまで編隊を組んでいた全ての僚機が消えている。
あの日本機―――ミーディアム5桜田機がすれ違いざまに放ったXMAAによって、全て撃墜されていた。


「くそったれぇ!!」


彼は仲間の仇を討つべく、桜田機目掛けて、フルブーストでダイブする。
一方の桜田機も旋回し、最大出力で上昇する。どうやら真正面から迎え撃つつもりらしい。


―――交差する二機―――


軍配は……桜田機に上がった。
彼が発射したミサイルを最小の動きで回避し、そのままコックピットへ向けて自身もミサイルを射ったのだ。
彼は、直撃を食らい、そのまま炎の塊となって堕ちてった。


一機のF-2が彼の元へ滑り込み、桜田機に通信を送る。


「よう桜田、相変わらず良い腕だな」 

この声は間違いない、かつての友であり、同じ師団に属するサイヤ隊の隊長でもあるべジータの通信だ。


「こんなときに無駄な通信をするな」


ジュンは少し苛立ったように答えた。


「おいおい、なにをそんなにピリピリしている。そんなんじゃ勝てる戦いも勝てないぞ」
「お前にそんなことを言われる筋合いはない。はっきり言って邪魔だ」


ジュンはそのまま通信を切り、目の前にのこのこと姿を見せた戦闘機を撃墜すると、
そのまま次の獲物を求めて飛び去っていった。


「……べジータ、なにやってるんだ?」


ベジータの旧友であり、マシマロ隊の隊長でもある笹塚から通信が入った。


「桜田のこともいいが、今は作戦行動中だぞ」
「ああ、そうだな……でも気になったんだ。桜田のことが……」
「桜田は変わったよ。もしかしたら……僕たちが知ってる桜田はあの日、のりさんたちと一緒に死んでしまったのかもしれない」
「……かもな」


そう通信を送ると、二人はそれぞれ互いの戦場の中へと身を沈めていった。
ああは言ったもの、ベジータの本心は違った、
確かに桜田は変わったように見える、
だが俺は、あいつの中に、まだ昔の桜田が生きているような気がするのだ。
もしかしたら笹塚もそう思っているかもしれないが……



「こちら空中管制機スカイネット、敵爆撃機の半数を撃墜!このまま交戦を続けろ!」


ミーディアム隊は五者五様の活躍により、敵機を次々と撃破、徐々に戦局を日本側有利に進めていった。

「うっひゃぁ!!またあいつらがやってくれたぞ!」 
「こっちもウカウカしていられん。行くぞ!!」
「やつらを落とせ!爆撃機をやらせるなぁ!!!」

「くそう、六番機がやられた!」


両軍からの通信が飛び交う。


「マシマロ隊、全機突撃用意!!ミーディアム隊に続けぇ!!」

笹塚のF/A―18Cのミサイルが爆撃機を粉砕する。


「サイヤ1より各機、ここで徹底的にたたくぞ!」


ベジータのF-2の機銃弾が敵機を蜂の巣にする。


「ストライク1より全機、あれが噂のミーディアム隊だよく見ておけ!」
「あいつらばかりじゃない、俺たちの力も見せ付けてやれ!」


他の味方も負けじとばかりに敵部隊を次々と落としてゆく。


「くそ!基地からの増援はまだか!」


敵パイロットの恐慌をきたした声が響く、その時だ。


「こちら空中管制機スカイネット、こちらに向かって複数の敵が接近中!様子が妙だ、注意しろ」



「こちらフォッセー2、味方はかなり押されている模様」
「フォッセ―3、くそっ!!もう少し早く来てりゃこんなことには!!」


部下の愚痴にオディールが答える。


「こちらフォッセ―1、ここで愚痴を言っても仕方ありません。爆撃機を攻撃する部隊を優先的に攻撃します。各機、攻撃用意」
「了解!!フォッセー2交戦!!」
「フォッセ―3交戦!!」


三機は攻撃陣形を組むと、そのままフルスピードで日本航空隊に向けて攻撃を開始した。
真っ先にフォッセ―隊のターゲットになったのは……爆撃機に攻撃を続ける草笛機であった。
 

「注意!!敵のレーザー照射を受けている!!」


順調に攻撃を続けていた草笛機に、突如AWACSから通信が入った。
直後にコックピット内に鳴り響くミサイルアラート。
慌てて機体を左にすべらせた彼女の数メートル横を、ミサイルが飛行機雲を残して流れて行く。
彼女の顔に冷や汗が流れる。
……危なかった。回避するのがもう少し遅かったら私は死んでいた……。


「ちぃ、外れた」


ミサイルを放ったジェイムズが言った。


「ちょうしに乗りやがって、あいつから仕留めてやる!!」


ウィリアムのその言葉を合図に、彼らの駆るタイフーンは二機一組となって彼女に襲いかかった。


「まずい!!」


その様子を見た白崎は叫ぶ。
あの二機は他の敵とは違い、見事に連携がとれている。
ああいった敵に単機で立ち向かうのはあまりにも愚かな行為だ。
しかも彼女はこの出撃を含めても、まだ数回しか空に上がってない。
このままじゃ、彼女は確実に堕とされる!!


「ミーディアム2、今すぐその場から離脱しなさい!!その敵は貴女では倒せません!!」


その通信を聞いた草笛は思った。
白崎さんもジュン君も、皆自分たちより数の多い敵を倒してるんだ。
メグちゃんやばらしーちゃんだって活躍してる。
それなのに私だけ……私だって……私だってやってやる!!


「大丈夫です!!私だってやるときはやります!!」


彼女は吐き捨てると、白崎の制止を振り切りその二機に向けて機体を突っ込ませた。


「おいおい、一人で突っ込んでくるぞ」

「よほど自信があるのか、それとも馬鹿なのか……」


彼らは半分呆れつつも、こちらに向けて突っ込んでくる草笛機を迎え撃った。


「くそっ!!」


白崎は引きとめようとするも、彼女はそのまま敵に向かって突っ込んでゆく。


空中戦で、敵機と自分が同じ技量と性能なら、一対ニならまず勝てない、それ以上なら確実に負ける。
一人で複数の敵を撃破できる白崎やジュンが異常なのだ。
空の戦いは、陸や海とは違い、数の優劣が顕著に出る。
空で一人で複数の敵と戦って勝つことは普通では出来るはずがない。だから僚機と連携を組んで戦う。
実際、この隊の柿崎機と薔薇水晶機も、連携を組んで戦っている。
僚機も無く、白崎やジュンのような化け物じみた技量もない草笛がそいつらと戦って勝てるはずがない。
彼女の援護に向かおうとした白崎機の前に、一機のタイフーンが立ちふさがった。
フォッセ―隊隊長、オディール・フォッセ―だ。


「貴方の相手はこの私よ」


これこそがフォッセ―隊の戦術。
二番機と三番機がペアとなって敵を攻撃。
一番機と四番機がその後方を防御する。
そうやって二、三のペアを攻撃に集中させるのだ。
あいにく、数日前の空戦で四番機が撃墜されたため、防御側が今は彼女しかいないのだが……。


「(早く援護に向かわないと……)」


白崎は彼女のタイフーンを射程に収め、ミサイルを放つ。
命中確実かと思われるも、すぐにタイフーンは急降下を始め、ミサイルはあえなく虚空に流れていった。
白崎はそのまま追撃にかかろうと、機体を急激にターンさせる。
だがその直後……。


「なに!!」


白崎は思わずうめいた。
今まで追撃していたタイフーンがいつのまにか自機の後方に回り込み、こちらにミサイルと機銃弾を撃ち込んできたのだ。
ミサイルは回避したものの、機銃弾が何発か機体に被弾した。


「僕に当てるなんて……くぅ」


思わぬ強敵の出現に、白崎は思わず歯軋りをする。
機体を滑らせて彼女を降りきろうとしても、どこまで喰らいついてくる。
交差しあうミサイル、放たれる機銃弾、互角の戦いだった。



「きゃああ!!」


草笛機に衝撃が走った。
彼女の機体はすでに左主翼の三分の一を吹き飛ばされていた。
今も右尾翼に攻撃を喰らい、エンジン付近から煙が上がっていた。


「おいおいまだ堕ちないのかよ」
「案外しぶといねぇ」


彼女を追う二機が嘲笑しながら攻撃を続ける。
彼らはあきらかに草笛機を嬲っていた。
草笛機はなんとか逃げようと今にも火を吹きそうな機体を必死に操縦する。
こんなの勝てっこない!!やっぱり私は間違っていた。ここじゃ死ねない。今はとにかく逃げないと!!
だけど、敵機は情け容赦なくこちらを追う。


「ひぃ!!」


戦争で味わった始めての死という恐怖だった。死にたくない……彼女は思った。


「(死にたくない……死にたくないよぉ……隊長!!ジュン君!!ばらしーちゃん!!メグちゃん!!……カナ!!助けてぇ!!)」


「草笛さん!!」


白崎はなんとか援護に行こうとするも、オディールに阻まれて彼女の元へ向かえない。


「これで終わりだ。恨まねぇでくれよ」


彼女を嬲るのに飽きたのか、ジェイムズがミサイルの発射態勢に入った。
彼が発射ボタンを押そうとしたそのとき……


「……?」


一瞬なにかがきらっと光ったのを、視界の隅に捕らえた。
確かるために航空レーダーを見ようとしたそのとき。


「ジェイムズ!!敵にロック……」


オンされている。と、最後まで聞けずに、ジェイムズ機は機体上方から撃ち込まれたミサイルによってバラバラに砕け散り、そのまま彼は機体と運命を共にした。
奇襲を仕掛けたそのF-15Jは、エンジンからジェット機特有の鋭く甲高い音を響かせながら急上昇する。
草笛は、その突風のようなその姿にしばし呆然としていた。


「こちらミーディアム5、これより援護する」


奇襲を仕掛けたのは……桜田ジュンだった。


「ジュン君!!」


「よくもジェイムズを!!」


ウィリアムがジュンに挑みかかる。
もう開戦当初から乗っているタイフーンはもはや自分の体のように動く。だが相手のF-15Jも素晴らしい動きで立ち向かってくる。


「(こいつはかなり出来る!!ここは一度体制を整えつ必要がある)」


ウィリアムのタイフーンが機首を下げて思いっきりダイブした。
そのすぐ上をミサイルが通過する。
ウィリアムは、十分降下したところで機体を立て直し、そのまま上昇しようとした、
そのとき、ドンッ!!という爆発音と機体を激しく揺さぶる衝撃に、ウィリアムはうっとうめいていた。
ミサイルを受けたのか、エンジン部分から火の手が上がっている。
レーダーは、自機の真後ろにピッタリとくっついている桜田機の機影を映し出していた。


「馬鹿な!!」


ウィリアムが叫んだ。
彼の機体はコントロールを失い。次第に高度を下げて行く。
早くペイルアウト(脱出)しないと丸焼けになっちまう。
彼は脱出用のレバーを引こうとした。
そのとき、ふっと頭上に影が降り、彼は思わず上を向いた。
彼は見た、機体上部から迫ってくる、桜田機の姿を……
それが、彼の見た最後の光景となった。数瞬後、桜田機から放たれた機銃弾で、彼の体はコックピットごとコナゴナに粉砕され、そのまま堕ちていった。



――――第8航空師団 第3戦闘飛行隊 『フォッセ―隊』所属ウィリアム・オーキンス軍曹及びジェイムズ・サザーランド軍曹 戦死―――

  

「ウィリアム!!ジェイムズ!!」


僚機のシグナルロストに動揺するオディール。その瞬間を見逃すほど白崎は甘くなかった。
即座に特殊兵装QMMA(高機動空対空ミサイル)に切り替え、彼女に向かって発射!!
直撃を受けるタイフーン。その威力は凄まじく、翼を吹き飛ばし、機体を炎上させる。


「……ここまで……なの……」

オディールは炎に包まれながらも、なんだかんだ言って可愛がっていた部下を救えなかった罪悪感と、祖母や母に追いつけなかった無念を
感じつつ、機体ごと地面に吸い込まれていった。



―――第8航空師団 第3戦闘飛行隊 『フォッセ―隊』隊長オディ―ル・フォッセ―戦死―――



「あいつら!なんて奴らだ!フォッセ―隊を落としやがった!」


こちらの切り札であるフォッセ―隊を撃破されたことを見たエイリスのパイロットは驚きの声をあげる。
そして再び戦場に戻ってきたジュンは敵機を次々とハンターのように狩っていった。
草笛機は損傷が激しく、一足先に基地へと帰還した。


「隊長機が奴に落とされた!指揮系統を!」
「なんて攻撃だ!俺たちを皆殺しにするつもりなのか!」

もうすでに7割以上の兵力を失っているエイリスは全滅の道を突き進んでいた。


「く、くるなぁぁぁぁ!」
「やられた、ペイルアウ……ああああああ!!!!!」
「なんてやつだ!!コックピットを撃ちぬきやがった!!!」
「ぐあああああ!!!!!」
「あ、悪魔だ」


 一人の敵パイロットは恐れの声を出す。


「そんな生易しいものじゃない」


とあるパイロットはうめく


「ああいうのはな……『死神』って言うんだよ」


事実を淡々と受け入れる敵パイロット

「死神に取り付かれた!誰か助けてくれ!」
「く、くるなぁぁぁぁ!」
「ひぎゃああああああああ!!!!!!!!」


エイリス軍は半ば恐慌状態になった。


その様子を見て白崎は呟く。


「全てを焼きつくし、破壊する鬼神、まるで……」


その考えが頭をよぎったとき、白崎は思わずくすりと笑った。
そう、”まるで十五年前の彼のようだ”と。
だけど、今のジュンを、憎しみに全てを委ねているジュンを”彼”と同一視してはいけないとも思っていた。
考えることを中断した白崎は、そのままジュンと同じように戦火の中に身を投じていった。


「爆撃機、全機撃墜!友軍の損害8割を超えました!このままでは全滅です!!」


敵パイロットの絶叫が響く、爆撃機は全滅し、エースも堕とされた、こっちは圧倒的不利だ。


「バルチャ―隊全滅!!ハルヒ隊からの通信も途絶えました!!」 「ああ!ジャン・ルイがやられた!」


次々と入る被害報告、そして、敵は決断する


「任務は失敗だ!味方をこれ以上失うわけにはいかん!!全機撤退!」


それを合図に、敵残存部隊は次々と撤退していった。


「ん?どうやら敵は撤退しはじめたようですね」


白崎は呟いた。
追撃戦を仕掛けたいがこちらの手持ちはミサイルと機銃のみ。両方とも残弾は少ない。
他の機も同じようなものだった。


「こちらスカイネット、敵爆撃機の全滅を確認、残存部隊も撤退を開始した。諸君、ご苦労だ!!」
「イヤッホー!!ざまぁみろエイリスの馬鹿野郎めぇ!」
「俺たち日本航空隊に出来ないことはないぜ!」
「そのまま尻尾巻いてお国に帰りやがれぇ!」

周囲から明るい声が聞こえる、全く調子の良い人達だ。白崎は苦笑いを浮かべる。
並列するように並ぶミーディアム隊のF-15J

「ふぅ~白崎隊長、まだ生きてます?」


メグから白崎に通信が入った。


「ええ、なんとか、天使には会えましたか?」
「だめでした、ああもう、いつになったら私をつれてってくれるの?」
「あの……」


薔薇水晶から通信が入る。


「草笛さんはどうしたんですか……まさか!!」
「いえいえ、彼女は機体が損傷したので先に戻ってもらいました。大丈夫、たいした怪我ではありませんよ」
「よかった……」


薔薇水晶の安堵の声が聞こえる。


「それでは基地に帰還しましょう。今夜は皆さんの無事を祝って僕がなにか奢りますよ」
「うふっ期待してます」


周囲と違い、ジュンの心は晴れなかった。
今度もダメだった……今度こそはと思ったのに、今度も七色の航空隊に会うことは出来なかった。
いつになったら姉ちゃんや柏葉たちの仇を討てるんだ……


「ジュン」
「ん?」
「お疲れ様」
「ああ」


ジュンは薔薇水晶のねぎらいにも対した反応を見せず、彼を含めた四機のF-15Jは厚木に帰還した。
この日の隊全体の撃墜数はちょうど五十。ジュンの撃墜スコアは十三機であった、


この日の空戦で、基地へと帰還することのできたエイリス機は百五十四機中わずか十二機。
対する日本側は、百八十五機中百十八機。数だけ見れば日本側の大勝利であった。
しかし、先の読めるものは、決して安心はしていなかった。
敵の先遣隊を迎撃しただけでこの被害。もし、敵が今後これ以上の数をそろえてきたら……
エース部隊を数多く揃えてきたら……最新兵器を導入してきたら……
どれを取っても難問ばかりであった。
……ジュン達の戦いは、まだ始まったばかりである。



次回予告


戦い終わって日が暮れて、兵士達は、暫しの間人へと戻る。
談笑する者、時代を嘆くもの、仲間と戯れる者……
しかしジュンは戻らない。彼を支える者は憎悪のみ、
彼に、少女の声は届かない。


次回、ACE COMBAT ROZEN 第3話”休息”

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