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+++???(?/? ?:??不明)+++





白い。
ただ、見渡す限りに真っ白な空間を一人の少女が行く。
周囲には何も無い。誰もいない。
その世界に存在するのは彼女のみ。


彼女は歩く。
ただひたすらに、休むことなく。
一体何処へ行こうというのか、それは彼女にしかわからない。
いや、彼女自身もわからないのではないか?
なぜなら、彼女の目には何も写っていないのだから―――



『こんな子産まなきゃ良かった』



突然誰もいないはずの空間から響いた声、それは―――



『なにこの子、気持ち悪い……』



―――侮蔑



『ねぇ見てよ、あの子の頭』
『まあ、あんな色に染めちゃうなんて、親御さんはどんな教育してるのかしら?』



―――偏見



『お姉ちゃんさぁ。ほんとはパパとママの子じゃないんだよね?』



―――的外れな嘲笑



周りには誰もいない。
なのに、声だけが後から後から聞こえてくる。
その全ては、彼女を否定するものばかり。


だけど彼女は歩き続ける。
その『声』に顔色一つ変えずに。
いや、ひょっとしたら、その声すら彼女には聞こえていないのか―――


「……っ」


不意に、何もない空間に、一人の少女が現われた。
少女はにこりともせず、その両手に熊のぬいぐるみを抱えたまま、
無表情で彼女を見つめていた。


次に現われたのは、壮年の男性と女性。
状況からして、この子の両親だろうか?
二人もまた、表情を変えずに彼女を見つめている。


彼女が初めて足を止めた。
彼女の目に光が戻って行く―――
だけどその顔にはなんの感情も感じられない。


しばらくすると、少女の右隣に立っていた男が口を開いた。


「―――も、なにか欲しいのかい?」


「―――」と呼ばれた彼女が首を振って答えた。


「なにもいらない」と


すると三人は初めて顔に笑みを浮かべた。そして―――


「良い子ね、金糸雀―――」


金糸雀と呼ばれた彼女はにっこりと笑った。
だが、その笑みは今の彼女とはまるで違う。仮面と見紛うような笑顔。
それはまるで、顔の上に笑顔という薄皮を張りつけているかのようだった。



――【愛の行く末第二部】道化師――


+++金糸雀(6/09PM5:05薔薇学園音楽室)+++



ザァァァァァァァァァ―――――



「う……ぅん」


耳に届いた雨音を目覚ましに、私は目を覚ました。
私は今までここでバイオリンの練習をしていた。
どうやら私は練習に疲れて少し眠ってしまったようだった
私がここでバイオリンを弾いていたのは、別に何かの大会が近いとか、そんな理由じゃない。
これは暇つぶし。そう、ただの暇つぶしだ。
昔から―――といっても小学5,6年あたりから―――ずっと続けているただの趣味だ。
初めは楽しかったけど、今は飽きが来たのか、それほど楽しくなくなった。
けど、他に代わりになるような趣味がないから、仕方なく慣性で続けているだけにすぎない。
今日だって、家に帰ってもやることがないから、ここで暇を潰していただけだ。
だからだろうか。今では、バイオリンの演奏を褒められてもなんとも思わなくなっていた。


……それにしても嫌な夢だった。
子供のころには、毎晩のように見ていた夢。
高校に上がってからは見ることの無くなった夢。
それを今になってまた見ることになるなんて……
あの夢を見ると、嫌でもあいつらのことを思い出す。
そう、今までの人生の中で、もっとも思い出したくないことを……



ザァァァァァァァァァ―――――



今だ続く雨音に、ふと部屋の窓から空を見上げると、鼠色をした空から雨が振り出していた。
暗く、重い雨雲から降り注ぐその水滴は、ざあざあと雨音を大きくし、次第にその量を増していった。
その光景を見て、私は少しだけ空を呪った。
朝はあんなに晴れていたのに―――天気予報じゃ降るなんて言ってなかったのに―――
これ以上雨脚が強まる前に早く帰らないと。
私はバイオリンを元の位置に戻して、早々に音楽室を後にした。


既に皆帰ってしまったのだろうか、校舎の中はしんと静まり返って物音一つ立たない。
それに加えて、雨が降っているせいか、妙に薄暗く、いつも見ているはずの校舎が、やけに不気味に感じた。
なにか、幽霊でも出てきそうな雰囲気だ。
さっさと鍵を返して早く帰らなきゃ……。
職員室まではあと少し、気味が悪いので足早に通りすぎようとした時、
一箇所だけ教室に明かりが灯っているのに気が付いた。
そこは、3ーB。私のクラスだ。


「あれ、まだ誰か残ってるのかしら?」


そうつぶやきながらその教室のそばを通りすぎようとした時、中から声が聞こえた。


「あ、あのさあ、ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ」


その声に思わず足を止めてしまった。


「うん、それで、なんなの?」


「ああ……」


一人は男子。もう一人は女子。
二人とも私がよく知っている人の声だ。
いや、もう何年も付き合いのある人間の声だ。聞き間違えるはずも無い。
私は教室の戸をそっと開けて中を確認した。
教室に居たのは―――


「ジュンと……薔薇水晶?」


そこにはジュンと薔薇水晶が居た。二人は教室の真ん中で向かい合っている。


桜田ジュン。私の友達の一人。
そして……私の最愛の人。


私がジュンを好きになった理由は、正直言ってよくわからない。
気が付いたときにはもう彼を好きになっていた。
けれど、あえて理由をつけるなら……やっぱり優しいところだろうか?


彼は”異端”である私に優しくしてくれた初めての人。
初めて私に偏見を持たないで接してくれた人。
雑草みたいな色をしたこの髪も、ジュンが『綺麗だね』と言ってくれたお蔭で少し好きになれた。
誰に褒められても嬉しくなくなったバイオリンも、彼に褒められると今でもちょっとだけ嬉しい。
もしかしたら、彼なら”本当の私”を受け入れてくれるんじゃないか……そうも思っている。


でも……ジュンが私に優しくしてくれるのは『私』だからじゃないってこともわかってる。
ジュンは私みたいな普通じゃない女の子をほおってはおけない性質なのだ。
現に、真紅や水銀燈といったジュンに言いよる女の子達は、皆私みたいな経験をしている子ばかりだ。
つまり、私はジュンにとってはなんの特別な存在ではなく、その他大勢の中の一人でしかないということだ。
それでも私はジュンを愛している。
だってジュンは私の……初恋の人だから。


そういう思いがあったからといって、すぐにジュンに告白したかというと、そうはいかなかった。
理由は簡単。ジュンの鈍さのせいだ。
ジュンは鈍すぎる。彼は周囲がどんなに甲斐甲斐しく干渉しても、その意味に全然気付かない程の鈍さだ。
こういうタイプにはなにをしても無駄だ。
だから私は他の女とは違い、彼になんのアプローチもしなかった。
行動を起こさないといけないのは自明だったけれど、さりとて具体的な方策はなかった。
頑張ろうとは思ってみても、勝算を見積もる材料が乏しくて、不安だったのだ。
やって後悔するかやらずに後悔するか、という言葉もあることはある。でも、結果として後悔するのなら、私はどちらもゴメンだ。
勝算も無いのに突撃するなんてことは、先の見えない馬鹿のすることだ。
それに、鈍いということは、彼は、自分に向けられる好意に気付かないということ。つまり、ジュンは誰にも振り向かない。
だったら急ぐ必要なんてない。
時間はたっぷりとあるんだから、毎日毎日ゆっくりと、私は彼に近付いていけばいい。
そして、最後にはこの私が彼のアリスになる。
最後に勝つのは他の誰でもない、この策士金糸雀なんだ。そう思っていた。
そう、思っていたのに―――


誰もいない教室で見つめ合う男女二人。
よく見れば、ジュンの頬が微かに紅潮しており、目線も宙に浮いている。
このシチュエーションはまるで……
そんなことはない。そんなはずはない。そう思っても、
ジュンのその表情が”そういうことだ”と切実に物語っていた。


「なあ薔薇水晶、お前、僕のことどう思ってる」


「ジュンは私の大事な友達だよ。どうしたの、いきなりそんなこと聞くなんて」


「……僕はお前を友達としては見れないんだ」


「え……それってどういうこと?」


「それは……」


そのままジュンは、じっと薔薇水晶の方を見ながら、黙り込んでしまった。
でも、彼がなにを言おうとしていることは手に取るようにわかる。
ダメ!!ジュンにこれ以上喋らせてはダメ!!
そう思っても、私の足は何かに縫い付けられたかのように動かない。
私は、ドアの前に釘付けとなり、否が応でも、事の顛末を見せられる格好になっていた。
ドアを開けて乗り込む事も、ここから逃げ出す事もできない。
外の雨は激しさを増し。時々雷が落ちていた。
激しい雨音は、教室や廊下にも響き渡っている。


私の心臓の音がどんどん大きさを増していく。
ドクッ、ドクッ、と私の耳元に最大ボリュームで鳴り響き、頭に上る血で顔はパンパンに腫れ上がり、破裂しそうなほど痛かった。
そして―――ジュンは―――


「………僕は………その………お前……の事……が…好き…なんだ。だから……」


「―――薔薇水晶、僕と付き合ってくれ!!!」



それを耳にしたとき、今度は全身の血が逆流し始めた。
心臓はさらにも増してその鼓動を強めていた。
にもかかわらず、手から、足から、頭から、血の気が引いていくのを感じた。


ジュンは、今なんて言った?
薔薇水晶が好き?付き合いたい?
……ウソ。ウソ!!ウソよ!!そんなのウソよ!!!
なんでよりにもよってその子なの!?
そりゃ確かにジュンは薔薇水晶と仲が良かったかもしれないけど。
そんな水銀燈に金魚のフンみたいにくっついてるくらいしか能のない女なんて絶対ダメ!!!
ジュンに一番相応しいのはこの金糸雀なのかしらぁーーー!!!!!


―――いや、まだ まだまだ。
確かにジュンはあの女に告白した。でも薔薇水晶はそれを受け入れないかもしれない。
まだ、ほんの少しだけ望みはある。


往生際が悪いとはまさにこの事。しかし、私は何と言われようと『ジュンと薔薇水晶がくっつく』という事を否定したかった。
殆ど間違いないのに、……ほんの一握りの希望に、一縷の望みを掛けていた。


「……ごめんねジュン、それは出来ないの」


薔薇水晶は本当に申し訳なさそうな顔で言った。
奇跡が、起きた。
ああ良かった。
薔薇水晶もジュンが自分にふさわしくないって気付いてたみたい。


「ど、どうしてさ!!」


ジュンは、薔薇水晶の答えを聞いて酷く狼狽している。
無理も無い、だって自分が精一杯の勇気をこめた告白を断られたのだから。
もし私が今のジュンだったら、きっと泣いてしまうに違いない。


それなのに、そんな彼の姿を見ていると、だんだんと私の気持ちが落ち着いて行く。


ふふ……これは私がジュンを手に入れる絶好のチャンスだ。
あの女が出ていったあとに私が偶然を装って教室に入り、傷心のジュンを慰める。
優しい言葉をかけてあげれば、ジュンを即ゲット出来るかもしれない。
まさに、私のモットー通り、楽してズルしてジュンを頂きかしら!!
私は、このまさかの展開に、心の中で一人ほくそえんでいた。
でも、私の喜びは、そう長くは続かなかった。


「だって銀ちゃん裏切れないもん」


彼女が泣き笑いに近い表情で言った。


「え……」


「銀ちゃんはね、ジュンのことが好きなんだよ。大好きなんだよ。ジュンは気付いてないみたいだけど……」


水銀燈……ジュンのアリスに最も近い女。
実際、ジュンに一番積極的にアプローチしていたのも彼女だ。
まあ、そのほとんどが彼にスルーされていたけど。
それでも彼女とジュンの絆が強いことに代わりがない。
あの二人の仲を引き裂くことは、この私でも難しい。
これで本当にジュンが水銀燈の元へ行ってしまったら。
もう、私には何も出来ない。
あの二人が恋人同士になってしまったら、もう”普通の手段”ではどうすることも出来ない。
その時点で、私の恋は終わってしまう。
それなのに……それなのになんで貴女はそんな余計なことを言うの!!
ジュンのケアは私がするから、あんたは何も言わないでさっさと帰るのかしら!!


「だからジュンは本当に大切な人のところへ行ってあげて。私は……」


「……知ってたよ」


「えっ?」


―――えっ?
ジュンの思わぬ答えに、思わず彼女と同時に声を上げてしまった。
慌てて口を塞いだが、どうやら私の声は雨音にかき消されて二人には聞こえなかったようだ。


「もうとっくに気付いてたんだよ、あいつの気持ちに.でもあいつは僕にとっては幼馴染で、それ以上じゃないんだ」


……知っていた?ジュンは水銀燈の思いに気付いていた?
それなのに彼は薔薇水晶を選んだ。それが意味するものは、つまり―――



―――ジュンは、本当に薔薇水晶を愛している―――



「僕が好きな女の子は薔薇水晶、君だけなんだ」


私のその考えを肯定するかのように、彼はそう口に出した。
信じたくなかった。
解りたくなかった。
耳にした言葉を認められなかった。
夢なら覚めて、と無言で叫んでいた。


「でも……でも……」


薔薇水晶はまだ口篭もっていた。
そんな彼女に、ジュンは優しく微笑みながら言った。


「僕は薔薇水晶が好きなんだ。薔薇水晶は僕が嫌いなのか?」


「わ、私も……ジュンが好き、ジュンが大好き!」


薔薇水晶はとても大きな声で叫んだ。
それと同時に、彼女の目尻に溜まっていた涙が溢れ出した。


「だったら…ずっと僕の側にいてください」


「……はい」


ジュンの言葉に、彼女は笑顔でそう答えた。
思いを受け入れた薔薇水晶を、ジュンはひしっと抱きしめた。
私専用になるの筈の、その領域が侵食されていく。
歯をギリッと強く噛み締める。
何故、何故なの。どうして!何でこんな事やっているの!
心の中でいくら叫んでも、声は出ない。
こんなもの、もう見たくないのに!!!


ジュンは薔薇水晶の目から零れ出た涙をそっと指で拭った。
そして、薔薇水晶の肩に手をかけた。
一瞬ビクッとなるも、すぐにトロンとした目で薔薇水晶は見つめ返す。
そして、段々と二人の距離が縮まって行き……


(いや、いやいやいやいやいやぁぁあああああああ!!)


その距離は、0になった。


………………………
…………………
……………
………
……



気が付くと、私は運動場の真ん中で立っていた。
周りに広がるのは漆黒の闇。
空に視線を向けると、土砂降りの雨が私の体を容赦なく叩いていた。
雨は、体を叩き、水滴となって流れ落ちる。
なぜか、今の私にはそれが、とても心地よく感じた。
すっかり遅くなっちゃったな。
みっちゃんが心配するといけないから、早く帰らないと。
私はずぶぬれの体を引き摺って、
雨音と言うとても綺麗な歌を聞きながら、
私は家路につくことにした。


……あれ?そういえば私、今まで何してたんだっけ?
なにかとても嫌なものを見たような……まあいっか。



続く


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