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 今日は、金糸雀の誕生日――


「金糸雀、お誕生日おめでとう」
「ハッピーバースデイなの!」


 パーン!
 一斉にクラッカーを鳴らして誕生日を祝う雛苺に蒼星石。


「ありがとうなのかしらー!うれしいのかしらー!」
 当の本人は嬉しくて、それこそはしゃぎまわる勢いだった。


 そこへ1台の軽トラックが到着する。
 降りてきたのは水銀燈。


「誕生日おめでとう」
「ありがとうなのかしらー!」
「そんな貴女にプレゼントよぉー。今から特製の砂糖入り卵焼きを作って、たらふく貴女にご馳走するわぁ」
「うれしいのかしらー……でも」
「何なのよ?」
「ここでなのかしらー?」
「そうよ。それがぁ?」


「こんな港の空き地でやるのかしらー?」


 金糸雀はおろおろしながらあたりを見回す。
 彼女の言うとおり、彼女がいる場所は港に近い広大な空き地だった。
 周囲には工場が立ち並び、煙突からは黒煙が上空に立ち上っている。
 おまけに海の方からは潮風が時折吹き込んでいた。

「そうよぉ。まあ今から見ていなさいって。さあ、貴方達も準備しなさぁい」
 水銀燈はそんな金糸雀の言葉は気にする様子も無く、蒼星石たちに動くように促す。
 そして、ライトバンから積み込んでいた荷物を取り出しに掛かる。


 数個の工業用の大型ガスバーナーに、LPガスのボンベ。


「な、なにするつもりなのかしらー?そんなの1個で十分なのかしらー?」
 ますますおろおろする金糸雀を横目に、平然と手際よくバーナーのセッティングにかかる水銀燈ら4人。


 そこに到着する1台の1BOXカー。
 降りてきたのは翠星石と真紅。


「ふぅ~、お誕生日おめでとうです。金糸雀」
「誕生日おめでとう……しかし今からあれをやるなんてたまらないのだわ」
 目をしょぼつかせながらもバンの収納部を開ける真紅。
「何言ってるですか。このためにわざわざ夜通しで運んできたですよ」
 同じく眠そうな様子でバンの中から次々とダンボール箱やら穀物袋やら1斗缶を運び出す翠星石。


 『名古屋コーチン特級卵』と書かれたダンボール箱。
 『奄美大島特級砂糖』と書かれた穀物袋。
 『山形米沢産特製べにばな油』と書かれた1斗缶。


「な……なにをするつもりなのかしら……?」
 ますます訳がわからなくなる金糸雀。
 1箱やら1袋やら1缶ではなく、10箱以上は出しているこの光景を目にしたら無理も無い。


「決まってるじゃないですか。卵焼きを作るのですよ」
 翠星石はさも当たり前のような顔をして答える。
「ちょっとぉ~。こっちも手伝ってくれない?」
 トラックから何かを取り出そうとしている水銀燈。
 金糸雀が訝しげに覗くと……およそ3メートル四方の鉄板。
 さすがに一人で運び出すのは辛そうなので、蒼星石と真紅と雛苺も加えて4人がかりで運び出して、バーナーの上に載せる。そしてさらに別の鉄板をも取り出して、縁となる部分をボルトで固定したりしている。
 挙句の果てには、トラックやバンから長さ2メートルはある巨大なしゃもじや、数個のズンドウを取り出したりしている。


「本当に……何するつもりなのかしら~?」
 さらに困惑する金糸雀。
「だからぁ~卵焼きを作るって言ってるでしょ?」
「こんな大量の材料や道具を持ち出すなんて訳がわからないのかしら」


「貴女の誕生日だから特製でいくのよぉ。1500人分」


「えーーーーーー!!」
 水銀燈の言葉におもわず失神しそうになる金糸雀であった。
 


「そういえば、薔薇水晶と雪華綺晶はまだ着いていないようね」
「もうすぐ着くって連絡があったわよぉ……あっ、来たわね」
 水銀燈の指さす先には、1台の大型トラック。
 荷台には建設用のリフターがついている。


 そして、その後ろに付いてくるのは――ビルの解体現場やスクラップ工場なんかで見かける解体用の重機。
 彼女らの横に停まり、それぞれの車の運転席から降りてくるのは雪華綺晶と薔薇水晶。


「お誕生日おめでとうございます。金糸雀」
「……ハッピーバースデー……」
 にこやかに祝いの言葉をかける2人。
「……」
 それに対して、金糸雀はもはや返す言葉を思いつけずひたすら黙っているだけだった。


「さて、こっちは準備万端よぉ」
 そうこうしているうちにバーナーに一斉に火を灯す水銀燈。
 炎が勢いよく吹き上がり、鉄板に当たる。
「さて、材料も準備しなきゃね」
 蒼星石がそう言うと、金糸雀を除く面々は卵を割ったり、砂糖の袋を破って中身をズンドウに入れる。
「……普通に作ればいいのかしら……」
 目の前の異様な光景に金糸雀はただ呆然とするだけであった。


 1時間後――
 全ての卵を割り終えて、材料を混ぜ終えると、材料の入ったズンドウや油の入った1斗缶をリフターに運び込む。
 そして、水銀燈と翠星石がリフターの上に乗りこむ。それを確認して雪華綺晶がリフターを操作して上昇させる。


「さあ、いくですぅ!」
 翠星石は1斗缶を手にして、鉄板めがけて油を流し込む……。


 バシャッ!


「な、何するのかしらー!!」
 油は鉄板の方ではなく、近くにいた金糸雀に直撃した。
「ごめんなさいですぅ。手元が狂っちまったです」
 ごまかし笑いをして、改めて鉄板に油を流し込む翠星石。
 みるみるうちに鉄板は油で満ちて、うっすらと白い煙が立ち昇る。


「さぁ、材料投入するわぁ!薔薇水晶、準備はいい?」
「……アイアイサー……」
 薔薇水晶は解体機に既に乗り込んでいて、アームの先についた鋏状の先で巨大なしゃもじを掴んでいた。
 それを確認して、水銀燈はズンドウの中身を鉄板に流し込む……。


 バシャッ!


「いい加減にするのかしらー!!」
 材料は鉄板ではなく……またもや近くにいた金糸雀に降りかかった。
 油まみれの体に砂糖入りの卵がもろにかかっていて、全身はベトベトだった。
 怒り心頭になるのも無理は無い状態である。
「ごめんなさぁい。手元が狂っちゃったぁ」
 ごまかし笑いでなんとかその場を切り抜けようとする水銀燈。
「食べ物を粗末にするのじゃないのかしらー!」
 金糸雀の怒りの声だけが周囲に響き渡った。


 改めて材料が鉄板に流し込まれる。
 ジュワッという音が立ち、みるみるうちに卵から無数の泡が沸きあがる。
 そして、ころあいを見計らって薔薇水晶がしゃもじで卵を丸め込みに掛かる。
 転がし方……というか、重機の操作自体は手馴れているらしく、失敗することも無くアームを動かしていく。卵もだんだん形になってきていた。
 焼き加減を見計らって、水銀燈と翠星石が次のズンドウの中身を鉄板にぶちまける。


「薔薇水晶、見事なのー」
「さすが、土建屋で3年バイトしていただけあるね」
「さすがだわ」
 感心して見とれている雛苺に蒼星石に真紅。


「……無茶苦茶すぎるかしらー……」
 当の本人はただ口をぽかんと開けて、目の前の光景をただ見ていた。


「……ようやくできあがり……」
 薔薇水晶は形になった――巨大な卵焼きをしゃもじで掬い上げると、鉄板の脇に敷いてあるシートの上にのせる。どさっという大きな音がした。


 見るからにふんわりとした卵焼き。
 白い湯気が立っていて、焼け焦げもあまりない。


 ただ、縦3メートル、横2メートル、高さ1メートルの代物だが。


 早速、雛苺がそこから一部を切り取って金糸雀に差し出す。
「召し上がれなのー!」


「……いただきますかしらー」
 卵焼きを口にする金糸雀。
 旨みは口の中にじんわりと広がって――
 皆はどきどきしながら金糸雀をただじっと見つめて――。


「うまいのかしらー……みんなありがとうなのかしらー……。
 でも……喜んでいいのか怒っていいのかわからないのかしら……」
 大きくため息をつく金糸雀であった。


 P.S.ちなみに、桜田家、柏葉家、柴崎家、結菱家、柿崎家、白崎家、桑田家、笹塚家、ベジータ一味およびみっちゃんの家の食事の献立は、この日より約1ヶ月間はずっと卵焼きだったというのは別の話。また、この企画の言い出しっぺは向こう3ヶ月間のヤクルト抜きを言い渡されたのも別の話。

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