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~文化祭§焦燥~

「おはようです。蒼星石」
 と、言う声とともに肩をポンと叩くと過剰反応する蒼星石の姿が。
「すすすす、翠星石!おはよう!」
 真っ赤になりながら吃るその姿に疑問を持ちつつものりに呼ばれ翠星石は去った。
 ――ったく。昨日、真紅が変なこと言うから意識しちゃうじゃないか。
 本番前日。
 ただならぬ緊張と共にクラスは一丸となって練習している。
 真紅率いる3-1は舞台と同じくらいの広さのベランダで通し練習をしようとしていた。
「音響、大道具、本番を想定してやるからね!照明は機械ないけど口で合図してね!」
 巴も性格が変わったように大声を張り上げる。
「ごめん、ちょっと待って!」
 と、廊下を走ってくる影が向かって来る途中に転んだ。
「みっちゃん!大丈夫かしら~」
「痛たたた。大丈夫よカナ」
 慌てて駆け寄る金糸雀の頭を撫でるみっちゃん。
「で、どうしたかしら?」
「あ、そうそう。シンデレラのボロ服が完成したから翠星石に試着と点検を…」
「じゃあ、悪いけど翠星石行ってちょうだい。点検が終わるまで皆、休憩!」
 巴は小さくため息を吐いてから、そう皆に伝えた。

「じゃあ、まずこれを羽織ってね」
 と、取り出したのは茶色のワンピースのようなもの。
「それで、この紐を引っ張れば脱げる仕掛けになってるわ」
 首元から垂れている紐を差しながらみっちゃんは言った。
「試しに引っ張ってみて」
 茶色の服を羽織った翠星石はクッ、と力を入れて紐を引っ張った。
 すると、茶色の服がスルリと落ちた。
「うまくいったわね」
「ですね」
 と、言って二人は笑いあった。
「1組さん、体育館練習の時間です」
 先生の呼びにきた声に巴は短く返事をして、皆を体育館に促した。

「じゃあ通し練習するわね。二時間しかないから気合い入れてね!」
 巴の声に皆は口を揃えて、はい!、と言い持ち場に向かった。
 総合監督の巴と演技指導ののりは観客席に。
 歌のときに伴奏をしなければいけないめぐはピアノの前に着いた。
「じゃあ幕閉めて!音響のBGMから入るからね」
 幕が電子的な音とともに閉まる。
 完全に閉まってから数秒後、最初の場面のBGMが流れだした――。

「音がときどき遅れてるわ。スタートを押してから何秒後に曲が始まるかちゃんと考えてね。この前測ったでしょ?照明の追う方のスポット、途中で幕にかからないようにして、止むを得ない場合はいいけど。何か冷めてしまうから」
「大道具を運ぶときの足音と雑音、聞こえなくなるくらい押さえて。白けてしまうから」
「カナちゃん、喋るときに両手をパタパタさせるのをやめるか、もっと大きくするかね。後、皆ね、全体的に喋ってるんじゃなくて叫んでるって感じだから、もっとお腹から声だして」
 それぞれの班長が各自に注意をする。
 巴が時計を見る――後、一時間弱だ。
「さ、もう一回通しましょ。今、言われたコトを注意してやってね!」
 その声を聞いて、皆が持ち場につく。そして再び、BGMが流れた。


『ありがとうございましたー!』
「1組さん、時間です」
 最後のカーテンコールまでを通し、ちょうどタイムリミットが来た。
 作品はほぼ完成に近いものにできあがっていた。
 時計は7時、2分前。
 練習も終わりを告げようとしていた。
「みんな、今日まで良く頑張りました。明日がいよいよ本番です…」
 巴の声に皆はシーンとして聞き入っていた。
「明日は悔いの残らないように頑張りましょう!」
 オー、と女子校ならぬ気合いの入った声が体育館を木霊した。

「蒼星石…」
 翠星石がおずおずと言った感じで蒼星石に話し掛ける。
「どうしたの?」
「いや、えと…あの」
 ――やっぱ聞けないです!
 翠星石は蒼星石に「終わったらめぐに呼び出されているのか」と問いたかった。
 ――もし、もう呼び出されているなら何故、翠星石が知ってるのか、って事になってしまうです。もし、まだ呼び出されていないなら勝手にめぐの気持ちを伝えてしまうことになるです!


「何でもないですぅ…」
 結局あきらめた翠星石に対して、変なの、と蒼星石は微笑んだ。
「ねぇ、蒼星石。明日、話があるんだけど劇が終わった後、良い?」
 ビクッ、と翠星石の肩が揺れる。
 声をかけてきたのがめぐだったからだ。
「え、いいけど。今じゃダメなの?」
「うん、できれば明日がいいの」
「分かったよ。じゃあね」
「ばいばーい」
「ばいばい…ですぅ」

 ――こういう時、姉妹は不利です。
 本当は今すぐにでも泣きだしたいのに、同じ屋根の下、というのは本当に不利である。
 一抹の不安を抱えながらも日は昇る。

「水銀燈、貴女、翠星石に何か言った?」
「えぇ?別にぃ」
「何を考えてるの?」
「私は二人に幸せになってほしいだけよ」
「それは同感だわ」

文化祭はいよいよ明日。
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