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今日は地域の夏祭り。
この夏祭りは、地域の夏祭りとしては結構大きなもので同時に花火大会なんかも開催されたりする。
で、僕はそんな夏祭りの中、紺色の浴衣を身につけ、待ち合わせ場所で翠星石を待っているところだ。
同じ家に住んでいるのに何故外で待ち合わせているのか、それは翠星石が外で待ち合わせたほうがデートという感じがする
と言ったからであって――そのような事を思い出し、僕は赤面する。
翠星石と僕は、要はこの前から付き合っているというか恋人同士であるというか、とにかくそれまでの双子の姉妹という関係から
一歩先の関係を築いている訳だけど……どうにも恋人同士とかいうと照れてしまって中々素直に自分を表現できない。
そのせいか最近翠星石との関係が少しぎくしゃくしてしまっている。
今日は折角のデート――やはり改めて意識すると照れる――なのだからその様な関係が少しでも改善できたらいいな、
とそんなことを考えていたら、翠星石が小走りでやってきた。

「お待たせですぅ!」
「……」
「? どうしたですか?」
「いや、な、なんでもないよ!」

久しぶりに見る翠星石の浴衣姿。いつの間に新しいものを買ったのだろうか、見たことのない可愛らしい抹茶色の浴衣だ。
それを身にまとった翠星石があまりにも可愛くて、僕は思わず言葉を失ってしまった。
よく見るとうっすらと化粧をしている。僕のために、可愛く着飾ってきてくれたのかと思うと凄く嬉しい。
と同時に自分でも顔が火照ってくるのが分かる。もう辺りはそれなりに暗いし、翠星石には気づかれていないとは思うけど。




蒼星石の顔がこの薄暗がりの中でも分かるくらい真っ赤になっている。私の浴衣姿を見て可愛いと思ってくれたのだろうか。
そうだったら気合を入れてきた甲斐があるというものだ。今日の私は普段以上に気合が入っている。
何故ならばこのデートは恋人同士になってから、学校の帰り道に寄ったりする喫茶店を除けば初デートな訳で。
また、最近どうにもぎくしゃくしている関係をこのデートでより進んだ関係の物に改善したいとも思っている。
そのために色々作戦も考えてきた。そんな私はもしかしたら金糸雀よりも策士なのかもしれない。

「じゃあ、とりあえず行くですか」
「……」
「もう、ホントどうしたですか?具合でも悪いですか?」
「……そうじゃなくって、その……今日の翠星石、凄く可愛いね」

未だ顔を真っ赤にして黙り込んでいる蒼星石を心配して声をかけてみると、突然の不意打ち。
私の頬も赤に染まる。いや、勿論それを狙って可愛くしてきているのだけれど、素直にそう言われてしまうと照れる。

「な、何いってやがるですか!……翠星石が可愛いのは当然なんですから、あまりそんなこと言うなです」
「ご、ごめん、でも本当に可愛かったから」

本当は可愛いって言われて凄く嬉しくてもっと言ってほしいのについ天邪鬼になってしまう。
私はそんな自分の性格があまり好きではない。でも、こんな私でも好きといってくれる蒼星石がいるから。
私は私のままで居続ける事が出来るのだと思う。
そして、あまりその様な事を言うなと言っている傍から可愛いと言ってくれる蒼星石。
そんな蒼星石が私は大好きだ。

「わ、分かったですから!……照れるからやめろです」
「ん、分かった。じゃ、行こうか」

そして僕らは歩き始める。周りにいる男の人たちがちらちらと翠星石を見ているのが分かる。その気持ちはよく分かる。
普段から可愛いけれど、今日の翠星石は更に可愛い。周りに牽制の視線を送るけれど全く効果がなさそうだ。
心の中でため息をつく。そんなとき、翠星石の細い手が目に入った。昔はよく握った翠星石の手。
彼女への恋心を意識してからは中々自然に握れなくなってしまった。
今は恋人同士なのだし別に握っても不自然ではないのだが、やはり照れが優先して恋人になってからこれまでも握ったことがなかった。
人も多いし、はぐれない様に今なら握ってもいいかなと思いながら翠星石の白い手に手を伸ばしかける。

「ねぇ、彼女。俺と一緒に祭り回らない?奢るからさ」

周りにいた男の人の一人が翠星石に声をかけてきた。出しかけていた手を思わず引っ込め、男の人を睨み付ける。

「お断りです。私にはもう恋人がいるですから」
「どこに?今、女の子だけで歩いてるじゃない。本当はいないんでしょ?」
「ここに」

そう言いながら翠星石が僕の手を取る。男の人を全身全霊で睨み付けていた僕は突然のことにびっくりしてしまった。

「この子が私の恋人です。お前なんかお呼びじゃないです」
「お、お前ら女同士じゃないかよ……」
「関係ねーです。私とこの子はお互い好き合っているんですから。ね、蒼星石」


僕は驚いていた。翠星石が僕との関係を自ら他人に言うなんて。
今までの僕らはどちらかといえばあまり周囲の人にそれを知られたがっていなかったように思う。
僕と翠星石が恋人である事実を知っているのといえば、学校で親しい友人である真紅たちくらいのものだ。
女同士、しかも双子の姉妹で付き合っているということに後ろめたさを感じていなかったといえば嘘になる。
恐らくそれも関係がぎくしゃくしていたことの一端であろう。
でも、翠星石がこのことを他人に言ってもいいと思っているのなら、僕も……。

「そうだよ、僕と彼女は付き合っているんだ。しかも今はデート中。邪魔をするなんて野暮なことはしないで欲しいな。
行こう、翠星石」

そう言いながら握られていた手を握り返し、僕は彼女の手を引いて歩き出した。
男の人は呆然とそこに取り残されているようだ。まあ彼が驚くのも当然といったら当然かもしれない。
翠星石みたいな可愛い女の子が僕のような男の子っぽい女と付き合っているのだから。
正直、翠星石は僕みたいなのには勿体無い女の子だ。彼女と僕ではつりあうのだろうかと不安に思ったこともある。
でも翠星石は僕のことが好きだと言ってくれるし、僕も翠星石のことが大好きだ。だから、それで十分なんだ。

「翠星石」
「何ですか?」
「好きって言ってくれて有難う」
「どういたしましてですぅ。蒼星石もありがとです」

見知らぬ男に声をかけられた時に感じたのは、最初は怖いという感覚だった。
私には人見知りの気がある。知らない人、特に異性と話す時は緊張する。
しかし次に感じたのは怒りにも似た感情だった。
折角蒼星石との初デートを楽しもうというのに、この男は何を邪魔しようというのだろう。
そのような思いが全身を駆け巡り、思わず行動に移していた。
いつの間にか普段は照れてしまって握れない蒼星石の手を握り、男に蒼星石との関係を言っていた。
今までの私なら有り得ないことだったろう。でも今日は何故か。
そう、もしかしたら蒼星石に可愛いと言われたからかもしれない。
いつもより大胆になれた。いつもより強くなれた気がした。
昔、漫画で「恋をすると無敵になれる☆」みたいなフレーズを読んだことがあった。
読んだときは馬鹿にしていたが、今思うと強ちそれも嘘でないのかもしれない。
蒼星石が私の傍に居てくれれば、私は何だって出来る。そんな気がする。
蒼星石に対して、だけはやはり照れが優先してしまうが、蒼星石のためだったら私は――。
お互い、他人に自分たちは付き合っていると公言し、自分たちの関係を認めたためか、心なしかこれまでより
私たちの間に流れる空気がぎこちないものから自然なものになった気がする。
これなら、私が考えていた作戦も自然に実行できそうだ。

「とりあえず、何か食べたいものとかある?」
「り、りんご飴とかどうですか?」
「いいね、じゃ、買ってくるよ」
「あ、翠星石はダイエット中だから一本を二人で分けるですよ!」
「ん、わかったー」


緊張して少し口が上手く回らなかった。前々から考えていた台詞だというのに情けない。
私が考えていた作戦、それはこのデート中に蒼星石とキスをすること。
恥ずかしい話、私と蒼星石は幼少時に冗談でしていたキスは別として、付き合ってから一度もキスをしたことがなかった。
それは多分お互いが物凄い照れ屋だからだと思うのだが、やはり相手のことが好きなのだから触れたいなと思う欲求はあるわけで。
何度かそのようなふいんきになったことはあったのだが、お互い真っ赤になってしまってそれ以上は出来なかった。
というか今日まで手を繋ぐことすら恥ずかしくて出来なかったのに、それ以上なんて出来るはずもない。
今日こそ蒼星石とキスをする、そう心の中で気合を入れなおしたところで蒼星石が小走りに帰ってきた。

「はい、りんご飴」
「あ、ありがとですぅ」

にっこりと笑いながらりんご飴を渡してくる蒼星石に思わず真っ赤になってしまう。
今は蒼星石はかなり自然に接してきてくれているというのに、自分だけやけに意識してしまい照れているのがもどかしい。
一先ず、渡されたりんご飴を一口舐める。程よい甘さが美味しい。ふと見ると蒼星石がにこにこと私を見つめている。

「何じっと見てるですか」
「や、美味しそうに食べてるなぁって思って」
「そ、蒼星石も食べてみるですよ」

これこそが私の狙い。蒼星石とキスをするには、先ずは間接キスから。
いきなりキスというとやはり照れてしまう、だから間接キスから慣らしていこう、そういう考えだ。
間接キスなんて普段からいくらでもしているとは思うけど、意識してやるのとではやはり全然違う。
心臓がドキドキ早鐘を打っている。
有難うと言いながら、蒼星石がりんご飴を受け取る。つい、蒼星石の唇を眺めてしまう。
柔らかそうな唇、あれが私の唇に……。
そんな想像をしていたら顔が火照ってきた。
顔をパチパチ叩いて火照りを冷まそうとしていると、気づいたらすぐ目の前に心配そうに覗き込んでいる蒼星石の顔。
余計に顔が火照ってくる。

「大丈夫、翠星石?なんか顔赤いけど」
「何でもないですぅ!ちょっと人ごみが多くて暑いだけです!」

照れ隠しに大きな声で叫んでしまう。
蒼星石が持っているりんご飴に視線を移すと、どうやら蒼星石は私が食べた箇所を更に食べたらしい。
ということは、間接キスは成功ということで、後は私がそこを食べればお互いに……。
私の視線に気づいたのか、蒼星石がりんご飴を渡してくる。
それを受け取ろうとして、よほど動揺していたのか私はりんご飴を落としてしまった。

「あ、ごめん!新しいの買ってくるね!」
「べ、別にいいですよぅ!それに落としたのは翠星石ですから、蒼星石が謝る必要ないです……」

心なしか翠星石は気落ちしているように見える。
そんなにりんご飴が好きだったのだろうか。
いや、さっき人ごみが多くて暑いと言っていたし、顔も赤いし、人ごみに酔って具合が悪いのかもしれない。
確かに結構大きな規模である性か出てきている人も多い。そこで、僕は翠星石にこう提案した。

「ねぇ、翠星石。ここより少し出店は少なくなっちゃうけど、もう少し人気のないところに行かない?ここ、暑いしさ」
「い、いいですよ。蒼星石が行きたいって言うのなら地の果てまでついていってやるです」

人気のないところと聞いて一瞬何かを期待してしまった自分が恥ずかしい。
蒼星石の表情を見て彼女はその様なことを考えているのではないと一発で分かった。
そこにあったのは私を心配しているときにみせる表情。
そんなときいつも彼女は自分のことにかこつけて、私のためを思って行動してくれる。
そのようなさりげない気遣いがとても嬉しい。
私とてその気遣いに気がついていないわけではないが、その様な肝心なことでは天邪鬼な性格が災いして素直にお礼が言えない。
そんな自分がとてももどかしい。

翠星石の手を引き、地元の神社の境内までやってきた。
ここなら比較的出店も出ているが、神聖な場所の性かあまりお祭り騒ぎをするような人もいなく、比較的静かで人ごみもまばらだ。
偶々空いていたベンチに翠星石を腰掛けさせる。その顔はまだ少し赤い。

「翠星石、ちょっとここで座って待ってて!」
「え、蒼星石、何処行くですか……ってもう行っちゃったです」

私は金糸雀並みのアホ策士かも知れない。
折角蒼星石と間接キスが出来そうだったのに、みすみすそのチャンスを逃してしまうなんて。
このままではキスなんて夢のまた夢だ。知らず知らずのうちにため息をつく。
そんなとき突然頬にひやりとした感覚。
驚いて後ろを振り向くと、そこにはラムネを私の頬に押し当てて肩で息をしている蒼星石がいた。

「翠星石、はいこれ。冷たい飲み物飲むと少しは涼しくなると思うよ」
「ありがとです……でも蒼星石が先に飲むです」

何処に行ったのかと思ったら私のためにラムネを急いで買ってきてくれたというのか。
急いでくれたというのは蒼星石の額から流れる汗と荒い呼吸で分かる。
私はそんな蒼星石にラムネをそのまま返した。
私の隣に腰掛け、ラムネを一口飲んだ後、蒼星石は私に再びラムネを渡してきた。
私も今度は素直に受け取り、飲む。ラムネの味が口いっぱいに広がる。
と同時に微かに蒼星石の香りも漂ってくる。
何故だろうと考えた瞬間思い当たり、それを思わず口に出してしまっていた。

「これって、間接キスですよね……」
「あう!そ、そういえば確かに……」

僕としては全くその様なことは意識していなかったのだけれど。
気づいてしまうと、物凄く恥ずかしいことのように思える。お互い真っ赤になって黙り込んでしまう。
そのまましばらく時間が流れて――こてんと翠星石が頭を僕の肩に預けてきた。

「す、翠星石?」
「蒼星石は翠星石と間接キスして嫌だったですか?」
「嫌なわけないよ!ただちょっと恥ずかしいというかなんというか……」
「翠星石は蒼星石が大好きです。だからもっと蒼星石に触れたいのです」
「……僕もだよ。手を繋いだり、後……キス……とかも」

最後の方は尻すぼみになってしまったが、ちゃんと僕の気持ちを翠星石に伝えられた。
僕だって、好きな人には触れたい。キスだって出来るものならしたい。
恥ずかしくて普段は上手くいかないけれど、今なら出来る気がする。そう思う僕の手を翠星石がきゅっと握る。

「蒼星石、愛してるです」
「僕も愛してる、翠星石」

どちらからともなく顔が近づき、背後で花火が打ちあがり歓声が上がる中、僕と翠星石の――私と蒼星石の――唇が重なった。

終わり
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