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無機の空間、手に掬いあげようとも何も零れぬその虚無。
黒く、果て無き奈落に浮かぶ数多の星々は人という存在を超えた超質量の塊、
生命を創造し、そして滅ぼす神にも似た力の顕現。
だがそれさえもこの全てを呑み込む黒の中では無限に希薄だ。
想いも、願いも、魂も、記憶も、智慧も、存在さえもこの空間では儚く矮小である。
遍く存在はいつか死に絶え絶滅する、この無限に等しい虚無においては。
闇は光を呑み込み、光は抗うすべを持たず消え行く。
その、意志さえも感じられるその闇の中を、二つの閃光が切り裂くように
激しくぶつかり合っていた。
衝突が産み出すエネルギーは兇暴にして暴虐、完全の無音空間に歪を起こし
その捩れの反発は超新星爆発にも匹敵する大爆発を起こす。
閃光は尚もぶつかり合う。
交差した光は円を描き、軌道を補正、再びぶつかり合う。
衝突。
反発するように対角線上、逆方向へと。
軌道補正、閃光の帯が∞(インフィニティ)を描く。
衝突。
無音空間に響き渡る超絶な破壊の振動。
それは破壊の戯曲。
破壊、破壊、破壊――それは互いを否定する拒絶の連鎖。
虚空の闇を刹那の星星が瞬く。


不意に衝突は止み閃光は収束する。
その中から生まれ出たのは二体の巨人。
一つは紅、もう一つは白。
揺らめき、触れる全てを焼き尽くす、轟々と焔える憎悪の紅。
全てを凍てつかせ、生命を絶対静止の檻へと封じる嘲笑の白。
二体は互いを牽制するようにその双眸を相手に向ける。
静寂、音も温度も原初から存在しない空間、死に絶えた世界の中で二体は向かい合う。
星の海は遙か遠く瞬き、生と死が転換しあう。
それはこの宇宙における絶対の法則。
変質する事のない、完全不変の論理。
しかし、その世界を構成する絶対は今この瞬間においては意味を成さなかった。
揺らぐ、空間が揺らぐ。
闇が捩れ、捩れ、捩れる。
奇怪な虹色が闇に色を添える。
二体の巨人によって世界が創造(つくり)変えられる。
めまぐるしい速度で世界の式が書き換えられ、法則が瓦解する。
新たな法則で展開される世界がこの場に異界を形成していた。
それは血戦場であり、決戦場、決闘場であり処刑場。
宇宙が変質する。


――そして、刻が、動く。
紅の一閃、白の一閃、宇宙の黒を裂く二閃は交差し宇宙に響くはずのない
爆音を轟かせた。
極彩色の虹色が世界を染め、消える。
光が死に、音が死に、世界が再度静寂という死に包まれる。
重力のない世界に浮かぶ破片群。
それは巨人の装甲、流れ出した水銀(アゾート)の血が不定形の球になり漂う。
圧し折れ、人体にも似た内部骨格を露にする紅。
千切られ、臓腑と思しき配管を虚空に漂わせる白。
しかしその破壊も次の瞬間には修復され元通りに。
そして修復するや否やまたも二体は破壊をぶつけ合う。
紅の右脚が紫電を迸らせ白の左腕を引きちぎる。
白の右腕が氷霧を従え紅の頭部半分を抉り取る。
爆砕、水銀の血がまたも無重力空間に撒き散らされる。
破壊の衝撃は両機を正対称の位置へと弾き飛ばす。
再び同位置、既に修復された機体、その手に無数の魔術文字が集結する。
紅が燃える、その焔の中からステッキに似た偃月刀が顕現する。
白が凍結する、その絶対静寂の白色から金色の十字架が顕現する。
それを互いが手にする。
斬―――切り結ぶには余りにも程遠い距離、二体は相手を『斬り付けた』。
視認不可の一撃、破壊の言葉を編まれた術が相手を捕らえた。
紅の肩から腰までが袈裟に裂かれる。
白の上半身と下半身が分かたれる。


しかし次の瞬間には無から配管、発条、鉄骨、鋼線、導線が無から現われ
組み合わされ機体を元の形に戻す。
衝突と破壊は繰り返される。
十字架は弓へ、偃月刀は二挺拳銃へ。
銃哮(バレッツ)と弓撃(シューティング)が交差する。
二挺拳銃は偃月刀へ、弓は十字架へ。
斬撃と斬撃が喰らい逢う。
それは修復と破壊の連鎖と螺旋。
抉れた装甲が修復され、脚が破壊され、腕が修復され、胴が破壊される。
修復、破壊、修復、破壊、修復、破壊、修復、破壊、修復、破壊、修復、破壊。
修復、破壊、破壊、破壊、修復、破壊破壊、修復、破壊、破壊、破壊破壊破壊。
修復修復、修復、破壊、破壊、破壊破壊破壊修復修復破壊破壊修復、破壊、修復
破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊
修復修復破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊修復修復
破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊破壊修復破壊破壊
繰り、返される、破壊、と、修、復。
千日手、そうに呼ぶが相応しい拮抗状態。
互いの手が次の瞬間には読まれ、読み返される。
膠着する戦い、ならば。

どこかで夜鷹(ウイップアーウィル)が喚いた


それは終焉の始まりを告げる鐘だった。
それを知覚し、認識し、二体は結末への血路へ踏み出す。
二体から溢れる暴虐、厖大な魔術の奔流、乱流。
魔術文字が二体を包み、装甲に浮かぶ紋様が光り輝いた。
脈打つ、脈打つ、心臓が全身へ血を送るように魔力が全身を駆け巡る。
星の海さえも呑み込まんとするその輝きは遂には爆砕。
疾走、巨人は閃光に成った。
無重力の空間を音速、光速を超えた超破壊の光が疾る。
紅の右腕に超高密度の情報――『魔術』の構築体が形成される。
白の左腕に超高密度の情報――『魔術』の構築体が形成される。
終わりの始まり、始まりの終わり、終幕の開幕、開幕の終幕。
超高熱によって巨人を覆う装甲が溶け、剥がれ、落ちる。
その内部、機械の骨格と内臓をさらけ出して両機は更に加速する。
光を超え、もはや人外の領域へ。
星気領域(アストラルサイド)でのみ認知できる空間へと移行(シフト)。
宇宙的知覚領域で認識される血闘場が二体の間に構築される。
それは禍々しく、また、神々しく。
互いの最後を、決闘の結末を迎えるに相応しい場所へと組み立てる。
それは原子の大きさほどしかない無限の広さを持つ球形をした直方体の複合体。
その血闘場にて二体は駆ける。
突き出された腕だったもの、もう腕とも呼べないそれが槍のように
相手に突き出される。
人智の領域を超えた、時間も空間も凌駕したその場所で二体が相手を
討ち滅ぼさんと、相手へ必滅を誓う。

衝突



一瞬にも満たない世界と世界をつなぐその瞬間、超高密度の情報は
互いの身体を捕らえた。
更にその一瞬にも満たないその次の静寂の後、二体の巨人は
その超高密度の情報に飲み込まれた。
超爆発、七色の極彩色の闇と光が宇宙を呑み込む。
途方もない距離にわたり破壊は全てを呑み込み消滅せしめる。
ある星は一瞬にして蒸発、またある星は原子以下の領域に砕かれる。
別の星は物理法則を超えた静止の世界のもとに凍結しそのまた別の星は
この次元からはじき出され狂気の世界へ落ちた。
破壊は余りにも凄まじく無限質量の破壊は時空をも切り裂いた。
切り裂かれた時空に七色の極彩色の闇と光と宇宙が飲み込まれる。
ブラックホール、暴食の現象に七色の光と闇が飲み込まれていく。
そして破壊され残骸となった二体の巨人もその中へ。
ふと、その爆ぜ、沸騰し、解け、剥がれ落ちたコクピットに一人の
男の姿が現われた。
操縦者であろうその男は全身から夥しい血を流しただ死へ刻一刻と近づく
その肉体を押し、焼け爛れ肉の塊になりつつあるその腕で五芒の印を結んだ。
開く白の巨人のコクピット、その中から男が現われる。
微笑みながら男は手を広げそれを待ち受ける。
全てを受け止める母の愛を持って。
その愛は純粋ゆえに悪に等しい。

そして


宇宙、深淵の闇、死に絶えた無音の空間。
残骸の形もそこにはなく、ただただ無が拡がっていた。
何もなかったかのように宇宙はその闇の口を開けていた。
そこに一人の道化が立っている。
その一部始終を見届け、愉悦に浸る道化が立っている。
兎の仮面を被った道化は踊る。
無音空間に響くはずのないその世界に道化の歌声が響く。
悪意と嘲笑に満ちた歓喜の歌声を響かせる。
無知蒙昧なる主を嘲笑うように兎の面がカタカタと揺れる。
闇よりも深い闇で道化が謳っている。
哄笑を響かせ、悪意を孕ませて。



機巧励起ローゼンメイデン―DEUS MACHINA ROZEN MAIDEN―





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