体は子供、頭脳は(ry 第五話

深夜午前二十五時。帰せない帰しはしないから・・・
というよりは帰ってもらえないジュンの今日この頃。
さて、こんな時間なのに彼の目はギラギラしていた。
(耐えろ!負けるな僕!)
所謂抱き枕にされたジュンは背中に意識を向けないように自分と戦っていた。
それでもやはり生物学的には♂として生まれてきたわけで、
意識すると真紅の穏やかな寝息、さらさらのブロンドから漂うシャンプーの甘い芳香。
(って・・・意識するな!)
実に律儀な男である。

ジュンの内部での闘争中、不意に真紅の声がした。
「んんっ・・・ジュン、大丈夫よ・・・。小さくなっても、ジュンはジュンなのだわ・・・」
「しっ・・・真紅・・・」
思わず呟いてしまったジュン。しかし、どうやら真紅は夢を見ているようだ。返事が来ない。
「私が面倒見てあげるわ・・・気にしないで。紅茶の・・・お礼・・・よ」
そう言うと寝言は途絶え、真紅は再び穏やかな寝息を立て始めた。
「僕、ばっかみたい」
そうだ、何も真紅は変な意味で抱きしめてるんじゃない。
本当に、本当にジュンのことが心配で仕方がないだけだ。
「ありがと・・・真紅」
そう言うと、ジュンはまた眠りへと落ちていった。

「ふっ・・不潔ですぅ~!」
ジュンは寝起きの不機嫌な思考で声を分析した。
翠星石のものだ。そう結論づけて半目を開き、声がしたほうを見る。
「まさか・・・まさかもう手を出すとは思わなかったですぅ・・・」
ひどく落胆しているみたいだ。
「おはよう」
「おはよう・・・ってちげーですぅ!何やってやがるですかぁ!」
(ああ、そうだ。昨夜は真紅に抱きつかれて・・・って)
そうだ、自分たちの今の状況は贔屓目に見てもあまり思わしいとは言えなかった。
「違うんだ!翠星石、それは誤解で・・・」
「ああ、真紅もついに女になったんですぅ・・・」
「なってない、なってないから!」
「ああ、お赤飯炊かなきゃですぅ・・・」
何か勘違いが突き抜けてしまった翠星石は放っておいて、ジュンは真紅から離れる。
すると真紅が起きた。眠たげな目を擦り擦り言う。
「昨夜は良かったのだわ。ジュンも腕だけは落ちてないのね・・・」
ジュンと翠星石は一瞬心停止、のちに呼吸停止、止めは思考停止。
両手を顔に当て、恥ずかしそうに頬を朱に染め顔を振る真紅。
「本気でそういうこと言うなよ!誤解されちゃうだろ!」
一足先に立ち直ったジュンが突っ込みを入れると、真紅は不貞腐れて、
「冗談なのだわ。そんなに怒らなくてもいいじゃない」
口をパクパクさせていた翠星石も呼吸を取り戻すと、
「そうだ、ご飯ができたんですぅ。さっさと食っちまうですぅ」

いつもの朝食なのだが、やはり人が多いと味も少しは変わる。
パンとコーヒーと目玉焼き。なんて洗練されたメニューなのだろうか。
ジュンは一口食べる。ああ、作ってもらったご飯って、どうしてこんなにおいしいのだろうか。
「これ、誰が作ったの?」
「僕だけど・・・美味しくなかった?」
蒼星石が心配そうに聞いてきた。
「いや、すっごく美味しくてさぁ。蒼星石はいい奥さんになれるね」
ジュンが慌てて否定すると、蒼星石は顔に笑みを浮かべ、
「じゃあ、ジュン君がもらってくれる?」
「いや・・・えっと・・・その・・・」
「ダメですぅ、ジュンは翠星石のですぅ!」
「ちっがうわよぉ!わたしのよぉ!」
「もう私とジュンは、一夜を共に過ごした仲なのだわっ!」
ジュンの頭の中に浮かび上がる既視感。
このままじゃ、痛い思いをすることになる・・・。ということで、話を無理やり変える。
「ところで、今日の予定はどうなってんの?」
「あ、そうそう。私が病院につれてってあげるわよぉ」
水銀橙が答えた。争いは何とか発展しなかった。
「病院ってどこですぅ?」
「あの、国立の病院よぉ。有名な外科医さんがいるのぉ」
「ふーん。水銀橙、学校サボるの?」
「別にいいわぁ。一日くらいどうってことないものぉ」
「じゃあ、いいですぅ。翠星石たちは学校行ってくるですぅ」
「片づけをよろしくね、水銀橙」
「じゃあ、行ってくるのだわ」
そういって三人は学校へ向かった。

運命の歯車は、修正が効くのかもしれない・・・。

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最終更新:2006年06月18日 11:00