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~文化祭§依存~

「もう、七時ね――みんな、今日はここまでにするのだわ」
 時計を見た真紅はクラスメイトに声をかけた。
 本番二日前。
 高まる緊張感はごまかしようもなくて今更ながら不安が募る。
 明日、本番一日前は朝から夜まで練習が許されている。
「みんな、明日は休まないで時間どおりに来てください」
 終われる時間から逃げるように生徒は片付けを行う。
「んねぇ、蒼星石ぃ。ちょっと翠星石を借りても良ぃい?」
 水銀燈は片付けをしている蒼星石と翠星石に声をかけた。

「水銀燈、聞く相手が違うでしょ?僕じゃなくて翠星石に聞いてよ」
「それもそうねぇ…どう?翠星石」
「何時くらいになるですか?あまり遅いのは嫌です」
「今日は泊まって行けばいいじゃなぁい。どうせ明日は服、自由だしぃ。私が貸してあげるわぁ」
「えぇ!?そ、そんなの、蒼星石が悲しむです!」
 水銀燈の突拍子もない提案に、翠星石は感嘆の声をあげる。
「あらぁ、蒼星石だって子供じゃないものぉ。淋しくないでしょぉ?…どうしてもって言うなら真紅を貸してあげるわぁ」
 ぴとっ、と水銀燈は真紅にくっつきながら言う。
「私は、物じゃないのだわ」
 ふぅ、とため息をつきながら真紅は言った。
「じゃあ行くのだわ、蒼星石」
「えっ?」
 真紅の予想もしなかった発言に蒼星石は疑問の声を発した。
「翠星石は水銀燈と家に泊まるのだわ。私は貴女の所に行くしかないじゃないの」
 淡々と述べられる言葉は有無を言わせぬ言葉で、蒼星石はただ、従うしかなかった。

「んで、水銀燈は何の用事で翠星石を呼んだですか?」
 香のよいダージリンティを出されながら翠星石は問う。
「んー?翠星石って蒼星石のコト、好きでしょ?」
 ブッ、と口に含んだ紅茶を吐き出してしまう翠星石。
「やぁね、汚い」
「す、す、水銀燈が変なことを言ったからですぅ!」
 顔を真っ赤にしながら翠星石は水銀燈に食ってかかる。
「違うの?」
「……………好きです」
 長い間の後、消え入りそうな小さな声で、翠星石は呟いた。
「告白しなぁいのぉ?」
 水銀燈の問いに翠星石はただ、首を横に振る。
「所詮、双子…血の繋がった姉妹です。望みは…ないのです」
 自虐的に、自分に言い聞かせるように翠星石は呟いた。
「良いこと教えてあげよっかぁ?」
 何かを企んだ笑みで水銀燈は言う。
「何ですか?」
「めぐ。彼女ね、本番が終わったら、蒼星石に告白するんですってぇ」
 ぴくっ、と一瞬、翠星石の顔が歪む。
「そ…そうですか…」
 動揺と、不安の入り交じった声が発せられる。
「どうするのぉ?」
 水銀燈の問いに翠星石は固まったまま動けなかった。

「悪いわね、蒼星石」
「いいよ。ゆっくり寛いでよ」
 カバンを置いて蒼星石は言った。
「何か飲むかい?…っと、君は紅茶かい?」
「えぇ。いただくわ」
 台所に立って紅茶を入れている蒼星石が見える。
「水銀燈って、翠星石に何の用事だったんだろう」
「気になる?」
 独り言のように呟いた蒼星石に真紅はそう返した。
「気になる…ていうか、」
 紅茶を真紅に差出しながら蒼星石は続ける。
「ただ何だろう、と思って」
「そう…」
 と、真紅は一言だけ呟いて、紅茶に口をつける。
「あっ!」
「…どうしたの?」
 紅茶を飲んでいた蒼星石が小さく叫んだ。
「…今日の晩ご飯どうしよう。僕、料理は得意じゃないから…」
 不安げに言う蒼星石に少しだけため息を吐いて、真紅は、私が作るわ、と言った。

「貴女、かなり翠星石に依存してるようね」
 真紅お手製のハンバーグを頬張ってる最中に、真紅が呟いた。
「…ぼ、僕が!?」
「えぇ。さっき、私が料理してる時、すごくキョロキョロしてたわ。翠星石を探してたんじゃなくて?」
「そ…それだけ?」
「いいえ、その前も帰って来た時、無意識の内に翠星石の机を眺めていたわ。それにずっと携帯をチェックしてる」
 無言で真紅を見つめ続ける蒼星石。
「今まで翠星石の方が貴女に依存してると思ってたけれどどうやら違ったようね。…逆だわ」
 ついに下を向いてしまった蒼星石に聞こえないようにため息を吐く。
 ――僕にとって翠星石は大事な姉で、片割れで。それだけ…
 それだけ?…本当に?
「さ、食べましょ。冷めちゃうわ」


文化祭は、明後日
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