蒼星石短編16
学校帰りにちょっと寄り道。公園のベンチで今日の会話を振り返る。あぁ、あの時はこう言ってればよかったなぁ、なんて、一人反省会をひらいてみたりして。僕の世界の真ん中は常にあなたで、僕はぐるぐる振り回されています。どうにかして、一緒に真ん中に立てるといいのにな。立ち上がって、歩き出す。公園を出たら、電話してみようかな。そう思った途端に歩幅が狭くなって、苦笑い。ゆっくり時間をかけてやっと目標地点。公園の出口で、携帯電話を取り出す。開く。ボタンを押す。…閉じる。「やっぱり家に着いてからにしよう」そう決めた途端に足は遠回りしようとする。また苦笑い。あぁ、臆病な僕は、今日もあなたが大好きです。オハリ
蒼「ジュン君、心理って何?」J「心・・・理・・・?」蒼「うん、姉さんが心理学は、ジュンが一番物知りだ、って言ってたから・・・」J「心理・・・ねぇ・・・」J「心理・・・それは心の理解、ある意味どんな科目よりも必須で、どんな科目よりも難しい。」蒼「?それじゃあ、何であんなに簡単に心理を理解した、って言えるの?」J「それはねぇ・・・例えば、人に何かをやらせたい時、こうしてこうしたら出来るな、って言うのあんだろ?」J「アレを極端に難しくした物で、人は嘘を言ったときに何か癖が出たりとか、何かが変わったりするんだ。」J「それを、相手の心理だけじゃなくて、自分の心理までも分かる人が、心理を本当に理解した人なんだ。」蒼「・・・何だか難しいね・・・」J「だがそうでもない、例えば相手がこうして欲しいときに、こうすると、どうなるってのを覚えてやれば。」J「簡単に相手を好きな気分にする事が出来る。」蒼「へぇ~、意外と簡単なんだ・・・」J「とか言って、相手をその気にさせるのも、心理学の初歩だね。」蒼「!そうだったのか・・・有難うジュン君、為になったよ。」J「何に使うかは大体予想が付くが、頑張れよ~」蒼「・・・ばれてたんだ・・・」蒼星石が翠星石に、ジュンの心理学を応用して、自分の部屋を掃除させようと考えた。蒼「姉さん、僕の部屋の掃除何だけど・・・」翠「蒼星石、私の部屋にお菓子があるから、食べて良いですよ~」蒼「姉さん有難う!」お菓子に目が無い蒼星石は、そう言って、翠星石の部屋に上がり、お菓子を食べる。蒼「何だか汚いなぁ・・・お菓子貰ったし、掃除ぐらいしてあげるよう・・・」そう言って、何だかんだ言ってで姉には勝てない、蒼星石だった。
「雨、やみそうにないのだわ」「そうだね」 おもむろに降り出してきた雨だった。僕達は傘を持っていなかったし、とりもあえずは近くにあった建物の軒下で休もうということになった。 そして今、僕と彼女の二人きり。丁度僕らの前を、学校の帰り道らしい小学生が通り過ぎていく。男の子と女の子、それぞれ青色と赤色の傘をさして、仲睦まじげに…… 僕と彼女は、ここ最近一緒に居るということが無かった。今だって帰り道が一緒になったのは、彼女の方が僕を待っていたから。 ……どうしてそんなことになったのかと言えば。僕も、彼女も。それぞれ同じひとを、好きになってしまったと。そのことを僕は知ってしまったからだった。 彼女の方は勿論、そんなことは気にせずに僕に話しかけようとしてくれた。……けれど、僕がそれを避けた。だって、最終的に自分の想いが通せるのは――、一人だけだから。僕はそんな打算的な考え方をする自分が……とても嫌いだ。きっと僕のこころには、どんよりとした雨雲が立ち込めていて。それがずっと雨を降らせ続けているのだろうと思う――「ねぇ、蒼星石」「……何だい、真紅」「雨の音が……とても静かで、とても綺麗ね」「……」 彼女の方を見やると、眼を瞑っていたから。僕もそれに倣う。世界が、音だけになって。――雨だれの音にも、色々な音階があるのだと。多分考えてみれば極当然のことを、僕は思っていた。「真紅」「何? 蒼星石」「本当に……静かで。綺麗な音だね」「そうね、……その通りだわ」 ふと、彼女の方を改めてみてみると、彼女は笑っていた。「良かった……あなたは今、とても穏やかな表情をしている。普段からもっと、そういう優しい顔で いればいいのだわ」『あと、もっと普通に話に応じて頂戴』と。付け足しのように言い終えたあと、ぷいっと向こうを向いてしまった。「ははっ……そうかな。そんなに厳しい顔してた?」「全くよ。厳しいというか、努めて表情を作らないようにしてたのかしらね。まるで能面のようだっ たわ。……それは確かに、私もあなたも、同じようにジュンが好きでしょう。けど、そんなことで、 私はあなたと友人をやめるつもりは無いのだわ」「……」「……ダメなの?」「……あははっ」 参った。彼女には、敵わない。今でも、"雨"はやみそうにないんだけど……いつか僕の中でそれがやんだら、彼女にこころから謝ろう。 そして、眼の前に振り続ける雨。これがやむまでは、彼女とここで二人きり。それは今ではとても悪くなかったから――もう少しこのままでもいいかな、なんて思う。 そんな。雨という存在を意識した、ある日の出来事。
此処は、桜田ジュン宅の庭近くお餓鬼様どもも眠る、お昼寝の時間。
蒼「すー・・・すー・・・」
と言う寝息と共に、其処に彼女と彼はいた。
J「・・・(やっぱり、彼女が寝てる姿は、愛しいから苦しいほどに、可愛く見えるのか・・・)」
ジュンは少し疲れて、駄々をこねた蒼星石を微笑ましく思いながら、蒼星石に膝枕をしていた。何時もはサッパリしていて、とても取り付く島の無いような彼女だが。ジュンと2人っきりになると、こうして甘えてくる。何時もと違うその姿は、ジュンにとっては掛け替えの無い宝である。
J(・・・ほっぺ突っついたら、起きるかな?)
ふと、ジュンの脳裏にちょっとした、悪戯心が湧いてくる。試しに突っついてみる、とても柔らかくフニフニしている。しかし彼女は、寝息を乱す様子さえ見せない。僕を完全に信用して、安らかに寝ているのが判る。少し安心した、コレで起きたらなら、それはそれで楽しいもの何だが・・・
J(・・・まるで猫だな、普段はツンと胸を張って生きていて・・・)J(自分は弱いと言う素振りさえ見せない、けれど安心しきっている人の前では、一変して甘えてくる・・・)
しかし、其れで良いとも思う、他の人にはこの安らかな顔は譲りたくも無い。例え、其れが蒼星石の姉の翠星石でも。
蒼星石の少しの幼さを残したような、安らかな寝息は規則的に続いていく・・・其れが、何故かジュンには誇らしく、少し嬉しくなる。其れは、麻薬のような中毒性を含むものだった。
J「・・・今日は本当に良い日だ・・・」
初夏の優しい日差し、今年は冷夏にならないと良いが・・・しかし、今はそんなことは関係ない。蒼星石と一緒に過ごす、其れが一番なのだから。
J「静かだ・・・」
ふと思った、蒼星石は死んでいるんじゃないかと。胸に手を置いてみる、トクン・・トクン・・・と規則正しい旋律が流れている。耳を胸に置いてみた、やはり、心臓の規則正しい旋律と、蒼星石の身体の温かさが僕に伝わる。思わずホッとする、しかし止まっていたら其れは其れで大変である。
J「お嬢さんは、何時起きるのやら・・・」
試しに唇にキスをしてみた、生暖かく、柔らかい唇に触れた。浅く小さな小さなキスだった。しかしやはり起きない、鈍感なのか安心しきってるのか・・・
J「そろそろ寝るか・・・」J「御休み、僕の大事な蒼星石。」
そう言うと、ジュンは正座したまま眠りに付いた。
蒼「・・・ジュン君・・・僕も大好きだよ・・・//////・・・御休み・・・」
そして、規則正しい寝息が二つ・・・初夏の家に旋律を奏でた。
―月夜に照らされ白く輝く雪達。それはまるで天使の如く漆黒を漂う。地に堕ちる運命とも知らずに、舞降りる――僕が抱く思いは、雪のように積もるばかり。春が来るとこの思いも雪解けて、流されてしまうの?――僕は吹き続けよう。笛の音ともに、君にこの思いが届く様に――決して忘れぬ様に――協奏曲「蒼」―翠「何書いてるんですか?」蒼「!!、うわあぁぁぁ!ね、姉さん、何時の間に!?」翠「?、ついさっきからですけど…」蒼「そ、そそそうなの?な、何でも無いから気にしないで。」翠「少しくらい見せてくれてもいいんじゃないですか?」蒼「!だ、ダメぇ!その、まだ途中だから。ね?ね?」翠「ケチですねぇ。」何書いてたかは秘密。同名の曲のイメージ。
眠る前にふと、思い立って、窓の外を眺めてみると、夜に抱かれた月がとても幸せそうで、ついあなたと僕に重ねて、都合の良い物語を思い描いてみたりする。眠るのが少し、もったいないなぁ。明日はどんな服を着ようか、髪型はどうしよう。あなたに会った時、どんな話をしたら、喜んでくれるかな。考えることは山ほどあって、ばかばかしいけれど、大忙し。机の上の携帯電話に目が止まる。手にとって、今日押せなかった番号をなぞっていく。ふたつ、みっつ、よっつ…閉じる。「こんな夜遅くじゃ、迷惑だもんね。」誰にでもなくいいわけをして、苦笑い。もう寝ようかな。これじゃあどうしようもない。ベッドに戻って目を閉じてみれば、つきあってもいないあなたとの別れを想像して、また苦笑い。あぁ、臆病な僕は、きっと明日もあなたが大好きです。オハリ
あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。僕を、女の子として見てくれるひとがいた。そのひとは姉が好きになったひとで。僕が好きになったひとでもあって。二人でそのことを話し合ったことは無かったけれど、なんとなく分かってしまった。あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。幸せな彼の顔。幸せな姉の顔。そして僕の顔。三人で笑いあうことがとても楽しかった。でも、少しだけ切なかった。あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。明日こそ彼に思いを伝えようと決めた日の放課後、校舎裏で互いを抱きしめあっていた彼と姉。二人は本当に幸せそうで、泣いていたのは僕だけだった。あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。姉の幸せを願っていながら彼を手に入れたいという粘着質の黒い衝動。少しずつ落ち着いていって、自分に失望し、それでいて再び混沌の中に意識を沈める。ただ彼に抱きしめてもらいたい。ただ彼に僕が好きだと言ってもらいたい。彼に愛され、彼を愛したい。あのときの胸の痛みを、まだ覚えている。彼をあの校舎裏に呼んで、自分の気持ちを伝えたとき。伝えずに入られなかった。引き下がりたくなかった。だから伝えた。彼はただ一言“ごめん”と呟いて。僕は涙が止まらなくて。こらえきれずに彼の胸の中で泣いた。―――何年かが経って。今、彼は姉と幸せな家庭を築いている。僕にそれは無い。このまま独りでもいいと思う。けれど。この胸の痛みはまだ残っている。
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