さ よ な ら
別れ、それはあまりにも突然で
少女と少年は別れざるを得なくなった
終わるはずがなかった二人
終わると思っていなかった二人
二人に終わりが訪れる
それは外を白雪が染める頃
さよならを言う季節が巡る頃のお話
~さよなら~
今何と言ったのだろうか、水銀燈の耳に耳鳴りが響く。冗談としか思えないフレーズ、それを父が発した。広いリビング、ソファに身を沈める父、隣に座る母、そしてテーブルを挟み相対する水銀燈。銀「うそ・・・・・嘘でしょ、お父様・・?」深い呼吸、水銀燈の父親は水銀燈の紅い瞳を見つめ再び同じ言葉を発す。
・・・外国に移住する
間違いはなかった。瞬間、水銀燈の回りにあった世界は砕け散った。身体が心が、深い漆黒の奈落に落ちていく。移住は来月、死の宣告が水銀燈の胸を突き刺す。
窓硝子の外、雪が訪れる前の最後の雨が降っている
翌日、学校に向かう足は重く、彼の家までの道乗りは果てしなく長く感じた。彼・・・桜田ジュンは水銀燈の幼なじみであり想い人である。幼少期、外国人の父と日本人の母との間に生まれた水銀燈は、日本人離れした容姿と、生れつき髪と瞳の色素が薄い事が原因で酷いイジメを受けていた。小さい子供は無邪気ゆえに残酷。水銀燈の銀髪を引っ張り、ババァと呼び、石を投げつける。しかし、彼は、桜田ジュンだけは違った。水銀燈をイジメから守り、彼女の味方であり続けた。それから十数年、偶然とでも言うのか水銀燈とジュンは小、中を通し、高校までも同じ学校に通っている。朝の遅いジュンを水銀燈が彼の家まで迎えに行く、思春期の異性同士でありながらも繰り返されてきた習慣は変えられる事なく今に至る。ジ「わりぃ、ちょっと待たせたか?」玄関からジュンが靴を履きながらでてくる。いつも見馴染んできた光景、それがもう少しで終わる、水銀燈の胸が締め付けられるように痛む。銀「・・・も、もぉ~遅いったらないわぁ?早くしなさいよねぇ。」いつものように何もないように気丈に振る舞ってみる。しかし、何かが違う気がする。それにジュンも気付いたのだろう、水銀燈を見つめ、首を傾げた。ジ「ん?どうしたんだ水銀燈?体、調子でも悪いのか?」そう言いながら眼鏡をかけた自分より背の少し小さな少年が水銀燈の顔を覗き込む。この少年に・・・・会えなくなる。そう思うと瞳の奥が焼けるように熱くなり、気付けば涙が頬を伝わっていた。ジ「お、おい!どうしたんだよ水銀燈!?いきなり泣くなんて!?」
隠せない、隠せる訳がない。こんなに辛い事を隠し通せるはずがない。
銀「ジュン・・・ヒッグ・・・わたし・・・わたし・・・っ!」
・・・・・・嘘だ
水銀燈の話、それはジュンの中でまったく現実味を帯びない。頭の中を沢山のワードが駆け巡り何も考えられない。海外に移住?しかも一ヶ月後、そんなのありえない。水銀燈は自分にとってまるで半身のような存在。それがいなくなるなんて考えられない。ジ「・・・嘘だよな水銀燈?・・・ありえないよ。」銀「嘘じゃ・・ヒッグ・・・ないの・・ウグッ・・・本当なの・・・!」
水銀燈の流す涙、それがジュンに残酷な現実を突き付ける。確かな形を持ち、一つのワードとして胸を貫く。
水 銀 燈 は い な く な る
遠くで学校のチャイムが鳴り響く。周りには誰もおらずジュンと水銀燈は向き合っていた。二度と会う事はなくなる、だとしたらこの想いはどうすれば?哀しみの涙で溺れそうになる中で水銀燈は考える。言わなければそれまで、もう伝える事もなく、愛は途絶える。言わなければ別れの辛さはいくらかは和らぐ、だけど抱いた気持ちは消えない。ジュンを愛したという真実はそのまま。
した後悔よりしない後悔の方が辛い
誰かが言ったそんな言葉、それが水銀燈の胸に去来する。一つの決意が水銀燈の心に舞い降りる。
言おう
別れの哀しみが胸を引き裂こうとも
例え、二人が離れその想い途絶えても
涙を拭い
銀「ジュン・・・・」水銀燈は涙で濡れた顔を拭いジュンを見つめる。目の前に立つ幼なじみが、もう幼なじみでなくなる。今まで怖くて踏み出せなかった一歩、それが別れという矛盾に背中を押され成就される。水銀燈はゆっくり深呼吸をし、心を落ち着け、口を開いた。
銀「・・・私ね・・・ジュンが好き・・・・」ジ「・・・・・・・え?」銀「ずぅっと言えなかった・・・この関係を壊したくなくて・・・ でももう無理だわぁ・・・もうジュンに会えなくなるんだもの・・ ・・だから言うの・・・私、ジュンが好き。」ジ「水銀燈・・・・・」銀「ジュンが私をキライでも良いの・・・・言わなくて後悔したくなかった・・・ それだけだけだから・・・」そこまで言い、水銀燈はジュンに背を向けた。
水銀燈も・・・・同じ想いを?
ジュンは驚愕した。そう、ジュンも恐れていたのだ、幼なじみの心地良い関係が壊れるのを。自分の隣にいつもいた水銀燈、幼なじみを守るのは当然と、ジュンは彼女をイジメからずっと守ってきた。しかし、『守る』という感情はいつしか『愛』に変わった。言うべきか、ずっと悩んだ。幼なじみだから守るのではなく愛しているから守ると言うのが怖かった。だから彼女には何も言わずそのままの関係を続けた。
だけど今となってはそれは無意味。
何も言わず別れてしまえば水銀燈に抱いた想いは全て無に帰してしまう。ジュンは自分に背を向けた水銀燈を振り向かせ、抱きしめた。ジ「僕も・・・・・僕も水銀燈が・・・好きだ!」銀「別れが・・・・辛くなるのよ・・・それでも?」ジ「それでもだ・・・僕は・・・水銀燈が・・・好きだから・・」
そして、甘く永い口づけが二人を結ぶ
銀「ジュン・・・なら・・・私を抱いて・・貴方との・・・貴方と私の・・・ 思い出が・・・欲しい・・・」
時計の針は9時半を指す。誰もいない家、二人の身体は重なり合う。幼なじみだけの関係、それはもうそこにはない。いや、元々から二人は繋がりあえていた、それを形にしただけ。水銀燈の身体がジュンのベッドに倒れこむ。それを見下ろすようにジュンもベッドに上がる。お互いの鼓動は高鳴り、頬は紅をさし始め、制服のまま二人は口付けをしあう。舌を絡め合わせ、お互いの存在を確認しあうように永く、そして、深く・・・唇をゆっくりと離すと、二人の間に細い糸がいずれ訪れる別れを惜しむかのようにつ、と伸びる。ジ「僕達・・・一つになるんだな・・・はは・・・もっと早く言えば・・・」言葉を繋げようとするジュンの口を水銀燈の口づけが塞ぐ。またも永いキス、銀「今は・・・・・忘れたい・・・・ジュンだけを・・・感じたい・・・」ジ「・・・ごめん・・・・」そう言うと水銀燈はベッドにゆっくりと大の字になりジュンの身体を迎える。ジュンもそれに応え、水銀燈の身体を抱き締め、制服のまま彼女の身体をまさぐる。近くにいたはずの存在がまだ近づくように思える。ジュンはゆっくりと、水銀燈に痛みを感じさせないように身体の表面を撫でていく。その度に水銀燈の顔が上気していく。銀「・・・・ん・・・あっ・・・・・」微かに漏れる水銀燈の声。初めてだけど、何故か身体は動く。ジュンはゆっくりと水銀燈の下腹部へ手を伸ばす。
銀「あ・・・・・・・」水銀燈の顔が真っ赤になる。銀「やめて・・・・恥ずかしい・・・・」ジュンの腕をどけようとする水銀燈の手にジュンは優しく手を乗せる。ジ「痛くないように・・・・する・・・から・・・」その言葉を信じ水銀燈は手をどける。それからの数分の間、ジュンはただ水銀燈を見ていた。隠した腕から除く紅潮しきったその顔を、ただ、恥ずかしい恥ずかしいとうめくその唇を。初めての刺激に戸惑い、よじるその悩ましい肢体を
全てが愛しく、ただ哀しい全てが消える、何もかもがこの愛も、この時もこの笑顔も、この恥じらいも何もかもが過去になる
だから、ただ、今だけでも彼女を愛そう
銀「もう・・・あぁ・・・やめて・・・お願い・・・もう良いから・・・」呼吸を荒げ、水銀燈がジュンにつぶやく。腕で顔を隠し、見られないように、切なく。ジ「ごめん・・・」ジュンは伸ばしていた腕を戻す。銀「・・・・はぁ・・・・はぁ・・ふふ・・謝らないでよぉ・・・・・」水銀燈はジュンの腕を取り自分の制服に手をかけさせる。銀「・・・・脱がせて・・・ジュンの手で・・・お願い・・・・」
微かに手が震える。一つ、また一つと制服のボタンが外れていく。その下から桃色に色づいた、白磁のような肌が現れる。ゆっくり、ゆっくりと肌が露になるたび何故か心は平安を取り戻す。哀しみが通り過ぎているのに、愛おしさが胸を暖める。ボタンを全て外し、水銀燈の腕からシャツを片腕ずつ脱がせる、そしてジュンは残ったスカートに手をかけた。ジ「・・・・脱がせるよ・・?」銀「お願い・・・・」水銀燈は自分の手でスカートのホックを外す。ジュンはゆっくりと水銀燈の腰の後ろに手をまわし、スカートを脱がせる。間近で見たことのなかった脚線美が目の前に現れる。銀「わたし・・・・・綺麗・・・かしらぁ・・?」ベッドの上に座り、水銀燈はジュンに問う。ジュンはすぐには答えず、水銀燈の身体を近くに抱き寄せる。ジ「ああ・・・・綺麗だ・・・誰にも・・・渡したくないくらい・・・」水銀燈はその言葉に再び涙を流す。そして、ジュンをだきしめた。
生まれたままの姿、ジュンと水銀燈はベッドの上で向き合う。誰も二人を離す事はできないと思っていたあの頃は去り、いずれ来る別れの時が二人の後ろに迫る。だからこそ、二人は繋がりを求める。忘れないように、お互いの事を、胸にとどめる為に
刹那に近い時を二人で分かち合う
水銀燈とジュンはまた口付けをする
別れの哀しみお互いの愛幼なじみであった頃の記憶
想いが一つに混ざり合う
ジ「大丈夫・・・・・か?」銀「ふふふ・・・・・怖いわぁ・・・・でもジュンとなら・・・」
二人は手を重ね合わせ視線を交わす
ジ「行くぞ・・・・・・」銀「来て・・・・・・ジュン」
重ね合わされた手が上に伸ばされ、ゆっくりと身体が重なる
そして繋がる
銀「あぁっ!・・・・う・・あ・・・・い・・痛ぅっ・・・・・!」ジ「痛いのか?!ごめん・・・すぐに」
苦痛に歪んだ水銀燈の顔に驚き、その身体から離れようとするジュン。しかし水銀燈は逆にジュンを抱き締める。
銀「はっ・・・離れ・・ないで!!私を・・・抱き締めて・・・!」ジ「水銀燈・・・・・?」銀「我慢できるから・・・・・だから・・・私を・・・離さないでっ!」
カタカタと震えるその肩、本当は痛いはずなのに水銀燈は耐える
二人が離れてしまう現実を感じたくなかった
銀「ヒッグ・・・・恐いの・・・お願い・・・・・お願い・・・・!」
ジュンは水銀燈の想いを知り、彼女を優しく抱く
ジ「うん・・・そうだよな・・・恐いよ・・・・僕も・・・・」
抱き合う二人、その外を雪が寂しく降り始めた
二人だけの部屋、その中で二人は身体寄せ合い、天井を見上げていた。
銀「ジュン・・・ありがとう・・・・・」ジ「え?」銀「貴方との思い出・・・きっと・・・・きっと忘れない。」
そう言って水銀燈はジュンの手を握る
銀「遠いところに行っちゃうけど、私・・・ジュンを忘れない、絶対。 こんなに素晴らしい思い出をくれたんだものぉ・・・」
寂しげに笑う水銀燈、ジュンは微かに首を振る
ジ「まだ・・・足りないよ。もっと・・・・もっとたくさん作ろう・・・・ 一ヶ月しかないけど・・・・忘れきれない位・・・たくさんの思い出。」
ジュンも水銀燈の手を握り返す
銀「・・・・ふふ・・・・そうね・・・・・そうよね・・・・」
ジ「ああ・・・・・そうだ・・・・」
それから二人は抱き合い、眠りに落ちた
別れまでの一ヶ月、それは長くも短い時であった。
別れを伝えたのは旅立つ一週間前、ケンカばかりしていた真紅が初めて涙を流した。それにつられる様に、友人たちと抱き合いその中で泣いた。お別れパーティ、クラス上げての盛大なパーティ、クラスメイト全員で騒ぎあい、別れの哀しみを打ち消した。
そして・・・・・・・ジュンと過ごした日々
ただお互いの温もりを感じあう日もあれば街の灯りの中を走り抜けた日もあった。服を買いに行ったあの日、カフェでドリンクを分け合ったあの日、映画を観にいったあの日、クリスマス、二人で街を歩いたあの日、初日の出、登る朝日を見たくて遠くの海岸まで行ったあの日
全てが愛しく、大切な思い出
そして今日
私は旅立つ
真っ白い雪が舞い散る
ソレは結ばれたあの日と同じような白雪
だけど、僕の横には彼女はいない
ただ雪は降り、僕の胸に積もる
過ごした思い出は消えることはないけれど
君はもういない
見上げると、君を乗せた船が空を行った
そして僕はつぶやいた
ただ一言を君に向けて
もう届かない言葉
さよなら、と
貴方との距離は遠く離れてしまったけれど
私は貴方を忘れない
だけど、貴方とはもう会えない
ただ雪は降り、私の胸に積もる
貴方はもういない
だけど、私は信じている
貴方と会えるいつの日かを
窓の下、もう地面は見えない
だけど私は呟いた
いつか、また会えると信じて
fine
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