ヒキコモリくんと死にたがりさん
◆ファースト・コンタクト◆J「突然ですが入院することになりました」め「で、なんであなたが私の部屋にいるの?」J「なんか、先生が『同年代の子がいなくて寂しいだろうから』って」め「私が?」J「うん」め「ふん、また余計な気をまわしちゃって。つまらない人たちね」J「生まれてからずっとここに?」め「まあね」J「そうですか」め「あなた、中学生くらいでしょ? 学校とか楽しいんでしょうね。私はそれも叶わないのよ」J「あー……楽しい、とかは無いかな」め「? なんで?」J「なんでもです」め「ああ、あなたヒキコモリなのね?」J「もうばれたよ」
◆あだ名◆め「ねえねえヒッキーくん」J「その呼び方はやめてくれと何度言えば」め「じゃあ、他に何かあだ名つけようか」J「普通に『桜田』で結構」め「それは良くないわ、ジャムくん」J「なんですかジャムって」め「あだ名っていうのはね、人と人との心の距離を埋めるのに役立つと思うの、ジャムくん」J「むしろ溝ができつつあるよ、今」め「ジャムくんも私に何かあだ名つけていいよ」J「マジ?」め「マジマジ」J「うーんと……じゃあ、『めぐめぐ』」め「ジャムくんってセンス無いのね」J「……そうかい」
◆じゃんけん◆J「何にせよ、ジャムはやめて」め「えー……」J「仕方ないな、じゃあジャンケンで決めよう」め「ジャンケン?」J「そ。僕が勝てばその妙なあだ名はやめてくれ。君が勝てばお好きなように」め「ねえ、ジャムくん」J「はい」め「『ジャンケン』って何?」J(そうか、この子は生まれてからずっと病院暮らし……ジャンケンも知らないのかもな)J「ええっと、ジャンケンっていうのはね」め「うん」J「グーチョキパーがああでこうで……わかった?」め「ふーん」J「よく分からなかったならもう一回説明を」め「ジャンケンくらい知ってるに決まってるでしょ」J「君って結構サディスティックだね」
◆ドS◆J&め「「最初はグー、ジャンケンポン」」J「…………」め「…………」J&め「「あいこでしょ」」J「…………」め「…………」J「…………」め「ねえ、ジャムくん」J「……なんだい?」め「ジャムパンとメロンパンどっちが好き? 私メロンパン」J「君ってすごくサディスティックだね」
◆事情◆め「あー、このあだ名飽きた。やめようか」J「うれしいなったらうれしいな」め「次はなんて呼ばれたい? リクエスト受け付けます」J「じゃあ、『桜田くん』」め「それはねーわ」J「速攻で却下された」め「昔のあだ名とかないの?」J「ふつーに『桜田』って呼ばれてた」め「家族の人とかは?」J「姉ちゃんには『ジュンくん』って」め「あ、本名は桜田ジュンなんだ」J「いちおう」め「じゃあなんでJUMなの?」J「まあ色々あって」め「なんか気になるわね」
◆スルー◆め「よし、じゃあジュンくんにしよう。今日から君はジュンくんだ」J「えらく普通におさまったな」め「不満?」J「めっそうもない」め「ジュンくんは私のことをなんて呼ぶ?」J「柿崎さん」め「ねーわ」J「またしても速攻で却下された」め「もっとこうキュートでプリティーでビューティフルなあだ名頼むよ」J「ハードル上げないでください。それじゃあ……『めぐりん』」め「…………」J「…………」め「『めぐ』で呼び捨てにしてくれて構わないわよ」J「心に深い傷を負った」
◆待ち◆め「…………」J「…………」め「今思ったんだけどさ」J「うん」め「あれだよね、やっぱヒキコモリ少年と薄幸の美少女じゃあ話題ないよね」J「そうだね」め「…………」J「…………」め「『薄幸の美少女』へのツッコミは無いの?」J「ツッコミ待ちっぽかったから敢えてスルーした」め「ちくしょう……」J「甘いね」
◆年頃◆め「…………」J「…………」め「あー、恋したいなぁ……」J「恋ねぇ……」め「…………」J「…………」め「ジュンくん、誰かいい男紹介してくれない?」J「ヒキコモリにそんな知り合いがいるかっつーの」め「ですよねー」J「…………」め「…………」J「めぐ、誰か可愛い女の子紹介してくれない?」め「生まれてこの方入院してるのにそんな知り合いがいるかっつーの」J「ですよねー」
◆ステロタイプ◆め「ジュンくんってさ、やっぱりアニメとか好きなの?」J「? 何を藪からスティックに」め「いや、やっぱりヒキコモリの人って深夜アニメとか観るのかなーって」J「それはステロタイプだろ」め「ステロタイプ?」J「固定観念のこと」め「漫画家にベレー帽みたいな」J「そんな感じ」め「そっか、私誤った固定観念に踊らされていたのね」J「わかればいいんだよ」め「で、実際アニメとか観てるの?」J「…………」め「…………」J「……うん」
◆ものまね◆め「ねえねえ深夜アニメとか観てるジュンくん」J「……なんでしょうか」め「ものまねいきまーす」J「ほう」め「も、萌ぇぇぇえええ、フヒヒ」グニャアJ「うわあ、めっちゃ顔歪めてる」め「どう? 似てた?」J「誰のものまねだよ」め「深夜アニメの美少女に萌えるジュンくん」J「しないから。そんな顔しないから」め「いいのよ、隠さなくても」J「隠してないから」め「もう、恥ずかしがり屋さんね、ジュンくんは♪」J(うぜえ……)
◆厨銀燈◆ガラッ銀「ククク……お邪魔するわぁ……」め「あ、水銀燈。今日は来てくれたんだ」銀「ククッ……今日は因子が薄かったからねぇ……」J「(因子?) めぐ、この人とは知り合い?」め「うん。水銀燈っていう子よ」J「ええっと……よろしくお願いします、水銀燈さん」銀「……まさか、貴方……」J「? どうかしましたか?」銀「ククク……まさか私以外にもこの病院に『使い手』がいたなんてねぇ……」J「へ?」銀「貴方、気配を隠してるつもりかしら……それでも私の『チカラ』の前では無意味……」J「???」め「ああ、気にしなくていいわよ。この子はこういう子なの」J「……はあ」
◆暇◆め「あー、水銀燈も帰ったし暇だなぁ」J「普段は何してるんだ?」め「んー……窓から外を眺めたり」J「他には?」め「水銀燈にあだ名つけたり」J「他には?」め「寝る」J「そりゃ暇だな」め「ジュンくんはいつも何してるの?」J「んー……パソコンで通販したり」め「他には?」J「ネットで買った怪しげな商品で遊んだり」め「他には?」J「寝る」め「そりゃ暇ね」
◆また明日◆J「っと、もうこんな時間か」め「わりと早く時間が経ったわね」J「んじゃ。僕は自分の病室に帰るよ」め「あ、ジュンくん!」J「ん?」め「その……明日も来てくれるかな?」J「……いいとも」め「……ありがとう」J「じゃあ、明日まで死んだら駄目だぞ」め「もちろん」J「うん。じゃ、また明日」***め「また明日、かぁ……」め「ふふ♪」おしまい
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