【テーマ:小説 蒼星石】 『蒼の目覚め』
ごめん。ちょっとだけ、話を聞いてもらいたいのだけど、いいかな。 とある小説を捜していてね。題名は―― 実を言うと、外国の原書だって意外に、まったく手懸かりがないから困ってて。 うん、そう。だいぶ古くからあることは確かだよ。でも、それ以外の情報は……。 出版社か、著者? それも全然さ。ISBNコードを付与されてるかも疑わしい。 それじゃ捜しようがないって? たはは……そうだよね。ごもっとも。 『蒼の目覚め』 ふと、胸をざわめかす予感に唆されて、ふらりと立ち寄った古本屋でのことだ。 何十年、そこに存在しているのか一見では判然としないほど、うらぶれた様子の店舗だった。 窓は大きめなのに鬱蒼と繁る蔦に覆われ、その存在すら、とうの昔に忘れられてしまったらしい。 どうにも陰気で、いかがわしさも漂っている。それはもう、近隣住民に魔窟と揶揄されていたって不思議ではないほどに。 だからこそ逆説的に、もしかしたら……と、期待を抱かせるものがあった。 捜しているのは、普通の書店を巡回しても見つかりそうにない、とんだ代物だからね。 ならばいっそ、こうした突然の気紛れに任せてみるのも一興かと思えたのだ。 そこから奇蹟めいた邂逅へと導かれることは、往々にしてよくある。 でも、今度ばかりは運命を司る三人の女神様も、粋な計らいをしてくれなかったようだ。 虫のいい話とは承知の上だったけれど、いざ現実になればなったで落胆は否めない。「ゴメンねー、お役に立てなくて」 こちらの失意が伝染したのか、アルバイトと思しい女の子は、ひどく申し訳なさそうに眉を曇らせた。 コミカルな白ウサギがプリントされたエプロンには、『斉藤』のネームプレート。 彼女は気まずそうに、天井までそそり立つ書架に忙しなく目を走らせながら、問わず語りに呟く。 「白状すると、バイト始めたばかりなんだぁ。どんな本があるのか、把握しきれてないんだよねー」 そういう事情なら仕方ない。売り場面積は、優に40坪はあろうかという広さだもの。 改めて見れば、入り口からの陽光は、店の半ばぐらいまでしか届いてない。 窮屈に林立する書架に比して、蛍光灯の本数が少ないから、奥のほうは昼日中でも暗渠のごとき様相を呈していた。 いったい、どれほどの本が積み上げられているのだろう。バックヤードまで含めたら、相当な数になるはずだ。 それに……本の並べ方ひとつ見たって大雑把だものね。パソコンで商品管理してるのかも疑わしい。 題名も判らない小説なんて、とても捜しだせる状況にないことは、素人でも解る。 「マンガやファッション系雑誌のバックナンバーなら、私でも少しは役に立てるんだけど」 お気になさらず。むしろ変に落ち込まれると、こっちが気後れしてしまうよ。 アバウトすぎる説明で仕事の邪魔をしちゃって、ごめんね。 謝ると、斉藤さんは愁眉を開いた様子で、ゆるゆると首を振った。 しおらしく謝意を示したものの、はっきり言って、この古書店が繁盛しているとは思えなかった。 書架に収まっている多くの本は、背表紙が薄茶色に日焼けしていて、御世辞にも品質がいいだなんて言えない。 しかも、およそ動きのなさそうな品揃えにも拘わらず、ちっとも埃が積もっていない。 掃除が徹底的に行き届いてしまうほどに客足が乏しいのは歴然だ。少しくらい雑談に興じても、業務に支障ないはずだった。 そんな状況を鑑みれば、もしかしたら……と、またしても怪しい雰囲気に後ろ髪を引かれる。 万が一にでも僥倖を期待してしまうと、足は誰かに操られているかのように、前にしか進まくなった。 折角だから、少しだけ店内を物色してみよう。捜している小説が、売れ残ってたら勿怪の幸いだ。 入り口付近は、マンガの単行本コーナー。やはり、コミックは売れ筋なのだろう。大きなエリアを占めている。 でも、目的は小説だからね。するっとパスして、仄暗い店の奥へと踏み入った。 そう言えば、店長さんは? 奥で、せっせと事務処理でもしてるの? 両側に聳える書架の圧迫感に肩を竦めながら、振り返って訊いてみた。 幾らなんでも、この売り場面積に店員がひとりでは、防犯的に問題ありだろう。 「店長は、朝から仕入れに行っちゃってるよ。帰ってくるのは夕方かなぁ」 古本屋にも仕入れってあるのかと、ちょっとビックリ。 買い取った本を、そのまま売りに出してるだけかと思っていた。 でもまあ、考えてみれば当然か。余所から仕入れないと、品揃えが偏ってしまうものね。 ほどなく、小説のコーナーを見つけた。 店の入り口は書架に遮られて、ほとんど光源になってない。朧気にチラつく蛍光灯の明かりだけが頼りだ。 暗さと、本の質量とで、閉塞感が半端なかった。息が詰まりそう。いや、既に詰まりかけてる。 「見つかりそう?」 ……と、訊かれてもね。まだ眺め始めたばかりだもの、唸るより他に答えようがない。 それっきり、会話が途絶えてしまうかと思いきや。 「その小説ってさぁ、どんなストーリー?」 どうやら、曖昧な反応をしたせいで、斉藤さんの好奇心を擽ってしまったらしい。 女の子はオカルトめいた話題が好きだ。占いや怪談となると、つい関心を向けずにいられなくなる。 彼女も多分に漏れず、特殊なアンテナで、ミステリアスな気配を敏感に察知したのだろう。 実際、その勘は正しかった。 ――お祖父さんがね、聞かせてくれた話なんだけど。 前置いたものの、書架を物色しながら考える。さて、どこまで語ったものやら。 ありのままを喋ってしまうと、正気を疑われそうだ。 「どうしたの? 勿体ぶらずに教えてよー」 書架を挟んで、斉藤さんがせっついてくる。「私、仕事しながら聞いてるからね」 その言葉どおり、物音が止むことはない。 買い取り本の検分や清掃、パッキングなど、やるべき作業はそれなりにあるのだろう。 どうせ乗りかかった船だ。この際だし、洗いざらい話してみよう。 目当ての小説が見つからないまでも、ヒントぐらいは得られるかもしれないから。 その小説は、簡潔な文章で綴られた小節の集合体――詩集にも似ているけれど、そうではないと言う。 刮目すべきは端麗にして精緻な筆力で、時々刻々と変化する状況が、臨場感あふれる描写で綴られているのだとか。 それだけならば、普通の小説や詩集と大差ないよね。 最も奇異な特徴は、順序よくページを捲っても、意味をなさない点だ。 一小節ごとに番号が割り振られ、文の終わりに設けられた選択肢の番号から、次に読む小節を選ぶシステム。 平たく言ってしまうと、一時期そこそこ流行ったゲームブックなるものらしい。 「ふぅーん。私、普通の本屋さんでもバイトしてるけど、その手の本は、あんまり見かけないねぇ」 斉藤さんが知らないのは、至極当然だろう。いまや、携帯型のゲーム機で、場所を選ばず遊べる時代だ。 手間のかかるゲームブックが廃れたのも、世の必然。延々と繰り返されてきた淘汰の、ほんの一例ってワケ。 「もしかして、お祖父さんがゲームブックのコレクターだから、お手伝いで捜してたり?」 着眼点は面白いけど、残念ながら、ハズレ。一番の理由は、自分のためだよ。 そう告げると、書架の向こうから「へぇ……」と、気のない相槌が返ってきた。 敬老精神に満ちた感動劇でも、期待してたの? だとして、勝手に幻滅されるのは愉快じゃないな。 でも、まあ……勘繰りすぎかもしれない。たまたま吐いた溜息が、つまらなそうに聞こえただけで。 とりあえず、素知らぬフリで話を進めよう。目くじら立てるほどの確証もないし。 お祖父さんが、その小説に巡り会ったのは、いよいよ社会に飛び立とうかという若かりし頃―― どこにでもいる、向こう見ずな大望を抱えた、怖い物知らずの青年だったそうだ。 お祖父さんには双子の弟がいた。幼い時分からケンカなど滅多にしない、近所でも評判の、才気煥発な兄弟。 衣服や文具など、大概のものは共用するほど仲がよく、一心同体にすら感じられたそうだ。 けれども、その小説だけはひた隠しにして、弟さんに触れさせなかったと言う。 「どうして? 教育上よろしくない内容だったり……とか」 正解。実は、発禁処分にまでなったドロドロの官能小説だったのさ。 ――なんて言ったら、斉藤さんは店内の本すべてが崩れるんじゃないかと危ぶむほどの、素っ頓狂な声をあげた。 もちろん、冗談だけどね。さっきの意趣返しができて、ちょっと気分いいかも。 ウソだってば。そう教えると、安堵と憤りの綯い交ぜになった愚痴が、たらたらと聞こえてきた。 ふふ……さすがに悪ふざけが過ぎたかい? ごめんね。 とりあえず、話の続きだけど……。 お祖父さんが、隠してまで読ませなかったのは、意地悪だったからじゃない。 むしろ、弟さんを思えばこその心情ゆえだったのさ。 その点では、斉藤さんの『教育上よろしくない内容』という表現が、まさに的確すぎる。 俄には信じ難い話ながら、安易な気持ちで読めば将来を狂わされかねない記述が連なっていたからだ。 「それって、ノストラダムスの予言書みたいだよね。うわ~、なんか寒気がしてきたよぉ」 二の腕をさするような音がした。斉藤さんの、粟立った白い腕が脳裏に浮かぶ。 怖がらせるつもりはないのだけど、途中で切り上げるのも、それはそれで気持ちが悪い。 申し訳ないと胸裡で両手を合わせて、自己満足を優先させた。 斉藤さんも、嫌がってる感じではないし。と言うか……アレかな? 嫌よ嫌よも好きの内。 ここで、ひとつの可能性を検証しておこうか。お祖父さんが文章を読み間違えた可能性についてだ。 有り得ない話じゃない。原書を読む上で、多少なりの誤訳はつきものだろう。 しかし、お祖父さんは貿易会社を経営するほど語学に堪能だった。兄弟で起業するべく、寸暇を惜しんで勉強したらしい。 それら諸々の条件を勘案すると、やはり大きな誤読はなかったように思う。 なんだか、焦らしたみたいになってしまったね。 期待を裏切るようで悪いけれど、小説の内容は、身構えるほどのものじゃない。 有り体に言えば、お祖父さんの兄弟の未来について、つまびらかに書かれていたのさ。 それも、ゲームブックの書式で。 「充分に、身構えるほどの内容だと思うけど……。お祖父さんは、最後まで読み終えちゃったの?」 当時は、まったく気づいてなかったらしい。それも、まあ無理ないよね。 初めて手にした本に、自分たちが主人公として書かれているなんて、誰が思うだろう。 だから、お祖父さんは終わりまで読み進めてしまった。あくまで娯楽の感覚で。 時が経つにつれて、大概の記憶は薄れゆくものだ。才知に長けたお祖父さんだって、その例に漏れない。 けれども、その本の記憶だけは、お祖父さんの中で日増しに濃くなっていった。 ――なぜ、その本を殊更に意識するようになったのだろう? お祖父さんは、本当に聡明な人でね。大概の本は、一読しただけで内容をほぼ理解してしまうくらいさ。 だからこそ、現実との奇妙な符合にも気づいた。それでも、最初の内は偶然と笑い飛ばしていたみたいだけど。 歳月を経て、重なる符合が増えるほど、薄気味の悪い気配を肌に感じて、笑う余裕を失っていったそうだよ。 試みに抗いもした。でも、未来は悉く、お祖父さんの努力を嘲笑いながら筋書きどおりに推移した。 いよいよ深刻な事態が目前に迫って、お祖父さんは遂に、その本を焼き捨ててしまった。 目を閉ざせば、全部なかったことにすれば、既知の運命を覆せると信じたかったのだろうね。 それが結果的に現実逃避でしかなくても、やがて訪れる悲劇を回避すべく、最善を尽くそうとしたのさ。 他でもない、お祖父さんの弟のために……。 「あー。その気持ち、なーんか解るかも」 カウンターから、斉藤さんがしみじみと応じる。「私にもね、お兄ちゃんがいるんだー。お祖父さんの立場なら、私も同じことしたと思うよ」 自然な発想じゃないのかな、それは。親しい人の不幸を予見しながら、なんの対策も練らないのは薄情すぎるよ。 たとえ、独力では流れを変えられないとしてもね。諦めるのは、努力した後でも間に合う。 「その後は、どうなったの? まあ、なーんとなく想像はつくけど」 たぶん、予想どおりだと思うよ。そう答えると、斉藤さんは、やっぱりねと言わんばかりの息を吐いた。 賑やかな彼女に押し黙られては、なんだか店内の照明までが暗くなったように錯覚する。 ――お祖父さんの弟さんは、事故で他界した。 フランス人の恋人と駆け落ちするべく乗った船が、大西洋を航行中に沈没したのだ。 お祖父さんは躍起になって、直前まで運命を変えようとしたんだって。 弟さんと恋人が逢えなくなるよう手を回したり、大がかりな事業計画を立てて日本を離れられないようにしたり。 そんなお祖父さんの所業を、弟さんが疎ましく思っただろうことは、想像に難くない。 両者の間に、恢復できないほどの深い溝を刻んだことも……ね。 『行くな! 行っては駄目だ、二葉!』『駆け落ちなんて……一族の恥だ。考え直せ』『この日本で、財団の新しい事業を一緒に興すと約束したじゃないか』『お願いだ、行かないでくれ! お前が傍にいてくれなければ、僕は――』 お祖父さんの懸命な切望が聞き入れられることは、遂になかった。 口喧しく翻意を促せば、二葉さんも、ますます依怙地になってしまう悪循環。 似た者同士って、そういうところ、あるよね。意気投合すれば無二の親友になるし、意見が合わないと犬猿の仲になる。 生まれて初めての仲違いは、必然的に壮絶なケンカ別れとなり、とうとう永遠の別離にまでなってしまった。 『こうならないように、手を尽くしたのに……なぜ解ってくれなかったのだ、二葉!』 変わり果てた二葉さんを前に、お祖父さんは慟哭した。そして、自身の軽挙妄動を呪い、終焉のない後悔に苛まれた。 あの小説さえ読まなければ……いや、いっそ二葉さんにも読ませればよかったのだ。燃やしてしまう前に。 そうしたら、理解を得られたかも知れない。最悪の事態だけは、避けられたかも知れない。 今更になって思いつくことが口惜しくて、お祖父さんは自暴自棄になり、一時期かなり荒んだ生活だったらしい。 「……悲しいお話だねぇ。お祖父さんは、どのくらいで立ち直れたの? それとも、今も苦しんでるのかなぁ」 半身を失った痛みが、完全に消えることはないさ。薄らぐことはあってもね。 親身になって支えてくれる人を得て、その情けに縋り、少しばかりの慰めを紡いでいく他ない。 たとえ間に合わせの代用品でしかなくても、いつかは本物の癒しとなってくれるはずだから。 なんだか妙に実感が籠もった口振りだって? まあ、そこのところは、いろいろとね。 とりあえず、例の小説にまつわる経緯は、大体こんなところさ。この後は、ほとんど話すこともないかな。 「せめて、立ち直った理由くらいは聞かせてよー」 はは……やっぱりね。そう言われると思った。まあ、女の子としては普通の反応なのかな。他人の色恋沙汰に興味を惹かれてしまうのは。 はいはい、仕方がないから話すよ。 抜け殻のようになったお祖父さんを救った――ああ、この場合は『掬った』が正しいかもね。 失意の底に沈んでいたところを、日の当たる場所まで掬い上げてくれたのだから。 まあ、駄洒落はともかく。お祖父さんを立ち直らせたのは、ご明察だと思うけど……お祖母さんだよ。 お祖母さんの名前は、夢子。日本でも屈指の大企業を経営する一族のご令嬢でね。いわゆる、政略結婚だった。 なにかの折りに聞かされた話だと、お祖母さんには他に好きな男性がいたらしい。親の命令で、お祖父さんと一緒になったそうだよ。 そういう夫婦関係って、お金や権力のみで結びついてると軽蔑するかい? 愛情の介在しない打算的な境遇だ、と。 否定はしないよ。結婚は結局のところ妥協の産物なのだし、共益を求めて行き着く場所が、家庭だからね。 ただし、身贔屓と嘲笑されてもいいけど、孫として弁護させて。お祖母さんは決して、拝金主義者でも、権力志向の人でもない。 むしろ今時では珍しいほど淑やかな、広く教養を備えた優しい貴婦人だよ。 ……もぉ。えーって言わないでよ。本当に、模範的な女性なんだってば。残念ながら去年の秋に、天寿を全うしてしまったけど。 「それは、お気の毒に。でも、凄いよね。女の子の貴女に、そこまで言わせるんだから。きっと、聖母みたいに素敵な人だったんだね」 聖母みたいとは言い得て妙だ。故人ゆえに美化したつもりはない。お祖母さんは真実、尊敬するに値する立派な人だった。 女の子が憧れるくらいだもの、男の人なら魅了されること請け合いだね。 まして、心に深い傷を負った直後なら、おおらかな無償の慈愛に包まれたいと願うのも、当然の心境だろう。 しかしながら、初めの頃は、お祖父さんも消極的だったらしい。この結婚も、あの小説に書かれた事象だったからね。 心理的に払拭し難い抵抗があったとしても、頷ける話さ。 でも、結納を交わすのは早かった。立場上、断るわけにいかなかったのは疑いない。 加えて、お祖母さんの人柄に絆されたのも、また事実の一側面だったろう。 晴れて夫婦となった二人は、それはもう万人が羨むほど幸福な家庭を築いて、子宝にも恵まれた。 二葉さんと育て上げるはずだった事業も、今では幾つものグループ企業を抱えるまでに成長を遂げた。 全てが、あの小説の記述どおりに進んだワケだけど……して見ると、お祖父さんが読んだ本は一体なんだったのだろうね? 「さぁねぇ。読んだ者を、諸々の迷いから救済する福音の書――だったりして」 あるいは、堕落と怠慢をもてはやす悪魔の書、かもよ。未来が不変の確定事項なら、努力なんて虚しい美辞麗句でしかなくなるのだから。 もしかしたら、永遠に封印されるべき書物で、軽々しく捜しちゃいけないのかもしれない。 「だけど、捜すのはやめないの?」 やめる気はないよ。今のところはね。 「どうして?」 知りたいから。試してみたいのかも。自分の未来を。 「でも、バッドエンドに行き着いたら地獄だよねー。人生なんてさ、知らぬが仏じゃないのかなぁ」 お前は一途すぎると、お祖父さんにも叱られたよ。競走馬みたいに、思い込んだらまっしぐら……ってね。 でもさ、誰にだって、いつか辿り着く終点は存在する。どれだけ距離が残っているのか、判らないだけの話さ。 知らずにその時を迎えるか、予め承知の上でゴールテープを切るかの違いでしかない。 ――なんて、ね。しかつめらしく能書きを並べているけど、実は怖くて、じっとしてられないだけ。 なにがと訊かれても、まあ……あまり多くのことは話したくないのだけど。 双子の姉さんがね、お祖父さんと仲違いの末に、鞄ひとつ持って家出しちゃってさ。それっきり消息行方で。「あぁ、待って待って。もう聞かないでおく。とりあえず、いつか目的が遂げられることを祈ってる。あんまり効果ないと思うけど」 ありがとう。そうだね。想い続けていれば、いつか、その日も訪れるだろう―― さて……キリもいいから、そろそろ失礼しようかな。捜し物も、どうやら見つけられそうにないし。 書架を回って引き返す、その途中。 「あれ? 帰ってくるの早いですね、店長」 斉藤さんの声に誘われ、足早にカウンターまで戻ってみれば、彼女は長身痩躯のハンサムな男性と向き合っていた。 随分と若い。古書店の主なんて、頑迷そうな老人をイメージしていたけれど、認識不足だったらしい。 店長と呼ばれた青年は、こちらに気づくと柔和な笑顔を崩した。外連味のない、素朴な微笑みだ。 彼の切れ長の双眸と洒落たフレームのメガネ、細面と広い額が、理知的な印象を濃くしている。 「やあ、いらっしゃいませ。ご所望の品は、ございましたでしょうか?」「それがですね、聞いてくださいよ店長ー」 問われた本人が返事するより先に、斉藤さんが身振り手振りを交え、説明を始めてしまった。 端で見るに、彼女はオーバーアクションが目立つ。なかなかの演技派らしい。街頭演説したら、意外にウケるかも。 ひととおりの話を聞き終えると、店長はしたり顔で何度も頷いた。 「心当たりがあります。と言うか、もう所有してましてね」「ホントに? さっすが店長、マジ凄いっス!」 ビッ! と気易くサムズアップの斉藤さん。なんか、さっきまでと様子が微妙に違う。 こっちが、いつもどおりの斉藤さんなのかも知れない。根拠はないけれど、そんな気がした。 「なにしろ世界遺産級の稀少本ですので、お譲りするワケには……」 ちらりと、店長は焦らすような上目遣いをした。「しかし、どうしても必要と仰るならば、お貸ししましょうか?」 さて、先刻の視線を、どう読みとるべきだろう。 大金を積まれても売れない物を、担保もなく特別に貸そうと申し出るのだから、無償とは考え難い。 ならば、やはり……そう言うことか。弱みにつけ込んだ、安くない交換条件の提示。 若い男が、若い娘に求めそうな条件と言えば―― 「どうかしましたか? 怖い顔ですね」 澄ました優男然としたマスクも、胡乱な気配を助長するだけのアイテム。 ひとつ疑念が生じれば、それを端緒に黒々とした想いが連鎖する。あちらこちらに飛び火しながら。 「て、店長。そんな言い方したら、感じよくないですよ」「おや……また口が滑ってしまいましたか。災いの元とは承知しているのですが、どうにも」「ごめんねー。店長も悪気はないの。あ……だったら余計に質が悪いかもっ」 悪気、か。どうだろうね、それは。さも無思慮だった風を装っているだけかもよ。 斉藤さんには判らないのかも知れないけれど、この店長は口が軽いだけの暗愚じゃなさそうだ。 むしろ平然と白々しいお為ごかしを嘯きそうな、一筋縄じゃいかない食わせ物みたい。 先の申し出は、慎んで断らさせてもらおう。君子を気取るつもりはないが、危うきに近寄ろうとも思わない。 その一方で、お祖父さんを何十年も惑わせてきた小説を捜しているのだから、お笑い種だけどね。 解ってるのさ、矛盾撞着だってことは。でも、どうしても、この店長には借りを作っちゃいけない気がした。 しかし、明確な拒否を叩きつけるべく唾を飲み込んだ折りもおり―― 「こんな可愛い女の子に、言うに事欠いて『怖い顔』は冒涜だよね。貴女には店長をグーで殴る権利があります、うん」「さ、斉藤さ~ん。そう苛めないでくださいよ~」 奇妙な漫才を見せられて、一瞬、憤りは矛先を見失った。 なんなのさ、この人たち。 「まあ、冗談はさておき」と、こちらの気勢を殺いだばかりか、ちゃっかり場を仕切ったのは、意外にも斉藤さんだった。「折角なんだから、YOU借りちゃいなYOっ!」 なにそれこわい。 勝手に決められても困る……いや、こともない……かもしれない、みたいな? とにもかくにも、呆然としてる場合じゃない。唯々諾々と状況に流され、理不尽な要求を突きつけられたら大事だ。 「貴女の後に、私も借りてみよっと。いいですよね、店長ー?」「それは構いませんよ。紛失や破損には、細心の注意を払ってもらいますけどね」「当然ですっ! 貴女も、そんなことしないよね? よね?」 誓って、借り物を粗末には扱わないさ。 勢いに圧され、そう答えてしまってから気づいた。承諾に等しい失言だった、と。 こうなっては致し方ない。本の内容に対する興味が薄れたワケでもない。 半ば人生最後の日を迎えた心持ちで、店長に交換条件を訊ねると、赤面を禁じ得ない答えが返ってきた。 「繰り返しますが、紛失したり故意に破損しなければ、それでいいのです。商売の基本は信用ですから」 だからって、そんな簡単に他人を信じていいの? 担保なしだなんて、いくらなんでも人が好すぎるよ。 この古書店が繁盛してなさそうな理由が、判った気がした。商売に向いてないかもね。 「君は、真面目すぎて融通が利かないと、よく他人から言われるでしょう?」 店長がそう切り返したくなるほど、あからさまな呆れ顔をしていたのだろう。 不意に、解剖され、内面をじっくり観察されたような気分に苛まれて、今度こそ烈火のごとく赤面した。 どうにも主導権を掴み難い。店長みたいな、するりと懐に飛び込んでくる人は苦手だ。 この上、言いなりになるのは癪だったので、せめてもの反抗に借用書をしたため、突きつけてやった。 さて、図らずも当初の期待どおりになったワケだけれど……。 借りた本は、ページを手繰るのにも緊張を強いられるほど、膨大な時間によって痛めつけられていた。 現在と異なり、紙の質も悪かった時代の物だ。それも無理からぬことなのだろう。 不慮の事故を起こさないように、マスクして読むべきか。 帰宅するなり机に向かい、長らく愛用してきた辞書を相棒に、小説の世界へ飛び込んだ。 道標は、お祖父さんの人生そのもの。辿っていけば、いまの生活に至るはずだった。 けれども、ちょっとした和訳のミスから、意図せず選択肢を間違えてしまったらしい。 紙面の彼方に拡がる世界で、現在と異なる生活を営んでいるお祖父さんに出逢った。 二葉さんの死によって、心神喪失の抜け殻となってしまったお祖父さん。 社会的な地位や名声などには、もう興味も執着も失っていた。その心境を一語に集約するなら、無情に尽きるだろう。 無気力のまま、平凡な一市民として世を儚みながら、余生を消化してゆくだけに思えた。 ――が、悪戯な運命の三女神は、お祖父さんをエキストラの一人として埋もれさせなかった。 ここで転機をもたらしたのは、細々と交流を続けていた幼なじみの女性だ。名前は、柴崎マツ。 彼女は明治から続く時計職人の家系の一人娘で、家を絶やさぬために婿養子となる男性を求められる身だった。 そして、これは極めて出来すぎた話なのだけれど……お祖父さんも、マツさんも、お互いを憎からず想っていた。 その後どうなったかって? もちろん、お祖父さんは些かも迷わず、婿養子になる件を快諾したのさ。 しかも、結婚を機に生まれてからの名まで捨てて、新たに元治と名乗った。 二葉さんを忘れるための、やむを得ない悪あがきだったのだろうか? その辺の委細は、小説でも詳らかにされていない。 勝手に行間から読み取れとの意志ならば、希望的観測を過分に強めて、肯定的に受け取っておこう。 しかしながら、期せずして最も求めていた場面には、辿り着けた気がする。 つつましく暮らす柴崎夫妻。いろいろな苦労を重ね、お祖父さんの髪はすっかり後退してしまったけれど。 穏やかな春の日が降り注ぐ縁側で、老夫婦は孫の姉妹に肩を揉んでもらいながら談笑している。 なんて平凡で、しかし幸せに満ちた家庭だろう。温かい笑顔に溢れた世界だろう。 これが……これが現実であったなら。その想いが募り、狂おしいほどに胸が痛くなった。 早く戻っておいでよ、姉さん。いつまでも意地を張ってないで、帰ってきて。 もし、今の生活が姉さんにとって幸せであるならば、祝福すべきなのは解ってる。双子の妹として。 でもね、大人ぶって自分の気持ちを誤魔化したくないんだ。また、みんなで一緒に暮らしたいよ。 昔みたいに―― ▼ ▲ ――いつの間にか、眠っていたらしい。 気がついたら机に突っ伏していた。しかも、借り物の小説を、思いっきり下敷きにして。 これは大変。まさか、涎とか垂らしてないと思うけど……。 とりあえず、大丈夫だった。染みや破れた箇所は、どこにも見当たらない。 背中や腋に、ちょっと変な汗をかいちゃったけどね。 それはともかく……どのくらい眠っていたのやら。重たい瞼を擦りつつ見た机の時計は、深夜を告げていた。 夕飯のとき、誰も起こしにきてくれなかったの? ひどい! けれど、夕食を抜いた割に、寝起きのせいか空腹感はなかった。 その代わり、不自然な体勢で寝ていたからだろう、喉がカラカラに渇いている。 起き出すには時間的に早いが、寝直す前にしても、コップ一杯だけ水を飲みたかった。 ……あれ? 部屋のドアを開けるなり、眠気で朦朧とした思考が、更に濃い霧に包まれたようになった。 そこにあったのは、十数年と住み慣れた家とは異なる間取りだ。 束の間、誰かの家に泊まりにきてたんだっけと記憶を探ったけれど、そんなはずもない。 一旦、ドアを閉める。そしてまた開く。結果は変わらず。 これは夢なのか? にしては、鮮明すぎる。握ったドアノブの冷たささえ、こんなに感じているのに。 ワケが解らず、かと言って喉の渇きを放置する気にもなれずに、板敷きの廊下に足を踏み出した。 さすがに深夜だけあって、暗い。試みに、床板を爪先で軽く叩いてみると、しっかりとした硬さが返ってくる。 体重をかけた途端、いきなり垂直落下なんて事態は避けられそうだ。 意を決して、全身を投げ出した。夜闇の中、廊下は左右へと伸びていた。 本当に、ここは、どこなのだろう? 耳をそばだてると、右方向に規則正しい音を聞いた。 カッチン、カッチン……。古めかしい振り子時計を彷彿させる音。と言うか、そのものだ。間違いない。 お祖父さんの屋敷に据え置かれた大時計とは、微妙に音色が異なっている。気のせいかも知れないけれど。 廊下伝いに、振り子の音を辿ってゆくと、階段が現れた。それで漸く、ここが二階だったと理解できた。 そして更に奇妙なことに、朧気ながら家の間取りまでが思い出されてきた。 階段も廊下と同様に板張りで、素足には冷たかった。段数は14段。なぜか、そんなことまで解ってしまう。 ゆっくりと踏みしめながら降りきったところに、大きな振り子時計が聳えていた。パッと見、屋敷の大時計とそっくりだ。 大きなノッポの古時計、お祖父さんの時計――か。あの歌みたいに、一緒に歳月を刻んできたって聞いたな。 ふと回想した光景に、ハッとさせられた。聞いたって? 誰に? 記憶には確かに残っている。でも、それは本当に、屋敷の大時計の前だった? ……おかしい。疑問に思うはずのないことで、疑問を拭いきれずにいる。感覚が、おかしくなっている。 そもそも、おかしいのは今こうして置かれている世界のほう? それとも、記憶? なにが、どうなっているの? 錯綜する意識の中、手繰り寄せた記憶は……。 『この時計はな、蒼星石。私が生まれた朝に、お祖父さんが買ってきた時計なのだよ』 そして今では私がお祖父さん。孫にあげるのは、もちろん大きなノッポの古時計CCDカメラ付きオリジナル。 なぜなら、お前たち姉妹もまた、特別な存在なのだからね。 鷹揚に微笑みながら、そう話してくれたのは他でもない。柴崎元治と名を変えた、お祖父さんだった。 まさか……そんなのウソだよ。どうなってるのさ、これ? まだ夢の途中を漂っているの? 混乱のあまり、大時計の前から動けずにいるところに、 「なにしてるですぅ?」 いきなり声をかけられて、みっともなく飛び上がってしまった。 けれど、それも一時のこと。声の主に思い至るや、弾かれたように振り返らずにはいられなかった。 台所の照明を背にした人影は紛れもなく、ここ最近ずっと求め続けていたものだ。 「姉さん?! 帰ってきてくれたの!」 言い終えるより先に、その人影をギュッと抱きしめていた。 鼻腔に流れ込んでくる姉の薫りに愛おしさが募り、知らない間に涙が溢れていた。 逢いたかった。ずっとね、姉さんが家出しちゃってから、ずっと願ってたんだよ。帰ってきてって。 しゃくり上げながらの告白は、しかし、姉さんの酷薄な失笑を買った。 「なに、意味不明なこと言ってるですか。私が、いつ家出したってんです?」「……えっ?」「さては、怖い夢でも見たですね。よしよし、もう大丈夫ですぅ」 姉さんの右手が、優しく髪を撫でてくれる。左手は、ぽんぽんと背中を叩いてくれている。 体格は幾らも違わないのに、すっぽりと姉さんに包み込まれているような気がした。 温かくて、柔らかくて、いい匂いで……かつてない愉悦が身体の芯から噴き出し、震えを止められない。 まるで、夢みたい。 これは、夢なのかな? 「蒼星石は、もう夢から醒めてるですよ。ちゃーんと起きてるです」 ――そっか、やっと解った。 あの小説を読んだから……お祖父さんとは違う結末に辿り着いたから、世界が転換したワケだ。 今までの結菱としての生活は夢に変わり、これからは柴崎の孫娘として暮らすことが現実になる。 家族と、姉さんと一緒に暮らす夢が、こんなカタチで実現するなんて……夢にも思わなかったよ。 「さぁ、蒼星石。ハーブティーを煎れてあげますから、それを飲んで、ぐっすり眠るといいです」 うん。ありがとう、いただくよ。姉さんはお茶を煎れるのも、お菓子を作るのも上手だからね。 「はしゃぐほどのことです? あんまり騒がしくすると、おじじたちが起きちまうですよ」 ああ、そうそう。今は深夜だったね、失礼。 あんまり嬉しかったものだから、つい忘れちゃってたよ。 「しょうのない娘ですね、蒼星石は」 苦笑されてしまった。でもさ、いいじゃない。嬉しいのなら、嬉しがったってさ。 こんな時間が、ずっと続いてくれるなら、それだけで充分に満足だよ。 「心配いらんです」 投げかけられた姉さんの声は、揺るぎない自信に満ち溢れていた。「いつだって一緒ですよ。ずーっと……ずーっと、ね」 ▼ ▲ とある大富豪の、宮殿を想わすほどに広く大きな邸宅を、近隣の住人は『薔薇屋敷』と呼んだ。 なぜならば、ちょっとした公園ほどもある庭は、色とりどりの薔薇で埋め尽くされていたからだ。 屋敷の南に面した、庭の花園を見おろす三階に、その一室はある。 敷き詰められた慈愛の褥に、健やかな呼吸を繰り返しながら眠り姫は横たわる。 西に傾いた陽光は、窓ガラスとレースのカーテンで更に弱められ、少女の寝顔を病的な色合いに見せていた。 「すべては、私のせいなのだな」 昏々と眠り続ける孫娘へと、車椅子の老紳士は哀しげな眼差しを注いだ。 彼には解っていた。こうなってしまうことは。もう、何十年も前から―― 「夢を叶えるための小説だと、あの男は言った。私は、なんと愚かだったのか。あんな誘惑に飛びついてしまうなんて」 両手で頭を抱えた老紳士の顔は苦渋に満ち、齢以上の老いを、幾筋も肌に刻んでいる。 その皺を埋めるように、伝い落ちる涙。老人は声を殺し慟哭していた。 「あんな小説を手に入れてしまったばかりに――」吐き出された後悔の中に、あの男への微かな呪詛が見え隠れする。「二葉の人生も、夢子の自由も、この娘の未来も、あの小説に喰われてしまったのだ! 夢の生贄として、私が喰わせてしまったのだ!」 老人が若かりし頃の話だ。もう、あの男とやらは他界していることだろう。それが幸福な死だったかは、ともかく。 だが、老人にとっては、なんの慰めにもならない。むしろ仇を討てない口惜しさが、自分に返ってくるだけだった。 「蒼星石の目を醒ますために代償が必要ならば、喜んで私の生命を差し出そう。だから――」「自惚れるんじゃねーです」 老人がハッと詰めた息に、はん! と鼻を鳴らす音が重なり、険のある嘲りが続く。 ベッドを挟んで、彼の正面に佇む少女のものだ。双子の姉、翠星石だった。 「おじじが自殺したって、おばばは生き返らないし、蒼星石は目を醒まさないですよ。妙な気を起こすのはやめるです」「しかし……どうにも、やるせなくてな。私たちは、ただ待つことしかできないのかね?」「懺悔しながら待つ――きっと、それも私たちに科せられた贖罪なのです」 蒼星石をこんな状態たらしめた理由は、自分にもある。翠星石も、それは痛いほど理解していた。 些細な諍いから祖父と仲違いをして、家を飛び出したことが、どれほど妹を悲しませたかは想像に難くない。 知らず知らずに与えてきた些細な傷の累積こそ、蒼星石に耐え難い苦痛をもたらし、挙げ句の果てに昏睡へと至らせたのだ。 翠星石の胸に絶えず燻っていた祖父への憤りや確執は、もうない。蒼星石が、姉の悪感情さえも夢の世界への道連れにしたようだった。 すべての責任を祖父に押し付けて、自分だけいい子を演じられるほど、翠星石は厚顔無恥ではなかった。 部屋に据え置かれた大時計が、弦を打つ重厚な音色で夕方を告げた。その数、四つ。 深い夢に浸る妹の唇に、ほんのわずか笑みが浮かんで見えたのは、老人と姉の願望が生んだ幻だったのかもしれない。 ▼ ▲ 蒼星石は、祖母のマツと他愛ない話題で談笑しながら、夕飯の支度を手伝っていた。 悔恨の涙で頬を濡らしながら彼女の目覚めを待つ人がいるとは夢にも思わず、喜悦と幸福を謳歌していた。 <了>
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