『笑ってはいけないオーベルテューレ』 6
―あらすじ―水銀燈にゲームで負けた僕(蒼星石)と真紅、金糸雀、薔薇水晶。後日、彼女からいきなり飛騨高山に呼び出されたが……実態は罰ゲーム!ルールは何が起こっても絶対に笑ってはダメ。笑うと、即座にキツイお仕置が!本家、ガキの使いばりの罰ゲーム!!行く先々には水銀燈が徹底的に仕掛けた笑いの罠や刺客が待ち受ける!耐え切れるのか……もう、無茶苦茶だよ……。これを読んだあなた。目の前で繰り広げられる僕らへの恥辱は忘れ去ってください。それだけが、僕の願いです。それだけが「……もう……行こう……」 薔薇水晶が特製ヤクルトの入った袋を手にしながら、朝市の出口の方を指差していた。 周囲のほとんどの出店は、気が付けば店じまいを終えていて、テントすらも撤収してしまっていた。 正直な話、朝市で出ている店は、僕らの目の前にある、怪しさ全開のミスター陳とやらの店だけであった。 用も済んだし、長居は無用ということで、その点で薔薇水晶の言うとおりに、その場を離れるのには大賛成だった。 それ以前に……こんな的な奴の前にこれ以上いたら、何をされるか分かったものじゃないし。「あいや~、待つあるね。お詫びにこれ、差し上げるある」 ミスター陳は僕らを呼び止めて、彼女の背後にあった等身大の、布が掛かった物体を指差した。「「「いらない(よ)(わ)」」」 僕と真紅と薔薇水晶は、声を見事にハモらせて、後ろを振り返ることなく、その場を足早に立ち去ろうとした……が。「何かしら~」 もう何て言いますか……金糸雀だけが、興味津々といった様子で、その物体に近寄っていた。 あのね、先程のありさまを見たら、その物件がロクでもないことぐらい想像つくと思うけど。 これ以上このミスター陳とやらに関わったら、恥さらしになることぐらい分かるはずだけど。 空気嫁よ、キム。 てか、君が恥さらしになろうが僕は知ったこっちゃないけど、僕らを巻き込むな。頼むよ、マジで。「ミスター陳の世紀の大発明、とくと見よあるね!」「すごいかしら~?メイドさんの……ロボットかしら~!!」 背後から金糸雀の脳天気な感嘆の声が耳に入る。 メイド?ロボット? なんか、変な単語が混じっているが、そんなもの見る意味も無い。 というか、相当ロクでもない物件なのは間違いない。 僕らは後ろを振り返ることは無く、歩みを止めることもしなかった。「これをお嬢ちゃん達の旅のガイドに付けるあるね!」 何だって? 思いがけない言葉が発せられていたのが耳に止まった。 さすがにこればかりは聞き捨てならない。 何かは知らないが、僕らの旅に同伴させるなんて……たまったものじゃない! 慌てて、僕ら3人は一斉に背後を振り返った。「ますたー、ゴ命令を……」 そこには、メイド服を着た……ミスター陳とほぼそっくり……じゃなくて、その形を模したロボットがそこにいましたと。 目はぐるぐる捲きで、口元はロボットらしく上下移動式の顎がはめ込まれていたけど! ちょっと!これが一緒についてくるなんてないよ! 恥さらしもいい所だけどさ!! そのような抗議の声を上げようとしたが……不覚にも吹いてしまった。「蒼星石、アウトぉ!」 水銀燈の人を小ばかにしたかのような宣告とともに……今度はなぜか黒服の男ではなく、緑のとんがり帽子にセーラー服のような法衣らしきものを着た、いかにも魔女っ娘といった出で立ちの、金髪の少女が僕を無理矢理組み敷いた。かなり強い力でだった! そして、手にしていた鉄製の杖で……僕のお尻を力いっぱいに引っ叩いた!「痛ぁ!」 尻に走る激痛! 僕は思わずその場を走り回ってしまった! 本気で骨盤が骨折したかと思ったよ!「こ、今度は魔女なんて……水銀燈も趣味が悪いわね」 真紅はほぼ呆れきったといった様子で、僕の尻を引っ叩いた魔女っ娘をしげしげと見つめていた。「……これ……人間じゃない……よく見たら関節が変だし……腰に大きなゼンマイを捲く鍵が付いている……」 薔薇水晶がそれと思しき部分を指差す。 その場からそそくさと立ち去ろうとする、その魔女っ娘をよく見ると、確かに腰には大きなゼンマイが付いていた。しかも足の関節も明らかに球体関節だった。恐らくロボットか何かの類だろう。 てか、あんな人間離れした力で尻を叩かれたら……本気で病院送りになっちゃうよ! 本当、何考えているんだよ、あの乳酸菌魔人は! 水銀燈に脳内で呪詛の声をあげていた、丁度そのときだった。『こんやが、やまだぁ~~~』 前触れも無く、どこからともなく聞こえる……脱力しそうな男の声。 イントネーションが明らかにずれているそのフレーズは、本家ガキ使の罰ゲームの風物詩、今夜が山田のやつだった!「あら、メールだわ。水銀燈からね」 表情を変えず、真紅が携帯を手にした。 てか、メールの着信音をそんなものに設定しているのかい、真紅。 まあ、僕も水銀燈が出すだろうと思って、練習していたから笑わずに済んだけど。「ふ~ん……真紅は今夜が山田の声でやってたんだ……」「ええ。以前からこんなこともあろうかと、これぐらいには慣れておかないとまずいと思って。2週間前からこれで練習しているのよ。 って、人件費削減の為に罰ゲーム実行役を『魔女っ娘型ロボットウイッチ』に変更するって……本当、何考えているのかしら」 メールの内容にさらにあきれ返る真紅。 ずっと表情を変えないまま、メールの文面を覗き込んでいる薔薇水晶。「ち、ちょっと……これを連れて行くのは恥ずかしいかしら~?」 遠くから聞こえる金糸雀の声。 さすがにやっと、自覚したかな。 てか、彼女の事すっかり忘れていた。「何を言っているあるか。これは最強メイドロボ『メカ翡翠ちゃんEX』あるね。日常生活から、旅行、さらには戦争までなんでも対応できるあるね。連れて行かなきゃ損するあるよ」 ミスター陳はそんな金糸雀に構わずに、この得体の知れないメイドロボのアピールを得意げに行っていた。「金糸雀、そんな変なメイドロボなんか放っておいて、こっちに来なさい。メイドなんて連れて行ったら、それこそ周囲に変人の烙印を押されるわ。 早く来ないと、置いていくわよ」 冷めた声で金糸雀を呼びつける真紅。 と、それと同時だった!「その言葉、聞き捨てなりませんね!」 何処からとも無く、若い男の声がしたかと思うと、僕の目の前に何者かが回転しながら飛んできて、華麗に着地を決めた。 そいつは、やや長髪気味の眼鏡をつけた、端正な顔の男性。 白衣をまとい、聴診器を付けていることから医者だろう。 しかし、なんで医者がここに? そう疑問に思う僕をよそに、その男性は真紅の前に歩み寄ると、力強く指差して叫んだ。「貴女は今、メイドを連れたら変人だなんて言いましたね!? といいますか、メイドを侮辱しましたね? 許せません。この、メイド王イリーが、とことん粛清しましょう! ふはははは!お静かに!貴女は今メイド王の前にいるのだ! 跪け!靴を舐めろ!小僧から石を取り戻せ! メイドを侮辱したことを、とくと後悔したまえ!覚悟はよいか!」 な、何を言っているんだ……このオッサン……。 目の前にいた真紅はもちろん、僕も薔薇水晶も、ただ言葉を失って、呆然とその場に立ち尽くすのみだった。「…………」 すると、それまで金糸雀の前で突っ立っていた『メカ翡翠ちゃんEX』とかいうメイドロボが、重苦しい歯車の音を立てながら、自称メイド王の白衣の男の前まで歩み寄る。「おお、貴女も加勢してくれるのか!さすがはメイドの魂を持った者よ! 私がご主人様だ。主人に奉仕し、この目の前の愚か者に裁きを下したまえ!」 白衣の男はさらに訳の分からないことをのたまわっていた。 メイドロボはただ、沈黙を保ったままだったが……やがて男を指差して、静かに抑揚の無い声を発する。「アナタヲ、犯人デス……」 意味不明な内容の言葉と同時に、指差したメイドロボの手が変形して……大きな筒が出てきた! ……そして、それを男に向けていた! まるで戦車の大砲のようないかつい筒だった。「……逃げた方がいい……いやな予感がする……」 薔薇水晶は即座に僕と、真紅の手を引いてその場から逃げさろうとしていた。表情は崩していないものの、頬には一筋の冷汗が垂れていた。「え?狙うのは私じゃなくて、この愚か者ですよ……」 筒先を向けられた、その男は明らかに動揺しながら、じりじりと後退していた。「高粒子砲……えねるぎーちゃーじ中……」 見る見るうちにメイドロボの右手が変形した筒に、不気味な光が集まり出していた。 その間にも、僕ら……さらには周囲にいた他の観光客も気配を察したのか、一斉にその場から全速力で離れ出す。「……標的ヲ、アナタデス……発射!」 抑揚の無い、ロボットの宣告とともに、地面を揺さぶるような爆音が周囲に木霊した。 目がくらみそうなまばゆい閃光が周囲を包む! 途端に強烈な爆風が吹きすさび、周囲の木々が根元から折れそうなぐらいにまで、しなりだす! 逃げる僕らも……危うく爆風に飛ばされそうになったけど!「目が!目がぁぁぁぁぁ…………」 白衣の男は絶叫を上げながら、砲撃を受けて、猛烈な勢いで吹き飛ばされていった。1分もしないうちに、空の彼方へと消えていく。「は、はちゃめちゃかしら……ぷぷ……」 僕の遥か後ろでは……空を見上げながらその場にへたり込んでいる金糸雀が吹き出してしまっていた。「金糸雀、アウトぉ~!」 お約束の宣告とともに、先程の魔女っ娘ロボがどこからともなく現れて、鉄製の杖で金糸雀の尻を力任せに引っ叩いていた。「痛い、痛いかしらぁぁぁ!!」 苦痛の表情を露骨に浮かべながら、喉がはちきれそうな絶叫を上げて、尻を押さえながら、その場を走り回る金糸雀。 本当に……哀れだね。 ファンファンファンファン……! さすがにこの騒ぎでは警察も黙っちゃいないはず。 周囲から、数台のパトカーがサイレンをけたたましく鳴らせながら、駆けつけてくるのが見えた。「さすがにこれはまずいあるね。メカ翡翠ちゃん、退散するある!」「ますたー、了解!」 メイドロボはミスター陳を抱きかかえると、足から地面に火炎を放射した。 土煙が周囲に巻き上がったかと思うと、轟音ともに、なんと空へと飛び上がった! さながらロケットのように、煙を撒き散らしながら、空の彼方へと消えていくメイドロボと、ミスター陳。「何だったの、あれ……」「さぁ……僕に聞かれても分からないよ……」「……どうでもいいじゃん……もう……」 僕らはただ……その光景をぼんやり眺めることしか出来なかった。 -to be continiued-(今回の特別出演) ミスター陳(こと、琥珀)およびメカ翡翠@月姫(歌月十夜) 入江京介@ひぐらしのなく頃に ウイッチ@Wild Arms 5th
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