エンジュ荘ですから1
◆始まりは唐突に◆ガチャリJ「おじゃましまーす」雪「はーい……あ、新しくお住まいになられる方ですか?……確か桜田……JUMさん?」J「いぐざくとりぃ(Exactly)」雪「私はこの『エンジュ荘』管理人代理の雪華綺晶です。よろしくお願いしますね」J「よろしくお願いします。……代理?」雪「ええ。私は本来の管理人ではないので」J「その管理人さんはどうなさったんですか?」雪「死にました」J「なんと」雪「うそです」J「なんだうそか」雪「管理人……父の槐は、世界中を旅してまわっております。忙しい人なので」J「ほほう」雪「では、お部屋の方へ案内いたしますわ。どうぞこちらへ」
◆ドジっ子きらきー◆雪「ええっと……あなたのお部屋はこちらになります」J「203号室ですか」雪「では、私はこれで。管理人室にいますので、困ったことがあればなんなりとお申し付けくださいね」J「……あの、すいません」雪「なんでしょうか?」J「どうも困ったことがありまして」雪「それはまたいきなりですね」J「どうもそのようで」雪「それは私の美貌にやられて一目ぼれなどというパターンでしょうか?」J「いえ、ちがいます」雪「では、私のあまりの美しさに虜になってしまったのでしょうか?」J「いえ、ちがいます」雪「では、なんでしょう?」J「部屋のカギをまだ頂いていないのですが」雪「なんと」
◆お隣の女の子◆ピンポーンガチャめ「はーい、どなたかしら?」J「引っ越しのあいさつに参りました、桜田という者です」め「ああ、あなたがきらきーの言っていた新入りさんね?」J「きらきー?」め「雪華綺晶さんのことよ。みんなでつけたあだ名なの」J「なるほど」め「お隣さんね。私は柿崎めぐ。これからよろしくね」J「よろしくお願いします」め「あら、そんなに堅苦しい態度とらなくていいわよ。見た感じ歳も近いようだし」J「ああ、わかった。よろしくな、めぐ」め「急にフランクになったわね」J「順応性の高さには自信がある」め「やるじゃない」
◆深読みのしすぎ◆め「実は、この部屋にはもう一人住人がいるの」J「ルームメイトってことか?」め「いぐざくとりぃ。今は出かけてるけどね」J「同棲か何かかい?」め「遠慮のない質問ね」J「僕は一度打ち解けた人には余計な気は使わない」め「なるほど。でも違うわ。女の子だもの」J「…………」め「…………」J「……同性愛には理解のある方さ」め「ぶっとばすわよ?」
◆吐血的な彼女◆め「ルームメイトの名前はね、水銀燈って言うの」J「ほほう」め「でね、彼女ったら……げふぉおおおお!!」ビシャアアアJ「うわ、いきなりものすごい量の血吐いたよ、この人」め「…………」グッタリJ「ちょ……大丈夫か?」め「……私……もう、ダメかも……」J「し、しっかりしろ。今救急車呼ぶから――」ガシッJ「え?何腕つかんでんの?」め「桜田くん……人工呼吸して……」ギューJ「お前は何を言っているんだ。っていうか腕離して。痛い」め「おねがい……早く……」ギュギューJ「とりあえず腕痛い、痛いよ柿崎さん」め「ねえ……早くしないと私、死んじゃうかも……」メキメキJ「わかった、わかったから、腕が、腕が握りつぶされる」
◆ファーストキスは錆びた鉄の味◆J「というわけで、僕、桜田JUMは初対面の柿崎めぐにいきなり人工呼吸をすることになったのだ」め「説明口調はいいから……早く……」J「……ゴクリ」「そんなバカげたことしなくていいわよ」J「! 誰だ?」銀「めぐ。人をからかうのもいいかげんになさい」ムクリめ「あーあ、後少しだったのに。水銀燈、帰ってくるタイミング悪いわよ」J「なんで何事もなかったかのように起き上がってるんだ、おまえは」銀「いつものことよ。この子の言うことなんて信じるものじゃないわ」J「でも、大量の血を吐いたんだよ?今だって背景真っ赤っかですよ?」銀「血を吐く度に死ぬ死ぬ言ってるけどピンピンしてるわよ。この子はそういう子」J「いやどういう子だよ」め「ふふ、ごめんね桜田くん。私ってばお茶目さんだから」J「いやお茶目ってレベルじゃねえよ。とりあえず口の端から垂れてる血ふけよ」
◆酷評される新入り◆銀「ふーん……貴方が新入りなの。なんかつまんない感じぃ」J「あなたの面白いの基準は?」銀「顔が面白いかどうか」め「ひどい基準ね」J「面白くない顔……喜べばいいのか悲しめばいいのか」め「笑えばいいと思うよ」J「…………」ニコッ銀「あら、貴方なかなかに面白そうな子ね」め「どうしたの、桜田くん? 急に立ち上がって」J「ちょっと吊ってくる」銀「か、軽いジョークよぉ。気にしないでいいわ」め「本心は?」銀「笑顔似合わねえな、お前」J「ちょっと樹海行ってくる」
◆ニートと夜のお姉さん◆め「ところで、桜田くんは学生さん?」J「ああ。今年から大学生」銀「それでここに引っ越してきたわけね。念願の一人暮らしってやつ?」J「いぐざくとりぃ。お二人は?」め「あ、私はニートよ」ニコッJ「さわやかにカミングアウトしたな」銀「私は……まあ、普通の勤め人ねぇ」め「夜の、ね」J「ほほう」銀「……別にいかがわしい仕事してるわけじゃないから。勘違いしないでよ」め「そういうことにしといてね、桜田くん。警察沙汰はゴメンだからさ」J「……ほほう」銀「ちょっとめぐ! 誤解を生むようなこと言わないで!」
◆謎のお向かいさん◆J「そういえば、こっちの部屋にはだれが住んでるんですか?」銀「ああ、貴方の向かいの部屋? まあ、今にわかるわよ」J「?」………………――きぃー!!書けない!!書けないのだわ!!! 私の才能は枯渇してしまったのだわ!!J「……なんか部屋の中から声がしてるんだけど。かなりヒステリックな」め「ふふ、この時間帯はいつもこうなの」銀「その部屋に住んでるのは真紅。売れない小説家さんよぉ」
◆お向かいの小説家さん◆ガチャリ真「売れない、は余計よ。水銀燈」銀「あらぁ真紅ぅ、聞こえてた? でも本当のことを言って何が悪いの?」真「……時代が私に追いついていないだけの話。ほっといて頂戴」銀「ふふふ、いつまでも追いつけないでしょうねぇ。貴女の前衛的な頭の中身には」真「……喧嘩を売ってるのかしら?」め「はいはーい、二人ともストップ。真紅さん、新入りの子よ」J「どうも、桜田です。よろしくお願いします」真「あら、そんなに改まることないわ。私は真紅、よろしくね」J「おお、よろしくな新規」真「……いきなり改まらなくなったわね。でも、私の名前は新規ではなく真紅よ」J「ああ、すまなかった神秘」真「あなた絶対わざと間違えてるでしょ」
◆エンジュ荘ですから◆真「はあ……まあいいわ」スタスタめ「あら、どこか行くの、真紅さん?」真「ちょっと公園にね。書き詰まったから、新鮮な空気を吸ってこようと思って」銀「ついでにそのすぐカッとなる頭も冷やしてきなさぁい、おバカさん」真「なっ……バカって言った方がバカなのよ! このバカ銀燈!!」銀「何よぉそれ! バカ! バカ真紅!!」真「バーカ!!」銀「バーカバーカ!!」真「バーカバーカバーカ!!」J「あの二人は何やってるんだい」め「いつものことよ」J「とんだ日常茶飯事だな」め「まあ、エンジュ荘ですから」J「……なるほど」
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